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これが君とぼくの日常  作者: 霧間ななき
第一章 『初めての事件』
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第十六話『ぎせいしゃ』

一六.

「正直なところ推理とかまったくできてないし、やってたことあんま探偵って感じしないな」

「それはキサマが凡俗だからだ。オレやそのネコにキリは推理していたではないか」

 学園に戻ってきていた。

西島と鬼の方、島谷と言う男二人を拘束し、現在研究棟五階にある保護室にて監禁中。

 正直なところ、どっちが犯人なのかさえぼくにはわからないんだけど。

 と言うか、キリの名前は覚えてるのな。

かなり頭はいいしアキラも認めていると言うことか。


 とりあえず今は特別教室に全員集合していた。

今から事件のまとめ会議と言うことになるらしい。

 事件解決後に全員で事件についてまとめる会議を行う決まりになっているとのことだった。


「毎度のことだが事件解決時に全員がその場に居合わせることができず、状況説明しなければならないのはいい加減なんとかならないのか。いちいち面倒で仕方がない」

「乗れる人数も限られてるし危険なところでも動けるメンバーが限られてくるのも仕方ないだろ」

「それはいいとして、何故現地にいたキサマもわかっていないのだ」

「情報が少なすぎるんだよ。お前らと違って知識少ないし」

 盛大にため息を吐かれる。

しょうがないだろ、ぼくはそこまで頭のいい方ではないんだ。

勘もよくないし、推理とかだってあんまりしたことない。

 正直こいつといると癇に障るだけじゃなくてホント自信をなくすわ。

「概要から話すことにする。とりあえず事件の発端部分くらいはわかるだろうが」



 五月一三日、事件発生。

乗客一三二名と乗員二名が犠牲となった大事故だった。

 乙女川にかかる十日橋を抜けた辺りで発生。

 車体側面に大きなくぼみを残して電車は横転して一三三名が死亡、車掌だった西島だけが生き残る。

 西島は意識不明の重態だったため面会謝絶していたが本日意識が回復した。

犯人の手がかりを知る重要参考人として現在拘束中。

 もう一人の容疑者の島谷、前日に痴漢容疑で西島に補導され、勤めていた会社を当日付けで解雇されたため西島に恨みを抱えていたと思われる。

 前日にも痴漢行為に及んでいたと言う証言があり、反対側の電車に乗るなど不可解な行動も多い。


 そこまでホワイトボードに書いてアキラはこちらを振り返る。

「ここまでが大筋な流れだ。質問は?」

「西島はどうやって生き残った?」

「十中八九PKだな。いくら道具を使って衝撃を緩衝させたとしても乗客が全員亡くなっていることからわかるように、電車の横転によって引き起こされるエネルギーは計り知れない」

「なるほどな。もう一人昨日まで生き残ったのは?」

「一般人だ。ただの偶然だな」

「そっか」

 偶然生き残っても二日、しかし意識を取り戻すこともなく、結局一三三名の死者。

 その犯人がもし西島なのだとしたら、いったい何故?

何故自分が乗っているときにやったんだ?

どう考えたって危険だろう。

 そして、動機もわからない。

 真面目だったはずの彼が何故そんな気が狂ったようなことをした?

わからないことだらけだ。


「今から重要参考人として島谷を呼ぶ」

「あ?そっちからなのか?」

「犯人を呼ぶより核心を得る情報がほしい。幸い西島より島谷の方が協力的だそうだ」

 どういうことだ?

何故協力的になる?

ぼくに襲い掛かってきたようなヤツだぞ?

人を殺すことをいとわないような、鬼なんだぞ?

 何がなんだかわからなくなって混乱してくる。



「襲ったことは謝る」

「いや、謝られてもな」

「捕まるわけには行かなかったんだ」

「ずいぶん冷静なんだな」

 硬化したままの身体を特殊そうな手錠と紐で縛られた島谷はずいぶん冷静そうに見えた。

鬼の姿をしているが普通の人間のようだ。


「君たちが敵ではないと判断したからだよ」

「ふぅん」

「それより話を聞かせてもらおう、凡俗。キサマは『霊を見ることができない』な?」

「あ?ちょ、ちょっと待て、それはどういうことだ!?」

「できない」

「え?」

 アキラの質問とその返答にぼくはあ然としてしまう。

幽霊を見ることができない?

そんなバカな。

 だってこいつはあの時、奈落の方を見ていたじゃないか。

それに、くー子を見て驚いたはずだ。

それは絶対に間違いない。


 しかし、待てよ?

