第五十三話『変化』
53.
ということでハナと一緒にお風呂だった。
なんだかとてもいけないことをしている気分になる。
驚いてしまったぼくがまじまじと見ていたため結局着替えに少し時間がかかってしまった。
男だと言うのに脱ぐしぐさとかもやたら女の子らしくてヤバい。
自分も脱ぎながら見ていたため時間がかかったし、ハナもぼくが見ていることに照れて色々隠しながら着替えてくれてしまったせいでなおさら時間がかかっていた。
ちなみにアキラは呆れて先に入ってしまっている。
ハナは大事なところは全部しっかり隠した状態で着替えたため、結局性別確認はできていなかった。
いやまぁ、本人も言ってるしアキラも否定しないし、思えば跡取りなんだからそりゃ男である方が納得できる。
だがしかし、考えてもみてくれ。
こんな可憐でかわいい子が男なわけがない!
つーか女子制服着てたら普通に女子だと思うわ、たとえ女顔じゃなくとも。
制服に関してはキリの希望で交換していただけらしい。
体格的には2人はほぼ同じくらいだし不可能ではない。
理由は『ハナにはそちらの方が似合っている』からだそうだ。
似合ってるけどねー。
キリも男子制服似合ってた。
ただ、ハナはともかく、確かにキリは女の子と言われれば納得できる。
細かいいろんなことが思い出されていく。
女の子だと思ってやたらと反応してしまっていた自分が恥ずかしい。
穴があったらもぐりたくなってきた。
度々ドキッとしてしまっていたからな。
男にときめいてしまっていたのか。
正直ショックでへこむ。
身体を洗っているところも少しだけ見てみたがかなり念入りに泡立てて丁寧に身体を洗っていたのでまた確認できなかった。
つーかもう諦めた方がいいのかもしれん。
本人が言っているんだから信じるしかないだろう。
隠しているのは元々の性格を考えてもただの恥ずかしがりやなだけだろうし。
自分の洗髪と身体を洗うのが済んで、ぼくも先に入っていたアキラと共に浴槽に浸かる。
「あ~……、やっぱ温泉はいいなぁー」
「温泉は癒しの効果があるからな」
「だなー。つかやっぱアキラはハナが男だって知ってたんだよな?」
「知っていた。家の情報は伝わってくるしな。しかし、まぁお前が驚くのもわからないでもない。オレも最初は驚いた」
「お前でも驚くのか……」
身体を流さないままに髪の毛をシャンプーし始めていたハナの方を振り返って眺めた。
変な洗い方してるな。
それは置いておいて、やっぱ女の子にしか見えない。
髪の毛は肩下くらいまで伸ばしているし、何より顔や身体つきが思いっきり女の子のそれである。
背中とかうなじもものすごく色っぽいし。
髪を洗うしぐさもなんか昔見たアズと同じようで非常に女の子らしい感じ。
「正直聞いてても信じられねー」
「まぁ性別など些細な問題だ」
「ま、そーだな」
だからと言って友達じゃなくなる、なんてことはないし、ぼくらは仲間だ。
ハナのために何かしてやりたいという気持ちは変わらない。
自信をつけさせてやりたかった。
本家に認めてもらえるような手柄ってやつを見せられるように。
ハナ自身この前の飛び降り事件の時によくわかったが思考速度は速いし意志も結構強い。
あとは自信と経験だと思うのだ。
そのためにぼくが出来ることがあるならなんでもしてやろう。
「ちょ、コウヤさん、見てたんですか!?」
全部流して大事なところは隠して振り返ったハナが驚きで立ち止まる。
いや、さっきから思うんだが胸まで隠さなくてもよくね?
「あー、すまん」
「ボクは男ですっ」
「あぁ、わかったよ」
「よ、欲情されても困ります……」
「してねぇよ!」
「あ、そうなんですか」
「なんで残念そうなんだお前!?」
「魅力ないのかな、って」
ちょっとしょんぼりとしたハナがやたらかわいくてヤバい。
その反応としぐさはずるすぎる!
