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これが君とぼくの日常  作者: 霧間ななき
第四章 『繋ぐ、手のひら』

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第五十二話『勘違い』

52.

 山間の大きな空間にかなり広い温泉街が広がっていた。

高い建物こそないが豪華で美しい街並み。

 どこかタイムスリップでもしてしまったかのような古きよき日本の城下町といった感じだった。

 そして頭上に掲げられた『ようこそ、穂結温泉村へ』という横断幕。


「途中もしかしたら温泉とかないんじゃないかと思ってしまったが申し訳なかったな」

「オレもまさかこれほどまでに立派なものだとは思っていなかった」

「ふわぁ~、すっごいですねっ」

 ハナが目を輝かせながらバスから降りてきた。

続いてキリ、最後にアヤが降りて、全員がそろう。

 カナタは眠そうにぼくの服のすそをつまんでいた。



「ようこそおいでくださいました、PDCの皆様。穂結温泉協会会長の山杜 睦月でございます」

 会長と名乗る彼は初老の男性だった。

 白髪は結構薄くなっていてかなり後退した額をさらしたまま後ろの方だけを隠している。

出迎えに来てくれたということだろうか。

神明会の関係者だから?


「あ、ご丁寧にどうも。この度はPDCの修学旅行先として快く受け入れてくださったことを感謝しております。ありがとうございます。どうぞよろしくお願いします」

 アキラは向かないだろうなと思って前に出て挨拶をする。

そしてみんなと共に頭を下げた。


「おや、なかなか丁寧なご挨拶をいただけましたな。少し話と違うようで驚きましたよ」

「あー、厚顔不遜はアキラの名刺みたいなもんになってるんですかね……」

 苦笑いせざるをえない。

アキラは特に動じることもなく、と言うかこちらに興味がなさそうで森の方を見ていた。

 んー、あの感じだとあっちになんかありそうだな。

あとで確認しておくか。


「はっはっは、三島の次期当主殿のお話はよく聞いておりますからな。実力は折り紙付だが対人能力は皆無、とね」

 なんか微妙にトゲのある言い方だな。

まぁアキラの態度は正直問題があると思うから仕方がないとは思うが。

 ただ、それで過小評価を受けたりバカにされたりするのはあまりにもったいない。


「君はどなたなのかな?天霧さんかい?いや、それにしては堂々としているな。あそこは意志薄弱な子だったはず。ふむ、それでは君が正体不明の謎の力を持つ少年か」

 ぼくらをバカにしに来たのかこいつ。

さすがに苛立ち始めた。

アキラとハナをバカにしやがって。

 ぴくりと身体が動いた瞬間、アヤの手がぼくの手を握り締めてくる。

 あー、くそ、さすが幼なじみ様だよ。

気付きやがったな。


「ぼくは秋月 紅夜です。神明会とも関係ない一般人ですよ」

「しかし君はPDCメンバーなのだろう?」

「そうです」

「ならばそれだけで十分な力を認められているということさ。家の力なくして個人のみで力を持つ化け物たちは恐れるべき相手だ」

「話は以上か」

 アキラの手がぼくの肩にかかっていた。

ん?今別にぼくは動こうとしていないのだが、と思ったらぼくの肩にかなりの力が込められる。

少し痛いほどだった。

 あー、これはアキラが苛立っているのか。

 そっか、ぼくがバカにされて怒ってくれるんだな、お前。

少しだけうれしくなった。


「えぇ、もちろんですとも。

構いませんよ、どうぞお楽しみください。

 ここ穂結温泉はどんなお客様でも分け隔てなく受け入れさせていただきますので。

たとえそこにいる化け物や臆病者の神使いでも、学者殿でもお間抜け超能力者も、そしてもちろん、天才的能力を持ちながらもその実あまり目立った才能のない凡人次期当主殿でもお楽しみいただいて結構でございますとも」

