初戦闘②
「炎を操る能力...」
総司は驚きを隠せない。
だが、それも仕方ない。普通こんなことに巻き込まれば驚くのも無理はないだろう。
「話は後よ。とりあえず私が戦っている間は危険だから後ろに下がってなさい。火が燃え移ってもしらないからね。」
「ちょっと待...」
総司が言い終わる頃には灯は制服の男に向かって走りだしていた。
「あの刃、厄介なものだわ。何かにぶつかるまでずっと止まらないなんて。」
男の刃を避けながら灯が考える。
「私の炎はあいつの刃ほど飛距離がない。とりあえず炎をあてられるところまで近づくのが先決ね。」
男の刃はぶつかるまで止まりこそしないが速さ自体はそこまでというところ。敵に接近する灯からすれば好都合だった。
「おい、まさかこっちにくるんじゃないだろうな!?」
走る灯を見て男が慌てだす。それもそのはず、男の刃は元々遠距離の相手に向かって使うもの。近距離ででの戦闘となれば結果は目に見えている。
「やめろ、くるんじゃない!」
男は焦って大量の刃を放つがその焦りゆえに狙いが定まっていない。それを避けるのは灯にしてみれば容易いことだった。
「さっきまでの自信はどこに行ったのかしら。」
そう言いながら灯は男の目の前に立つ。
「なんだよ、さっきのは軽い冗談だって。もしかして、信じちゃった?ははは...」
そう言いながら男は自分の腕を光らせる。
「あんた、まだ抵抗するの。この距離なら勝てないってもうわかってるでしょ。」
灯がそう言うと同時に男が笑い出す。
「何笑ってんの?とうとう壊れちゃった?」
「いや、お前って馬鹿だなって思って。」
そう言い終わると同時に男は刃を放った。
遠くで佇んでいる総司に向かって。
「総司、危ない!」
そう叫ぶ灯を横目に男が逃げ出す。
「ほら、気づかなかっただろ。だからお前は馬鹿なんだよ!」
男は刃を総司に飛ばすことで隙を作ったのだ。
「避けて!」
総司はその声を聞きながらデジャブを感じていた。
”確か前もこんなことがあったな”
そう考えながら総司は無意識に手の平を飛んでくる刃に向かって突き出した。
その瞬間だった。
一瞬で刃が跳ね返って男に向かって飛んでいったのだ。
「今のは総司の能力なの?」
驚く灯の横を通り過ぎた刃は逃げる男の肩を掠め、前にあるポストにぶつかり大きな傷を作った。
「ひいっ!」
男は驚きのあまり体勢を崩し倒れた。
「どうやら、気を失ったみたいね。」
男に近づいた灯が確認する。
「なんか、めんどくさいやつだったな。」
こちらに向かって歩きながら総司が言う。
「それよりも...」
灯が総司の顔を覗きこむ。
「急にどうしたんだよ。」
「さっきのなに?あんたも能力が使えたの?」
総司が困惑したように答える。
「さっきまで使えなかったんだよ。刃が飛んできた時に急に使えるようになったんだ。」
答えになっていない答えに灯は呆れる。
「まあ、いいわ。とりあえず家に帰りましょう。ここじゃ話もできないしね。」
歩きだす前に、ふと総司が灯に尋ねる。
「こいつ、放っておいていいのか?」
めんどくさそうに自転車を手で押しながら灯が答える。
「いいんじゃない。そいつももう懲りたでしょ。」
「それもそうだな。」
二人は倒れている男を通り過ぎて帰宅を急いだ。