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これが君とぼくの日常  作者: 霧間ななき
第一章 『初めての事件』
19/61

第十九話『『君』とぼく』

一九.

「縮地だ」

「なんだそれ?」

 またもや盛大なため息を吐かれてしまう。

そんなことされても知らないものは仕方がないだろうが。

 ホントいちいち腹立つ反応するなぁ。


 現在学園に帰って、例の西島を捕まえたときのあの瞬間移動について聞いてみたのだがこの有様だった。

縮地ってなんだ?全然聞いたことないんだけど。


「縮地、もしくは縮地法などと呼ばれる古武道の移動法だ。相手の死角などから瞬時に距離を詰める体捌きのことだ」

「待て、ボンクラ。そっちの縮地ってあんなに便利な術じゃネーゾ」

「ん?ランは知ってるのか。さすがにお前の知識はすごいな」

「あー、まぁ、オレはナガクイキてっからナ。いろいろ知ってんダヨ。ボンクラ、仙人の使う縮地なら確かにできっケド、武術の縮地って結局人間がフツーに移動できる距離しかツメることなんてデキネーゾ」

「仙人の縮地術は竜脈の流れを利用して一瞬で長距離でも移動できる術だがアレは不便だろう。パワースポット同士しか繋げない上時間が限られている」

「お前も本当になんでも知ってるなぁ」

「キサマが不勉強なだけだ。オレは仙術など使えんからな。体術のほうの縮地しか使えん」

「いや、待てよ、アキラ。お前ぼくらの最初にいた位置からあの部屋までって直線距離でも五〇mは超えてたぞ?」

「その程度なら詰められるだろう?」

 いや、無理だろ。

何言ってんだこいつ。

 ぼくらは人間だぞ、いくら変な力持ってても肉体には限界がある。

コイツホントはものすごいヤツなんじゃないだろうか?


「てかまず三階まで普通の人間は生身で跳べねぇよ」

「軟弱だな」

「お前がおかしいんだよ!?」

「この窓なんのためにあると思っているんだ」

「あ?」

「緊急時に跳び降りて動けるようにするためだ。できるようになってもらわなくては困る」

「待て待て待て、何言ってんだ、ここ二階だぞ!?降りれないことはないかも知れんが下手したら怪我するって!」

「この程度で音を上げるとはな。やはり凡俗は凡俗だな」

「なんの冗談だよ!?一般人はそんなに丈夫じゃねぇっつの!」

「あーたん、アヤちんもできないにー」

「アヤメは無理だろうな。そもそもお前に動けとは言わん。頭だけ動かしていろ」

 うわ、なんだ、アヤの名前も覚えてんのか。

いや、最初大したことないとか言ってなかったっけ?

結構テキトーなんだろうか。


「ボ、ボクも跳べません!」

「諦めている凡俗になど興味はない」

「私も跳べない」

「キリは必要ないだろう。跳ぶより前に動けるのだからな」

 なんてこった。

ハナとぼくが覚えられてないだけか。

微妙にハナとは親近感があるな。

 一番一般人っぽいしなぁ。

話しやすくて気楽な感じ。

 こんなかわいい子が同じ学年にいるなんて知らなかった。


 普段は交流しないほうがいい感じだから教えないことになってるのか?

それはそれでなんだか寂しいな。

 アキラはともかくとして他の二人とは結構うまくやっていけそうな気がするのに。

 って、待った。

ぼくそう言えばこの事件だけ参加って話になってたんだっけ?

 どうするか決めなきゃいけないんだ。


 とか悩んだ振りしてもしょうがないか。

もう答えなんて決まってる。

「みんな、事件解決おめでとう。おつかれさま」

 その後雑談しながら過ごしていると理事長が入ってきてそんなねぎらいの言葉をくれた。


「晶くんはまた大活躍だったね。初めてだったのに紅夜くんもいい仕事をしてくれた」

「犯人確保で実行動できるのが現在オレしかいないからな。仕方があるまい」

「あ、いえ、ぼくは結局ほとんど何もできていないです」

「謙遜しないでいいよ。あの犯人は少しだけ覗いて見てみたとき反省なんて不可能だと思っていたんだ。けれど、君は彼の心を動かしてしまったようだしね。素晴らしいことだよ」

「それに関しては同意だ。キサマがいなかったらヤツはあのままクズだっただろう。あの様子ならいずれ変われるのかもしれん。本人次第だが」

「だと、いいんですけどね」

 ぼくのしたことでアイツが少しでも変わってくれるなら無駄じゃなかったのだから。

あんな悲しい出来事は二度と起きちゃダメだ。

 奈落なんて悲しいものはもう生まれてこないように。


「今回の事件によって生まれた奈落についてなんだけれど、きっちりと神明会のほうで鎮魂の儀を執り行い、慰霊碑を建てることに決まったよ。あそこで二度と悲しい出来事が起きないように」

