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これが君とぼくの日常  作者: 霧間ななき
第二章 『学校の七不思議事件』
30/61

第三十話『第四怪談』

三〇.

「今回は終結時に全員そろっていたにもかかわらずオレを含めて全員が完全な真実を掴み取ることができなかった。しかしまぁ、そのままでは気分が悪いので今回のまとめを始める」

 と言うことで後日、正確に言えば一九日月曜日の放課後。

特別教室に集合したメンバーにアキラがそう告げたのだった。


 日曜日は正直身体が重くて動けず、一日寝て過ごしてしまう。

血液を失いすぎてしまったためなのかわからないのだがずいぶん疲れてしまっているようだった。

 一日休んでずいぶんマシにはなったがまだ疲れが残っていて、正直部活に出るのも億劫だったのだがアキラからのメールで呼び出されたのだ。

確かに消化不良気味で気になって仕方がない。

 大まかに何が起きたのかはわかったのだがどうしてそうなったのかがわからない点がまだまだ残っている。

 ぼくらに話してくれると言うことはアキラはアキラなりに納得行く解答に至ったのだろう。



「今回もゲストを呼んである。まずはこの人に話を聞かなければならないのは間違いない」

「ゲスト?話を聞くって言っても、事件そのものがまず三〇年前なんだろ?」

 だとしたら証人とか呼べたとしてももう記憶もあいまいになってしまっているんじゃないだろうか?

関係者で真相を知っている人間なんてほとんどがまだあの校舎の中だろうし。


「事件そのものというより、今回の依頼についてまず疑問には思わなかったか?」

「あー、確かに、なんで三〇年も前の七不思議について今更調査依頼が来たのかわからないよな」

「それについてこの方から話を聞こう」


 アキラが入り口に向かっていって、扉を開くとそこにいたのは、

「やぁ」

「理事長!?」

「晶くんに呼び出されてしまってね。調査について役に立てるならいいのだけど」

「いや、アキラ、まさか依頼人を今から聞くのか?」

「そんなわけがないだろう。今回は依頼人などいないのだ。強いて言うなら理事長本人が依頼人だな」

「え?」

「そういうことだよ」

 どういうことだよ?

話が飲み込めずに混乱して首を傾げてしまう。

 理事長が依頼人?

アレだけ危険な目にあって、三〇年閉じ込められてしまっていた可能性もあった事件を?


「混乱するのも無理はない、と言うか当然だろうね。

私もまさかそんなに危険な件だとは思っても見なかったんだ。

 実はね、私は当時中津中央小学校の生徒だったんだよ。

そして、最初に肝試しに行った四人のうち先に帰った方の一人が私なんだ。

 あの頃怪談が流行っていて、クラスで一番勇気があるのは誰だ、と言うような話になってね。若かったんだよ、みんな。

 私と彼女、そして殺されてしまった二人は幼なじみで、とても仲が良かった。

だから四人で名乗り出て、学校に忍び込んだんだ。

 けれど、実際中に入ってみるとずいぶん薄気味悪くてね。


 二人ずつで回ることに決めていたんだけど、二人で歩いていくうちに心細くなってしまって校門に戻った。

結局そのあと十時ごろまで待っていたんだけど、戻ってこなくてね。

 さすがにまずいと思って彼女を家まで送り届けてからまた戻って探そうとしていたんだ。けれど、結局彼女の家でひと悶着あって私は親を呼び出されてそのまま家に連れ帰られてしまった。

