第十四話『生存者』
一四.
一刻も早く病院に向かわなくてはならない。
急いで病院への車を用意してもらえるよう連絡しながら教室を出た。
一緒にアキラとキリがついてきている。
「お前らも行くのか?」
「キサマだけが行ってどうする。戦闘能力など皆無なくせに」
「くー子がいるからな。キリは?」
「ひとつ確認したいことがある」
「確認したいこと?」
裏門にはもうすでに車がつけてあってそこに三人で乗り込んだ。
他のメンバーはついてきていない。
乗り込んですぐ車は走り出す。
「オイテくんじゃネーヨ」
「うぉ、ラン!?」
窓からランが飛び込んできた。
どうも特別教室から直接飛び出してきたようだ。
あの教室だけは窓がある。
なんのための窓だかはよくわからないがこんな使い方をするためではないだろう。
「ついてくるならそう言えば連れてきてやったのに」
「ちょっと気になるコトがあったんでナ」
「気になること?」
「まぁタイしたコトじゃネーシ、本人に確認すればすぐ答えはデちまうモンだが」
「たぶん彼が気にしていることと私の考えていることは関係していると思う」
「ん?そうなのか?」
「ショージキ間違っててくれたホーがスッキリすんだケドナー」
「間違ってた方がスッキリする?」
「私としても間違っていてくれた方がいいとは思う」
「どういうことなんだ?話してくれよ」
「コウヤはホントにヤツを見たんだヨナ?」
「え?うん、間違いなくあいつだったよ」
「だとすると不思議な点がデテくんだよ」
「え?」
不思議な点?ぼくがあいつを見ると不思議?
「あ」
「わかったダロ?コウヤが見てんだとしたらアイツの行動の意味わかんねーんダヨ」
簡単な疑問だけどすっかり忘れていた。
ハルはぼくとは逆の電車なのだ。
お互い中津駅に向かって行く、上りと下りの電車に乗っていたはずだった。
それ自体は不思議なことはひとつもない。
ただ、よく考えてみてほしい。
電車が横転したのはハルの乗っていた電車であり、位置としてはぼくの家から言えば中津駅より向こう側なわけだ。
その周辺に彼は住んでいる。
とするとおかしなことが起きる。
ハルたちの乗るのは『下り』の電車なのだ。
位置から言えば彼も当然下りに乗っているはず。
なのに、ぼくが詰め寄ったとき彼は上りに乗っていた。
ぼくと同じ電車に乗っていたわけだ。
いったいどういうことなんだ?
なんで逆側に乗ってる?
「ってコトは何?アレ別人か?」
「そういう可能性もあるナ」
「いやでも待ってくれよ。だとしたらなんでアイツぼくを見た瞬間逃げたんだ」
「もうヒトツ仮説はあんダヨ。けど、確証がねーからイワネー」
「なんだよ、気になるな」
キリを見てみるとうなずいてきた。
どうやらキリも同じ仮説に至っているらしい。
しかし、それは間違ってた方がスッキリするってことか。
よくわからないな。
アキラはさっきから持ってきた資料をずっとにらんでいた。
こいつも何かに気付いたのか?
「もう少しで到着します」
病院が見え始めていた。
そう、目的地は車掌の入院している病院。
あの時ちゃんと聞こえていた可能性は高いとは言えないのだがもし聞こえていたら向かってきているかもしれない。
周辺の病院すべてに神明会からの手のものがすでに配置してくれているとのこと。
もし無関係の人間を襲い始めたら最悪だ。
そうなる前に止めなくては。
ガシャーン!
窓ガラスとコンクリートがが破壊された音と共に三階の一室から鬼が吹っ飛んできた。
到着した瞬間の出来事で頭が真っ白になる。
まさか遅かったのか!?
しかし、なんだか様子がおかしい。
なんだ?
なんで鬼が吹っ飛んできた?
誰かと戦ってる?
『くそぉおおおお!!』
鬼は叫び声を上げて落ちたところからまたその窓に向かって走り始めた。
その声もフォルムも先ほど取り逃がした男で間違いなさそうだ。
しかし、なんだか余裕がない。
さっきも余裕はなかったのだが今はさらに必死だった。
『殺してやる!殺してやる!殺してやる!!』
飛び上がった瞬間、
ドゴン!
頭部に激しい衝撃音が響き、鬼がまた簡単に吹っ飛ぶ。
おかしい、なんだ?
どういう状況だ?
何も見えなかったのに鬼は横に吹っ飛んで落ちる。
あんな巨体が簡単に吹っ飛ばされていた。
「クソ、ケッキョクハズレチャくんネーカ」
「なるほどな。大体すべてが繋がった」
「それじゃ、やっぱり」
近くの三人はそんな声を上げているがぼくは言葉すら出ない。
意味不明すぎた。
鬼は何と戦っているんだ?
さっきから一方的に攻撃ばかりされている。
ぼくには見えない何かがいるのか?
しかし、明らかに鬼が目指しているのは三階の窓。
いったいそこに何があると言うのか?
鬼から目を離してそちらへ目を向ける。
そして、すべてが繋がった。
そういう、ことかよ。
そりゃ、確かに間違っててほしかったよ。
けど、状況から見れば実際、明らかだったじゃないか。
「アンタが、真犯人かよ!?」
たった一人の生き残り。
状況から言えば、当然帰結の答えだった。
見上げた先に映っていたのは調書にも載っていた、真面目そうな顔をした車掌だったのだ。