女の子にしか見えなくなるっつの。
しかし、来た時から思っていたんだが別に客がいないわけではないんだな。
道ではすれ違わなかったが今この温泉にも他の客がいた。
旅館の駐車場にもそれなりに車があったのだ。
さすがにハナは視線を集めている。
こんなかわいい子が男湯に入ってたら反応するわ。
ガン見してる人とかもいた。
ハナは結構恥ずかしそうに身体を隠していてマジで勘違いしそうになる。
湯船に使ってようやくハナは一息吐いた。
「ふぁ~、気持ちい~」
とろんとしたとてもいい表情。
先日の件など微塵も感じないその顔に安心する。
ここで癒されて、今回の調査で成果を上げて自信をつけてくれればいいな。
やっぱハナは笑っててくれたほうがずっといい。
「……コウヤさんは何か将来の夢とか、あります?」
「ん?突然だな。夢、夢なぁ。まぁ、小説家にはなりたいと思っているよ」
いきなり言われてはっきりと言えるほど強い願いではないけどな。
「小説、書いてるんですか?」
「あぁ、まぁまだ趣味のレベルだけどな。だから文芸部にいたんだよ」
「へぇ~、すごいですねぇ。って、あれ?文芸部から移籍したのでは?」
「そうなっちまったけどな」
「神明会の方々は悪い人ではないんですが、結構強引ですからねぇ……」
「だなー。理事長もなんだかんだで結構強引と言えば強引だしな」
「彼らは個人の意志で動いているわけではないからな」
静かだったアキラがそこで口を挟む。
しかし、個人の意志で動いているわけではない、ってどういうことだ?
「神明会と言うのはとてつもなく大きな組織であるが故にそこには大きな意志が存在する。これは誰か個人の意志ではなく総体としての意志だ。それは個人の意志を凌駕して『神明会』としての行動を取らせる」
「あー、使命感とかそんな感じ、か?」
「そういうことだな。もっとも、神明会でもやはり個人差はある。理事長は比較的個人の意志で動いている方だ」
あー、確かにそんな感じはするな。
だからこそ、ランは理事長のことを信用してるわけか。
ただ、神明会はそういう場所だから反対してるのかな。
なんだかんだでやっぱアイツやさしいなぁ。
「そう言えばアキラの三島家は古くから神明会に名を連ねてるって言ってたけど、ハナの天霧家の方はどうなんだ?」
「あ、えっと、天霧家は神明会創設メンバーに入っています」
「え?創設?ってことは最初からいたっつーこと?それってかなりの重役じゃないか?」
「そういうことになるな。天霧家の当主は代々日本の神明会代表になる」
「だからこそ、うちの当主選びは厳しいんです」
その顔にはずいぶんと影がさしてしまっていた。
しまった、禁句だったか。
せっかくの温泉でする話題じゃなかったな。
「そう言えば晩ご飯はなんだろうな」
「ここは確か魚介類の多い夕食だったはずだな」
「魚介って、オイ、ここ山だぞ」
「刺身がウリだった」
「なんでそのメニューにしたんだろうな……」
「さぁな」
山なら山菜メインとかにならないか?
なのに魚介とか。
しかも刺身がウリって。
場違いすぎだろ、常識的に考えて。
「つか、だんだん暑くなってきた」
「温泉だからな」
「もう出るわ……」
「コウヤさん早すぎですよ~」
「お前は身体洗うのが丁寧すぎたから入ってくるまでに五分くらい間があっただろ……」
「何言ってるんですか、温泉は時間単位で入るものですよっ」
「……ほどほどにしとけよ。晩ご飯に間に合わなくなるしみんなを待たせることになる」
「あ、そうですね。またあとで入りに来るときに長風呂することにします」
と言いつつ、今はまだ出なさそうだったのでぼくは先に上がることにした。
てかまた入るつもりなのかよ。
まだ他もあるのに。
そして、脱衣所で着替えているとおかしな人を見た。
なんか、お面を着けているのだ。
狐のお面。
しかも1人ではない。
3人ほどの狐面の男たちが脱衣所で着替えている。
それぞれ違うデザインの狐面だったが。
あまりに怪しすぎだった。
なんだこいつら?