 次の日、二人がまだ帰ってきてないと知った私は頭を抱えたよ。

まさか怪談は本物で、二人は消えてしまったのか、と。クラスメイトたちはむしろ張り切ってしまったようで自分こそが怪談を見つけてやる、なんて言う子もいたほどだった。


 そして二日目に五人が潜入する作戦が立てられたんだ。

私も名乗り出た。

今度は逃げ出さないようにしよう、と。

 誰も消えさせないように。

そして、彼らを見つけ出して連れ帰ろう、と。

 けれど、二日目は教師に見つかりそうになって逃げ帰る羽目になってしまったんだ。


 そして三日目、七人の子たちが潜入した。

ぼくはさすがに連続で家を空けたため両親に当分の間外出禁止を言い渡されてしまっていたよ。

 そして、彼らも行方不明になり、担任だった長谷部先生も行方不明になった。

しかも、体育館倉庫から身体を半分だけ開かれた水瀬くんが見つかって、長谷部先生の家から早乙女さんが同じように開かれて見つかったんだ。

 その時点で警察は長谷部先生が犯人だとにらんで捜査して行くことにしていたみたいだったね。


 その頃神明会の人たちもこの不可解な事件の捜査でやってきていた。

そして、私は彼らに希少能力保有者として迎え入れられ、神明会に入ったんだ。

 そのままこの事件の調査に入って、解決した。

と思い込んでいたんだよ、私たちは。

 この事件は長谷部と言う変態教師の少女嗜好による猟奇的殺人事件。

犯人の長谷部は発覚を恐れ、逃げ出した。

 現在ではもう時効になってしまっているが当時は指名手配されていたんだ。


 七名の行方不明者に関しては三階西側トイレの怪談、すすり泣く少女が冥界に引き込んだ可能性が高いためこれ以上の調査は不要、と言うことに。

 けれど、この前恩師だった瀬戸川さんに会いに行ったとき、それが間違いだったと知らされた」



「瀬戸川さん!?」

「そう、瀬戸川 ひなた。俺たちがあの中津中央小学校内で会ったはずの彼女は現在もこの世界に存在しているのだ」

 どういうことなんだよ?

そんなのおかしいじゃないか。

 じゃああそこにいた彼女は誰なんだ?


 あそこには間違いなく瀬戸川と名乗る少女がいたじゃないか。

いや彼女が人間だった、なんてぼくに言えるのか?

幽霊と人間の区別もつかない。

生きているのか死んでいるのかも気付かないようなぼくが、言えるのか?

 言えるわけがなかった。

しかし、だとすれば、だ。

あそこにはいったい誰がいたと言うんだ?


 確かにあそこには瀬戸川と名乗る少女の姿をした『誰か』がいたのだ。

そこに関しては間違いない。

たとえ人間じゃなかったにしろ、誰かがいたのは間違いないんだ。

 ここにいる全員が会っているのだから。


「私も正直なところどういうことなのか、わからないんだ。

まさかそんなことが起きているだなんて瀬戸川さんに会いに行った時には思っても見なかったからね。

 会いに行ったのは瀬戸川さんから話したいことがある、と言う電話をいただいたためだった。

 先ほども話した通り、私は当時彼女を夜間無断で連れ出した、なんて大事をしでかしてしまっていたわけで、当時校長だった瀬戸川さんとは結構話をした。


 理解のある方で、私の言い分を理解してくれてきちんと話を聞いてくれたのは瀬戸川さんだけだったんだ。

それもそのはず、瀬戸川さんは水瀬くんと早乙女さんの霊と出会って真実を知っていたのだから。

 当時そのことを私は知らなかったけどね」

「ありがとう、理事長。その先は本人に聞こう」

『え?』

 その場にいる全員がきょとんとしてしまう。本人?

 いや、今の話から行くと瀬戸川さん本人しかいないと思うけど、呼んであるの?



「やっと、出番ですか?」

 小さかった。

確かに見覚えのある小ささ。

聞き覚えのある声。

見覚えのある顔立ち。


 しかし、彼女は明らかに年を取っていた。

七一歳ならこんなもんだろうな、と納得できる程度には老いている。

 あの校舎で出会った少女にしか見えない彼女とは大きく異なっていたのだ。


「それでは最後のお話と行きましょうか」

「ご老公、大変とは思うがお願いする」

「えぇ、もちろんです。これはすべて私が取るべき責任なのですから」

 そう言って微笑んだ顔はやはり、間違いなくあの校舎内にいた彼女と同じものだった。

別人、ではないだろう。

しかし、だとすればアレはいったい、誰と言うことになるんだ?



「今回彼に、今は理事長でしたか?

