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これが君とぼくの日常  作者: 霧間ななき
第二章 『学校の七不思議事件』

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第二十八話『疑問』

二八.

 今まで見てきたものをよく考えろ。

聞いてきたことをよく考えてみろ。

 するとどうなる?

いや、そんな自問自答に意味はない。

 ぼくはもう気付いてる。

答えはひとつしかない。


「正直なところ考えうる限り最も最悪な事態に陥ってしまっているようだな」

「アキラも同じ意見か。考えたくもなかったな」

「それで、だ。お前たち二人は校外に出ろ。この相手はもっとも危険だ」

「ふざけんな。キリは出たほうがいいと思うがぼくは出ない」

「あぁ、キリは絶対に出てもらう。しかしキサマにはなんの勝算があると言うのだ。また空狐やお前の言葉が通じるとは限らないのだぞ」

「え、ちょっと、二人とも私は何故出ることが決定している」

「「危険だからに決まってる」」

「声がそろっている」

 微妙に落ち込んだ感じのキリ。

けど今回はマジで頭で考えてなんとかなるものじゃないからな。


「勝算はある」

「なんだ、聞かせろ」

「それは言えない」

「信用できるわけがないだろう。キサマも出ろ」

「それを証明するためなんだよ」

「強がりでなんとかなる相手ではない」

「強がりじゃないよ。ぼくの能力がなんなのか、それを自分の仮説で正しいのか試したい」

「しかしその仮説は話せないわけか」

「自信がないわけではないし、さっきも成功した。ただ、確証がほしい」

「フン、その前にオレが捕まえてしまっても構わんのなら試してみればいい」

「サンキュ」

 キリはなんだか今のやり取りを見て納得してしまったようで逆らうことはなかった。

それどころか少し驚いたのだが微笑んですらいたのだ。

 かすかにではあるが。


 その表情の変化に驚いて、何故か目をそらしてしまった。

 なんか、かわいく見えたのだ。

今まで気付かなかったけどキリって結構中性的らしい。

 なんとなくハナのキリちゃんって呼び方も変じゃなく思えるくらいには。



 そんなキリを校門まで送り届け、ぼくらは再び校内に戻る。

 いやまぁ、正直すんなりとは戻れなかったのだが。

まずカナタがやたらと心配してぼくを捕まえたまま離してくれなくなってしまったのだ。

 それに呆れたアキラがぼくを置いていこうとするのをキリが止めて。

そうやって十分とか無駄に浪費して今に至る。


「いざとなったらキサマは空狐で逃げろ」

「わかってるよ。迷惑はかけない」

「わかっていると思うが今回の相手は捕まったらアウトだ」

「その点お前は心配ないよな」

「相手が物理的に追ってくる以上は逃げることができるな」

 物理的に追ってくる相手。

ぼくら二人が本物だとにらんだのは第二怪談、人体模型なのだ。


 まず確認しに行った時点でおかしな点はいくつかあった。

異常がない。

 そう、アキラがいるのに、人体模型には異常がないのだ。

霊体に感応するはずのアキラも異常を感じ取れない人体模型。

 つまり、昼間の時点ではあそこで心霊現象は起きていない。

だって言うのに、人体模型にはほこりも積もっていなかったのだ。

 動いたあとのように、綺麗な状態だった。

人体模型はガラスの扉の中に収められていたのだが綺麗に掃除されている、なんてこともないのに綺麗なまま。

 授業でも使ってないらしいのに。


 そして、もっともおかしな点。

大きすぎるのだ。あまりにも。

 人体模型、しかも小学校で使う人体模型なのに、何故成人男性ほどの大きさのものを使う必要があるというのか。

 ぼくが小学校のとき、人体模型は小学生のぼくらより小さかった。

大きかったら不便に決まっている。


 だとすれば。だとすれば、だ。

あれが『本物』であり、この七不思議を完成させて、最初の二人を行方不明にした犯人なのだ。



「キサマならどこに現れると読む?」

「んー、まぁ、なんとなく予想がつくのは教室だな。どこの教室かってーと、行方不明の二人のうち、女の子の方の教室だ」

「やはりキサマも犯人はアレだと思うわけだな」

「それ以外にないだろ?」

「無論だな」

 くすりとアキラは笑う。


「コウヤの言う通りだ」

「――!」

 このタイミングで、言うかよ!


