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これが君とぼくの日常  作者: 霧間ななき
第一章 『初めての事件』
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第十五話『状況、終了。』

一五.

 西島 英明、二八歳男性。

中肉中背、真面目そうな顔立ちで好青年といった印象を受ける。

 その顔が今、残忍そうな笑みに歪められていなければその真実は受け入れがたかっただろう。

だってどう見たって痴漢で捕まって会社を辞めさせられた男の恨みによる犯行である方がまだスッキリするに決まっている。

 けれどこの光景を見たら疑いが生まれてしまう。

車掌の西島にもあの電車事故を引き起こすことができる可能性が高いのだ。

 精神的にも、能力的にも。



「PK、サイコキネシスの略で念力や念動力などとも呼ばれる、ESPと合わせて超心理学と言う分野でPSIとしてまとめられて研究されている異能だな」

 鬼を吹っ飛ばす力はぼくらの目には映らない。

いや、正確には完全に見えないわけではないのだが。

 起きている現象を目の当たりにするとそれ以外に考えようがない不思議な光景だった。

 まぁぼくらのような霊視能力では見えないものが存在する可能性も否定はできないけど。


「アキラはその辺も詳しいのか?」

「ESPとPKは神明会の研究で存在が証明されているからな。それに俺も関わっている」

「お前ってホントにすごいヤツなんだな」

「今更だな。フン、お前にも見えているだろう?あの光が」

「あぁ、なんとなく見えるよ」

 衝撃が発生する数秒前、発生地点に虹のような数色の色が入り混じったような空気が生まれる。

 そしてそれがぐにゃりと回転するように歪んだ次の瞬間、衝撃が生まれるのだ。

 あの鬼はかなり直線的な動きをしている。

そのため先読みして攻撃されているのだろう。


「簡単に説明するとPKと言うのは人間が思考することによって生まれる微弱な電流を体外に飛ばすことのできる特殊な技能だ。普通の人間はまず体外に電流を意図的に飛ばすことができない。しかし、PKを使えるものは脳内に特殊な器官を備えているのだ」

 その範囲は個人差はあるものの、せいぜい五m程度のものらしい。

しかし、その五mは大きな力を生み出すのに不十分な距離ではない。

 かなり精密な操作ができるらしく、必要な物質をその力で集め、その物質が集まったのが色で視認できる。

今回の場合緑と言うか、青緑といったところか。


 そうしてその物質に過電流を流し込み、過負荷をかけて高熱を発生させることで爆発を起こす。

ある程度物質を集めてしまえば電流を流し込める距離はどんどん伸びるため、準備時間が長ければ長いほど遠い位置まで操作できるようになるとのことだった。

 そしてもうひとつ、金属が含まれるものなら物質そのものを内部から操作することもできてしまう。

そのため念力などと呼ばれる、と言うわけだ。



「つまり、今アイツは完全に準備を終えて鬼と戦ってる、ってわけか」

 何せ三階から地上の、しかも自分で吹っ飛ばしたことによってさらに遠くにいる鬼を攻撃できているのだ。

その距離は二〇m以上。

 しかも鬼は走ったり吹っ飛ばされたりでいろいろと動いているのだ。

それなのにあぁやって百発百中している。

 地雷のようにいろいろ散布してあるのかもしれない。

下手に動くとぼくらも巻き込まれる可能性がある。


「さて、凡俗。キサマならこの状況、どう打破する?」

「あー、正直あんなの相手じゃくー子が怪我しちまうだけだし、なんの得もない。あいつみたいに突っ込んでいくのはまったく得策じゃねぇ」

 アイツは全身鎧みたいなものだしかなり丈夫そうだからまだまだ向かって行っているがアレではいつまで経ってもたどり着けない気がする。

 いや、そうでもないのか?

この辺に必要な物質がなくなれば攻撃できなくなる?


「時間経過を待てば、」

「キサマの頭には何も入っていないのか?どれだけ愚かなのだ」

「なんだよ、何が言いたいんだ」

「時間経過を待つ?そんなことをしていたら余計な犠牲を生み出し、さらにヤツにオレたちのことが知れる可能性が高くなる。まったくの無意味どころか迷惑だ。もっと頭を使え。キサマの頭はその程度か?」

 ホントに容赦ねぇな、こいつ。

しかし、言っていることは一切間違っていない。

状況打破としては最悪の道筋になりかねないわけだから。

 だとすれば、どうする?