神代さんにお話したのはあなたたちのような優秀な子供たちにあの校舎を解いてほしかったからなのです。

 事件のことはもうご存知なのですよね?

えぇ、長谷部の起こした猟奇殺人、そして生徒七名の行方不明事件です。

 あの事件の当初、私は校長として中津中央小学校に勤務しておりました。


 まず最初の事件から説明いたしましょうか。

一日目、つまり神代さんたちが肝試しをするために忍び込んだあとからのお話です。

 水瀬さんたちはまず最初に時間的に最も近かった人体模型を探そうと理科室に行きました。

しかし、そこには人体模型がなく、これはもしかしたら本物かもしれないとわくわくしたのだそうです。

 そして、彼らは人体模型を探して校舎内を探索しました。


 しかしなかなか見つからず、早乙女さんが一度休憩したいと願い出て、彼らは自分たちの教室に向かいます。

 前日から行くつもりだったらしく、ロッカーの中にお菓子と飲み物を隠していたのだとか。

 ちょうどその時、教室には人体模型がうごめいていました。

これはラッキーとばかりに水瀬さんは人体模型に飛び掛って動きを止めようとします。


 けれどそれは長谷部が背負っていただけでした。

おかしいと気付いた彼は早乙女さんに逃げろと声をかけようとします。

 長谷部はそれに気付いて止めようとして腕を振り回しました。

 その腕に突き飛ばされた水瀬さんはそのまま動かなくなります。

運悪く死んでしまったらしく、水瀬さんはそこで霊体になりました。


 それでも早乙女さんを助けようとして彼は長谷部と早乙女さんの間に入って早乙女さんに必死に逃げろと叫びました。

しかし、彼女には届かず、彼女はそのまま長谷部に捕らえられてしまいます。

 水瀬さんは長谷部が何をしていたのか気付いていました。


 しかし早乙女さんは暗くて気付いていませんでした。

そのため何が起きたのかわからないまま早乙女さんは捕らえられ、手足を水瀬さんの着ていた服で縛り付けて動けなくした上、さるぐつわをかまされて完全に抵抗できないようにされてしまいます。