さっきくー子の姿を見える状態にしたとき島谷は驚いていた。

まるで、初めて見たように呆けていたのだ。

 だとすると、どういうことだ?


「この男は霊感がある。しかし、霊視はできない。それだけのことだ。さっきの反応を見てわからなかったのか、キサマは」

「と言うか、わかったお前がすごいよ」

「それゆえに先ほどの空狐に驚いたのだろう?」

「そうだよ。あんなに美しいものを見たことがなかった。アレは、空狐と言うのか」

「ちょっと待ってくれよ、島谷、アンタお昼に会った時はくー子と戦ってたじゃないか」

「お昼?あぁ、そうか、あの時いたのはその空狐だったのか」

「うん?どういうことなんだ?」

「霊感の高いものは触れることはできるが霊が見えなかったりするものだ。気配などはわかるが見えないからな」

 そうか、霊視は本当に特殊な力だから、見える人のほうが少ないんだな。

しかし霊感を持つ人は多い。

そして島谷は鬼化することで霊体などにも触れられるようになっていた、と言うことか。


「そうか、だからアンタあの時逃げたんだな」

「あぁ、見えなかったが力の強さは感じていた。勝てる気がしなかったので逃げさせてもらった」

「なるほどな。しかしアキラ、それでも容疑は消えたりしないだろ」

「そうでもないな。それさえ聞けばあとは自ずと答えが見えてくる。こいつは犯人ではない」

「どういうことなんだ?わかるように説明してくれよ」

「簡単に思考停止するなと言ったはずだ。考えろ、そして、わからないなら聞けばいい。そこに聞く相手がいるのだからな」

 アキラは島谷をアゴで示して腕組みしたままこちらを見ていた。

ぼくが解くまでは教えない、ってことか。

 いやはや、なかなか手厳しいな。

とは言え、言われっぱなしも気分が悪い。

少しは見返してやりたいところだった。

 しかし、なんだ?どこから切り込めばいいんだろうか?

こいつについての疑問なんてほとんどないんだが?


「あぁ、そうだよ。そこは大きな疑問だったんだ」

「?」

「何故、アンタは普段乗るはずの下りとは逆の上り電車に乗っていたんだ?痴漢するためか?」

 そうだよ、そこはかなり重要な点じゃないか。

いったい何が理由だ?

あの少女が目に付いて痴漢するためなのか?

そのためにわざわざ逆に乗るか?


「痴漢だって!?だからそれは言いがかりだと言っただろう!?」

「しらばっくれてんじゃねぇよ。あの子はおびえてたんだぞ?あんなことしておいてよくも」

「だから、私には見えないんだよ」

「あ?」

「私には、幽霊は見えないんだよ」


 ゆうれいは、みえない?


「待て、待ってくれ、まさかアンタあの子が見えていなかったとでも言うのか!?」

「そうか、やはりあそこには誰かがいたんだな。おびえさせてしまったのならすまなかったと伝えておいてほしい」

「ちょ、え?どういう?」

「冤罪だということだ」

 ぼくは戸惑いを隠せない。

 冤罪?

 幽霊?

あんなに楽しそうに笑ってたのに?


「逆側に乗っていた理由、それは何かの存在を感じたから、ということだろう」

「あぁ、その通りだよ。その前の日から感じていたのだが気のせいだと思っていた。しかし、次の日も感じて次の電車で降りて逆側に乗ったんだ」

「そうしてそれを確認するためにその場所へ行った。そこでキサマに捕まったのだろう。そこから離れたこいつには更なる不運が重なり、たまたま挙動不審だったと程度の理由だろう、冤罪で痴漢として祭り上げられ、西島に補導された」

「そう、アイツは私が何を言おうと耳も貸さずに一方的に!」

「なぁ、島谷」

 今、ぼくは恐ろしいことに気付いてしまった気がする。

いや、気のせいだったらその方がいい。

きっと気のせいだ。

そんなわけがない。

 しかし、考え出したら止まらなくなった。


「なんだね?」

「アンタがいつも通勤で乗ってたのってさ、もしかしてハルの乗ってた七時半に中津駅に到着する電車だったんじゃないか?」

「そうだが、それがどうしたんだい?」

 あぁ、それは。

とても聞きたくない言葉だった。

だってつまり。



「やっと気付いたか。そう、二名の生き残りの内昨日死亡したのは偶然生き残った一般人、島谷 宗治。この男で間違いない」



 この男も間違いなく被害者だったってことなんだ。

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