第三十三話『乙女川ビル連続投身自殺事件』
三三.
「機嫌、直してくれよ」
つーん、と顔を逸らしてしまうカナタに肩を落としてしまう。
なんなんだよ、ホントに。
つぼみに傘に入れてもらってそのまま校舎を回って今日は特別教科棟の音楽室で発見したのだが。
見つけた瞬間は満面の笑みになってくれた。
しかし、直後つぼみを視界に入れた途端に態度が一変してしまう。
むすーっとしたままぼくから顔を逸らしてあからさまに『不機嫌です!』という態度になって動かなくなってしまったのだ。
ぼく一人で迎えに来たほうがいいってことなのかなんなのか。
嫉妬なのかなぁ。
だとしたらちょっとうれしいけど。
しかし謝ってもこの調子で許してくれないしどうしたものか。
つぼみまで困った顔になってしまう。
「どうするかなぁ。このままだと部活に戻れないんだけどな」
「つぼみのせい、ですかねぇ」
「あー、いや、ごめん、つぼみのせいじゃない。きっとぼくのせいだ」
カナタはその言葉を聞いてジト目であからさまにこちらを見ている。
間違いないよなぁ。
「えっと、カナタ、ちゃん?」
むっとした感じの顔に変わるカナタに少し腰が引けた感じのつぼみが近寄って話しかけた。どうするつもりなんだろう?
「このままだと紅夜が困っちゃうから一緒に行こう?」
むーっと眉間にしわを寄せたカナタはブンブンと上下に手を振ってつぼみを追い払おうとする。
あー、やっぱダメか。
この一ヶ月でわかったことだがカナタは結構頑固で意地っ張りなのだ。
一度こうと決めたらなかなか譲らない。
普段大人しいだけに、そうなった時のカナタの態度は最初見たとき少し驚いたものだ。
ちょっと子供っぽいくらいである。
そういう部分を見ているとなんだか鞠つき童子なんだなぁと実感したり。
「カナタ、つぼみはぼくが雨に濡れないようにって傘に入れてくれたんだ。だからつぼみは何も悪くない」
「つぼみが勝手にやったことだから、紅夜は悪くないよ。紅夜を怒らないであげて?怒るならつぼみだけに」
「いや、傘は学生棟にあるからすごくありがたかったしつぼみは悪くないって。怒るならぼくの方だ」
「ううん、違うよ。つぼみが傘を渡して一人でいってもらえばよかっただけなんだもん」
「待て待て待て、それじゃつぼみが濡れるだろうが!」
「いいんだよ。つぼみは紅夜が濡れないでくれたら濡れてもぜんぜん平気」
「平気じゃねぇよ!お前が濡れたら大変だろうが。そんなのダメだ」
「紅夜が濡れる方が大変だよ。みんなに心配かけちゃうよ?」
「アホか!お前が濡れても心配するっつーの!」
「でも、」
「「え、ちょっ」」
突っ込んできたカナタにぼくら二人は押し倒されてしまう。
変な譲り合いしていたせいでカナタの苛立ちが沸点まで昇ってしまったらしく、体当たりしてきたようだった。
そして、ぼくらに乗っかったまま泣き始めてしまう。
「「「女ったらし」」」
「な、泣かせちゃダメですよ~」
「反論できません。マジで全面的にぼくが悪い」
「違うよ、つぼみが悪いんだよ」
「いや、だから、あー、うん、わかってる、もうなんも言わん」
反論しようとしてつぼみに向き直るとカナタの視線が痛い。
あー、もう、なんだかなぁ。
自分がまいた種だけどどうしたらいいのかわからん。
って言うかカナタはどう見てもやきもち妬いてるんだよなぁ?
けど、いったい何に対してなのかがわからない。
つぼみと仲が良さそうに見えるから、とか?
「こーはなんか昔からよく女の子にはさまれてたにー」
「挟んでた片方はお前だろ!?もう片方はアズだろうが」
「また新しい女が出てきたな」
「妹だ!!」
「コウヤさんには兄妹がいらっしゃるのですかー」
「梓は三歳年下の元気でやさしくて笑顔のかわいらしい子なんだよー」
少し驚いたようなハナに対して返事をしたのはつぼみだった。
いや、待てよ。
なんでアズのことまで知ってるんだ?
この子いったい何者?
