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これが君とぼくの日常  作者: 霧間ななき
第一章 『初めての事件』
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第十八話『また『次』も会おうね』

一八.

「クソッタレが、反省しろとでも言うのか!?こんなところに連れてきていったいなんの意味がある?

 ふざけんな!あーあーそうだよ!オレがやってやったんだよ!どうだよ、すげぇだろ!

お前らに真似できるか!?あぁ!?クソ凡人が!」

 現場に到着していた。

時間が時間だからかすでに野次馬は居らず、現場を片付けていた作業員もいなくなっている。

 時刻はもう五時を回っていて、夕方と言っていいほどには日が傾いていた。


 PKを封じられた西島が神明会の人に抑えられながらぼくらの前にいる。

態度は正直最悪だった。

罵詈雑言、こんな状態を見たらどう考えても真面目になんか見えやしない。

 何言ってんだ?コイツ。

ふざけんな?

 そりゃこっちのセリフだよ。

これだけのことをやっておいてすげぇだろ?

真似できるか?凡人?


「こー」

「あぁ、わかってるよ」

 声が強くなってしまっていた。

周りにわかってしまう程度にはぼくは苛立っている。

 開き直って逆ギレとか冗談じゃねぇよ。

怒鳴り散らしたいのはこっちだっつの!


「あのようなクズな凡俗に凡人扱いされるほど落ちぶれてはおらん。さっさとキサマのやりたいことをやればいい」

「お前って実はいいやつだよな」

「あぁ?凡俗の基準はわからんな。そんなくだらん評価などどうでもいい」

 照れてるわけでもなくマジなセリフらしかった。

かわいくはないな、どう考えても。

 気に障るけど、いいやつではあるのかもしれない。


「何故こんなことをした?」

「何故?何故って聞いたか?え?わかんないの?なんなの?バカなの?

見てわかんない?くはははははっ、なんだ?なんだ?

 頭回ってないんじゃね?脳使えよ凡人!」

「頭回ってないのはお前だろ。会話も通じないのか、めんどくさいな」

「めんどくさい?そりゃこっちのセリフだぜ?こんなとこ連れてきて反省しろとか冗談じゃねーよ。

 何言ってんの?何言っちゃってんの?僕を笑わせたいの?くははははは、なら笑ってやるよ!」

「質問に答える気はないのか?」

「はーぁ、冷めるわー。そんなに知りたいなら教えるけどさー。

 僕って天才なんだよ。その辺にいる凡人とは違うわけ。この天才的な脳があればPKとか使えちゃうわけ。

 わかる?超能力だぜ、超能力。お前みたいな能無しにわかるかなー?」

「理論は知ってるけどな。だからなんだよ」

 まぁ、さっき聞いたばっかだけどわざわざそれを言うまでもないと言うか、言いたくない。

マジでさっきからイライラが止まらなかった。

 なんなんだ、コイツ。ふざけてるのか?



「わかったふりしちゃうわけねー?別にいーけど。

 緻密な計算によって物質の構成とかまでいじったりしてぶっちゃけなんでもできちゃうわけよ。

 子供の頃から神童とか言われてたくらいでさ。

理数で言えば同じ歳の人間になんか絶対に負けねぇし、年上にだってまったく負けねぇ頭持ってんの。わかる?

 僕ってお前とは頭の構造がぜんぜん違うわけ。理解できないよねー?

 お前らどうせ一般人だし。天才ってさ他人には理解されないんだよ。

 アインシュタインだってそうだった。エジソンだってそうだ。天才は理解されない。

 当然だろ?凡人とは脳のつくりが違うんだよ?そりゃ理解できないよなぁ?

凡人って天才の僕を理解できないから評価することすらしないわけ。

高校まで満点しか取ったことなかったんだよ。問題が簡単すぎるし。

 けど大学に行ったら教授どもは威張りくさって僕を評価しない!

僕のほうが頭がいいから認めようとしないんだよ!

 PKだってわざわざ論文まで書いて証明してやったのに!

目の前で実践すらしてやったのに!手品だって!?オカルトだって!?

 じゃあお前の目の前で起きているこれはなんなんだよ!

自分ができないからって嫉妬してんじゃねえよ!ふざけんな!