「オイ!!」

「コウヤ、聞く必要はない。ありがたく楽しませていただく所存だ。失礼する」

 ブチ切れかけたぼくの肩をつかんだままアキラはきびすを返して、今日泊まる旅館の方へ歩み出す。

 他のメンバーもそんなぼくらについてきた。


 苛立ちが隠せないままに山杜と言う男をにらみつける。

やつはこちらを見ながらいやらしくにやにやと笑っていた。

 そして、近くにやってきた男に何やらささやいている。

男のほうもにやりと笑って、こちらを見た。

 なんだかとても不快な気分になる。


「クソ、なんだよアレ!」

 もう聞こえないくらい離れた辺りで悪態がこぼれた。

「神明会関係者を全員が全員快く思っているわけではない。神明会に入会できなかったもの、営業を神明会に介入されているもの、神秘を解明すると言うことを許せない保守派のものなどは神明会を嫌っているのだ」

「アイツとは知り合いなのか?」

「いや、初対面だ」

「初対面でアレかよ、クソッタレ!」

「コウヤさん、仕方がないんです。どうしようもないことって、あるんですよ」

「こいつの言う通りだ」

 チクショウ、神明会とかそういう、でかい枠組みってやっぱ嫌だな。

思い通りにならなくて苛立つ。

 よく知りもしないであんなふざけたことを言いやがって。


「こー、せっかく温泉に来たんだから楽しまなきゃ損だにー?」

「なんか気分じゃないんだが……」

 あんなやつが治めてる温泉とかなんか、嫌な感じがする。

「仕方ないにー。こー、一緒に入ったげるから早く温泉いくにー」

「オイ引っ張んな!?一緒に入るってなんだよ!?入らねぇぞ!?」

「今日泊まる旅館混浴あるに!」

「え、マジで入るつもりなのかお前!?」

「マジに決まってるに!こーにアヤちんのあでやかな裸体を見せてあげるに!」

「……あで、やか?」

 じっとアヤの身体を上から下まで見る。

 腰のくびれは綺麗だがいかんせんボリュームがない。

すらりとスマートで小さめ、かわいいとは思うが、あでやかではねぇよなぁ。


「こー、失礼」

「いやいや、別にお前が魅力的じゃないとか言ってるわけじゃないんだぞ。お前にはお前のよさがある。しかし、あでやかではないな」

「大人な女性を目指してるに!」

「無理だろ」

「無理だろう」

「無理だね」

「無理、だと思います……」

「全員に否定された!?かなちゃんまで首振らないで!?」

「どんまい」

「そんな慰めモードで言わないで!?むしろ惨めだよ!?」

「さてそれじゃ、さっさと旅館行って温泉で身体休めっかー」

 空気を軽くするために言ってくれたのであろうアヤに感謝の意味を込めて手を握ったまま旅館まで歩いていく。

 ハナも今ので温泉への楽しみな気持ちを思い出したようで少しはしゃぎ始めていた。

アキラも穏やかな顔になり、いい空気のまま旅館へ入る。



 旅館の方は特に悪感情を持っているわけではないようで、普通におもてなししてくれた。

温泉のパスももらえたが今日は使うことはないだろう。

 何せこの旅館だけで四つの温泉があるようなのだ。

 ヒノキ風呂の『木の湯』、森林を望みながら楽しめる『石の湯』、貸切混浴露天風呂『月の湯』、そして大浴場の四つ。

泉質はそれぞれ違うらしいがその辺説明されたものの、いまいちわからなかった。

 まぁなんにしろ身体にいいのだろうから気にしない。


 ちなみに部屋は全員で一部屋だった。

私立なのにやたらケチった旅行じゃね?