 しばらく経ってから長谷部は水瀬さんの身体を背負ってどこかへ去っていきました。

水瀬さんは何をするのかと思ってついていって、後悔しました。

 自分の身体の皮をはがれる姿を見てしまったのです。

ショックが大きく、彼は茫然自失の状態で彼女の元に戻りました。

 そうして何度も何度も声をかけて逃げろと言い続けました。


 そうしないとまずい。

あいつに捕まったらヤバい。

お前だけでも逃げてくれ。

お前だけでも生き延びてくれ。

 アレは、人間じゃない。

逃げないと、殺される。

 どれだけ叫んでも彼女には届きませんでした。

そうして、そのまま彼女は長谷部に担がれて家まで連れ帰られてしまいます。


 そのあとは語るべきではありません。

ひどいことが行われました。

 人間の尊厳など無視した、いたわりも何もない、最低の行為です。

夜通し、休むこともなく、飽きることもなく。

 それを目にしながら、水瀬さんはただただずっと叫んでいることしかできませんでした。

殴りかかろうと、殺してやろうと、いくら向かっていってもなんの意味もなく、彼女が苦しみ続けるのを見ていることしかできませんでした。

 何故自分がこんなところにいるのか見失いかけもしました。


 朝が来て、長谷部が学校へ行ったあとも彼は彼女のそばにいました。

うつろな目をした彼女にずっと、ずっと謝り続けて。

 いくら謝っても届かない、謝罪。

 彼は何も悪くなんか、なかったのに。

すべてはあの男のせいなのに。

 彼らは二人とも、ズタズタにされてしまったのです。

あの男の身勝手な欲望で。


 そうして、昼が過ぎ、夜になって、帰ってきた長谷部は少し余裕のない表情になっていました。

 自分のしでかしたことで事態が悪化していることに気付いたのでしょう。

自分がやったことがばれるのも時間の問題。

 そう気付いた彼は再び朝まで行為を繰り返したのち、彼女も殺しました。

 そうして、皮をはいでいくところを泣きながら見ている水瀬さんに早乙女さんは気付いて、ようやく自分が解放されたのだと知ったそうです。


 死んだことがむしろ、うれしかった。

それは当然とも言えるでしょう。

 二晩ですよ、二晩。

ずっと、苦痛を与えられ続けていた時間。

 ようやく終わってくれた、そんな風に安心してしまうのも仕方がないことです。

 そうして彼らは二人でそれまでのことを話し合って、お互いの苦痛を分け合いました。


 本来なら彼らには霊視能力がありませんのでお互いの姿は見えないはずです。

しかし、彼らはあまりに運命が深く関わりすぎたため、ひとつの存在になっていたようでした。

 そして、霊体として完成された。

お互いの間で力が循環するようにつくり変わっていました。

 もはや幽霊とは言えない、新たな怪異へと変化していたようです。


 彼らは自分たちを見える人を探し歩いた。

彼らは学校中を歩き回って見つけてもらおうと考えていたようです。

 おかげで校内を巡回していた私が彼らを見つけることができたのです。

 それから私は彼ら二人からこの事件の顛末、今お話したすべてのことを聞き、決意しました。

 七不思議はすでに完成される形になってしまっているわけですから、これを利用して長谷部を七不思議に取り込み、怪談としてこの学校に閉じ込めてしまおう、と。


 第四怪談は元々この学校が悪しき力に染まってしまい、対処できなくなってしまった場合使うために設立者の方が用意してくださっていた最終手段でした。

このためにあったのだ、そう私は考えて第四怪談を発動させたのです」



 手段としては最悪だったんだろう。

けれど、あのまま長谷部を野放しにしておくわけには行かなかった。

 結果として七人の生徒も閉じ込められてしまったわけだが。


 それを、悪だと言うことはぼくにはできなかった。

犠牲はつきもの、なんて言うつもりはない。

 けれど、それでも、どうしようもなかった。

ぼくらが助けることができていればそれが一番よかったのだが。

 いや、それを思ったからこそ彼女は今回理事長に話をしたのだろう。

三〇年の周期で開かれる道から彼らを取り戻せるように。


「そこまでは理解した。だが、何故あの中に当時のあなたがいる?そして、あちらにもいるのに何故、あなたはここにも存在している?」

 細かい部分についてはもう十分に理解できた。

正直辛い話ではあったけれど、今の話で全体が理解できている。

 しかし、だとしても何故、瀬戸川さんはどちらにも存在しているのか。



「アレは、言うなれば私の怒りの化身なのです。

 私の家は小豆洗いと言う妖怪の一族でした。

 小豆洗いと言うのは小さすぎるため正体が不明とされてきた妖怪なのです。

いたちや狐などが正体などと言われることが多いですが実際は私のように小さな姿をしているため、小豆を洗っていても音しか聞こえない、と言う事態になってしまっていただけでした。

 しかし、小豆洗いも妖怪なのですよ。

特殊な力を持っていたんです。

私自身もアレが現れるまで知りませんでしたが。


 小豆に想いを込めて一粒一粒丁寧に洗い、神にささげ続けていた小豆洗いの一族は自分の中の生命の源を分かち、分身を作り上げて自分の代わりに願いを叶えることができるのです。

 とは言え、分身を作れるだけでその分身も私自身が操れるわけでもありません。

自分の意志を持って動く分身が本人の意思でできることをやってくれる、それだけなのです。

 しかし、今回の場合、私にとってとてもいい働きをしてくれる存在だったのです。

あの中津中央小学校に残ると決めた水瀬さんと早乙女さんのそばにいたいと、彼らの平穏を守り続けていくと私の分身は決めてくれました。


 それは私自身の願いでもありました。

あれだけ不幸な目に遭った彼らには少しでも平穏な日々を。

そして、長谷部には苦痛だけしか残らない永遠の時を与えてくれる。

 そうしてあそこには私の分身と水瀬さんに早乙女さんが一緒に過ごしているのです。

永遠に、3人で仲良く暮らして行くはずでした。

 けれど、あれからたまに私に見えてくる長谷部の姿。

ぜんぜん反省していないんですよ。

 冗談じゃない。

アレは許してはいけない存在です。

いつまでも苦しみ続けなくてはいけない存在です。


 しかし、時間の止まったあちらの私がいくら傷付けてもすぐに治ってしまう。

だから、あなたたちにアレを打ちのめしてほしかったんです」



 くすりと笑った笑みで、ぞくりと背筋が凍りつく。

待ってくれ、これはあの時と同じ感覚?

