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これが君とぼくの日常  作者: 霧間ななき
第四章 『繋ぐ、手のひら』
58/61

第五十八話『目覚める焔』

58.

 うかつだった。

もっといろんなことに気を配るべきだったのだ。

 ぼくはいったいどこで間違えたと言うのだろうか?

 正直思い当たるところが多すぎてもはや後悔してもし切れない。

 しかし、後悔したところでこの目の前の現実ってやつはなくなったりはしないのだ。


 キリはそこにいた。

鬼の姿で、ぼくらの目の前にいる。

 悲壮な表情をした仮面、と言うことは悲しみに暮れたキリがこうなったのだろう。

どうすればよかった、なんてもはや言ったって遅い。

 ここに来てしまったと言うことはもう、ぼくらはどうしようもなく、対立するしかないのだ。


 アキラが構えてキリと向かい合う。

キリはそれに相対するように構え、こちらを仮面の目で見据えた。

 落ち着いているように見えるのはそれがキリのスタイルだからだろう。

キリらしいところが見えれば見えるほどに悲しくなる。


「待て、アキラ。ここはぼくに任せてお前らは先に行け。あとから必ず追いつく」

「……下手な死亡フラグを立てるな。言っておくが冗談じゃない」

「いや、ぼくにだけはキリの相手ができるんだよ」

 値踏みするようにぼくを見て、しかしアキラは構えを解かない。

言葉の意味は伝わったようだが聞き入れてはくれないか。

 まぁ、予想はしてたけどな。


「言いたいだけのセリフは冗談だけにしておけ。お前だってわかっているのだろう?オレの策はお前なしでは成り立たん」

「言ってみたいセリフだったのは否定しないけどな。まぁ、そうだろうことは確かにわかってた」

 やっぱキリを倒していくしかないのか。

 ぼくだけで抑え込むことはたぶん、できると思う。

ぼくは鬼の力を打ち消すことができるのだから。

 ただ、ぼくだけでは抑え込むことしかできない。


 キリは退いてくれそうにない。

しかし、いきなり襲い掛かってくるような真似はしてこなかった。

 アキラが強いことはわかっているからか。

 けど、鬼になるほどの強い感情を持ちながらそんな風に思考できるものなのか?

悲しみだからこそなのか。

 ぼくらに対する恨みとかではない?


 ぼくらを殺したくはないのかもしれない。

言葉は通じるのだろうか。

 試してみる価値はある。



「キリ、ハナはいったい何をしようとしてるんだ?」

「コウヤ、オレより前に出るな」

「いや、けどキリと話したいんだ。話し合いができない、ってわけでもないんじゃないか?」

「お前は甘く見すぎだ。鬼に成ると言うのがどれほどなのかわかっていない」

「けど、突然襲い掛かってきたからっていきなり殺そうとしてくるわけじゃないじゃないか」

「油断はできん状態だ。いつまで動かないか――」

 わからない、と言おうとしたのだろうか、アキラはぼくを突き飛ばして自分は反対側に跳んだ。

 瞬間、そこをキリの斬撃が通り過ぎていく。

その目ははっきりと、ぼくを捉えていた。

 そして、そのまま宙で身体をぐるんと回転させ、その場で空中停止し、一気にぼくの方へ詰めてくる。


 振り上げた手の中には、無骨なサバイバルナイフ。

 オイオイ、待てよ!

なんでそんなもん持ってる!?

 自分の腕で殴ればいいじゃねぇかよ!

 そう思った瞬間、思い出される会話。


 あぁ、クソ、キリにはぼくが島谷に襲われたときの情報を話してしまっている。

アキラで気付ける事実にキリが気付けない道理はない。

 つまり、キリはぼくの力を突き止め、その上で対策を取ってきたわけか。

じゃあこの旅行の前からキリはこうするつもりだったってのかよ。

 なんだよ、それ。

 なんなんだよ、それ!


