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これが君とぼくの日常  作者: 霧間ななき
第四章 『繋ぐ、手のひら』
41/61

第四十一話『好きって、なんだろう』

41.

 大きな衝撃。

一瞬だけ宙へ放り出されて、次の瞬間には地面にまっさかさま。

 電車の中は大混乱になり、1人の車掌の方へ乗客が向かっていく。

窓の外はもくもくと砂煙が巻き起こり、よく見えない。

 そして、血のにおいがひどかった。

車掌が歩いていくたびにそのにおいはひどくなる。

 吐き気を催すような血飛沫とにおいの中、ただ1人、叫ぶように笑う男がいた。

車掌はとても楽しそうに笑う、笑う。

 遺体すらも蹴飛ばしながら、空気を歪めて、光を散らし。

 その顔にはとても見覚えがあって――



――ばふん

「んむぅ、わかった、起きるから」

 どうせ早く作ったって七時まで起きたりしないくせにおなかが空くと眠ったまま空中から枕を落としてくるランだった。

 まったく、この居候めが。

いつも起きる時間より結構早かった。

 気まぐれか?まぁ別にいいんだけどな。

 弁当に入れる品を一つ手の凝ったものにできる程度だ。


「おはよ」

 ぱたぱたと手だけで返してくるランを恨めしくにらみつけながら部屋を出る。

寝ぼけてんだかわざとなんだか未だにわからない。

 まぁ、どっちにしろ勘弁願いたいところではあるが。

 しかし、今朝の夢はなんだ?

またえらく鮮明だったのだが、どう見てもあの顔は西島だったな。

 だとするとアレは横転した電車の中か?


 オイオイ、待ってくれよ。

なんでそんなもんぼくが見ることができるんだよ?

想像か?

 いや、想像にしてはあまりにリアルすぎる。

でも、だとしたら何故?

 わけがわからない。

あー、そう言えば七不思議のときの階段の上に行くまでの夢も見てたな。

 未来予知?

いや今のは過去だし。


 んー、よくわからないな。

ちょっとアヤに聞いてみようか。

 アヤならそういう夢とかもわかるかもしれない。

何せアレだけいろんな能力持っているわけだし。





 教室に着くとアヤが机に突っ伏して寝ていた。

なんと言うか、いつも通りの朝。

 ハルがいなくなってからはいつもこんなだ。

 誰もいない教室で2人。


 カナタは学校の探索にいそしんでいるためここにはいない。

まぁ、結構敷地が広いから楽しいのかも。

楽しんでくれてればいいんだけどな。

 アヤの銀髪を撫でる。

 さらさらでふわふわやわらかい。

結構長さはあるのに重みは感じなかった。


 アルビノだから生まれつきの銀髪。

そういや、これが理由でぼくらは仲良くなったんだっけか。

 もう、昔の話だ。

 空を見上げると曇天模様が広がっている。

 なんだか、つぼみを見かけたのがもうずいぶん前に思えてしまっていた。

 ずっと、一緒にいたような気すらしている。

もっとずっと一緒にいたかった。

 けれど、とても濃い時間を少しでも過ごせただけきっと、とても幸せな時間だったのだろう。


 本来ならありえない出逢いだったんだ。

もう、帰ってこなくて当然だったはずの大切なものだった。

 ぼくはとても運がよくてつぼみと話ができたのだ。

それだけでもう、十分だろう。



 と言うか、今まで真面目に考えたことがなかったんだがアヤって、やたらとぼくのことを好きだとか言うけど、マジなのか?