 つまり、アレが人間ではないからあんな笑顔を浮かべたわけではなく、元々こういう人ってことなのかよ?

 怖い、怖すぎる。

人間ってこんなに恐ろしい笑みを浮かべることができるのか?

怒りに染まると、ここまで恐ろしい笑い方をするものなのか?


「コウヤはちょうどいい人材だったわけだな」

「あ?ぼく?」

「あの時キサマは自分を見失うほどの怒りに走らされていただろう?」

「あぁ、まぁ、確かに」

「アレはキサマ自身の責任ではない、ということだ」

「へ?」

 どういうことだ?

ぼく自身の責任ではない?

 いや、確かにあの時は自分を見失っているような状態だったけど。

でもそれって長谷部に対してぼく自身が実際に抱いた感情だったし。


「あの異界はひとつの方向性に支配されていた。向こうの瀬戸川が言っていただろう?」

「そう言えばそんなことを言ってたな」

「簡単に言えば、理性の崩壊。あそこにいると自分のたがが外れやすくなっていたのだ」

「え、なんでそんなことが?」

「力が溜まりこみやすい構造、と言うのは簡単に言えば、建物自体がストレスを発散しやすい構造になっていた、と言うことなのだ。

 鬱憤を溜め込むと悪しき感情に代わりやすいだろう?

 それを防ぐために自分のうちに感情を溜め込まないようになりやすい環境だったのだ、あそこは。


 だからこそ長谷部は欲望のままに行動し、生徒たちは気が向くままに校舎に忍び込み、瀬戸川は怒りを爆発させ、コウヤもまた、長谷部に襲い掛かった。

 それはすべて、あの学校の構造によるものだったのだ。

 元々はそんな風な意図をされて作られたものではなかったがこの事件ではすべてが悪い方に転がってしまったのだな」


 そんなことって、あるのかよ。

いいことだと思ってやったことが、こんな結果を生んじまった原因だって?

いや、全部が全部それが原因とは言えないだろうけれど、でも。

 原因の一端を担ってしまっていただなんて。


「そんな原因があっただなんて、気付きませんでした。さすがは神代さんが見込んだ子たちね。素晴らしい考察でした」

「しかし、あなたは責任を負うべきだ」

「え?」

「七名の行方不明者は鏡に閉じ込められていた。それを今回我々は発見したが外に出ることができないまま、彼らはずっとあそこで過ごすことになったのだ」

「え!?彼らは亡くなったのではなかったの!?」

「あそこで、生きていた」

「アキラ、やめろ」

 その人のせいじゃ、ないだろ?

それは全部、ぼくのせいだ。


 もし、ぼくが校門にキリを置いてくるときにカナタに捕まらなければ、怒りに任せて怪我なんてしていなければ、瀬戸川さんと無駄な話をしていなければ、彼らを全員、助けることだってできたはずだったんだ。

 それは思い上がりだと言われようと、そのせいでその人を責めるなら、ぼくの方が責められて然るべきだ。


「キサマだけで背負おうなどと考えるな、この愚か者が。責任は、全員にあるだろうが」


「え?」

「ご老公にも、理事長にも、オレにも、キリにも、アヤにも、凡俗にも、そして、お前にも」

 こつん、とぼくの頭を小突いたアキラは少しだけ、笑っていた。

 その笑顔は今までの嘲るような、バカにするような笑みではなく、励ますようなやさしい笑顔。


「ここにいる全員が、悪いのだ」


 そうして、少しだけ顔をしかめた笑顔をアキラが締めくくってこの事件は終わりを告げた――

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