 そして、また、タイミングよく現れちまった。

 右半分が開かれてリアルな内蔵が見えてしまっている、男性がこちらに向かってきていたのだ。

あまりにリアルな内蔵に気持ち悪くなる。

 そりゃ、アレ元々人間だもんな。


 そう、だって、アレは

「そんなところで何をしている?」

「アンタこそ何してんの、ロリコン変態教師さん?」

「だから、俺は変態じゃない!」

 ブオン、と腕を振り上げて飛び掛ってくる人体模型は行方不明になっていたはずの教師だった。



 彼こそが最初の二人を行方不明にした犯人である。

そこで恐らく七不思議が完成してしまったのだ。

 第二怪談を流布した本人なのだろう。

そうすることで十時以降に誰も来ないようにして、何かをしようとした。

 ぼくの予想が合っているのだとすれば、彼はロリコンである。

そして、何か、と言うのは気に入った女の子の持ち物とか、そういったものが目的だったのだろう。

 ここに現れたと言うことはそれが間違いではなかったということだ。


 最初の二組の男女が肝試しにきたとき、恐らく彼を見つけてしまった。

そして、捕まってしまったのだろう。

 そのあとどうなったのかは、想像したくもない。

たぶん彼女の方は彼のお気に召すタイプだった。

 そうでなければ一日目に校門に戻った二人は待っている間に二ノ宮金次郎を発見していたはずだ。

 だって、その二人ともが人体模型のようになっていなければ、第二怪談は完成しないのだ。


 男の子の方は恐らく彼が怪談を本物にして本当に十時以降に誰も来なくさせるために殺された。

 きっとどこかで今の彼のように半分開かれてしまっている。

そして、彼女も今ではそうなってしまっているのだろう。

 そうなったのは三日目だ。

 一日目に二人を捕まえた彼はまず男の子を殺してしまってから女の子を捕まえてどこかに監禁したのだろう。

 その場で男の子を開き、二日目に彼女は、きっと、彼の手で。


 三日目、彼はどんな理由かはわからないが彼女も開いた。

 そうして完成してしまった七不思議。

彼は望まずして本物の怪談になってしまった、と言うことになる。

 細かいことはわからないが大体そんなところで現在、彼はこうして人体模型の怪異としてぼくらの目の前に現れた。

 彼に捕まればぼくらも開かれてしまう。

そういう怪異なのだから。

 しかし、ぼくは、その腕を捕まえる。

その腕はぼくの予想通り光り輝いて彼は目を見開いた。


「お前みたいなド変態に、やられてたまるかよ」

「俺は、変態じゃないと言っているだろう!?」

「認めなかろうとテメェはド変態だよ!ロリコン野郎が!」

 ぼくの腕を振り解こうとする彼の開かれた方の腕はぼくの触れた位置から人間の腕に戻っている。

 アキラの息を呑む声が聞こえた。


「テメェは自分の欲望のために二人捕まえて女の子の方に何をしやがった!?それが変態行為じゃないと言えるのか!?」

「う、る、さい!言うことを聞かないから!俺のことを変態とかロリコンとか言いやがるから!天罰を下してやっただけだ!泣き叫んでやがったけどいい気味だぜ!どうせ俺の物になるしかなかったんだ!だってのに!!」

「拒否されたから、殺したのか?」

 自分の欲望を勝手にぶつけて、嫌がったから殺した?

