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これが君とぼくの日常  作者: 霧間ななき
第四章 『繋ぐ、手のひら』
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第六十一話『責任』

これで一度この話は終了となります。

楽しんでいただけた方がいたらうれしいです。

「結局死んだか、愚弟が。ヒノカグツチも消されてしまったようだしのぅ。役に立たん」

 そんな、声が後ろから鳴り響いて、ぼくは驚きを隠せないままに振り返る。


 そこにはヒョウがいた。

 そりゃそうだ、自分で予想しただろうが。

生きているだろう、と。

 そして、この状況。ヒノカグツチを手に入れようとしていた彼が見過ごせるわけがなかったのだ。

 まさか、来るだなんて思っても見なかった。


「三島のには一杯食わされたわ。まさかそんなものを用意しておるとは思わなんだ。なるほど、なるほどな。それで破壊しても構わんか聞いたと言うことか。したたかな男よなぁ。真に三島においておくのはもったいない。天霧にこそほしい人材よの。しかし、ことが起きてしまった以上、放っておくわけにはいくまいて」

 さっきからこの男の視線は、いや、仮面の視線はぎょろりぎょろりと全体を見渡していた。

 状況を見極めようとしているのか。

 饒舌な裏でやはり、何かしようとしている。

そりゃ、この状況で現れるってことは当然のことだが。


 どうする?この状況、どうやって切り抜ければいい?

アキラもいない今、正直戦って敵うような気はしないんだが。こっちは非戦闘員ばかりだ。

 それに比べて彼は日本で最強の旧家であり、ハナが死んでしまった今、最強の人間、と言うことになる。

 ぼくらで敵う道理はない。

 そもそも肉弾戦でも敵いそうにないくらいの体格差だ。


「ボンたちが実行犯で三島のは高みの見物というところか。いったい何を用意しておるのやら」

 ヒョウはどうやらこちらを警戒しているようだった。

アキラがこれを計画したと思っているのか。

 いやまぁ、ぼくらみたいな無力そうなやつらがヒノカグツチを倒せるわけがないと思ってるんだろうな。

 そりゃ当然だし。

倒せるわけがない。

 アキラが用意してくれていなければ、アヤが知っていなければ、封印だってできなかったのだから。


「何もしゃべりはせんのか。まぁ、懸命ではあろうな。ボンたちでは我には敵わぬ。さっさと三島のを出すがいい」

 どうする?どうしたらいい?

頭を働かせて何ができるか考えていく。

 しかし答えは出なかった。

手の打ちようがない。

 この男は何をしようとしているんだろう?

 戦いそうな雰囲気だけど、まさかとは思うがぼくらを皆殺しにしたり、しないだろうな?


 ヒノカグツチによる犠牲を承認するようなやつだ。

正直、それを否定できるだけの要素が何一つなかった。

 殺したとしても、すべてヒノカグツチやハナのせいにしてしまえばいいのだろうし。

 だって、目撃者がいないんだから。


 アヤに服の裾を引かれてアヤの方に近付く。

「どうした?」

「こっち来て」

「あ?」

 アヤに引かれて後ろに下がっていくぼくらに対して、不振そうな顔のヒョウが少しずつこちらに距離を詰めてきた。

逃がすまいとしているようだ。

 正直逃げれるわけがないと思うんだがアヤはどうしようと?

その場から少し離れた位置で立ち止まる。

 ヒョウもそれに合わせて立ち止まった。

まだ警戒しているようだ。

 ヒョウがいるのは大体ヒノカグツチが消えた辺り。

そばにはハナの遺体があった。


「愚弟の遺体を見て我が動揺するとでも思っているのか?そんなわけがあるまいて。どの道これには無理な話だったのだ。力はあれど、完遂するだけの覚悟と気力がない。役立たずに期待などしていなかったのだからな」

 鼻で笑うようにして、ハナの身体をごろり、と足で転がす。


「オイ!!やめろ!!てめぇのきたねぇ足でさわんなクソが!!!」

「ククク、威勢のいいガキよな。ここまでしても動かんと言うことは三島は貴様らを見捨てたか。さて、どうでもよくなってきたが」

 ギロリ、とぼくにその視線を固定してきた。

その視線をまっすぐに受けて、睨み返す。

 こんなやつに負けてたまるかよ。ふざけんなよ。

 もう死んでしまったとは言え、そんな風にバカにされて黙っていられるかよ。

ハナはぼくらの仲間なんだよ。

 誰がなんと言おうと、ぼくはそれを譲るつもりはないし、それをバカにするやつを許さない!