と思わないでもなかったがまぁ、別々の部屋で一緒に遊べないよかいいか。

 男子勢だけで一つの部屋にいても話が弾む、なんてことにはならなさそうだしなぁ。

さっきも雑談してたわけだから話はできるだろうが。

わいわい話すタイプじゃないもんなぁ、2人とも。


「どどーん!アヤちんの浴衣姿、どうよ!」

「おー、めっちゃ似あってんなー」

 和服は胸がないほうが似合うって言うしな。

「こー、今なんか失礼なこと考えた」

「そんなことねぇよ」

 いや、気付きすぎだよお前。

しかし、似合うと思ったのは事実である。

銀髪だとどうかなと思ったがアヤは普通にかわいいタイプなのでこういう浴衣は非常に似合っていた。


「髪上げてみないか?」

「え?アヤちんが?」

「あぁ、その方がいい」

「んー、こーがそう言うなら上げてみる」

 そして手際よくお団子ヘアーになったアヤ。


「ブラボー!マジでかわいい!めっちゃ似合ってる!」

「こ、こー、なんかテンション高い」

「お前今度からずっとそれにしとけよ。すげーかわいいぞ」

「え?」

 何故かものすごく真っ赤な顔できょとんとしているアヤ。

驚きすぎじゃないか?


「こー、今アヤちんのことかわいいって言った?」

「ん?あぁ、言ったが。アヤはかわいいだろ、普段から。だが今のアヤは最高にかわいいぞ」

「ふにゃぁ~」

 アヤはふしゅるるるる、と空気が抜けた風船のようにへたれてしまった。

顔は真っ赤なままである。

あれ?普段からそんなに言ってなかったっけ?


「「「女ったらし」」」

 お約束来ちゃったよ!?なんでさ!

「いや待てよお前ら!このアヤを見てどう思う!?」

 全員の視線がアヤに移り、ぐっと親指を立てた。

いやはやこいつら全員、マジでノリのいいやつらである。

 それを見たアヤが顔を隠してうなり始めたのはここだけの秘密だ。

照れすぎ。


 まぁ、普段からあんまり褒められ慣れてないアヤだからな。

勉強は授業をあまり真面目に受けていないため褒められることはないし、運動神経は正直悪い。

 見た目はかわいいけど普段からずっと寝ているためぼくら以外とは絡まないアヤ。

ぼくらは普段からあまり互いを褒めたりとかしないタイプだからな。

 アキラは別だが。

ちょいあまりにも普段からからかいすぎたか。

 今度からたまには褒めてやろう。

かわいいのはマジだしな。




 アヤ以外は制服のまま浴衣を持って温泉へ向かう。

そう言えばこの辺パワースポットではないんだろうか?

 どうも女将さんとかの反応を見るにカナタは見えていなさそうなんだが。

 まぁ、普段から家でもお風呂入ってるし温泉も入れるよな、たぶん。

とりあえずアヤにカナタのことを頼んでおいてある。


 さすがにいきなり混浴はありえんと言うか、他のメンバーが嫌だろうから入るとしてもアヤと2人にしておいた方がいいだろうと判断して現在木の湯に向かっていた。

 温泉とか久々だなぁ。

中学くらいに旅行で行って以来かな。

確かまだつぼみを使っていた頃だから中学二年より前か。

 もう三年以上は家以外の風呂に入ってないんだな。

まぁ、それが普通か。

そうそう旅行なんていけないもんだ。

 たくさんの温泉に入れるなんてなかなかない経験だし、せっかくの修学旅行だ。

目いっぱい楽しんでやろうじゃないか。



 そして木の湯の前にたどり着いた。

「うし、んじゃアヤ、カナタのこと頼むぞ」

「了解したにー」

「じゃ、出たら待合室で待ってるっつーことで」

 ではいざ、温泉へ!


「……って、あれ?」

「どうかしました?」

「なんだ?」

 男子風呂の脱衣室に入ってきたのは3人。

いや、そりゃそうですよね。

 それは間違いありません。

 ですが、ちょっとよく見てみよう。

 ぱちくり。

 目の錯覚だろうか。

目をこすってもう一度見る。

 勘違い?いや、そんなわけがない。


「――何故、ハナがこちらに来ている!?」


 そう、何故かこちらにハナがいて、向こうにキリが入っていったのだ。

え?どういうこと?

「あれ?言ってませんでしたっけ?ボク、男ですよ?」

 な、なんだって――!?

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