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これが君とぼくの日常  作者: 霧間ななき
第三章 『大切な、もの』
37/61

第三十七話『予感』

37.

 日が変わって六月十日。

詳しいことは学校で話すとのことで本日、いつも通り学校に登校したが教室には行かずに特別教室に直接向かう。

 つぼみとカナタも一緒に来ていた。

つぼみは待っていてもいいと言ったのだが頑として聞かず、結局一緒に登校したのだ。


 そして当然。

『認証、反応3個体、承認できません』

 そろそろ割愛しようかー。



「おはよー。みんな早いな」

「おはよー」

 つぼみとぼくが声を合わせて中に入る。

「おはよう」

「お、おはようございます!」

「おぁにー」

 相変わらずにーにー娘は眠そうだった。

しかし、こいついつも何時に来てるんだ?

一緒に来たことがないんだが。

 ちなみにアキラは挨拶がないだけでちゃんとそこにいた。

 いや、手を上げてはいたか。


「では全員そろったところで昨日の進展と事件の進行についてまとめながら説明していく」

 アキラがホワイトボードに文字を書き始める。


 六月二日、最初の飛び降り発生。

四階のオフィスで働く25歳男性。勤務中に屋上から飛び降り。

時間は午後十時。当時勤務中の社員は4名。

 六月四日、二番目の飛び降り発生。

六階のオフィスで働く32歳女性。同じく勤務中に屋上から飛び降り。

時間は午後十時半。当時勤務中の社員は5名。

 六月五日、三番目の飛び降り発生。

五階のオフィスで働く28歳女性。同じく勤務中に屋上から飛び降り。

時間は午後九時半。当時勤務中の社員は8名。


 ここまでは偶発的なものだと判断されていた。

神明会に建築物に異常はないかどうかの調査依頼が来ており、専門の学者が調査にあたるがいたって一般的な建築物であると判断される。


 六月六日、四番目の飛び降り発生。

七階のオフィスで働く29歳男性。同じく勤務中に屋上から飛び降り。

時間は午後十一時。当時勤務中の社員は5名。


 事件性がある可能性が高いとして警察の調査本格化。

神明会に心霊現象の可能性が高いとして調査依頼。

屋上は施錠によって封鎖状態となる。


 翌七日に五番目の飛び降りが発生。

鍵を所持していたらしく開錠されて飛び降りたと見られる。

 遺体から鍵が見つかった。

五階に勤務中だった38歳男性。時間は午後十時半。当時勤務中だったのは6名。


 これまでの被害者は全員南側窓際の席。

警察は屋上で調査と共に張り込み、見回りを行うことで事件の情報を捜査し始める。


 しかし翌八日、六番目の飛び降りが発生。

八階に勤務中だった32歳男性が南窓のある喫煙室にて喫煙中に突然叫び声を上げて窓から逃げ出すように飛び降りる。

声に気付いた社員が止めに入ったときにはすでに飛び降りたあとだった。

当時勤務中の社員はオーナーと専務を含め6名。


 全件当時勤務中だった他の社員は全員アリバイあり。

屋上も八階の喫煙室も争った形跡はなく、自分から飛び降りたことは確実。

そしてすべて落下位置がほとんど一致する。



「ここで我々PDCに任が降りた、と言うところまではすでに資料でわかっているな?」

 なんか、デジャヴを感じる。

前にもこんなことがあったか?

いやまぁ、いつもこんな感じか。


「そして昨日次の飛び降りが発生してしまった。ビルのオーナーが八階から飛び降りたのだ」

「それ、マジなのか?あんなに自信満々で真実にたどり着くとか言ってたのに?」

「むしろたどり着いたからこそ、なのかもしれんな」

 自殺なんてまったくしそうになかった、あの人が?

アキラと少しだけ似た空気と態度のあの天野というオーナーが?

 とても恐ろしい事件に思えてきた。


 それこそ次の犠牲者はアキラになるのではないかと言う、危惧すら浮かんでくるほどに。

 オーナーは自分の部屋の中で1人で仕事か調査か、なんらかの作業をしていた。

お茶を持って行った専務の証言。

 こちらを見向きもせずにひたすら何かの作業をしていたと言う。

 まぁよくあることらしく、専務は気にしていなかった。

しかし、それから数分ののち、オーナーは叫び声を上げ、驚いた専務と社員2名が駆けつけると窓ガラスを割って外へ飛び出すオーナーの後姿を見て――


 そんな、凄惨な状況だったらしい。

時間は大体午後十一時くらい。

 つい昨日の夜会ったばかりの人がそんな凄まじく狂気的な行動に出たということは正直信じがたかった。

 だって、不遜だったとは言え、まともな人だったのだ。

今までの被害者たちの人となりはわからなかったがオーナーは実際目にした人物。

 やはり自分の触れられる範囲にいる人が事件に関連してくると一気に危機感が増す。

早く、解決しないとな。


「今日はこれから乙女川ビルに向かう。さすがにオーナーが飛び降りたためビルは現在封鎖状態だ。かなり危険のある現場と言うことになるな」

「時間は関係ないのか?」

「いや、九時半から十一時の間、で間違いはないだろう。それ以外の時間では何も起きんはずだ」

「けど、時間限定で心霊現象なんて……」

 普通は起きるはずがない、と思う。

だとすれば、なんだ?本当に洗脳とでも?

 いや、待てよ。そんなに難しく考えなくても人為的に巻き起こされた事件と言う可能性もあるのではないか?


 って、ぼくはバカなのか。

誰がなんの得もない事件を起こす?

関連もない6人の犠牲者たちとオーナー。

 オーナーだけならその地位を狙うもの、とかそういう理由だろう。

ただ単なる怨恨かもしれない。

あんな態度だからありえる。

むしろ納得できるだろう。

 しかし、それにしては犠牲者が多すぎる。

木を隠すなら森の中?

