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これが君とぼくの日常  作者: 霧間ななき
第四章 『繋ぐ、手のひら』
57/61

第五十七話『島谷 霧』

57.

 現在時刻は大体午後十一時になっていた。

 アキラは準備をしたいとのことでとある和室にお邪魔している。

無断だけど、状況が状況だからまぁ仕方があるまい。

 結構空き部屋があるようなのでそうそうばれないとは思うんだが。


 ハナたちはすぐ追ってくる、なんてことはなく、未だ別れたままだった。

 結構頑固なんだろうか。

なんか思い込むと一直線、って感じはするかも。

 いい方にも悪い方にも、そんな気がする。

 みんなで離れちゃったのはもしかしてまずかったんだろうか。

いやしかし、賛成することはできないしな。

キリに任せるしかないか。


 それより、なんだろうか?

さっきからまた変な感覚がある。

 この部屋に来たときから抱いている違和感。

 ぼくはここに来たことがある、か?

見覚えがあるような気がして仕方がないのだ。

 ただの気のせいならいいんだけど。記憶を思い返してみてもまったく思い当たるものはない。

 昔来たことがある、なんてこともないはずだ。


 アキラは何かを紙に書き込んでいて集中しているようだった。

アヤとカナタが向かい合って遊んでいる。

 コロコロと転がる鞠。

カナタの名前の由来にもなっている鞠だった。


「そう言えば鞠つき童子って由来とかあるのか?」

「由来ってなんのことにー?」

「あー、座敷童子で言えばさ、諸説あんだけどラン曰く旧家が家を建てるときに家内安全とか繁栄を願って生き埋めにされた人柱が祀られることによって悪霊化せずに家を守るようになったもの、って説が一番有力だって言ってたんだよ。鞠つき童子もなんかそういう悲しい由来みたいなのがあんのかな、って。妖怪って結構そういう由来を持ってる子が多いし」

「アヤちんあんまりそういうの詳しくないからよく知らないけどにー。鞠つき童子って確かお寺から生まれる精霊さんだったと思うに?」

「寺から生まれる……?」

 寺から生まれるのに個人に憑くのか?

よくわからないな。

 携帯で調べたら出るかな。

 しかし、携帯の検索機能が悪いためなのか知名度が低すぎるためか、一件もヒットしなかった。


「うーん、まぁ別に今知らなきゃいけないことではないんだがな」

 アキラが終わるまで暇だってことと気になり始めるとそのことばっかり考えてしまうんだよな。


「鞠つき童子は関東地方で特に確認されている精霊だ。他の地方ではそこまで集まらないためあまり生まれることがない。都会だからこそ生まれてしまった悲劇の精霊だ。そう聞いた上で知りたいか?」

「……知りたい」

 もしカナタに何か悲しい過去があるのなら、少しでもそれを和らげてあげたいと思うから。

それが家族として迎えたぼくの責任だと思うのだ。


「あまり気持ちのいい話ではないぞ。特に女性に聞かせるような話ではないんだがな。

 鞠つき童子は水子、つまり中絶や流産、死産によって生まれることなく死んでしまった胎児の魂が寄り集まったことによって生まれると言われている。

 都会で多い理由は言うまでもないだろう?

 まだこの世に生を受けていない彼らは魂とは言え確固たる個というものを持たないままに消え行くものだ。


 それを悼んで供養しようと言う流れがあってな。

通称水子供養寺などと呼ばれる寺に胎児の頭部と同じ大きさの鞠を納めることで供養する。

 水子供養寺は数が少ないためほとんどが同じ場所に納められる。

そのため水子の魂が集まりやすく、集まった魂が一つの形を持って初めてこの世に精霊として生まれ出る。

 生まれることができるのは本当に極稀なのだがな。


 そして、鞠つき童子は元々愛を受けることができずに死んでしまった胎児の魂であるが故に少しでも愛してくれるものを求めている。

 だから、遊んでくれる相手を探し、応えてくれたものに一生を尽くすのだ。

そうやって、主となったものと共に没する」

 なんて、悲しい。

 確かにそれは都会で生まれることの方が多いだろう。

何も感情すら抱けぬうちに命を落とした彼らは悲しいとすら感じられないのだろう。


 それは本当に、とても悲しいことだと思った。

 そして、鞠の意味を知り、尽くす理由を知って、さらに悲しくなる。

少しでも愛してくれる相手に一生を尽くして主と共に消えてしまう。

 ほとんどの人は霊視なんてできない。

きっと子供の頃に霊感が強いうちに感じただけの人が多いはずだ。

 大人になっていくにつれてほとんど自分を認識してくれる人がいなくなってしまうのに、尽くし続けるだなんて。

 最初から最後まで、ずっと、悲しいだけじゃないかよ。

いつまで経っても報われない。


「子供のうちの霊を見えるうちに鞠つき童子を見て遊んでやって憑かれ、やがて見えなくなってしまうケースがほとんどだ。本当に悲しい精霊だろう。だからこそ、九音のうたかたがお前に憑いて、よかったと思う」

