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これが君とぼくの日常  作者: 霧間ななき
第三章 『大切な、もの』
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第三十二話『ささやかなる願い』

三二.

 アキラに霊視能力がない。

キリは驚き、アキラは目つきを悪くしてこちらを見ていた。


「まぁ最初からおかしいとは思ってたんだ。

だって、お前ほとんど最初には現場に出ないじゃないか。

 帰ってきたみんなの反応を見てから対応考えてるんだろ?

正体さえ知っていれば対策の立てようがあるしな。

 この前の突入のときもくー子見てなかったしさ。


 そこにいるのはわかるんだろうし、触れることもできる。

けど何がいるのか見えないからぼくがカナタを連れて行ったときも鞠つき童子って聞くまでわからなかったんだろ?

 確信したのはこの前の脱出のときだ。

ぼくの触れてないくー子のどこに乗ればいいのかわかんなかったんだろ、お前」


「どちらを向いてるかさえわからんのだからな」

「まぁそりゃそうだろうけどさ。なんで嘘吐いたんだよ」

「見えるということにしておいた方が誰かと組まなくて済むと思っただけだ」

「一人でやりたかったわけか」

「その方が知られずに済むだろう?ただ、恥ずかしかっただけだ。時期当主ともあろうものが霊視ができないなんて」

「そんなのなくても十分な能力があるのにな、お前」

「それでも、霊視がほしかっただけだ。劣っていると見られたくなくてな。ただの見栄だな」

「そっか」

「やつらには言わなくていい」

「言うつもりはないよ」

 本人が隠していることをわざわざ言うつもりはない。


「まぁ、それより今は」

 そう言ってぼくの視線を彼女へ向ける。

フン、と鼻を鳴らしてアキラもつぼみに目をやった。

 全員の視線が集まって少しだけ萎縮した感じのつぼみ。

 さて、どうしたものか。

人間ではないのは間違いないようだけど、まだ正体がわからないし。


「立ち話もなんだし教室に行こうか」

「人間ではない、か」

 アキラは思考の海にダイブしてしまったらしくこちらを気にも留めずに先に歩いていく。


「部活、なんだよね?」

「そうだよ。心霊探偵倶楽部、略してPDC」

「しんれいたんてい??」

「うん、心霊現象とか妖怪とか、そういうものを研究したりする部活」

「もしかしてつぼみ解剖とかされちゃう?」

「しないしない」

 ちょっと怯えた視線のつぼみはやっぱりかわいかった。

なんと言うか、かわいい子は何しててもかわいい。

ずるいなぁ。男はそんなことないのに。

 いや、アキラは何しててもかっこいい気はする。

あー、美形はずるいなぁ。


 エレベーターで二階まで昇り、そのまま教室へみんなで連れ立って入っていった。

「つぼみはあそこに座ってて。今お茶を入れるよ」

「あ、えっと、つぼみが入れようか?」

「いいよ、お客さんだし」

「コウ、本当にそろそろ刺されるよ」

「キリ、お前いったいなんの話をしているんだ」

「コウを心配している。夜道には気を付けて」

「ぼくはいったい誰から夜道で襲われるんだ!?って言うかそれだとお前が刺すって言う予告にしか聞こえねぇよ!?」

「ふっ」

 目をそらして笑われた。いや、なんなんだよそれ。

マジで刺すつもりか?

 てかそんなに人に恨まれるようなことしてるつもりはないんだけどなぁ。

それとキャラ変わってね?


 手鍋で湯を沸かしながら葉っぱを用意していく。

なんか知らないけど紅茶しかないな。

 どうせだったら全員分入れるか。

 アキラも結局自動販売機のところでドクペを全部飲んじゃってたし。

キリも紅茶好きっぽいしいいだろう。

 カップには電気ポットから湯を入れてあっためる。


「コウは誰にでもやさしいから勘違いしてはダメだ」

「わかってるよー。つぼみを特別にだなんて紅夜は思ってくれないもん」

「君はいい子だ。それに比べてあの男は、やれやれ」

「今までで一番会話してるのにその内容はいただけないな、キリ!?」

 すっげぇ声が楽しそうに聞こえるし!