 殺人の場合そんな理屈は通らない。

警察の調査の中で人を殺すなんて正気じゃない。

 捕まえてくれと言っているようなものだ。

 よっぽど捕まらない自信があるのか。


 とは言え争った形跡もないのだからまずその可能性事態がほぼありえないだろう。

そもそも6人目なんて目撃者までいるのだ。

 明らかな異常事態だった。

 どういうことなのか、まったくわからない。



「コウヤさん、お茶でも飲んで落ち着いてください」

「あぁ、すまん、サンキュ、ハナ」

「ボクもまったくわかりませんし、大丈夫ですよ」

「いや、それのどこが大丈夫なんだよ……」

 苦笑いして見たハナの顔は今まで見てきた中で一番やさしい笑顔だった。

その微笑みはすべてを許してくれるような、そんな笑顔で。

見蕩れてしまう。


「どうかしました?」

 きょとんとしたハナ本人に聞かれてしまってぼくは我に返った。

「あぁいや、あ、そういえば昨日ハナたちはどっか行ってたんだよな?2人で一緒にか?」

「そうですよー。ボクの本家の方にお呼ばれですー」

「でかい家だと大変なんだな」

「そですねぇ。面倒なことは多いですけど、その分優遇もされてますから、がんばらないと」

「ふーん。まぁ、無理すんなよ。お前根詰め過ぎそうで心配だよ」

 笑ってハナの肩を叩いて立ち上がる。

息を呑むような声が聞こえた。

 まぁ、きっとお前はぼくと似ているからな。

だから、1人で悩みすぎんなよ。

ぼくらは仲間なんだから。


「じゃあそろそろ行くか」

 そのままアキラに視線を送るとアキラも立ち上がった。

「そうだな。それでは調査再開だ」





 再び訪れた乙女川ビルは昨日見たときよりくすんで見えた気がした。

光の加減とかだとは思うのだが。

 いや、気持ちの問題だろうか。

 なんだか得体の知れない不安に襲われる外観に見える。


「なんだ、不穏な空気を感じるな」

「ん、アキラもか。んじゃ気のせいじゃないんだな」

「なんだか、新設と言う割りに汚れていますね」

 ハナもそう感じたらしく不思議そうに首を傾げていた。

キリは何も言わずに無表情でじっとビルを見上げている。

 カナタが何かに怯えるようにぼくの後ろに隠れた。


「こーたちとあの人たちは似てないに」

「あ?」

「似てないから、気にしない」

「なんのことだよ?昨日の意味深な言葉といいメールと言い、お前なんか気付いてるのか?」

「こーは海原さんと自分を重ねたにー。昨日天野さんとあっちゃんを重ねて、海原さんとこーを重ねた。けど、気にしちゃダメに。一緒にはならないの」

 そんなの、わかってる。

いや、確かに重ねてしまっていたのは間違いないし、たぶん海原さんは落ち込んでいるだろうことがもう目に見えていた。

 そんな彼と自分を重ねてしまいそうなのもアヤの言う通りだ。


「ったく、幼なじみ様はホントに偉大だよな」

「アヤちんはこーが心配なだけにー」

「あぁ、そりゃ、サンキュ。気を付けるよ」

 肩をすくめてそのまま先に行ってしまっているアキラたちを4人で追いかける。

しかしなんと言うか、カナタとつぼみがぼくにセットでついてくるのは基本なんだろうか。

いや、アヤもか。

 うーむ、モテるとかそういうんではないと思うのだがこの状況は確かに女ったらしとか言われても仕方がない状況かも。

 と言うか結局昨日はあのまま今日に備えて寝てしまったのでつぼみと話をできていないのだ。

 つぼみもカナタもぼくの部屋から出ようとせずにひと悶着あって、結局ぼくの部屋でアズを含めて全員で寝たという。

 窮屈、と言うほどではなかったがさすがにいつもより圧迫感を感じたのは気のせいではないだろう。

 いやまぁ、起きたときに隣に誰かがいてくれるって言うのはすごく幸せなことだな、って、思ったのではあるのだけれど。

 閑話休題。


 今回は内部のいたるところで警官が調査していて、自分たちが本当に入っていいものかと不安になった。

いくら神明会と言う大きなバックが付いていても結局のところぼくらは学生である。

 いや、アキラとキリは博士号を持つ学者でもあるけどさ。

それでもそんな若造がこんなところに来ると言うのは正直フィクションじゃないんだから快く思わない人もいるだろう。


 しかしアキラはいつも通りの厚顔不遜な態度。

キリも態度はいつも通り、と言うか無口無表情でいろんなところを冷静に観察していた。

ハナはビクビクしながらキリにしがみついている。

 なんだか微笑ましい、というか、それが普通の反応だと思うよ。

 アヤはぼくしか見てないし、なぁオイ、いい加減こっち見んな。


 おかしな7人組だった。いや、カナタは見えてないんだから6人組に見えるのか?

 しかしその割にこちらを見てくる視線がほとんどない。

 正直これには驚いた。

 そうか、本当に彼らは自分の仕事に一生懸命なんだ。

真実を追究するため、何も見逃さぬように。

自分の持ち場を隅から隅まで調べる。

 そう長くは封鎖できないだろう。

早期解決を望まれているだろうし、彼らもこれ以上犠牲者を出さないためにがんばっているのだ。


 自分たちがいていいのか、なんて悩んでいる場合じゃない。

ぼくらはぼくらに出来ることを精一杯やらなくてはならない。

 もうこれ以上犠牲者を増やさないためにも。

 決意を新たに、ぼくらのできる調査を始めていった――

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