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「田崎さんは可愛いから、いるだけで明るくなるよなー」
ほー。佐々木だな。
「私、頑張ります〜。お仕事任せて下さい!」
田崎さん、あなた仕事覚える気ないのに、任せられるわけないでしょ?いつもフォローしてるの私なんだけど・・・
「そうだなー。もう1人の春野さんは、地味だよなー。仕事はできるけど、それだけ。華やかさがないもんなー」
人の事言う前に、鏡見ろ!おまえも地味だろうが!田中!
「もっと、明るくてかわいい子と交換してくれませんかねー」
私はモノじゃないんだが? 安藤
「係長もそう思うでしょう? 春野さんって、係長の事好きなんじゃないですかね?」
岡本、何言ってんの? 余計な事言うな!
「あー、それ俺も思った。だれも春野さんを選ぶ人いませんよー! 係長も、春野さんはナイでしょう?」
さ〜さ〜き〜
「それは、ないな」
きつっ……係長もそういう事言うんだ。
「ですよねー。やっぱ、若くてかわいい子がいいですよねー」
アハハー。皆笑ってる。
皆にコーヒーをと思って、給湯室に行ってコーヒーを淹れてお盆にのせて戻ってきたら、聞こえてきた会話。
お盆を握りしめる。
今までも、コソコソ言われていた事は知っている。
それでも仕事を続けていたのは、やり甲斐を感じてたから。確かに係長に好意はあったけど、尊敬している気持ちのほうが大きかった。まぁ、それも無くなったよ。
でも、やっぱり係長も男の人だねー。かわいい子の方がいいんだ。かわいかったら、仕事できなくてもいいの?じゃあ、仕事を覚えてない田崎さんと頑張ってもらおう。
もう私は、お役御免でいいよ。
皆が、笑っているのを気にせずドアを開けて中に入ると、シーーーン。
皆、気まずそうにパソコンを扱いだす。
1人1人机に
「どうぞ」
コーヒーを置いていく。
配り終えたら、お盆を給湯室に戻しに行く。そして
ロッカー室に行き、着替えて鞄を持って戻る。
「さっきの聞かれたよな?」
「ヤバいよな?」
「何も言ってない事に・・」
ざわめいていた部屋が、私が戻ったことで、またシーーン。
私が着替えた事に気がついた係長が
「春野、なぜ着替えているんだ?」
皆がコソコソ言ってるのを知ってから、いつ辞めてもいいように、持ち歩いていた退職届。
それを取り出して、係長のところへ行く。
「係長、これ受理して下さい」
「はっ?」
固まってるので、机の上に置いて、皆の方を向いて
「辞めますので、今までお世話になりました。次は、かわいい子がくるといいですね。」
そう言って部屋をでた。
階段を下りて、受付を会釈して通りすぎる。
会社を出て歩きながら、こんな時間に帰れるんだから、どこか寄って帰ろうかなぁ。
前から歩いてきていた、高校生の足元から急に光が溢れてきた。
んぁ?何?
思わず立ち止まったら、グイっと手首を掴まれた。
あぁん?
と思ったら、光の中へ・・・
「ごめんなさい」
気がつくと、目の前に整った顔の男の人がいて、謝っている。
私の手首を掴んだまま係長は、倒れている。
「僕がこの人を叩いたら、君を掴んだまま魔法陣に倒れ込んだんだよ。数人で酷い事言ってただろう? 出て行った君を追いかけて、また傷つけるんじゃないかと思って、咄嗟に叩いてしまったんだ。倒れるとは思わなかった。ごめんなさい」
「あなたは、誰ですか?」
「僕?んー、神様?で信じてもらえる?」
「あの、神様?なら戻してもらえます?」
「無理。僕の陣じゃないから。このまま、魔法陣の先に行くしかないんだ。君に謝りたかったから、この陣に干渉して時間をとめてるだけ。他の人間は、関係ないから、ここに連れてきてないよ。その人は、掴んだまま離さないから連れてきたけど。本当に、すまないね。お詫びに10歳若返らせて送るね。」
パチンと指をならす。
そして、私の額にチュッとして、
「君には、いろいろつけといたよ!内緒だよ。」
と言って背中を押されて、光の中へ・・・。






