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これが君とぼくの日常  作者: 九音さゆさ
第四章 『繋ぐ、手のひら』

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第五十六話『人間竜穴』

56.

「この先はどうするつもりだ?」

「先手を打ちます」

 アキラの質問に対し、まっすぐ応えるハナと言うのは初めて見たような気がした。

 今まで誰と話していても少し怯えと言うか引っ込み思案と言うか、自信のなさが伺えたものだったが今は違う。

毅然としてアキラに対応していた。

 ヒョウと話したことがそれほどまでにハナには強い影響を与えたと言うことか。


 正直ぼくはまだ状況をうまく飲み込めていなかった。

 依頼の意味が未だによくわからない。

ハナの抱いている危機感は伝わっては来るが具体的にどう危ないのかもわからないし。

 そもそも神様って存在してるわけ?

天照大神さまのご加護とか言ってたってことはあれか、日本の神様っつーこと?

 八百万信仰的な感じ?

 つぼみが付喪神だったとは言え、正直本当に神様なんているとはまったく思っていなかった。

 妖怪と何が違うんだろう?


「キサマは奪うつもりか?停止させるつもりか?」

「奪います」

「ならば、オレは協力しない」

「え?」

「は?」

 アキラは立ち上がって部屋を出て行こうとする。

意味がわからずぼくはその腕を捕まえた。


「いや、待てよ。どういうことなんだ?ぼくはまだ意味がわかってなくて行動しようにも判断がつかないんだが」

「そうだな、それくらいは説明してからにしておくか」

「いや、ちょっと待ってください!協力しないって、どういうことなんです?」

「そのままの意味だ。火の神を呼び出させるわけにはいかん。その方針でいくならばオレは別行動を取らせてもらう」

「な、何を言ってるんです?もう彼らは復活の儀を始めているからこそ神明会が感知したのですよ?今更儀式を停止させたところで意味なんて……」

「だから、破壊する。キサマとは相容れんと言うことだ」

「そん、な……」

「いや、おい、2人とも待ってくれ。ぼくを置いてけぼりにしないでくれ。マジで話が読めん」

「あ、えっと、コウヤさん。ここの温泉が熱源不明の温泉だってこと、覚えていますか?」

「あぁ、非火山性で熱源不明とか言ってたよな」

「そしてホムスビというこの温泉の名前、それを結びつけると一つのことがわかるんです」

「うん?」

 まったくピンとこなかった。

穂結?穂を結ぶとなんかあるのか?


「ホムスビ、火を産む霊。ヒノカグツチと呼ばれる火の神様の別名なんですよ」

「ヒノカグツチってなんか聞いたことあるな。確かイザナミが神産みで産んだ神様の一つだよな」

「その通りです。そしてヒノカグツチを産んだことによって伊邪那美は死んでしまった。

そのため忌み神とも言われる神様です。

 イザナギによって殺されてしまったのち、その血や身体からは様々な神様が生まれたとも言われていました。


 火の神様であり、神様をも殺せてしまうほどの力を持つヒノカグツチですが温泉の神様としても祀られることがあります。

恐らくここの温泉はヒノカグツチを復活させている途中の副産物としてできた温泉なのでしょう。

 そして、このような山奥であり、外界とは遮断された土地でヒノカグツチを復活させ、多大なる力を手に入れようとしているのだと思います」

「復活させたとして、いったい何をしようってんだよ、あいつらは」

「恐らく金銭目的でしょうね。そして、神明会を出し抜く、と言うのもあるのでしょう」

「山杜家は旧家の一つだからな。神明会には入会を断られている。故に恨みを買ったのだろう」

「なんで断ったんだ?」

「彼らは目的を明確に持ちすぎている。そのためならばなんでもするような連中だからな。神明会に害なす可能性が高いとして拒否したようだ」

「けれど、だからって神様をそんな風に使役するなんて、許せません」

「しかしキサマは復活させること自体には反対しないのだろう?」

「ヒノカグツチはとても強い神様です。その力は有効に使えば様々な面で役に立ちますよ」

「そのためならば多少の犠牲は構わないと、そうキサマは言うのだな」

「そういうわけでは……」

「そういうことだろう。復活させたいのならそれ以外に方法はないだろうしな」

「だから、ちょっと待てっつの!ぼくを置いていくなよ。なんなんだよ、どういうことだよ?多少の犠牲?復活させようとするためには生け贄が必要とでも言うのか?」

「その通りだ。まさにそのまま生け贄が必要となる」

「な、ちょ、待てよ!それはまずいだろ!?」

「だから、オレは止めると言っている」

 生け贄だって?