 走り出そうとした腕を、やはり、アヤが捕まえたまま離さない。


「こー」

「まだ、止めるってのかよ!」

「きーたんがなんて言ってたか、覚えてる?」

 なんて言ってたか?

思い返していって、その言葉に行き着く。


『ぼくのこぶしは誰かを助けるために』


 ハルが最後に言っていた言葉だ。

ぼくを心配してくれて、残り続けてくれた、最高の友達。

 そんなハルが残したその言葉をぼくは忘れかけていた。

そんなことのためにぼくのこぶしはあるわけじゃ、ない。

 七不思議の時も忘れてしまっていた。

 なんだよ、ぼくってぜんぜん成長してないじゃないかよ。

まったく、成長できてなんかいなかったじゃないか。

 ハルの信じてくれたぼくをぜんぜん実践できていなかった。


 けど、どうすればいいんだよ。

この場で怒りを我慢したからって、どうなる?

 このままじゃぼくらは殺されてしまうかもしれないんだ。

我慢したところで、意味なんて――



 次の瞬間、ヒョウの身体が吹っ飛ぶ。



 まるで紙人形みたいに吹っ飛んでいった。

 砂埃に包まれてしまって状況がいまいちつかめない。

意味がわからずに目を見開いてその場を見つめ続けていると、砂埃が晴れていく。


 そこにひざまずいていたのは、

「キリ!?」

 ヒョウを吹っ飛ばして、地面に倒れるハナを抱き上げていたのはキリだった。

まだ鬼の姿のままのキリは表情をつかめない。

 いや、元々つかめなかったか。


 しかし、恐らくあの仮面の表情で間違いないのだろう。

 だって、もうハナは死んでしまっているのだから。

きっと、キリにとって一番大切だった人。

 ずっと守りたくて、そのためにそばに居続けた。

 そんなハナが死んでいるのだ。


 殺したのはアヤだけれど、今、ヒョウが足で踏んでいたのを見ればどう見たってヒョウが殺したように見えるだろう。

 まさか、とアヤを見た。

 アヤは口元を歪めている。

そう、なのかよ。

 そのために、さっきぼくを移動させたのか。

そうすれば、キリが勘違いしてヒョウを殺すだろう。

 そうでなかったら、キリはぼくとアヤを殺したかもしれない。

 いや、そうだったのだろう。

だからこそ、移動させた。

 これすらも、アヤは見てきたのか。


 本当に、どれだけ、アヤはぼくを失い続けてきたのだろう。

どれだけ、自分の無力さを嘆いたのだろう。

 想像すらできないほど、身が切り裂けそうなほどに辛いことだったはずだ。

 ぼくもアヤを失えば間違いなく、そうなってしまっただろう。

できることなら、同じことをしたと思う。



 ひゅん、と風が空気を切り裂く音と共にキリの方に何かが飛んでいった。

「キリ!」

 しかし、キリはその岩でできた針のようなものをハナから離した片手で止める。

 そしてハナをゆっくりと両手で地面に下ろし、ヒョウの方をにらみつけた。

その身体の周囲には、怨念のような憎悪のようなものを感じさせる空気が色を含んで現れてきている。

 キリの鬼の身体がどんどん作り変えられていった。


 そうか、これが想いを硬化させるということなのか。

正直自分で目にしていて信じられない光景だった。

 感情に呼応してどんどん禍々しい形に変わっていく。

 ぼくらの目の前に現れた時とは比べ物にならないほど凶悪な姿。

その色は紫になっていた。指の先まですべて硬質化した鱗のようなものに覆われている。

 明らかに攻撃に特化した形。

ただぶつかるだけで、傷付けられてしまうのは間違いないだろう。


 そして、その形はあの島谷の鬼としての姿とよく似ていた。

あれよりもっと、恐ろしく、おぞましい姿になっていたが。

 それでも確かに、同じ系統のものなのだろうとわかる程度に。

 血の繋がりはやはり、関係があるということか。

鬼は血によって受け継がれていくものだと言っていた。

 鬼になるもの自体が少ないからわからないのだろうが似通ってしまう、ということか。



『――――!!!』



 声にならない叫び声が上がる。