「ぼくらは、仲間じゃなかったのかよ!?」

 ぼくの声が鳴り響き、キリのナイフが振りかぶられて、ぼくの、胸を突く。


 かに見えた瞬間、キリは壁際まで吹き飛ばされていた。

 アキラの蹴りがキリの横腹辺りに思いっきり叩き込まれ、壁にぶつかったキリは少し動きが鈍くなる。


「甘えたことを抜かすな。もはやアイツはオレたちの仲間ではない」

「こんなことって、あるかよ……」

 これは計画的だって言うのか?

最初からこういうつもりでこの旅行に来たってのか?

 温泉で無邪気に笑い合っていたときから、こんなつもりで?

ぼくらが笑ってる裏で、こんなこと考えてたわけ?

 それって、なんか、ぼくらバカみたいじゃないかよ。

寂しすぎるだろ、そんなの。


「どうするつもりだ?」

 キリの方へ再び向かい合うアキラに問う。

「オレはオレの信念を貫くまでだ」

「なら、ぼくもぼくの信念を貫く」

 アキラと視線が絡み合い、考えを悟った。

 同時にキリに向かって走り出す。

キリはぼくらの動きが理解できないようで、動くことなくその場で迎え撃つことに決めたようだった。

 ぼくは一直線に、アキラは弧を書くようにキリに向かっていく。

キリはアキラの方を警戒しつつ先にたどり着くぼくの方へサバイバルナイフを構えた。



 そしてぼくは九十度に折れてアヤとカナタの手を取って部屋の外へ駆け出す。

「ちょ、こー、なんで?」

「ぼくらがあそこで立ち止まる意味はない。むしろ逆効果だ。キリの狙いはまさにそこだからな」

 キリとアキラがぶつかり合う音が聞こえた。

 そう、キリがなかなか攻撃してこなかった理由。

どう見たって足止め、だ。

 できれば殺したくはなかったのだろう。

それをアキラも悟っていた。


 だからこそ、アキラはあんなことを言ってキリにぼくらが敵対する、と思い込ませることにしたのだ。

 逃げ出してどうする、と言えば確かにどうしようもない。

 ぼくらはアキラが何をしようとしたのかすらわかっていないから正直、手の打ちようがないのだ。

 アキラが追いついてきてくれるのを信じるしかない。


「とにかく森の方へ行く。恐らく儀式がどこかで行われているはずだ。そこに行って時間まで待つ。たぶんアキラはぼくらを見つけ出してくれる」

「こー、それはダメ!」

「あ?何がダメなんだよ。見つからないくらい離れてればいいだろ?それくらいアキラだって予想できるはずだ」

「違うの。きーちゃんがなんでこーたちをあそこに足止めしようとしたのかわからない?」

「なんで、あそこに足止めしようとしたのか?」

 わけがわからず立ち止まってしまう。

もうすでにあの部屋からは結構離れてしまったがまだ予断は許さない状況だと思う。

 だって、ハナの姿はまだ見ていないんだ。

どこにいるかわからない以上、注意しなければならな、い?



 ハナは、どこにいる?

 繋がり始めた。

これまでの状況、話、ハナの言葉、キリの行動、ハナの式。

 先手を、打つ?

 すべては神明会が処理を行うため犠牲は承認されている。

 儀式はすでにほとんど完成していて、術者がいなくなったところで、儀式の完成が遅くなるだけ?

 だとすれば、だとすれば、だ。


 いくら修学旅行とは言え普通夜は眠るだろう。

だからこそ、彼らは儀式の完成を夜中に設定していたのかもしれない。

 それに力の満ちる時間だから儀式も成功しやすい。


 しかし、最高の術者が、最強の力を持つものが儀式を行えば、力の満ちる時間ではなくともいつでも完成させることができる、のか?

 結界を張ったぼくらの泊まるはずだった部屋。

何かあったらそこに戻ってくれば危険はなくなる。

 最初からそのための結界だとしたら。


「ハナは、自分で儀式を奪い取って遂行するつもりか!?」

 気付いた、瞬間。



――ゴォン



 大きな衝撃音とともに、突風が吹きぬける。

 室内だというのに、とても強い、熱気を帯びた突風。

 カナタが廊下の窓から外を指差す。

そちら側はアキラが怪しいと言っていた森の方角。


 空が、朱く、紅く、緋く、燃え上がっていた――

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