「しかもヒステリック。何故彼がモテるのかいまいちわからない」

「モテたことねぇよ!?」

「鈍感だと女の子としてはときめくものがあるのだろうか」

 もうわけがわからん。

カップのお湯を捨てて葉っぱを蒸らした。

 葉っぱが膨らんできたらティーポットにゆっくりをお湯を注いでいく。


「なんかかわいいと思わないかな?つぼみは紅夜のあぁいうところかわいいと思うよー」

「母性本能というやつかな。主人公と言うのはどうしてあぁも鈍感で正義感の強いタイプが多くてモテるのだろうかと常々思っていたのだけどそういう理由だったの」

「そうだと思うよー」

「いつからぼくは主人公になった!?てか鈍感でも正義感が強くもねぇよ!」

「自覚がないと言うのも実にらしい」

「なんだよ、らしいって」

 話している間にお茶を入れ終わってカップに注いだ。

そして砂糖とレモンを添えて準備完了。


「ほい、どうぞ」

 全員のところへそれを配って自分の席に着く。

結構いい香りのする紅茶だ。

 海外のものみたいなので正直詳しいことはわからないけど。

お茶の入れ方は基本的には変わらないだろうから問題はないだろう。


「コウは今話しながらこれ作ってたの」

「すっごいいい香り~」

「いや、話しながらってお前がツッコミ希望みたいな会話してるからだろ」

「手馴れすぎていて驚いた」

「あ?」

「コウは料理とかお茶とかあまりできないイメージだった」

「いやいやいや、待ってくれ、ぼく初日ハナの手伝いしてたの覚えてないのか!?」

「ハナに言い寄るためかと」

「お前はいったいぼくをなんだと思っているんだ!?」

「「「「女ったらし」」」」

「声そろえんな!?ってか一人増えてんじゃねぇかよ、アヤ!」

「にーはおにー」

「挨拶からぶっ飛んでんなぁ」

 つーことはもう放課後か。

そろそろハナも来る頃になるんだな。


「こーが女の子を連れてくるのは日常茶飯事なんだよにー」

「どんなキャラなんだよぼくは!」

「やさしいやさしい熱血漢」

「その言葉はあんまり並びそうにないフレーズだな」

「そんなことないにー?」

「まぁいいや、アヤ、ぼくの席の紅茶飲んでいいぞ」

「え、こー、どこ行くにー?」

 そろそろカナタを迎えに行かないと。

今日はどの辺にいるかな。

 毎日その辺をぶらぶらと見て歩いているのだ。


 まぁ、授業なんて聞いてても仕方がないし、好きにさせてあげたいので自由に行動してていいよと言ってある。

学校が気に入ったのか、それとも一人で外に出るのが怖いからなのか、基本的に校内を探索している彼女。

 何か法則があるわけでもなく、本当にテキトーに歩き回っているので見つけるのはちょっと一苦労するのだが。



 研究棟から出てどこから探したものかと校舎を見回す。

昨日は学生棟で見つけたのだが。

「紅夜、どこに行くの?」

「うぉ、ついてきたのか、つぼみ」

「だって、知らない人ばっかだから、ね」

「そっか」

 まぁ、ぼくも君を知らないのではあるのだが。

 そんなことを言っているときでもないか。

 こんな不安そうな顔の女の子を放っておくわけにも行かないし。


「うちの家族を探しに行くんだ」

「新しい家族?」

「んー、まぁ一ヶ月くらいは経つけど比較的新しい家族だな」

「そっか、紅夜はやっぱり変わらないね」

 変わらない、か。

やっぱこの子はぼくとずいぶん近しい存在だったのかな。

 なんで覚えてないんだろう。

 嫁とまで言ってくれる子なんだから、知り合いじゃないわけがない、か。

 とは言えこんな子覚えてないしなぁ。

違う姿だった、とかなんだろうか?

 でもそれだとアキラが気付きそうなもんだが。


 少しだけ空を見上げる。

 雨が強くなっていた。

 研究棟以外は連絡通路みたいな屋根がついた道があるのだがここは出入り口の前に屋根があるだけで通路はない。

 そのため雨のときは割りと不便なのだった。

傘は学生等の方に置いてきてしまったな。

 自分だけなら別に気にせず走っていくんだけどつぼみもいるから傘があった方がいいだろう。


「傘、入る?」

「え?」

 つぼみは蛇の目傘を取り出して掲げていた。

あぁ、そっか、そう言えばさっき見つけたときもこの傘を差していたじゃないか。


「じゃあ、お願いしようかな」

「ん♪」

 うなずいた彼女の笑顔は今までになく幸せそうで、こちらまでうれしくなる。

 その笑顔は単純にうれしいだけでは語りきれないほど、充実したもので。

 まるで、長く祈り続けていた願いが叶ったような、そんな、笑顔。


「君は、」

「えへへー」

 誰なのかな、そんな言葉はうれしそうな彼女を見ていて、なんだかどうでもよくなってしまった。

 その笑顔はなんだか彼女と通じるところがあって。

なんとなく、この子の願いがわかった気がした。

 今は、それだけでいいか。

 そんな風に思えてしまうほど、それはささやかで、けれど彼女にとって大切な願い。

それをぼくが叶えて上げられるのなら。

 たとえぼくが他人にどれだけ揶揄されようと流せるほどに、うれしいことだと思った。

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