もはや、キリの面影なんて少しも感じられない。

 冷静さなんてまったくない、悲痛すぎる、憎悪の声だった。

 当然だろう。

ハナを守れなかった、そばにいられなかった、助けられなかったのだ。

 きっとその感情は、アヤと似通っている。


 アヤはそれを見て、ぼくの裾を少しだけ強く握り締めた。

アヤは他のみんなのことをコマとしか思っていない、どう思われようと構わないと言ってはいたが完全にその通りではないのだろう。

 そりゃそうだ。

いくら繰り返そうと何も抱かなくなるなんて、ない。

 だって、アヤは本当はやさしいんだ。

何も抱かないはずが、ないだろう。


 変化しながら頭を抱えていたキリは変化が終わると共に、構えを取った。

ヒョウの方を強く、強くにらみつけながら。

 仮面の表情もずいぶん変わってしまっている。

もう、どんな感情なのかわからないほどに歪んでいた。



 ヒョウの落ちた方へ飛び去っていくキリを見て、やるせない気持ちがあふれ出した。

 どうしたらよかったんだ。

これしか道がなかった、とアヤの言った道。

 そこではもう、仲間がみんなぐちゃぐちゃな状態になってしまっているのに。

それでもアヤは、ぼくを助けようとした。


 そのためにどれだけの時間がんばり続けてきたのだろうか。

そんなアヤを想うと、キリに本当はハナを殺したのはアヤなのだと伝えることはできなかった。

 それでぼくらが殺されてしまったら、状況はもっと最悪になる。

 そして、アヤはまた繰り返さなければならない。


 そんなことになんの意味もない。

アヤがさらに苦しむだけだ。

 そんなの、ぼくは許せない。

 けどだからって、ヒョウが殺されてもいいと思うのか?

止めなくて、いいのだろうか?



 止めよう。

それが正しいことのはずだ。

 間違ってなんかない。

 しかし、ぼくの足は動かなかった。

ずっと、みんなに言われてきたことを思い出す。


『もうそろそろ、現実を見ろ』


 そういう段階に、来ているのかもしれなかった。

諦めなければならない、時に来ているのかもしれない。

 ぼくは取捨選択をしなければならないのだろう。

正しいとか間違っているとか、そういう話じゃない。

 アヤも選び続けてきた、優先順位で、何かを切り捨てる、と言うことだ。

 その内容が、命だなんて重過ぎる。

 けれど、それがぼくの、アヤの、そしてもしかしたらカナタの、命をかける内容なのだとすれば、選ばなくてはならないに決まってるんだ。



 ぼくは背負おう。

押しつぶされてしまいそうになるかもしれない。

 絶対に、辛いに決まってる。

後悔するに決まってる。

 間違いだった、と思うに決まってる。


 しかし、それでも。

ぼくらは生き残って、罪を償い続けなくてはならない。

 生き続けなければ、ならないと思うのだ。

 アヤはずっとそうしてきた。

ぼくも、理想だけを追い続けるのではなく、きちんと現実を受け入れて、進むべきだ。


「アヤ」

「ん」

「ぼくは、ヒョウを見捨てる」

「うん」

「お前を、ぼくらを、選ぶよ」

「そっか」

 そこにはなんの正義もない。

何一つ正しくない。

 ぼくは自分が生き残るために、嘘を吐く。

すべて、ヒョウが行ったことにして、ぼくらはその嘘を抱え続けるのだ。

 だから、ヒョウには死んでもらわないといけない。


 そして、キリや他の誰もを、騙し続けることになる。

気が抜けることなんて、ないかもしれない。

 それでもぼくらはその罪を自分の胸に抱いて、生きていく。

 そう、決めたのだ。








 そうして温泉街全焼事件は終結する。

 火事が雨によって収まったのち、神明会、と言うか葦原学園の方からの手の方たちがやってきて、色々な処理を行ってくれることになっていた。

 結局旅館なども全焼し、アキラは大丈夫かと心配したがどうやらキリを追ってきていたらしいアキラと、旅館の方を見に行こうとしていたぼくらは鉢合わせてお互いの無事を喜んだ。