どんだけわがままなんだよ。

どんだけ自分勝手なんだよ。

 ふざけんなよ。


「ふざけんなよ!!」

 醜く歪めたその顔を、力いっぱい握り締めたぼくのこぶしが、貫いた。

痛い、痛いけど、もっと、苛立ちのが強い。


「いい気味?何言ってんのお前」

 地面にひれ伏したそいつの首筋を捕まえて引き上げる。


「俺の物になるしかなかった?それを断られたから殺した?ふざっけんなよ!!」

 ぶん、と後ろに頭を振りかぶって、


 ガツン、と大きな鈍い音を立てて頭突きを突き立てる。


 痛い。

頭がぼんやりとしてくる。

何かが垂れてくる感覚。

 血が出たらしい。

けどどうでもいい。


「人の命を、なんだと思ってやがる!!」

 足を振りかぶって、その頭に狙いをつけて、


 ブォン!


 しかし、その足は男の頭に当たることはなかった。

「何しやがる、アキラ」

 アキラの手でその足は止められている。

その顔にはなんの表情も浮かんでいない。


「もういい」

「何がいいんだよ。いいわけねぇだろ」

「これ以上やってどうする。よく見ろ」

 ぼくの肩を捕まえたアキラはその視線を男のほうに向けた。

その視線を追う。

 そこに男は横たわっていて、頭部は血まみれになっていた。


「同類になるつもりか」

「?」

 よく、わからない。

 胸の奥でさっきまで燃え盛っていた炎はもう息を潜めている。

代わりに今まで遠くへ行っていた痛みが戻ってきていた。

 手が痛い。頭が痛い。胸が、痛い。


「もう、十分だ」

「ご、めん」

「謝るくらいなら最初からやるな」

 そんなの、わかってるよ。

けど、なんか、頭が回んなかったんだ。

 ぼくってこんなにキレやすかったっけ?

ここまで乱暴だったっけ?

こんなことできちゃうようなやつだっけ?


「迎えを寄こしてくれ」

 アキラが携帯で誰かを呼ぶ。

神明会の人だろうか。

 こいつ、どうなるんだろう。


 まだ息をしているように見えた。

開かれているだけで、人の目には見えるんだろうか?

 人体模型としては理科室に普通にあったわけだし、見えるんだろうな。

きっと夜にだけ動ける怪談だったからこそ、それ以外のときは普通の人体模型になってしまうのだ。

 大きさが変わったらさすがに気付いていただろうし、普通の人には普通の人体模型に見えるんだろう。


 だとすれば、今は?

普通の人体模型に見えるのか、ぼくらの見えているこのままの姿で見えるのか、それとも人間に見えるのか。

 いや、そんなことより、こいつに襲われた二人を見つけてあげないと。

もし見つからなかったらあまりにもかわいそう過ぎる。



「待て、どういうことだ?すでに待機している?校内にオレたちが見つからない?」

 ん?なんかアキラが声を荒げている。

「どうした?」

「いや、どういうことなのかいまいちオレにもつかめないのだが、どうやらオレたちは現場に到着していないらしい」

「は?」

「中津小学校にオレたちは存在していないのだ。そもそも今回オレたちを送ってきた運転手も不明らしい」

「え?」

「オレたちは、何かを間違えているのだ」

「いや、どういうことだよ」

「ここは中津中央小学校、だな?」

「あぁ、そのはずだぞ?」

「しかし、通称中央小学校は実際は中津小学校と言う名前のはずなのだ」

「知ってるよ。ぼくの友達もそこ出身だし」

「だがな、よく思い出してみろ。あの小さい教頭はこの小学校をなんと呼んだ?」

 なんと呼んだか?


「いや、中津中央小だろ?」

「校内の教師が正式名称に含まれていない中津中央と入れた略称を使うか?むしろ長くなっているではないか」

「あぁ?どういうことなんだ?」

 まったく話が読めず、首を傾げてしまう。

いったいなんの話をしているんだ?


 そのくらい別にありえるんじゃないか?

他校からも中央小とか呼ばれるわけだし。

 しかし、アキラから次に語られた真実はぼくをさらに混乱させる。


「ここ、中津中央小学校は、ずいぶん前に廃校になっているのだ」

 いったい、どういうことなんだ?

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