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これが君とぼくの日常  作者: 霧間ななき
第二章 『学校の七不思議事件』
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第二十六話『かいだん』

二六.

 すべて調べた結果、現状では問題のあるものは他にはないとしか言いようがなかった。

第二怪談の人体模型は異常なし。

なんらかの心霊現象が起きた形跡もなかった。

 ただ、人体模型はずいぶん綺麗だった様に思う。

ほこりが積もってたりしなかったし。

授業で使った後だったのかな。


 そして子供の頃見たものより大きくてリアルな気がした。

最近はこんなの使うのか。

なんか気持ち悪いなぁ。

あの小さめの人体模型だって気持ち悪かったのに。

 あんなものリアルにしてもあまり使う機会がないような気もするけど。

まぁとりあえず時間指定があるのでその前は何も起きないのかもしれない。

夜にまた調べるしかないだろう。


 第三怪談の鏡は正直黒だとは思う。

アキラ曰く、中に何かいるのは間違いないが明るいと光の反射で鏡本来の姿が見えない、とかなんとか。

 夜か雨の日に確かめるしかないらしいのでこっちもまた夜に。

第四怪談と第七怪談は調べなくてよいとのこと。

 そして第五怪談はやはり目だけが立体的に作られていた。

なんとなく目が追ってきているように見えるのは少し気持ち悪かったがどこでもこんな感じのような気もする。

 第六怪談も結局異常はなく、夜にまた。



「めぼしい結果は出なかったな。まぁ、やっぱ一番怪しいのは第三怪談か」

「まぁそうだな。しかし、この学校に感じるおかしな気配はなんなのだろうな」

「あ?」

「はっきりとは言えない」

「待ってくれ、はっきりとはってことは何かあることはあるのか?」

「予想はないとは言えないな。キサマが襲われた時点でここは何かおかしなことが起きている可能性がある。仮説だけで言えば一つないことはない。しかし、前例はないしな」

「どういうことなんだよ?」

「もう一度夜に話す」

「なぁ、キリ、何かわかったか?」

「特には」

 そう言いつつなんかキリは気付いてそうだからなぁ。

前回もそうだったし。

 アキラはたぶん完全な状態以外では提示したくないんだろうな。

アヤはやっぱり何も考えてなさそうだった。

 ハナはもうぼくが見たとたんにブンブン首を振っている。

まぁ、そんなもんだよなぁ。

 ぼくらは一般人だ。

アキラもキリも当然努力してこうやって推理できるレベルまで来ているのだろうけどぼくは正直そこまでがんばれる気はしない。


 ただ、先日の事件のことを考えてもやっぱり何か事件が起きているなら解決はしなくてはならないとは思う。

 今回も行方不明者が出てしまっているわけだ。

必ず解決して取り戻さなくちゃな。






 辺りは完全に真っ暗闇となっていた。

あれから一度解散して現在十時少し前の校門。

 時間は第二怪談に合わせて十時から調査と言うことになっている。

ちなみにぼくとアヤはまたここまで電車とかで来るのが面倒だったので中津町にあるショッピングモールで時間を潰してきていた。

 カナタにいろいろと見せてやりたかったのもあったのでちょうどよかったのだ。

いろいろと興味深々に見ているカナタを見ていてなんだか癒された。

 また機会があったら連れてきてあげたいな。

 そしてきっちり五分前にアキラが到着した。

うん、なんとなくそんな気はしていたよ。

早すぎず遅すぎない時間に来そうな気がしたんだ。


「では調査再開と行くかー」

「待て、なんだこれは」

「あ?」

 中へ向かおうとした途端にアキラは立ち止まって目を見開いていた。

何かあったのか?