お面着けたまま風呂入るのか?
さすがにそんなことはなかったようで、最後にお面を外して彼らは中へ入っていった。
あれ、普通の人間なんだろうか?
もしかしたら妖怪とかじゃなかろうな。
まだ調査する内容も聞いていないし、ここで何が起きているのかもわからない。
わからないうちに何かが進行していなければいいのだが。
帯を巻こうと思って自分の籠に向き直った。
瞬間、びくりと自分の身体が硬直するのがわかる。
「……オイ」
その原因に目をやった。
「にー♪」
「にー、じゃねぇよ!?ここは男湯の脱衣所だ!お前が入ってきていい場所じゃねー!」
アヤさんがいらっしゃったのでした。
マジでものすごくびびったじゃないか。
なんの気配もなかったのに突然帯を取ろうとした手に手を重ねてきたのだ。
「外で待ってるにー」
「いや、まだ話は終わってないぞ!?っていや、うん、出てろ!外で待ってろ!?」
「……心配しなくてもどこにも行かないから安心していいよ」
えへへ、と笑ったアヤの顔はなんだか儚げに見えて、思わずその腕を捕まえてしまう。
どこかへ行ってしまいそうな、そんな気がしたのだ。
本人はどこにも行かないと言ったのに、変な話だが。
まったく、安心できない笑顔だった。
「こーってば、ダイタン……。みんなが見てるにー?」
「え」
周りを見てみると完全に衆目を浴びていた。
いや、そりゃ当然だわな。
女の子がいるしそれを帯も締めずに捕まえているぼくがいるわけだからな。
誤解ですよ?
そんな変な目で見ないで!?
「男湯の方にまで入ってくんじゃねぇよ。マジでなんかあったらどうすんだよ。ぼくがいたら守るけどいなかったら何があるかわかんねぇぞ」
「心配してくれるに?」
「そりゃな」
ホント何があるかわからないからな。
ぼくが言った通りお団子ヘアにしているアヤはいつも以上にかわいいし。
「一緒に入りたいなら月の湯をあとで予約して入るぞ。だから、男湯には入るなよ」
「え、ホントに入ってくれるの?」
ものすごく驚いていた。
マジで言っていたわけではなかったのか?
いやしかし、入ってくれるの、ってことは入りたいのはマジか。
「別にお前とならいいよ」
「やったー♪こーと一緒に入れるー!」
「そんだけ喜んでくれるなら重畳だわ」
マジでめちゃくちゃうれしそうで始終頬が緩みっぱなしになるアヤを見ていて、なんだかこっちまで幸せな気分になってしまう。
しかし、なんだ。
いいのかなぁ、これで。
アヤの気持ちに気付きながらこういうのってホントはまずいんじゃなかろうか。
ぼくはカナタのことが好き、なのに。
いや、なんなんだろうな。
最近おかしいんだよな。
カナタよりアヤを目で追っている自分がいた。
何かが変わったわけでもないはず。
いや、変わったんだ。
つぼみの件でアヤの気持ちに気付いた。
それが、大きく変わった出来事なんだ。
アレからなんだかおかしい。
ぼくは本当にカナタのことが好きなのか?
なんか、アヤのことの方が好きなような気がしてきていた。
もちろん、恋愛感情の方。
ない、はずだったんだけどなぁ。
けれど、どうしてもアヤのことが頭から離れなくなっている自分がいた。
時間があればアヤのことを考えてしまっている。
カナタを好きになったような劇的な感情ではなく、だんだん積もり積もってきた想いが何もかもを追い抜いたような、そんな感覚。
ぼくは、アヤのことが好きなのかもしれない――