 キリは血まみれの状態でぼくらと一緒に神明会の迎えを待つことになって、ずっと、泣いている。


 ヒョウを殺したのは間違いないようだった。

そりゃ、そうでなければたぶん、キリは鬼の状態を解除できないだろう。

 それくらいにハナへの想いが強かったのだから。

 無表情だったキリが泣きじゃくるのを見てぼくらは胸を痛めつつ、それを表に出さないままに慰め続けた。

 思っていたよりもずっと、それは辛いことで。隠し続けるということの辛さを初めて思い知ることとなっていた。


 アヤは本当に、どれだけ辛い想いをしてきたのだろうか。

 もうすでに耐えられるかわからないくらいに頭の中はくしゃくしゃになっている。

それでもぼくが崩れずにいられたのは、隣にアヤがいたからだ。

 そうでなければ耐えられるわけがない。

こんなの、独りで耐えられるわけがないんだ。

 アヤはこれ以上の痛みをずっと、独りで抱え込んでいたのだと思うと本当に、どれだけ強いのだろうか。


 だからこそ、ぼくはアヤと一緒に背負おうと思ったのだから、後悔はできない。

しちゃ、いけないだろう。

 ずっと先になったとき、このときを思い出して後悔することはあっても、今はまだ、そんなことは許されない。

 許しちゃ、いけないんだ。


 アキラと旅館近くで合流する前にアヤから一つ、預かり物をしていた。

ハナの胸を貫き、ヒノカグツチを封印した天之尾羽張。

 アヤによってそれは腕輪に変化してぼくの腕に着けてある。

 今後必要になるから、とのことで絶対に外さないようにと言われていた。

アヤに言われた以上、逆らう理由もない。

 いつか、必要になるのだろう。

 だからこそ、アヤはヒノカグツチを殺すのではなく封印させたのだから。


 アヤの行動一つ一つが今思えばすべて、意味があったのだろう。

 ぼくの目の前にいない間に何をしていたのか、それは想像するしかないけれど。

本当にすごいやつだと思った。

 意識だけで言えば、たぶんアヤはすでに何年生きているのかわからないほどなのだろう。

こんなにいろんなことを考えて動けると言うのは本当に驚異的なことだと思う。

 ぼくはアヤを支えてあげられるだろうか。

 一緒に生きていくことができるだろうか。

 隣にいて、いいんだろうか。


 まぁ、それは悩むまでもなく、誰かに聞くまでもなく、もうすでに決めていたのだけど。





 結局ぼくらの修学旅行は潰れてしまった。その後は残存処理に追われ事情聴取に応じて時間が過ぎていく。

 それは程よく忙しくてあまり考え込まずに済む時間でむしろありがたかったけれど。

 この事件はヒョウによって儀式が早められ、穂結温泉の人々や客や神明会、いや天霧家の人々を生け贄にしてヒノカグツチが復活させられ、ハナの結界で無事だったぼくらがヒョウを止める。