「キサマらはこの状態に何も感じないというのか?」

「何か感じるのか?」

「昼間とはまるで違うではないか」

「ぜんぜん差がわからないんだが」

「キサマはどれだけ鈍感なのだ。キリ、これはかなり危険な状態ではないか?」

「誰かが完成させてしまったのだと思う。けれど夜だけしか鏡が発動しないから気付かなかった」

「なんと言うことだ。まさか、本物はあの鏡だけだったのかも知れないと言うことか」

「この場所に学校が建ってしまったために起きた事故のようなもの。前例がないのはそのため」

「あぁ、なるほどな。ここはあまり大きくはないが確かにパワースポットだ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ、なんの話をしているんだ?」

「簡単な話だ。現在ここは異界が作られてしまっている、と言うだけのこと」

「あぁ?イカイ?」

 なんだそれ?

ん?パワースポットにイカイ、異界か。

 異界だって?そんなもん実在するのか?


「七つそろってしまった、ということだ。

本来七不思議と言いつつ七つで固定化されることはほとんどない。

 七と言うのは元々永遠に通じる八の前、永遠に届かない有限の終わりの数字だ。

 故に七と言うのは八とは違った意味で重要視されやすく、様々な意味を持つ。

冥界や異界を呼び寄せやすい数字でもあると言うことだ。

だから七不思議などと言うものが生まれたわけだな。

 そして今回七つそろってしまった怪談が本来ならありえない、ただのうわさ程度しか意味のないはずのそれらが発動してしまったのだ。


 その大きな理由のひとつがこの学校の建設位置にある。

まさかそこまで強い意味を持つとは予想していなかったがな。

 せいぜい本物が現れやすいと言う程度にしかオレは考えていなかった。

その認識は甘かったとしか言いようがない。

 その理由というのがパワースポットだ。

この世界には竜脈と呼ばれるエネルギーの通り道が地下に通っているのは知っているな?