それってつまり人の命を食ってそのヒノカグツチってやつは復活するってことか?

 ハナの結界のことを考えると、まさか。


「もしかしてこの温泉街に来ている客を生け贄にしてヒノカグツチを復活させるつもりか!?」

「そういうことだろうな。人数的にもちょうどいいだろう。しかし、それは許せるものではない」

「オイオイ、まさかあいつの言ってた手段は選ばなくていいとか処理は神明会が行うって、つまり生け贄を許容するってことか?」

「天霧家はそういうやつらだからな。大多数のためならば少数は切り捨てる」

「ふざけんなよ!?そんなの許せるかよ!!」

「あぁ、だから、オレはヒノカグツチを破壊する。コウヤはどうする」

「……」

 ハナを見る。

ハナもぼくを見ていて、懇願するような視線を送ってきていた。

 しかし、ハナは奪う、と言ったのだ。

つまり、ヒノカグツチは復活させるわけだよな。

 確かにハナとしては家の事情もあるし、そうするしかないのだろう。

 けれど、ぼくはそれを許容することは、できない。


「ハナ、悪いがぼくはお前に協力できない」

「コウヤさんまで……?」

「ここは観光地なんだよ。楽しみに来てる人がいるんだよ。笑ってる家族がいるんだよ。それを、お前は切り捨てるのか?構わないと言えるのか?生け贄に捧げるってんのか?」

 だとしたら、クソくらえだ。冗談じゃない。


「そんなのは、絶対に許さない。ぼくらが必ず食い止める」

 だから、お前には協力しない。

ハナは希望を失ったような顔をしていた。

 しかし、それでも。

それでもぼくは許せないのだ。

 自分に当てはめて考えてみろよ。

 自分の家族や自分自身が遊びに来ていた楽しいはずの旅行がそんな風に踏みにじられるなんて。

許せるわけがないだろうが。



 アキラと連れ立って部屋から出ると、アヤとカナタもついてきていた。

「アヤも来るのか?」

「当然だにー」

「ま、そうだよな」

 しかし、キリは残っている。

それは予想できていたことだった。

 きっと、キリはハナがどれだけ間違っていようと、そばにいるのだろう。

あの2人の絆はそれほどまでに深いものだ。


 ハナが気付いているかは、わからないけれど。

キリはあまりに言葉を発しなさ過ぎるからな。

 想いが伝わっているかどうか。

 けれど、それでも。

キリが残ってくれてよかったと思う。

 ハナを独りにするのは気が引けるし。

キリがいればきっと、大丈夫だろう。


 ハナのやり方は奪うと言うことは恐らく復活させる瞬間とかに何かをするんだろう。

正直口寄せとか神様を復活させるとかよくわからないけど。

 しかしさすがに、自分の手で一般の人々を生け贄に捧げることができるほどハナは人間をやめていないと思う。

 正直人間の感性を捨てていなければそんなことできっこない。

命を、奪うことなのだから。



「で、どうすんだ?」

「まぁ恐らく今晩にでも何かが起きるだろう。オレたちが調査を始めて気付かれるより前に儀式を完成させてしまわなければ邪魔されてしまうと言うことくらいあの男にもわかっている」