 その段階でヒョウによってアヤが狙われたがハナがアヤをかばって殺されたためアヤは血にまみれた。

 ぼくらはなんとかアヤの機転で天之尾羽張を使ってヒノカグツチを破壊、偶然振り出した雨によって火が収まり、ぼくらはヒョウから逃げる機会を探る。


 そんな時キリが飛んできた。

 そして、ハナを殺されたことで怒りに暴走したキリがヒョウを殺して、終了。

 そういう顛末だった、と言うことになった。

キリはヒョウを殺してしまったことが間違いないと本人も認め、ヒョウの殺され方も間違いなくキリの言う通りだったため、重要参考人として保護。

 現場検証などを行って事実確認がされたのち、勾留されることになるだろうなるだろう、とのことだった。


 ハナの殺され方については特に疑問視されていない。

ヒョウがその場にあるものの形を変化させて凶器にすることは神明会でもよく知られており、時間が経つと壊れてしまうこともわかっていたため証拠も残らないと言う。

 おかげでぼくらは嘘を見抜かれることもなく、普通に生活できていた。正直心苦しいことはある。

 それでも、それはぼくらが背負い続けなくてはならないことなのだ。


 なんにもなかったように、今まで通り普通に笑って生活する。

それがとても難しいことなのではあるが。

 けれど今のところ誰にも気付かれることはなく、ぼくらは過ごしていた。

 これからも、そうやって過ごしていくのだろう。

それをぼくらは、選んだのだから。





「おはよ、アヤ」

「あぁにー、こー」

 ぼくらはあれ以降待ち合わせして学校に向かうようになっていた。

2人で歩く時間はなんだかいつも、不思議な感覚がある。

 なんと言うか、こう在るべき、と言う感覚。

 カナタはあれから学校にはついて来なくなった。

実体化したからなのかもしれない。

 少しだけぼくとの距離が開いてしまったような気はする。

 あれからカナタとはたくさんの話をした。

これまで伝えたかったこと、いろんな想い。

 そして、つぼみの最後の言葉。

 あとは任せるね、そんな風に笑って逝った、つぼみの話をするカナタはずっと泣いていた。

 後悔していたのだろう。

やさしくできなかった。

 素直に、なれなかったから。

 実体化して人として生きられる以上、カナタには人として幸せになってほしいと思っていた。

 今理事長に掛け合ってカナタの住民権が得られるように手配してもらっている。

もしかしたら葦原学園に通えるようになるかもしれない。

 理事長はカナタがうたかたであることは知っているはずだが何も言わずに引き受けてくれた。

 やっぱり、いい人なのかもしれない。

 ランが少しだけ警戒していたとは言えこの人がいい人であるのは間違いないような気がした。


 あまりに色々なことが順調に進みすぎるのは少し、心配だけど。

それでもアヤが特に行動を起こさないと言うことはきっと、大丈夫なのだろう。

 ぼくの手を取ったまま、うれしそうに微笑んでいるアヤはの事件なんてまったく感じさせないように、普通に生きていた。

 強いなぁと思う。

思い悩みまくっているぼくとは違って、こんなに幸せそうに笑えるなんて。

 けれど、その笑顔がここにあるのはぼくがあぁいう決断をしたから、なのだとすれば。

 少しだけ、ぼくもうれしくなる。

やっぱり、大好きな人には笑顔でいてほしいから。



 学校に着いて、久々の教室。

今日は修学旅行明け初の授業の日だ。

 なんでもない日常。ナツがはしゃいで旅行中の話をする。

 ぼくらは笑ってそれを聞いて。

授業はほどよくダルくて。

 めんどくさいけど、この愛おしい日常があるだけで、ぼくらは生きていける。

 これがぼくとアヤの守ろうと思った、ただの日常ってやつなのだ。



 そして、部活動。

PDCのメンバーは3人に減ってしまった。

 しかし、特別教室に行くとアキラが普段通り過ごしている。

「よぅ」

「にー」

「ん」

 声をかけて教室に入ると、片手を上げたアキラから微妙に返事が聞こえた。

なんだろう、初めてまともに反応された気がする。


「この教室も寂しくなったな」

「そうだな」

「お前でもやっぱ寂しいとか感じるんだな」

「当然だろう。失わなくてもいい命が失われた」

「そう、だな……」

 なんだかんだでやっぱアキラもちゃんとハナのことをメンバーと思っていたわけだ。

それだけは、少し救いな気がした。

 寂しいと思ってくれるのなら、ぼくらがそれも背負おう。

ハナについてはぼくらがすべて背負うから。


「それで、ヒノカグツチはどうした」

「は?」

「ハナの胸を貫いて血を浴びせ、ヒノカグツチを封印した天之尾羽張はどこに行ったのだ?」

「何を言ってるんだ?」

「ハナはアヤが殺したのだろう。そしてお前の力を使ってヒノカグツチは封印した、そうだろう?」

 なんで、そんなことまでわかってるんだ、こいつ?