「つぼみ、お前もしかして」
「え?」
「みんないるかな?」
恣意的なものすら感じてしまうほどのタイミングで、また理事長が現れる。
この世界ってのはどうしてこうもタイミングが嫌な感じに合うんだろうか。
肝心なことははぐらかされるようにいつもタイミングを逃してしまう。
『こんにちは』
「あぁ、こんにちは。久々の依頼が来たよ」
「来ちゃいましたか」
「紅夜君はあまり歓迎ではないのかな。まぁ、そうだろうね」
「学者的な立場から言えば検体が増えるのは喜ばしいことだがな」
「ぼくは普通の人間だからな」
「「え?」」
「ちょ、キリとハナは何故そこで驚く!?」
「え、えぇと」
目をそらしてしまうハナ。
そして首を傾げるだけのキリ。
それってどういうことなんだよ?
「依頼の確認をしてほしいんだけど、いいかな?」
「あ、はい」
「今回の依頼は連続自殺事件。原田町に新設された乙女川ビルという八階建てのオフィスビルが現場だよ」
「連続自殺、ですか?」
「正確に言うと連続投身自殺だね。現在までで六人の犠牲者が出ている」
自殺なのに事件?と思いつつ聞いてみたが六人か。
確かにそれなら事件だろうな。
同じビルでそんなに投身自殺が起きるっておかしいし。
「遺書も何もないのだけれど、現場に争った痕跡もなく、指紋や靴の跡から自殺の線がもっとも高いとのことなんだよ」
「しかし六人は異常だな。封鎖していなかったのか?」
「三人目までは偶然だと思われていたようでね。しかし四人目で屋上は封鎖されたのだけれど、鍵を開けられてしまったらしく五人目の被害者が先日出てしまい、明らかな怪死として警察の方で本格的な調査が始まっていた矢先の昨日、八階の窓から六人目が飛び降りたんだ」
明らかに異常だ。
屋上からの飛び降り、遺書がない時点で殺人のケースもあるかと思ったけど調査されているのに下の階からの飛び降りだなんて。
「被害者たちに共通点はなく、彼らは前日までなんの問題もなく通常通りに仕事をしていたらしい。対人関係でも特に問題点は見られなかった」
「時間帯としては一定なのか?」
「そこに関してはほとんど一定なのだよ。午後九時半から十一時までの間に限られている」
「フン、なんらかの外的要因問題が起きているのは間違いないな」
「時間があるっつーことは他の建物からの影響とかか?」
「現場に行ってみないとなんとも言えんな」
「早急に解決しないと被害が増える可能性もあるしな」
いったい何が原因だかはわからないがこれ以上犠牲者がでる前に止めないとな。
心霊現象が関係あろうとなかろうと、被害者がこれ以上増えるのはまずい。
同じ場所で死者が出続けると言うのは問題だろう。
また奈落みたいなものが生まれてしまうのは防がなくては。
「調査資料はあとで持ってきてもらうよ。出かけるようならまた連絡してくれればいつでも出せるようにしておくからね」
『ありがとうございます』
そのまませわしなく理事長は去っていく。
ホント忙しい人なんだろうなぁ。
けどこうやってちゃんと事件の依頼に関しては訪れて説明してくれると言うのは本当にありがたいことだ。
いつかランとの関係とかも聞けるだろうか。
そんな暇ないかな。
ランに聞いても答えてもらえなかったし聞いてみたいんだけど。
「紅夜はいつも今みたいな事件とかを調査してるの?」
「あー、いつもって言うわけじゃないけど事件があったら調査とかに行くことになるね。とは言え、ぼくはそんなに役には立てないけどさ」
「自分を認めても損はないんだがな」
苦笑いしたぼくに対して腕を組んで目を細めたアキラがこちらに視線を送っていた。
アヤやキリ、ハナからも視線が送られてきている。
機嫌の悪かったはずのカナタからもぼくに悲しげな視線を送られてきていた。
「なんなんだよ」
「みんな、紅夜のこと大好きなんだね」
うれしそうにつぼみが笑う。
そんな目で見てもらえるほどぼくは何も出来ちゃいないってのに。
ほとんどアキラのおかげで解決してきたんじゃないかよ、今までの事件だって。
ぼくはなんにも出来ちゃいない。
だってのに、ホント、なんなんだよ。