「先手必勝、か。まぁその方が確実ではあるよな」

「午前零時から午前二時前後。その辺りがもっとも危険な時間帯だ。力が満ちる時間だからな」

「あと一時間ちょいで始まるかもしれないのか」

「場所の検討は大体ついている」

「あー、森の中か」

「その通りだ」

「けど、どうやって止めるんだ?」

「儀式そのものについては恐らくもはや止めても無駄だろうな。術者がいなくなっても進行が遅くなるだけでいずれは完成してしまう」

 こんなところで行われているのを感知するまでにはやっぱ結構時間がかかったんだろうし、かなり長い時間かけて行われてきた儀式なんだろう。

 だとすればやはりそんな一晩なにかしたからといって止められるわけでもない、か。

今の話を聞いている限りではもうほとんど完成しているようなものみたいだし。


「んじゃ神を破壊するとかお前言ってたけど、どうやるんだ?」

「秘策を用意してある」

「……なぁ、それってお前来る前から全部予想してただろ」

「ある程度はな。いくつか念のため用意してきてある。今回は家に取りに戻ると言うのも難しい距離だからな」

「お前ってホントすげーやつだよ」

「お前にも動いてもらう」

「珍しいな、ぼくにやれることがあるのか?」

「お前にしかできない」

「ふーん。まぁ、お前に頼られるのは悪い気はしないし、がんばるよ」

「……それと、今話す機会を失ったら次言う機会が訪れるかわからんので言っておくが」

「あん?」

 少しだけ思い悩むようにしてから、アキラがそう切り出してきた。

 てかなんだ、それ?

死亡フラグ立ちそうなセリフはやめておけよな。

 シャレにならねぇよ、今の状況だと。


「お前の力は『相手を自分と同じ性質にする』なんて力ではない」

「へ?」

 きょとんとしてしまう。

違う?でもアレでぼくの力はほとんど説明できたと思うんだが?

 そういえばなんか仮説があるとか言ってたっけ。


「簡単に言えば、お前は『人間竜穴』だ」

「人間竜穴……?」

 なんだそれ?

竜穴ってーと、あぁ、パワースポットか。

 生命エネルギーが竜脈から噴き出す点。

 しかし、それが、なんだって?


「お前が触れると起きる現象をすべて思い出してみろ」

「まず最初はハルが普通の人に見えるようになった、か」


「幽霊が見えるようになる。

それはパワースポットで起きる現象だ。

 何故そんな現象が起きるのかと言うと、パワースポットは竜脈に流れるエネルギーが噴き出す点であり、力の溜まり場だ。

 そもそも幽霊と言うのは身体から抜け出した精神のかたまり。

通常は可視できないもの。

 しかし、竜脈の影響を受けると幽霊の表面で化学反応が起き、可視状態になるのだ。

 竜脈は生命エネルギーの集合体。人間だけではなく様々な生命の力を集めたもの。

 それと人間の精神エネルギーが結合することによって見えるようになるということだ」

 表面だけが可視状態になるから普通の人は触れることもできないけどそこにいるようには見えるようになる、ってことか。

 なんかおかしな感じだな。

霊体の表面に薄い膜ができているようなもん、なのか?

 まぁ、妖怪が見えるようになるのも同じ感じか。


「あとは、鬼化が解除されたな」

「鬼と言うのは器からあふれた精神を自らのうちにある型に注いで硬化することができる。

 しかし、精神と言うのはさきほどの幽霊にしてもそうなのだが生命エネルギーと化学反応を起こすのだ。

 まぁ、わかりやすく言うと中和される。そのため硬化していたはずの鬼の部位が解除され、人間に戻った、と言うことだ。

 しかし、通常パワースポットと呼ばれる場所は結構範囲が広い。

竜穴そのものの上に乗らなければ普通鬼化していたとしても中和されるほど影響は受けないはずだ。

 幽霊も竜穴そのものの上に乗れば恐らく実体化するのだろう。

今までそのような実験を行ったことはないがな」


 中和、か。

精神が酸性で生命エネルギーがアルカリ、とか?

