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これが君とぼくの日常  作者: 霧間ななき
第四章 『繋ぐ、手のひら』
43/61

第四十三話『気がかり』

43.

「そういやさ、今朝変な夢見たんだが」

「記憶の整理だ。意味などない」

 一蹴かよ。

てかアヤに聞こうと思ったのに思いっきりアキラに切り捨てられた。

 久々だったし結構ぐさりと来たんだが。


 部活の時間になっていた。

他の班は行き先などを話し合ったりしていたのだがうちらはもう行き先決まっていたわけで、あんまり話し合うこともなく雑談して終わる。

 向こうについてはマジでアキラが調べてきてくれるらしい。

ぼくの記憶に間違いはなかったらしく、温泉はパワースポットの可能性が高いためもしかしたら神社などの多い土地である可能性があるとか。

 その場合いろいろと教えてやろう、なんてアキラが珍しく笑っていた。


 心霊や神仏、妖怪怪異に魑魅魍魎、精霊に超能力、なんでもござれなアキラの専攻はとりあえず日本の八百万の神信仰と言うことになるらしい。

 その副産物と言うか、研究途中で絡んでくるのがその他の様々な知識と言うことだった。

超能力や霊体についての論文で博士号を取ったらしいのだが、本筋じゃないとこですらその実力ってこいつホント凄まじいな。


 ただ、ちょっとわかってきたのはアキラは『天才』ではなさそうであるということ。

 いや、天才をどう定義するかにもよるんだがぼくの中のイメージでは天才と言うのは生まれつきずば抜けた才能を持ったもの、だ。

 アキラは確かに頭がいい。

 けれど、アキラのそれは生まれつきと言うよりは努力によってすべて身につけたもののように思う。

 確かに凡人には無理だろう。

 あそこまでの努力なんて誰ができるだろうか。


 事件が終結して一晩ののち、こいつは必ずすべての真実にたどり着く。

事件終結時はわかっていないことが多い。

 そのためアキラは裏づけを取りながらしっかりとまとめてぼくらにもわかりやすく説明してくれる。

 その必要は実際、ないのだろう。

アキラにとってぼくらはどうでもいい存在のはずだ。

 神明会に入るための実力を示す場所に共にいるだけ。

 ライバルとも言えないような実力のものたちばかりだ。

いや、キリは匹敵する程度の頭脳は持っているか。


 説明の義務はないのにあぁやって毎度まとめ会議をするのは自分のまとめた事件概要がどの程度理解されるのかを知りたい、からだと思う。

 自分の現在の能力を試す、そういった意味があるのだろう。

本当に完璧主義で、秀才タイプ。

 人に知られぬように厚顔不遜な態度の裏で多大な努力をし続ける。

 そんなアキラはぼくから見たら『天才』と言うよりは『秀才』だ。

まぁ、本人には言わない、と言うか言えないけどなぁ。


「あーたん、それは一概に否定できないにー」

「アヤは特殊だろう」

「こーが受信できないとは限らないに」

「んー、ちょっと待ってくれ、前から聞きたかったんだけどさ。アヤの能力って結局なんなんだ?」

「何?知らなかったのか?」

「あー、こーには軽くしか説明してないにー。あれでほとんど説明はつくんだけど、意味はわからないだろうにー」

「千里眼とか先見とかそんな便利な力ではないとか言ってたっけ。あと断片的に見える?」

「そ。理事長たちはなんやかんやと名前をつけたがるからあんなにたくさんの名前を上げられたけどに。実際アヤちんにできるのは一個だけなんだに」

「は?一個だけ?」

 霊視だけってことになっちゃうんじゃねぇのそれ?

霊視ってそんなに多用性のある力じゃなさそうだしなぁ。

どういうことだ?



「説明すると結構わかりにくくなっちゃうからあんまり説明したくないけど、こーのためだからしょうがないにー。

 アヤちん説明キャラじゃないから言葉が下手なのは承知しておいてね。

 この世界っていうのは心霊現象とか妖怪とかが一般の人たちには知られずに存在しているのはこーも知ってるに?