 今回の件を思うと本気に思えるが。

 しかし、ぼくはアヤのこと、どう思ってんだろうな。

 んー、友達、親友くらいだとは思う。

友達以上なのは間違いない。

 アヤがピンチだったらなりふり構わず助けに行くだろう。


 けど、だからって恋愛対象かと問うて見ると疑問が浮かぶ。

なんか、違うのだ。

 確かにものすごく大切だった。アズに並ぶくらいに大切。

つまり、家族みたいなもん、ってくらいか。

 なんかアヤ自身もぼくのこと家族くらいに思っていそうだが。


 いつまでも、このままでいられるだろうか。

この心地よい距離で、いつまでいられるんだろうか。

 いつまで、許されるだろうか。

アヤを失いたくはない。

それはたぶん、他の友達とかとは一線を画している気持ちだった。


 もし、アキラやハナ、キリたちとアヤ、どちらかを選ばなければならないような状況だったらたぶん、ほとんど間違いなくぼくはアヤを助けるんだろうな。

 まぁ、その質問自体がばかばかしいし、比べるものじゃない。

選びたくもない。

 けれど、もし、なってしまったら。

アヤを選ぶんだろうな、ぼくは。


 バカだなぁ。

ぼくは本当に、愚かだ。

 こんなことを考えていること自体が愚かなこと極まりない。

 そんなこと、考えても詮ないことだった。

けれど、アヤはぼくにとってそれくらい大切なのは間違いないんだけどな。

 一番長く過ごしていたからそうなるのは当然、と思われるかもしれない。

けれど、時間とかそういう問題じゃなく。


 ぼくはアヤのことが好きなんだろうな。

 それは恋愛感情とかではなく、人として。

ナツとかには夫婦漫才とか揶揄されるけど。アヤとの2人の会話がぼくにとって一番楽しくて、心地いい。

 だからたぶん、アヤ自身にはあぁ言ったけれど、結婚するとしたらアヤが一番いいんだろうなぁ。

 とは思うのだけど。

それは、打算的だろうか。

 当然だ。

ずるいよなぁ、ぼくって。


「んむむ、コウヤはアヤのものだから渡さないー」

「いつからぼくはお前のものになった」

「え?」

 目覚めたようだった。

寝言だったのかよ、今の。

 そしてアヤはぼくの顔を見てぼくの手を見る。


 瞬間、ボン、と一気に顔が真っ赤に染まった。

 アヤは色白なので、いやアルビノだから当然だが、頬を染めるとめちゃくちゃわかりやすい。

本当に一気に真っ赤に染まるのだ。

マジで面白いくらいの勢いで。


「な、なんか変なこと言った?」

「いや、お前はいつもそうだろ」

「そうだったっけ?うーん、そうだったかもしれないね」

「にーにー忘れてるぞ」

「ふ、大丈夫なんだに。アヤちんくらい濃いキャラだと語尾がなくなったくらいで誰だかわからなくなったりしないに!だからにーにー語は必要ないに!」

「思いっきり使ってんじゃねぇかよ!?」

「いや、これ癖だからついついつけちゃうんだに。だからわざとじゃないにー?」

「いつもそこまで頻繁ににーにー言ってたか!?もっと少ないだろ!」

「気になる人は第1話から見直してみるといいに」

「第1話ってなんだよ!?ぼくらはアニメの中のキャラクターだったのか!?」

「アヤちんの声優は誰かにー?」

「キャライメージ的にはロリ系だし、のんびりキャラって言うと……、ってそうじゃねぇよ!声優なんかいねぇよ!ぼくらの世界は現実だ!」

「実はこーがそう思ってるだけでこの世界はアニメの世界だったに!」

「な、なんだってー!?」

「ほら、よく考えてみるに。現実問題妖怪とか幽霊とか怪異とかありえないに?」

「た、確かに否定はできないな」

「そにそに。そして何より実際アルビノで銀髪美少女なんてありえないに!」

「自分を否定しやがったー!?いやいや、目の前にいらっしゃいますよ!?これ現実!」

「残念ながらこれはただ染髪料で染めただけに」

「え、マジで!?そんなに綺麗な色出んの!?」

「特殊な薬なんだに。毛先までキューティクル痛まず綺麗なままふわふわヘアスタイル!」

「そんな理想の染髪料、あるわけが……」

「それが実は今日持ってきているんだに!」

「なんと!?」

「ふっふっふ、普段はなかなか日本では手に入らない品ゆえに品薄でかなりお高い染髪料なんだけどに」

「普通の染髪料に見えるんだが……。てかそれ黒髪染めじゃね?」

「パッケージは一般的なパッケージなんだに。けどこれは偽装で中には素敵なお薬があるに!」