 奈落はそのまま放っておくとどんどん大きくなり、大きくなればなるほど生きている人々への影響も現れ始め、事故や事件が起きやすくなる。

 そうなるとさらに霊が集まってしまい、悪循環を生み出してしまうのだ。

そのためきっちりと鎮魂の儀を執り行わなければならない。


「ようやく、終わりと言うことだよ。本当にみんな、おつかれさま。ありがとう」

『おつかれさまでした』

「それと、紅夜くん。君に聞いておかなくてはならないことがあるんだけど、いいかい?」

 あぁ、来たな。

覚悟を決めて、うなずいた。


「心霊探偵倶楽部にこのまま在籍するつもりはないかな?」

 アヤやハナの期待と不安の入り混じった表情、キリの無表情だけど期待するような色、そしてアキラの無関心そうなようでいて少しだけ気にした顔。

全部を見回して、一度だけ深呼吸する。


「よろしくお願いします」

「そうか、よかった。ありがとう」

「やたーっ、こー、よろしくにー」

「よ、よろしくですっ、コウヤさんっ」

「よろしく、コウ」

「せいぜい踏ん張るがいい」

 四者四様の反応を見て、笑った。

「あぁ、みんな、これからもよろしくな」





 駅に来ていた。

待っていてくれるかどうかはわからない。

 だって、結局一昨日の夕方はすっぽかしてしまっていたし、それからまた日が開いてしまっているわけだ。

呆れられてしまっても仕方がない。

 本当に悪いことをした。


 けれど、彼女は待っていてくれる、何故かそんな予感がする。

理由はよくわからなかった。

 ただの勘だ。

なんにしろ謝りたい。

 そして、もっと、話してみたい。

彼女に会いたかったのだ。


「あ」

 そこに、彼女は立っていた。

約束していた場所。

そして彼女はぼくに気付いて、とても嬉しそうに笑う。

 胸が、苦しくなった。


「ごめん、一昨日来れなくて。しかも、昨日もだし、ホント、ごめん」

 ふるふると彼女は首を振って微笑む。

『き・に・し・な・い・で』

「いや、でも、うん。そうだな、えっと、ありがとう。待っててくれて、嬉しかった」

 そう言った途端、彼女は満面の笑みになって、本当に嬉しそうな、幸せそうな笑顔を浮かべた。

 その笑顔に見蕩れて、声が出なくなる。

あぁ、もう、完全にぼくは。


「君は、帰る場所はあるのか?」

 少しだけ眉をハの字にして笑った。

そうか、やっぱり彼女はもう、死んでいるんだ。

 制服がここらではもう完全に見ないくらいに古い時点でおかしかったんだ。

彼女はきっと、ずいぶん前に亡くなったのだろう。

 そうして、ずっとここにいた。

地縛霊と言うことになるのかもしれない。


 いや、それにしてはあまりにも彼女は恨みなんてまったく持っていないかのように笑う。

その笑顔は不自然なんてことはまったくなくて、本当に嬉しそうに笑っていた。

 地縛霊はその場所に縛られて憑いてしまうほどに恨みを持った霊がなるものだ。

幽霊と違って土地に憑くため竜脈の影響で存在が消えなくなる。

 そのためにはよほど強い感情を持っていなければなれないのだ。

しかし、彼女からそんな感情は一切感じられない。

 では彼女はいったいなんなのか?


 彼女は微笑を浮かべたままどこからか丸いものを取り出した。

「それ、鞠、手鞠か?」

 手のひら大の幾何学模様が描かれた美しく鮮やかな手鞠。

「あぁ、君は」

 彼女はまた、少しだけ眉をハの字にして笑う。

そうして大体のことを把握した。

 この辺りに古くから伝わる伝承のひとつ。

鞠つき童子と呼ばれる精霊のようなものがいる。

 鞠をついた少女などの姿で現れ、遊んで遊んで、とせがんでくるのだ。

 遊んでやると鞠つき童子はその人に憑き、幸せを運ぶと言われていた。

座敷童子の個人版と言ってもいいのかもしれない。


「ぼくは君に幸せにしてもらいたいとは思っていないよ」

 悲しそうな笑みに変わる。

しかし笑みは崩さなかった。

きっと彼女は本当にやさしい子なのだろう。


 だから、

「けど、ぼくは君を幸せにしてあげたいと思うんだ」

 鞠つき童子であるとかそういうのはどうでも良くて。

ただ、君と一緒にいたいから、君の笑顔を見ていたいから。



「だから、うちへ来ないか?」

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