 それらの元になっているのってすべて、生命の源であるエネルギーのかたまりみたいなものにー。

そのエネルギーが地下を通って世界中をめぐりめぐって循環して世界は成り立ってるに。


 それを竜脈とか地脈って言うに。

その考え方そのものは日本だけではなく別の国でも結構浸透している事実に。

 ただ、ほとんどの人が知らないことなんだけどに。

いや、ほとんどって言うと言いすぎかな。

 知ってる人なんてアヤちんを合わせてこの世界で3人くらいしかいないんだけどに。

もちろん人間では、って意味だけど。


 世界には意志が存在している。


 正確に言えばその生命エネルギーの集合体、竜脈そのものがってことなんだけどに。

彼はものを考え、ものを感じ、ものに触れながら、生きている。

 信じられないかもしれないけど、今だってちゃんとそこにいるよ。

どこにだっているに。

 全部見ているし、全部聞いているの。


 けどに、世界にとってアヤちんたちの世界は広すぎていろいろありすぎて、全部見てるけど全部は認識できていないに。

 だから彼は自分が興味のあるものだけ特に見ている。

 そして、時々叫び声を上げて悲しんだり、怒ったり、笑ったりしてるんだよ。

 まるで1人の人間みたいに生きている、人みたいにそうやって暮らしてる。


 そんな世界が感情を高ぶらせる出来事が起きると上げる叫び声。

それをアヤちんは受信できるに。

 アヤちんができるのはそれだけ。

たったそれだけなんだに。


 その叫び声には文字と映像のイメージが一緒に乗ってくるに。

そこからいろいろと想像できる、って言うだけで解釈によってずいぶん変わっちゃうし合ってるかどうかもわからないんだに。

 あぁ、あと時間がバラバラなのはたぶん普通の人ではあんまり理解できないと思うけどに。

 世界って言うのはまず人間の常識に当てはめちゃダメなの。

科学も理論も通じない相手なんだに。


 彼は『時間に囚われない』存在なんだよ。

人間にとって時間って一方通行だよに?

けど、世界にとって時間は縦横無尽、どこからどう繋がってるのかも関係ない。

 興味のあるところを手当たり次第テキトーに見てるだけなんだに。


 だから、アヤちんが見るのも当然時間なんかまちまちなものばっかり。

何千年前とか何百年前、何十年先、何万年先。

 そんなの見えてもわけがわからないだけなんだに。

 自分で見ようとしているわけでもないし、勝手に見えるだけだからに。

 だからアヤちんには『受信機しかついてない』状態なんだに。

世界とお話しすることもできず、一方的に聞こえるだけ。

 その形はいろいろ合って、白昼夢のようだったり、声と映像が流れ込んできたり、夢で見たり。

ランダムに見えてくるだけでぜんぜん便利な力なんかじゃないに。


 まぁ、その代わりアヤちんは元々なかったはずの霊視みたいな力を持っちゃったんだけどに。

けどこれは霊視じゃなくて、受信機を持ってるから世界の影響を受けて見えてるだけなんだに」

 だから、こーの夢がどんな夢かわからないけど、アヤちんと同じ力なのかもしれないに、なんて言われたけれど、正直ぜんぜん違うと思う。

 そうか、アヤはそんな不可思議な力だったのか。



 しかし世界が意志を持っているってのはかなり驚きの事実だな。

ただ、アヤ自身には間違いなく未来も知れる力があるのは間違いないわけだ。

 これまでアヤの見たものをいろいろと聞かせてもらっていたし、的中経験も結構ある。

だから、疑うこともなくなるほど、と受け入れられた。

 その話なら確かに納得も行くし。

 しかしやっぱ霊視って本当に希少価値の高い力なんだな。

3億人に1人か。

 アキラもアヤも違うのならここにいるメンバーで霊視ができるのはぼくとキリとハナだけと言うことになるんだな。


 あー、でも、そういえばアズも見えてるんだよなぁ。

家系的なものもやっぱり大いにあるみたいだ。

 そういえばうちの両親も見えてたはずだし。

妖怪は知らなかったみたいで初めて拾ったときはさすがに驚かれたが。

 まぁ、あの夢はただのぼくの記憶の整理中に生まれたただの夢なんだろう。

 昔からよく変な夢は見ていたが文字と映像の断片なんかじゃなく、結構リアルに質感とかも感じられる感じだったし。

 その場にいるように感じられる夢。

 そういう夢を見るタイプ、なんだろうな。


 しかし、一つだけ。

あの夢を見てから胸に引っかかっている何かがあった。

 あの時寝転がっていたぼくの視点、たぶん島谷のものだったと思う。

島谷が見つかった位置もあそこだった。

 しかし、違和感があるのだ。

島谷のことを思い出すと出てくる違和感。


 その正体は未だにつかめずに、なんだか気持ち悪い。

あの事件、まだ何かぼくは忘れていることがないだろうか?

 まだ、何か解決できていない疑問点が残っているような、そんな違和感が抜けないまま。

 ぼくはまだいろんなことに気付かないまま、知らないうちにどんどん事態は進行していた。

 もしこのときに気付いていれば、あんな結果にはならなかったのかもしれない。

あれはどうしようもないものだったとしても、もっとましな結末を選べたんじゃないだろうか。

 けれど、もしなんて、あとから思うだけで、結局なんの意味もない。

ぼくはこのとき、残っている疑問に対する深刻さなんて、少しも感じていなくて。

 それが今になって、悔やまれる。


 そのまま、まぁいいか、なんて雑談に戻って、日常へ回帰していく思考。

 それを今更後悔したって、もう、遅いのだ――

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