「なんか危ない薬みたいでこえぇよ……。なんで偽装してんだよ……」

「これをこーに特別譲ってあげてもいいに」

「マジで!?ちょっとイメチェンしてみたいと思ってたんだ!ありがとう、アヤ!」

「礼は言わなくていいに」

「太っ腹だな!お前もしかして、すごくいい奴だったのか!」

「今更気付いたに?まだまだこーは甘いに」

「あぁ、そうだな。認識を改めざるをえないぜ!」

「うにうに。で、値段なんだけどに」

「金とんのかよ!?感心して損した!」

「普段輸入物だから300万円するところを今回、こーだけに特別大負けに負けて、6万円で譲ってあげるに!」

「いや待てよ!染髪料がそんなに高いわけないだろ!?」

「材料が材料なんだに。今回を逃すとこんなに安く手に入らないかもしれないに。どうするに?」

「まぁ、300万が6万ならかなり安いしな……。よし、買ってやろうじゃないか!」

「嘘なんだけどに。それ普通の黒髪染めだし」

「一気に落差大きすぎんだよ!?ここまで盛大に振っておいてオチはそれかよ!?」

「ごっめーん、てへぺろ♪」

「てへぺろって、オイお前がやるとマジでかわいいからやめろ!?」

「こー、それツッコミになってない」

 うん、ぼくもそう思う。

さっきアヤのこと考えてたせいか、テンションがおかしかった。

 意識しちゃってんのかな。


「てか実際それって現実であると言う証明にしかなってねぇよ」

「当然に。こーは何言ってるんだに?」

「お前が言い始めたんだろ!?てかいい加減に元の口調に戻れよ。さすがににが多すぎてうざったいぞ」

「こーにうざったいとか言われた、アヤちん悲しい、よよよ……」

「あーはいはい、悪かったよ、アヤちんかーわいっ」

「棒読みすぎてむしろ悲しいにー……」

 あー、やっぱアヤと話すのが一番気楽でいいなぁ。

遠慮いらないし、アヤも思いっきり自由に話してくれている。

 落ち込んだふりが大げさすぎて面白かったのでアヤの頭をぐりぐりと撫でてやるとうにんうにんしていた。

 うーむ、贔屓目に見なくとも実際アヤってすごくかわいいんだがな。

恋愛対象になってないのは何故なんだろうか?

 自分でもいまいちその辺わからないままだった。


「久々の夫婦漫才、と思ったらちょっとらぶらぶ過ぎて入れなかったじゃん」

「おぅ、ナツ。おはよ」

「おぁにー」

「無事に帰ってきてくれてよかったよー」

 まぁ、前回の反省と言うことで今回もナツに事件の報告とかしていた。


「元気そうでよかったよ。メールで見てた感じだともっと2人とも落ち込んでると思ってたし」

「なんつーかさ、だからこそ、笑ってようと思ってな」

「そっか。ま、コウヤならイケル!ガンバ。応援してるよ、あたしもハルも」

「ん、サンキュ」

「さって、2人の距離感がなんか変わった気がするしー、その辺詳しく聞かせろー?」

「ふっふっふ、ナツ、お前学習能力ないな」

「何さー、からかわれるのが嫌だから逃げる気ー?でもどうせアヤちんは素直に話してくれるからいいもんねーだ!」

「時計見れ」

「はっ!」

 始業ベルまで秒読み。

と言うか、ナツが時計を見た瞬間に鳴り出した。


「ちっくしょー、覚えてろーっ!?」

「はいはい、それ以外の話だったらいつでもしてやんよー」

 けらけら笑ってやるとナツは悔しそうに自分の席に戻っていく。

「凝りねぇなぁ、アイツ」

「それがなっちゃんのいいとこでもあるにー」

「楽しいけどな」

「そだにー」

 クスクスとアヤが笑って、ぼくの頬に手を当てた。

 なんだ?そう思ってアヤを見ると、アヤはぼくの方をまっすぐ見つめている。


 その視線から目をそらせなくなって、言葉も詰まった。

見詰め合ったまま、アヤは笑う。

 ぼくはただ戸惑うばかり。

 なんだ?何を伝えたいんだ?


「ど――」

 うしたんだ、と言う言葉は教室に入ってきた大山先生の始業合図でさえぎられる。

アヤはそのまま手を離して起立の合図で立ち上がった。

 ぼくは戸惑いが抜けきらず、少し遅れて立ち上がる。

 そのまま、ホームルームに入ってしまってたずねることができないまま、その時感じた感情は日常に埋没していった。

 ホームルームで決まった、とあることに驚いて、それどころではなくなってしまったのだ――

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