 まぁそういう感じじゃないのかもしれないが中和されることによって触れた部分からだんだん解除されていったわけか。

 てことはあの輝きが広がっていくのはそれでか。

確かにそう言われると納得できるなぁ。


「鏡の少女に霊体になっていた少年たちを見せることができてたよな」

「それはお前から少女に送られた生命エネルギーによって少女が妖怪化したためだ。あの鏡はただ単に寂しがった少女の魂をどこかの陰陽師か何かが怨霊と間違えて封印しただけだったようだからな。元々人間だったのだ、あの少女は」

「妖怪化した……?ちょっと待ってくれ、どういうことなんだ?それを聞いていると妖怪と幽霊って違うものに聞こえるんだが?」

「まったくの別物だ」

「そうなのか。同じものでできてるのかと思ってた」


「先ほどから言っているように、幽霊や鬼と言うのは基本的に人間から生み出される『精神』のかたまりによってできたものだ。

 それに対して妖怪や精霊、神と言うのはすべて生命エネルギーによって形作られている。

 勘違いされがちだが精神のかたまりと生命エネルギーは別物だ。

 精神のかたまりが蒸発し、雨となって地面から竜脈へ還れば生命エネルギーに取り込まれることになるのだが、それまでは精神のかたまりと言うのは基本的に人間の性質を遺している。

 竜脈へ還って初めて人間の精神と言うのは世界へ還るのだ」

 違うものだったのか。

正直今まで同じようなもんだと思ってた。

 だって霊視でどっちも見えるし、普通の人は見えない、触れられないっていう特徴も同じなわけだから。


「そしてこれから言うことがかなり重要なことになるのだが、お前の力の本懐はここにあると言ってもいい。お前は竜穴と同じだと言ったな?つまり、お前からあふれ出る生命エネルギーは周囲に影響を及ぼしやすい。お前の触れた妖怪はその力を吸って、かなり強力になるのだ」

「強力に、なる?」

「あぁ。だからこそ七不思議のとき空狐はあの距離をあんなに速く飛ぶことができた。そして、傘の少女は屋上から落ちるとき、お前を川の上空にまで運ぶことができたのだ。お前の力がなければどちらもありえないことだったと言うことになる」

「そう、なのか?」

「お前といるとき妖怪は強くなる。それはパワースポットにいるとき妖怪が強くなるのと同じように、だ」

 確かに思えばぼくが助けた妖怪たちは皆、ぼくが触れたときから少しずつ回復に向かっていったような気がする。

 本当にいつも、危険な状態で見つけていたのだ。

 もうすぐにでも死んでしまいそうな気がするくらい。

けれど、みんな助けることができた。

 それがもし、ぼくの力でできたと言うのなら、この力に感謝しなくちゃな。


「お前の力はまったく役に立たないなんてことはない。むしろ、とても強いものだと言える」

「確かにその通りならぼくは妖怪と一緒にいればかなり役に立てるってことになるな」

「だからこそ、今回お前にしかできない役割があるのだ」

「なるほどね。そっか、確かにお前の話で本当にすべて納得がいくな」

「お前の仮説も面白かったがまだ説明不足な点もあったのでな。この説でほとんど説明はつくがまだ確定かはわからん。しかし、今回の結果次第でわかるだろう」

「ん、わかった。がんばろうぜ、アキラ。犠牲なんて少しも出さないように、全力を尽くそう」

「犠牲者を出しても構わないというやり方は気に食わんのだ」

「何より大切なものだもんな、命って」

「三島の家は甘いと言われるがな。それでも、オレたちは犠牲者のいない理想を追い続けるぞ」

「ぼくもその意見に賛成だよ」

 にっと笑ってこぶしを突き出すと、少しだけ口の端を歪めたアキラがそのこぶしを突いてくれる。

 やってやろうじゃん。

こっちは人数少ないかもしれないが、精鋭ぞろいだからな。

 万能の秀才、アキラ。

 先見の少女、アヤ。

 願いを叶える妖怪、カナタ。

 そして、強化する力を持つ、ぼく。


 まだあと2人の仲間が一緒にいないけれど、信じている。

きっと、彼らはぼくらと共に戦ってくれるだろう。

 いつでも迎え入れるからな、ハナにキリ。

 本当はやさしくてとても良いやつらなんだから。

間違いに気付いて、一緒に歩けるだろう。

 だから、早く追いついて来いよ――

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