初戦闘①
「ふーん。じゃあ気づいたらあそこで倒れてたってわけね。」
2人で、しかも1人怪我をしている状態で自転車に乗るというのは無理がある。
そこで自転車を押しながら帰る時に出来た時間で男の身に起きたことを説明した。
「ああ。といっても覚えていることは何一つ無いんだけどな。」
「じゃあさ、自分について分かるような物とか持ってないの?」
男はそういえば服のポケットを見てなかったなと思いポケットをさぐる。
「ん、なんだこれ。」
男のズボンのポケットから折りたたまれた紙が出てきた。
「やったじゃん。自分について何か分かるかもよ。」
そうだなと答えながら紙を開くとなにやら文字が書かれている。
「”総司” ”優香” って二つの文字が直線で結ばれてるな」
「なんか人の名前っぽいね。なんか思い出せそう?」
文字をじっと見つめてみるがやはり何も浮かんでこない。
「ごめん、やっぱり分からない。」
「しょうがないよ。書いてることもよく分からないしね。」
紙につ考えていると灯が言い出した。
「そういえばあんたって自分の名前も分からないんだよね?」
「そうだけど...」
「じゃあさ、この総司って名前を名乗るってどう?この名前からあんたのこと知ってる人が気づいてくれるかもしれないしさ。」
自分の名前がないままでは不便なのは目に見えていたし男がその提案を断る必要は無かった。
「それもそうだな。これからはとりあえず総司って名乗ることにするよ。」
その時だった。前から何かが物凄いスピードで総司に向かって飛んできた。
それを総司は間一髪でかがんでよける。
「なんだ、今の!?」
「気をつけてまたさっきのがくるわ。よけて。」
「無茶言うなよ!」
なんとかそれを避けた総司が周りを見渡す。
だか、どこを見ても大きな溝ができているだけでなにを投げてきたのかは分からなかった。
「今のをよく避けたな。褒めてやるよ。」
その声と共に高校の制服を着た男が奥の曲がり角から現れた。
「またあんた?いい加減面倒なんだけど。」
灯がだるそうに話す。
「知り合いなの、灯?」
「違うわよ。あっちが勝手に絡んでくるのよ。」
よく分からないがあの男が面倒だというのは初めて会った総司でも分かった。
「いくぜ寺坂、今日こそお前を倒してやる。」
そう言いながら男は腕を斜めに構えた。すると、腕の先端が光を帯び始めた。
「またくるわ、避けて!」
「分かった!」
制服の男は腕を上下させて何もない空間から分度器のような形をした衝撃波を飛ばしてきた。
「あれ、どうなってるんだ?魔法か何かか?」
その問いに灯が答える。
「違うわ。あれは魂が持つ力。あいつの場合”衝撃波を生み出して刃のように飛ばす”能力なのよ。」
総司は信じられなかったが現にその刃に当たった近くの自販機に切り裂かれるのを見るとその言葉を信じるしか無かった。
「ちょこまかと面倒。うっとうしいったらないわ。」
そう言いながら灯が男に向かっていく。
「何やってるんだ、危ないだろ!」
心配する総司に向かって灯が諭すように答える。
「大丈夫よ。能力を持っているのはあいつだけじゃないもの。」
そう言い終わると同時に灯の体がオレンジ色の炎に包まれる。
「それって...」
「ええ、”火炎を自在に操る”。それが私の能力よ。」