わかるはずがない。

あの状況でいったい誰がそんな真実に至れると言うのか。


「安心しろ。別に警察に突き出したり神明会に教えたりしない」

「いや、なんのことを言ってるんだ?」

「とぼける必要はない。オレは真実が知りたいだけだ」

「……ったく、なんてやつだよ」

「あーたんってば、呆れるほどに探究心が強いにー」

「それがオレの生きている理由だからな」

「ここだよ。この腕輪だ」

 ため息を吐きながらアキラに腕輪を見せる。

銀の腕輪には謎の文様がびっしりと書き込まれていて、いったいなんの腕輪だかぱっと見でわからなかった。

 ファッションで着けていると言って誰もが信じたほどだ。


「なるほどな。やはりそんなもの着けていた覚えがなかったが正しかったか」

「まさか見抜けてるとは思ってなかったよ。どこで気付いたんだ?」

「ヒョウがヒノカグツチを復活させたとして、お前たちが破壊できるような隙など見せるわけがないだろう」

「あー、まぁ、そうか」

「恐らく理事長も気付いている。お前たちの論理は穴があるからな。しかし、否定できる材料もない。お前たちの証言を頼りにするしかないのだよ、この事件は」

 目撃者があまりに少なすぎる、からな。

しかし、気付かれるとは思わなかった。

 それだけの情報でそこまで普通、たどり着けないだろ。

ホント、さすがはアキラだ。


「あいつが失われてしまったのは、本当に残念なことだ。お前たちを責めるつもりはないがな」

「あいつ、ってハナのことか?」

「あぁ。オレはあいつに憧れていたのだ」

「え?」

 憧れて、いた?アキラが、ハナに?なんで?

意味がわからず疑問符が飛び交う。


「あいつほど才気にまみれ、上へ昇り詰められる可能性を持ったものは他にはいない。

 あいつこそ天才と呼ぶべき存在だった。

オレなど足元にも及ばないほどにな。

 だからこそ、オレは嫉妬してしまっていたのだろう。

 あいつに辛く当たりすぎた。認めたくなかったのだ。


 ずっと名前を呼ばずにあいつが落ち込む姿を見て、オレはぬか喜びしていた。

 正直、自分でもバカなことをしていたと思う。情けない。

 そのせいであいつは思い悩み、今回のような行動に出てしまったのだろう。

 偉そうなことを抜かしておきながら、オレなど所詮、その程度なのだ。

虚勢でしかなかったのだよ。

 勝てる気がしないから上から目線ですごいように見せかける。

 そんなことばかり考えてきた。本当に救いようのないバカだった」


 そんな、卑下するほどお前は落ちぶれてないだろうがよ。

お前が努力してきてることは、みんなわかってるんだよ。

 だから、そんなこと言わないでくれ。


「アキラ、ハナもな、お前に憧れてたんだぞ」

「あ?」

「気付いてなかったのかもしれないけどな。でも、あいつはお前に憧れてて、お前に認めてもらいたくて、だからこそそれに値しないと思っていたんだよ」

「そんな、それじゃ、オレは……」


「それでも、ハナを助けられなかったのはやっぱぼくの責任でもある。

 アヤのせいでもあるし、キリのせいでもある。

 そして、ハナ自身のせいでもあるんだよ。

 あーあ、また、結局そういうことなんだよ。

そういうことになっちまうんだよ。

 七不思議のときにお前の言ってたことの繰り返しになるんだけど、な。

この事件もぼくら全員の、責任だったんだよ」


 誰か1人が悪かったんじゃない。

 誰か1人が正しかったわけでもない。


 結局、この世界ってのは全部そうなのだろう。

誰か1人を責めることなんて、できない。

 ここにいる人だけではなく、全員、間違っていて、全員、正しかった。

 だから掛け値なくすべて、全員の、責任だ。


 人間とは結局、間違え続けていく生き物なのだと、そういうことだったんだ――

この話はまだ続きがあります。

この後に関しては今後また時間が取れるときに書きたいと思っていますがすぐには難しいので、もし楽しみにしていただけるのであればお待ちください。

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