「あぁ、そっか。九音って寺の名前なんだな?うたかた、泡沫か。ホント、悲しいくらい儚くて寂しいもんだな」

 うちに連れて来てあげることができて本当によかったのかもしれない。

うちならみんな見えるし、独りになんかならないから。

 寂しい想いなんてしなくていい。

させやしない。

みんな、一緒だから。

 うちにいる家族みんな幸せにして見せよう。

笑顔の満ち溢れる、そんな家で過ごそう。


「あー、あと一個聞いていいか?前から疑問だったんだが」

「なんだ」

「子供のうちだけ霊視できる子っているよな。アレ何故?霊視って特殊な力なんじゃないのか?」

「子供の頃だけ見えるのは生まれ出たばかりの人間は世界と繋がっているものがいるからだ。基本的に生物と言うのは世界と繋がっているのが普通だ。人間が異常なだけだな。世界と繋がっているものはアヤと同じように霊視みたいな力を使える、と言うだけのこと。しかし、自我の強いものは世界と繋がり続けることができん。それゆえに子供の頃だけ見える子供も少ないのだ。そして、大人になるにつれて見えなくなる」

「なるほどな。そういうことか」

「そうだな、さっき言い忘れていたがお前も霊視できているわけではない。霊視のようなものができているだけだ」

「え、あー、そうか」

 アキラの論の通りなら生命エネルギーを放出できる体質、ってことなんだよな。

生命エネルギー、つまり結局は世界そのものと同じってことか。

 ぼくも世界と繋がってるようなもんなんだな。

だからこそ霊が見えるし他のいろんな力もある。

 てことは結局PDCで霊視ができるのってハナとキリだけなのか。

霊視って本当にレアな才能なんだなぁ。


「ついでに言うとキリは見えていない」

「え?」

「キリはハナの補助で見えているだけだ。霊視能力はない。ハナの隣にいるためだけにそういう力がある、と言うことにしているだけだ」

「ちょ、マジで?それじゃうちで霊視ができるのってハナだけなのか?」

「アイツもどうだかはわからんな。キリに見せている方法と同じもので見ているかもしれん」

「えぇ、んじゃ霊視できる人間いないじゃねぇかよ」

「だから言っただろう。3億人に1人程度しか霊視ができる人間などいないのだ。オレの父も見えているか怪しいものだ」

「なんつーか、なんかみんな騙し合いしてるみたいだな……。実際霊視なんて能力ないんじゃないかとさえ思えるな」

「そうかもしれんな。だからこそお前やアヤのようにこの年齢になっても世界そのものの影響を受け続けている存在と言うのはかなり貴重なのだ」

「ふーん?」

 世界の影響を受けるって自我が強いと繋がり続けられないのだから、難しいってことか。


「もしかしてアヤ、お前ってその力を保つためによく寝てるのか?」

「んにー?アヤちんは眠いだけだにー」

「無意識でやってるだけとかなのか?いやそれだとぼくが保ち続けていられるわけもわからんか」

 ぼくの力って結局どんなものなのかいまいちわからんなぁ。

人間から出てくるのは精神のかたまりのはず。

 なのに、ぼくからは生命エネルギーが出てくる。

それってどういうこと?

 なんで本来まったく違うもののはずのそれが出てきてしまうわけ?

 人間では生命エネルギーは生み出せないようなもんなんだよなぁ?

なんかよくわからん。


「ふむ、この辺りでいいな。よし、準備が整った」

 そう言ってアキラは荷物をまとめだす。すべてナップサックに詰め込んで立ち上がった。

「それでは時間までに現場に向かう。儀式が完成する瞬間でなければ意味がないのでタイミングは違えぬようにしなければならん」

「何やるのかまだわかってないんだけどなー」

「移動中に説明する。あまりここに留まっていて誰かに見つかっても敵わんからな――、と」

 アキラがすばやくその視線を窓の外にやり、何かをにらみつける。


「まずいな。凡俗はこちらを先に攻めるつもりか。何を考えている」

「あ?ハナがぼくらを攻めてくるってのか?なんで?」

「わからん。しかし、今外に式がいた」


――瞬間、


ガゴン!!


 大きな音を立てて入り口の戸が吹き飛ばされた。

 そこに立っていたのは、鬼。

 コイン大の無数の青い鱗のようなもので全身を覆い隠して禍々しい姿をさらしていたのはぼくらより少し大きいくらいの鬼だった。

 その仮面に浮かんでいる表情は、悲しみ。

 深い悲しみのあまり慟哭するかのようなその表情に似合わず、その鬼の動きは落ち着いているように見えた。

 中にいるぼくらを確認して、足を踏み入れてくる。


「オイオイ、ハナが相手なのか、これ?」

「間違いない」

 鬼まで使役できるのかよ。

てか鬼って人妖じゃなかったっけ?

 島谷みたいな霊体だったら口寄せとかできるかもしれないけど、あれ特殊な例だとか言ってなかったっけ?



――しま、たに?



「なぁ、オイ、アキラ。ぼくようやく気付いたよ」

「自分で解答に至ったのなら大したものだ。ヒントも与えていないのだからな」

「今まで気付かなかったぼくがバカみたいだ」

「そう卑下することはない。そんな紹介はされていなかったのだからな」

「クソ、そういうことかよ。ずっと違和感はあったんだ」

 ヒントはいたるところに散りばめられていたはずだった。

ぼくが気付けなかっただけで。


――そう、この目の前にいる鬼の正体は


「島谷、キリ。お前は人妖の一族の人間だったんだな――」

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