 その程度でなんで天才の僕が貶められなきゃなんねぇんだよ!?」

 なんと言うか、正直見ていて痛々しい。

アキラの方がはるかにマシだな、これは。

 自分のこと天才天才って。

勉強ができて特殊な才能を持ってしまっただけに自信を持ちすぎたんだな、コイツ。

 アキラもやっぱりか、とでも言うような呆れ顔で見ている。

いや、もはや見てすらいない。


「大会社も僕の能力を評価しなかった。どれだけ説明してやっても面接官が理解できないんだよ!

 凡人ばっかり集めやがって!そのせいで鉄道会社なんかに入らなきゃいけなくなった。

 車掌だぜ?車掌!この天才の僕が車掌?扉が閉まります、駆け込み乗車はご遠慮くださいってか?なんの冗談だよ。

 なんでみんな僕の力を認めない?

 天才なんだよ、僕は。車掌みたいな同じこと繰り返すことしか能がないような連中でもできる仕事なんてやりたくねぇんだよ!

 けど僕は大人だからな。ちゃんと普通の人間として真面目に仕事してやったよ。

他の人間に合わせて仕事して会話して。

 そうしたら僕は真面目で勤勉な模範的な車掌として認められるようになっていった。

狙っていたわけではなかったけどそれなりに嬉しかった。でもそれも正直つまらない。

 ぜんぜん楽しくなかった。張りもないし家でPKの研究以外することがない。

 あるとき見かけたんだよ。女子高生に痴漢するおっさん。それを見た瞬間ピンと来た。

これを捕まえるのって楽しくね?ってな。

 祭り上げて思いっきり周りに顔見せるようにして捕まえてやったよ。大きな騒ぎを起こしてな。

 快感だったぜ?悲壮に暮れて言い訳ばっかするおっさんの顔がめっちゃ面白くてさ。

その上感謝されるんだぜ?サイッコーじゃねぇか。

 張りがない生活にいいスパイスだった。けどあんまし痴漢っていねぇの。

 いや、見つかんねーだけかもしんねぇけど、どうでもいい。もっといい方法思いついちゃったわけ」

「それが、痴漢をしていない人を冤罪で捕まえていた理由かよ」

「そうだよ。だって誰も僕のほうを疑ったりしない。どんだけ言い訳したって証拠なんて作れる。

 女の子の方だってそうだって言われて助けてやった、ってなると僕に惚れたりしてきてさ。

女子高生って最高!真面目な振りしてるとマジで得すんだよ。

 まぁ、あんまり頻繁にやると怪しいから適度に間隔あけて捕まえるんだ。

大体前の子に飽きると新しい子って感じ。うまくやってれば誰も気付かなくてトラブルもないし」

 なんだよそれ。

最低にもほどがある。

島谷みたいな人の人生無茶苦茶にしておいて自分は女遊びのために?

ふざけんなよ!


 動きかけた身体の前にランが当たった。

よせ、と言う視線で正気に戻る。

 そうだよ、ここでぼくが苛立ったって仕方がない。

コイツには何を言ったってたぶん無意味だし、殴ったってむしろ逆効果だろう。

落ち着け、コイツにわからせるんだろ?


「けどさ、この前ちょっと失敗してさ。ばったり居合わせちゃったわけ。女の子連れてるときに他の子と。

 やっちまったーと思ったね。まぁ、しょうがねーかと思って両方と別れようと思ったんだけどさ。

 どっちもめんどくせー子で嫌がんだよね。責任取ってとか。子供できたとか。

 でさ、とりあえずその日は帰らせたんだよ。言いくるめてさ。どうすっかなーと思ったんだけど、ちょうどその二人おんなじ電車で通学してるの思い出したんだよ」


 殴っていた。殴り倒して馬乗りになる。

そのまま何度も何度も殴りつけた。

 こいつは!そんな理由で!あんなに!たくさんの!人を!ぼくの!大切な!友達を!

殺したって言うのか!?