どう切り抜ければいい?


「あー、月並みだがヤツが鬼に集中している間に奇襲、くらいか」

「そんな方法が成功すると思うのか?」

「正直あいつにアヤみたいな力があったら切り抜けられないし、かなり危険な賭けになるな」

「当然だ。ヤツの狙いもそもそもわからん。アレが力を誇示したいだけの愚か者ならばその方法も成功するかもしれないが」

「じゃあどうしろって言うんだ、お前は」

「思考停止が早いな。わざわざこれだけ優秀な人材がいてそれを使わない手はないだろう」

「あ?」

「一瞬、ヤツの気を奪え。そうすればオレがヤツを捕まえる」

「いや、そんなこと言われても声かけただけじゃぼくが攻撃されるだけだろ」

 まさか囮にでもなれと言うのか?

洒落にならないんだがマジで言ってるんじゃないだろうな?


「キサマの力はなんだ?」

「霊視と幽霊を人にも見せることが、」

 あぁ、そういうことか。

やっとわかった。

なるほどね、確かにそれは妙案だ。

 認めたくないがこいつは頭の良さを実戦で使えるやつだった。


「妖怪も一般の人間には見えないんだったな」

「そして霊視できたとしても空狐と言うのは非常に目を奪われる美しさを持っているからな」

 一瞬奪えばいい、というだけなら確かにぼく自身が出るよりくー子が出た方が奪えるだろう。

 空狐と言うのは三千年生きた狐の妖怪。

様々な妖怪が存在するがその中でも非常に希少な妖怪だった。

 そしてその姿は知っていようと知っていまいと目を奪われるほどに美しい。

あの鬼だってくー子が出てすぐはやはり動きが止まっていたほど。

 それにもしダメでもくー子なら恐らくあの攻撃を避けることができる。

何せアレは発生する前に見えるのだ。

 ぼくがそれを見てくー子に指示すれば避けられる。


あの鬼だって避けることに専念すれば避けることができるだろう。

あまり早い攻撃ではないのだ。

 とは言え生身の人間ではそうそう避けることのできる速度ではないのだが。


「オレの合図に合わせて空狐を変化させろ」

「了解した」

 ちなみにキリたちは離れた位置に隠れていた。

さすがに危険なのでランもそちらにいる。


 再び西島が鬼にPKで攻撃した瞬間、

「行くぞ!」

「くー子!」

「きゅっ」

 くー子の身体が大きな狐の姿に変わる。

そして視線がくー子に集まった。


「なんだ!?」

 突然のことに西島も呆然としてくー子を見ている。

鬼のほうもくー子を見て立ち止まっていた。

何故かおびえが見るような気もする。


「愚か者が」

 そうして、さらに驚きの光景が次の瞬間には広がっていた。

三階まで地上から一瞬で移動したアキラが西島を拘束していたのだ。


「何が起きた!クソ!あぁ!?」

 アキラの手には何かが握られていた。

それはなんと言うか、携帯ラジオにしか見えないのだが。


「フン、もうPKは使えんぞ」

「そんなわけあるか!チクショウ!なんでだ!?」

「PKの弱点は強力な電磁波の発生するところでは使えんのだ。これは微弱電流を吸収してそれに対応した電磁波を発生させて無効化させる機器でな。ラジオを改良した玩具だがまぁ、キサマが想定外の能力を持っていたとしたら対応できない賭けだった」

「そんなものに負けるか!僕は特別なんだ!誰も真似できないような力があるのに、バカにしやがって!クソ!なんなんだよ!」

「低能が」

 吐き捨てるように言うアキラのもとへくー子に乗って飛び上がった。

鬼のほうは運転手の人が呼んでくれたらしい神明会の人が捕らえて大人しくなっている。

 くー子を見てから何故か大人しくなってしまっていた。

一度見たはずなのになんであんなに驚いていたのかわからないが。



 なんと言うかよくわからないまま、あわただしく事件は終わりを告げてしまったようだった。

実感は沸かないがたぶん、犯人は捕まえたのだろう。

 容疑者は二人。

どちらも捕まえたのだから。

 そうして、すべて納得が行かないままに事件は収束していった。

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