 生命力の流れ、命の流れ、世界そのものの生きる力、人間で言えば血管にあたる。

延々流れ続けるこの流れこそがこの世界の命綱になっているわけだ。

 人間の魂などもこの中に還って行く。

そうやって世界は循環しているのだ。


 これは地下を通っているため本来こちら側から干渉することはできない。

蒸発した精神が雨となり浸透して行って世界へ還って行くだけで、直接は届かないのだ。

 ただ、それではせっかく流れていてもずっと溜まっていくだけでいずれは許容量を越えて破裂してしまう。

そのため竜脈には地上に噴き出す穴が存在しているのだ。

 それがパワースポット。

大小さまざまあるのだがこの日本にも現在確認されているだけで一二八箇所のパワースポットが存在している。

 そのひとつがここに在る、と言うわけだ」


 なるほどな。

パワースポットと言うのはエネルギーのかたまりが噴き出す場所であり、その上でいったい何が起きるのかはわからない。

 そういう場所で幽霊の発見率が上がる、なんてこともあるらしいので心霊現象も起きやすくなる可能性だってあるわけだ。

 そして、今回普段ほとんどの学校では七つに固定されにくい七不思議が七つで安定してしまった。

かなりの速度で広まった七不思議は恐らく最初に語られたものとブレが少なかったのだろう。

 付け加えられたりもせずにたくさんの人に認識された七不思議。

運悪くここがパワースポットだったことが原因で七不思議が本当に発動してしまった。

 そうして今回、行方不明者が続出している。

ここに運悪く心霊現象の起きやすい異界ができてしまったために。


「なんとかできるのか?」

「恐らく七不思議を壊してしまえばいいだけだな」

「七不思議を壊す?」

「あぁ、本来ここに在った『本物』は一つだけだ。その怪談を崩してしまえばここの異界は存在できなくなる」

「その怪談がこの異界の核になっているわけか」

「そういうことだな。さて、ここからはかなり危険な場所になる。教頭には待機していただこう。それと凡俗とアヤは待っていろ」

「いや、待てよ、ぼくは行くぞ」

「勝手にしろ」

「え、えっと、ボクは?」

「必要ない」

「ぅ」

「お前、もう少し言い方があるだろ」

「くだらん。どうせ来ても役に立たん」

「だからお前なぁ!」

「い、いいんです、ボクが悪いんです!」

 イラッとしてつかみかかろうとしたぼくの腕をハナが抱くようにして止められる。

泣きそうな顔で首を振っていた。

 こんな顔させるとかマジでこいつにはなんとかなってもらいたいが。

 しかし、こうやってぼくが怒ったってこいつは変わらないし、ハナは余計に悲しそうな顔をするだけか。

何もできない自分にまた、苛立つ。

泣きそうな女の子一人助けられないのか。


「凡俗、ただの無謀で行こうとするのなら許可できないが何か手でもあるのか」

「あぁ、くー子がいる」

「きゅっ」

「フン、そうか」

 時間があったので家に電話してまたくー子に来てもらっていた。

うちにいる中では一番こういう事態に強いのがくー子なのだ。


「ひっ、な、何あれ」

 瀬戸川さんの悲鳴のような声にそちらにみんなの視線が集まる。

その視線の先には何かが動いていた。

 動いていたなんてものではない。

走っていた。

二ノ宮金次郎像が。


「マジ、かよ」

 いきなり来てしまったわけだ。

これでどうやらアキラの予想はあっている可能性が高いことがわかってしまった。

 花子さんに二ノ宮金次郎。

本来有名すぎてどこでも語られる、面白がって作られただけであろう怪談二つが実在してしまっているのだ。

 他にも存在している可能性が高い。


「アレ、どうする?」

「放っておけばいい。あれは本物ではない」

「本物が何かわかってるのか?」

「キサマも予想くらいできているだろう」

「そうか、やっぱ第三怪談が一番怪しいわけだな」

「それ以外は偽者だろう。いや、第四怪談はわからないがな」

 まぁそうだろうな。第四怪談も本物かもしれないが教えてくれない以上は除外するしかない。


「どうする?全部確認するのか?」

「死にたければ確認すればいい。偽者もこの異界では本物の力を持ってしまうからな。恐らく呪いも人体模型も害為す存在になっているはずだ」

「鏡だけに絞った方がいいか。けど鏡は見ると取り込まれてしまうんだろ?どうするんだ?」

「合わせ鏡。通じる可能性があるとしたらその程度だ」

「あぁ、なるほど、取り込まれないために向こうに自分自身を見せればいいわけか」

 正直なところどういう条件で取り込まれるのかもわからない。

それで防げるかどうか。

 もし向こうがこちらを少しでも見ることができたら取り込まれてしまうなら、鏡も意味はないだろう。


「覚悟しておけ。取り込まれたとしても助かるかどうかなどわからんのだからな」

「え、助からないのか?」

「わからん、と言った」

「マジかよ。助からなかったら行方不明になった子と先生はもう戻って来れないってのか?」

「手の打ちようがないな。自己責任だ。教師に関しては気の毒だがな」

 そんな風に雑談しているうちに第三怪談の鏡が存在する階段までたどり着いていた。


「さて、そんじゃ、行きますか」

 そして、一階上を見上げたとき何かを思い出す。

暗い闇の中、光が息を潜めていて、床がかすかにきしむ音だけが響いていた。

 闇の中上に続いていく階段はどこまでも続いている気さえする。

 しかしそれはただの気のせいだ。

だってこの上には鏡があるはず。

 なんだ?どこでこれを見た?


「どうした」

「あ、いや、なんでもない」

 どこでだっていいか。

そんなものに意味はない。

それより今はこの事件を解決しなくては。


「オイ、待て、凡俗!」

「え?」

 アキラたちは動かない。

ぼくだけが歩いていく。

 なんだろうか?

とても夢見心地で、自分でもよくわからないけれど、ふわふわしていた。


「一人で行くな!今オレたちは動けない!危険だ!」

 アキラがなんだか叫んでいておかしい。

お前にはそういうの似合わないと思うんだけど。

 くすりと笑うとアキラの顔が歪む。


「待て!!」

 そうして、ぼくの足が踊り場にかかって、鏡を、

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