 もう耳に何も音が入らなくなっている。

声が聞こえた。腕を捕まえる腕がいくつも現れて。


 それを振りほどいてでも殴ろうとしたけど、その瞬間にぼくの頬を叩く手がそこにあった。

「コウ、落ち着いて」

「え?あ?ハル?なんで?」

 ハルが目の前にいる。

奈落のそばにいたら危ないから、と置いてきたはずだった。


「ハナを置いてきてセーカイだったナ」

「え?」

「コウヤが心配だからツイテいくってハルが言い張ってたダロ?」

 行く前にハルはぼくのことをものすごく心配していた。

だから絶対についていくと言い張っていたのだ。

 けれど、ぼくが大丈夫だから待っていてと言ったのだが。

 それでも引かなかったハルにランが耳打ちしていた。

そして、ハル一人だと寂しいだろうから、と言うのとハナ自身が奈落を見たがらなかった、と言う理由でハナも置いてきたのだ。


「ハナは口寄せが使えるっていってたヨナ?ソレでハルをコッチに送ったんダヨ」

「そんなこともできるのか?って言うかそのためにハナを置いてきたのか」

「そうしないとハルも納得しなかったシナ」

「けど、ハル、奈落はハルにとって危ないから!」

「コウ、俺はそんなのどうでもいいんだ。ぼくはコウが心配なだけ。今日はずっとなんか思いつめたような顔しててさ。放っておけないよ」

 ハルはそのままぼくを抱きしめる。


「落ち着いて、コウ。コイツは本当にひどいことをしたと思うよ。だからってそのコイツなんかを殴ってコウのこぶしを汚さないで?コウのこぶしはそんなことのためにあるんじゃないんだ」

「ぼく、は?」

「コウは誰かを守れる人だよ。誰かのために動けるのはとてもいいことだと思う。けどね、コウ。もう、失ってしまったもののために、自分を傷付けないで」

「でも、コイツのせいでハルや島谷、他にもたくさんの人が!」

「うん。それを悲しんでくれるコウがいてくれれば、それでいいんだ。こんなヤツを殴って、自分を傷付けたりしなくていい。そのこぶしは生きている誰かを守るために取っておいて?」

「そう、だな。うん、ごめん、ハル、ありがとう」

 こんなぼくのためにこんなところまで来てくれて、そんな言葉をくれた。

本当に、ぼくみたいなどうしようもないヤツなのに、ずっと心配してくれて。

 ぼくを素敵だと言ってくれる、とても大切で、素敵な友達。

お前がいてくれたからぼくは、動けたんだよ。


「もう、大丈夫だよね?」

「あぁ、もう、大丈夫だ」

 お互い、笑った。そこで、悟る。


 そっか、行くんだな。

「またな、ハル」

「うん、バイバイ。また『次』も会おうね、コウ。がんばって」

「おぅ、がんばるよ」


 そして、一言だけハルはぼくに耳打ちしていく。

うなずいたぼくに笑って、ハルの身体は光に包まれて消えていった。


 小さな粒になった光は、空に昇っていくようにして薄れていく。

最後には空気になって、消えた。



「な、なんだ、なんで消えた?何が起きたんだ?アイツはどこから現れてどこに消えたんだ!?」

「うるせぇな。余韻にも浸らせてくんねぇのかよ」

「そんなの知るか!今のはなんだ!?」

「お前が殺した一人だよ。ぼくの、大切な友達だ」

「は?何言ってんの?何言っちゃってんの?幽霊とでも言うわけ?笑える冗談だな、オイ!」

「そうかい」

 ぼくの腕を捕まえていた神明会の人がもう落ち着いていると判断してくれたのか、手を離してくれた。

 ぼくがしようとしていることをわかってくれたのかもしれない。

西島に近付いていく。


「なんだよ、また殴るのか!?」

「もうしないよ。お前に見せてやりたいものがあるんだ」

 穏やかな笑顔で、そう口にした。


「見せたいもの?幽霊でも見せたいとか言うのか?冗談だろ。何言ってんだよ、幽霊なんているわけがないだろ?オカルトじゃねーか!そんなモン実在しねぇっつの!どうせ手品だろ!?」

「それ、教授たちがお前に言った言葉と、同じだろ?」

 首を傾げてゆったりと笑う。


 結局そうなんだよ。

みんな、ちょっと見たくらいじゃ信じられない。

 それは仕方のないことだ。

この人はそこで諦めずにもっと周りにわかりやすいように説明すればよかっただけなんだ。

 アキラはそういう努力をしていないわけじゃない。

だから、きちんと周りにも認められている。

 こいつは努力を惜しんで諦めて人のせいにした。

結局、全部自分のせいなんだ。


 さぁ、認める時間だ。

自分の愚かさを。

自分のしでかしたことの罪を。

その、重大さを。

悲しい、現実ってヤツを。


 その頭を捕まえて、奈落に向ける。

「――っっっっ!?」

 そうして、今回の電車横転事故、もとい大量殺人事件は、終結した。

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