開始
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
そんな機械音声のような声が、頭に響く。
俺は、動物を狩ったり、盗賊を殺したり、魔物を殺したりは一切していない。
もちろん、ゲームをしている訳でもない。
俺は、草を燃やしている。
日の光が少ししか届かないような、深い森の中の小屋。
その小屋の周りに生えていた草を、燃やしている。
「こんなもんでいいか。…正直、こんなに強い加護は必要なかったんだけど。」
俺の視線の先には、俺のステータスが書かれていて、女神スーエの加護の効果についても書かれていた。
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ヨシダ チヒロ
性別 男
年齢 15
レベル 9
HP 512
MP 512
力 512
物理攻撃耐性 512
魔法攻撃耐性 512
精神 512
運 512
スキル
【神眼】
『【鑑定】の上位互換であり、【千里眼】の上位互換でもある。』
【女神スーエの加護】
『生物(人間以外)を殺める度、レベルが必ず1上昇する。
レベルが上昇するときの、ステータスの増加具合は生物の種族による。
植物は2倍に増加
動物は4倍に増加
魔物は8倍に増加』
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こんなことになったのは、俺がよく切れる包丁を使っていたことが原因だった。
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「ふんふふーん。ふふふーふふーふふん。」
なんて鼻歌を歌いながら、俺こと吉田智広は、料理をしていた。
一人暮らしを始めて早4年。現在大学生の俺に、彼女が出来た。
その彼女が、今日初めて家に来るというのだから、手料理をふるまおうと豚カツを揚げていた。
大量の油で。
4年も料理をしていると大分手際もよくなって、豚カツを揚げている間にキャベツの千切りをするようになった。
…よく友人からは、豚カツをちゃんと見ろ。ときつく言われる。
先日バイトの時給が上がったので、ちょっと奮発していい包丁を買った。
江戸時代には刀を打っていた程の、腕のいい鍛冶屋の包丁だった。
ピンポーンという、チャイムが家に響く。
「お?来たかな?」
俺は、キャベツの千切り中に後ろを向いた。
手は動かしたまま、後ろを向いた。
きっと、それが原因だったんだろう。
いや、原因だった。
「いっっだああああ!!??」
包丁によって、左手の指が切れたのだ。骨ごとざっくり。
そして、驚くほど素晴らしいタイミングで、俺の左足からゴキブリが這い上がって来ていた。
「ちょっ!!??待って!待ってって!あぁいってぇ!離れろ!離れろぉ!!」
ゴキブリを左足から外そうと、右足をバタバタさせる。
だが、指が切れている痛みが消えた訳では無い。
「っ!?しまった!バランスがっ!」
ゴキブリに目を奪われ、指に感覚を奪われてしまって、バランスを崩してしまい、倒れそうになる。
慌ててバランスを保とうと、右手をついた。
その手をついた場所は、豚カツを揚げている鍋の中だった。
「あっづぁあああ!!!」
思い切り右手が熱々の油に入ってしまった。がっつり入った。
そのために、反射で右手を持ち上げる。
そうして持ち上げたのはいいが、鍋の取っ手に服の袖が引っかかった。
引っ掛かったまま、右手はどんどん持ち上がり、そのまま鍋をひっくり返した。
ガスコンロの火はついたまま、油の入った鍋がひっくり返った。
それは当然、火事を引き起こすもので、
「あっつ!いった!腹まで来てる!ってのわあああああっづぁああああ!!」
油に火が付いた。
ゴキブリが腹まで到達したのと同時に、俺は油に包まれた。
そのまま俺は、左手の指を自分の不注意で切断して、ゴキブリに寄り添われながら、豚カツを揚げていた油によって、火あぶりにされて死んだ。
はず。
それがどうだろう。
目の前で、20代後半ぐらいの女性が、お腹を抱えて笑っていた。
「あっははっっはは!ははっははははは!ゴキブリ!ゴキブリって!あっっはははははは!よく見たら豚カツが顔についてるし!あっはっはははは!ダメ!死ぬ!笑い死ぬ!あっははははは!はははーははは!」
こんな感じで、ずっと笑い続けて10分ぐらいはこのままだった。
笑っているのを止めてまで、この人?に話しかけるような度量は持ち合わせていないので、彼女が笑い終わるまでじっと待っていた。
「あー面白かったー。いやー、ストレス解消させてもらったよー。ありがとねー?」
なんて、目の端に涙をためながら彼女は話しかけてきた。
「いえ。まぁ…うん?あれ?俺は死に様を笑われたから怒るべきなのか?」
「…まぁ、女神としてはよくないことだったとは思うよ?でも、やっぱり仕事のストレスってあるじゃない?…自己紹介が遅れたわね。私の名前はスーエ。」
「もういいですよ。別に俺が全部引き金ですから。…ゴキブリは知らないけど。」
俺のゴキブリという発言に、またも彼女は笑いだした。
…なんかもう、腹筋が筋肉痛起こしてそうだな。
「…ごめん。お詫びといってはなんだけど、別の世界で生き続けてみない?」
え?いや、なんでそうなるのさ。ほぼ自殺だよ?
こういうのって、誰かの犠牲になったりとか、不慮の事故とか、そんな感じの人じゃないとだめなんじゃないの?
「それは、だって…あんなみっともない死に方したまま命を終えるの?」
「まぁ、そう言われると…嫌だな。…あれ?心読みませんでした?」
「気のせいよ。まぁ、剣と魔法の世界だから。興味はあるでしょ?」
…俺もネット小説の主人公みたいな感じになるのか。
「そうそう。そんな感じ。…そうだ!私から色々と加護をあげるわ!」
「あれ?やっぱり心読んでません?…というかなんでそんなに待遇がいいんですか?」
「だから、あなたの心なんて読んでないわ。…まぁ、貴方の死に様が私のツボに入ってしまったからって、笑ってしまうのは、神失格なのよ。だから、その詫びといったところよ。」
そうですか。分かりました。じゃあ、異世界への転移お願いします。
「分かったわ。意外とあっさりしてるのね。」
バイト先がブラックでしたから。
不条理で理不尽な上司の注文よりは、よっぽどいいですよ。
「なるほど…加護には、期待していいわよ。じゃあ、行ってらっしゃい。」
俺の体が光り出す。
「絶対、心読んでたでしょ!」
言いたいことを言って、俺は第二の人生を歩むために、異世界へと思いを馳せた。
最後に見たスーエの顔は、最初に見た時同様、笑っていた。
誤字脱字等があれば、報告よろしくお願いします。