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これが君とぼくの日常  作者: 霧間ななき
第一章 『初めての事件』
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第十一話『手がかり』

一一.

「こ、んな、こんなことって、あるのかよ!?」

 人間の成れの果てとしか言いようがない。

 表面に生まれてははじけて紅と怨嗟を撒き散らす顔はひとつひとつが違う顔で。

みな一様に苦しそうだった。


 これが、奈落?

地縛霊と言うのは見たことがあるのだが比べ物にならない。

 呪いの強さもおぞましさも、悲しみも。強すぎる怨恨を抱いてしまうと人間って言うのはここまでのものになってしまうのか。

 もはや同じ人間とは思えないほどの存在になってしまっている。


 涙が止まらなくなっていた。

身体も震えてしまってうまく動かない。

 しかし、奈落から目を離すことができなかった。

ひとつ違えばハルもこうなってしまっていたのだ。

そう思うと恐ろしくて、悲しくて、憐れにすら思えてくる。


 その手をアヤが握り締めてきた。少しだけアヤの方に引き寄せられる。

「こー、あんまりアレを気にしちゃダメ」

「そんなこと、言われても」

「もう救えない命に」

「それは、わかってる」

 それでも、祈らずにはいられなかった。

あの苦しみから少しでも早く、解放されてくれますように。

 あんなところにいちゃダメだ。

誰一人としてあんなところにいていいわけがない。


 この事件を早く解決して、彼らを世界に還してあげなくてはならない。

命は祝福されて生まれてこなければならないのと同じように、死した命はせめて穏やかに眠りにつかなきゃ、ならない。

 そうじゃなきゃ、あまりに報われないだろう?

こんなにも無残に悲しい死に方をしてしまった。

 なのにまだ、こんなところでずっと苦しみ続けなくてはならないだなんて。

 ぼくが絶対に許さない。

どんな手を使っても必ず、彼らを解放してみせる。


 アヤに手を引かれてその場から離れる。

 自分だけでは離れられないほど悲しい光景だった。

 現場見分を始める。

電車の突っ込んだ民家には幸いなことに人がいなかったらしく、数軒の民家が破壊されているが人の被害はなかった。

住宅街だがたまたま共働きの多い地域だったらしい。

 もう少し時間が早かったらもっと悲惨な事故になっていただろう。


 しかし、電車が突っ込んではいるわけだから凄まじい光景になっている。

瓦礫だらけの状態。

 この状態では住んでいた人たちもやるせないだろう。

現在は鉄道会社の負担で仮の住まいで生活しているとのこと。

調査が終了するまで動かせないということらしい。


 状況が不可解すぎるのだ。

川を越えた直後辺りから何かに衝突されて倒れ始め、橋の高さに合わせて土手があったため、その上の線路から滑り落ちるようにしてここへ突っ込んだ。

 土手はそれなりの高さがあり、車などで突っ込んだりと言うのはありえない。

まぁそもそも、そんなものが突っ込んだなら目撃情報が出るだろうし、調査していけばわかることだ。

 それに車のほうが無事じゃないだろう。

破片も落ちていないなんて不可能だ。

ということは、まぁ確かに心霊現象である可能性は高いと言えるわけだな。

 それなら一般の人の目撃情報がなくてもおかしくない。


 そもそも落ちてきた瞬間とか見ていても電車の大きさにばかり目が行ってまともに状況を見ていられる気がしないが。

 音が聞こえたという証言もあったのだがその音があまりうまく表現できないようで証言がまとまっていなかった。

 鈍い音だった、とかかなり大きな音がした、などあいまいな表現が多いらしい。

まぁ電車自体が結構大きな音を立てながら走っているので仕方がない。



「向こう側が進行方向の一両目だな。で、例の車掌はこっちで発見された、と」

 資料を見ながら確認してみると車掌は進行方向の逆、一番後ろの両の一番後ろ辺りにいたようだった。

 駅までそこまで遠くない場所なので止める準備とかをしていたのかもしれない。

だからこそ運よく生き残れたのだろう。


 ちなみに彼についての調書を見てみると、かなり勤勉で真面目な車掌だったらしく、痴漢などを検挙した数が結構あるらしい。

他には車内でのケンカをいさめたりもしていたようだ。

 同僚にも評判のいい人で、厳しくて真面目だけどやさしくて人柄のいい人だったとのこと。

 一人だけ生き残ったというのはかなり精神的にもきついかもしれない。

いいことばかりではないだろう。

けれど、たった一人でも生き残ってくれていてよかった。


「一両目に行ってみるか」

「そだにー」

「あー、オレ資料見ただけでダイタイわかっちまったゼー」

「は?」

「ボンクラがいく意味ネーってイッテタ意味わかったワ」

「ちょっと、待て、マジで?」

「まぁでも見る意味ネーってわけでもないしナー」

「どういうことなんだよ?」

 よくわからないがもうわかってしまったらしい。

資料見ても正直見当もつかないんだが。


 とりあえず一両目まで来る。

 もう奈落が目と鼻の先といった感じでかなり気分が悪くなった。

 これ生きている人間にも影響与えるんじゃないだろうか?

見えない人にはこれどうなってるように感じるんだろう。

その辺で調査している人が奈落の中から出てきたりしているのでもしかしたら霊感ない人は何も感じないのかな。


 前から疑問だったんだけどなんでぼくは幽霊に触れるんだろう?

そのせいでまったく区別がつかないんだよなぁ。

アヤも触れてたし霊感の強い人は触れる、のか?


「コウヤはドコ見てンダヨ」

「あぁ、いや、なんでも」

 電車に目を落とすと、凄まじいくぼみが見える。なんと言うか、マンガみたいだった。


「殴ったみたいに見えるのはぼくの気のせいなのか?」

 そう、バトルマンガとかであるように、こぶしくらいの大きさで殴ったような感じに見えるのだ。

 いや、くぼみのサイズはかなり大きいのだがその中心があるような感じがするというだけなのだが。

 隕石のようなものがぶつかったような感じ、と言えばわかるだろうか?

 円形にくぼんでいた。

 形が想像できない。

車とかがぶつかったらこうはならないだろうな、と言うことはわかった。


 つまり、衝突したものはそんなに大きくない?

しかし、穴があいてしまっていると言うわけでもないので先端のとがったものではないのだろう。

 とは言えこれでいったい何がわかる?

別に何かの破片とか塗料が付いているわけでもない。

 キリがそのくぼみをじっくり見つめていた。

ランはふよふよその辺をうろうろしている。


「何やってんだ?」

「いや、どの辺でやりゃーコーなんのカネ」

「どの辺でやる?」

「コウヤの言ったとーり殴ったんダロ、ソレ」

「いや、殴ったって、あんなもん動いてたら普通当てれないだろ?それにどんなに力が強い人が殴っても止まってる状態だってあんな風にへこませることだってできない」

「フツーの人間ならナ」

「普通の人間じゃないってことか?」

「そーじゃなきゃ手がモゲて終わりダゼ」

「手がもげるって、いやまぁ、確かにそうだよな」

 時速一〇〇キロとか出てるって話だしな。

そんなもんに人間の手を横からぶつければ間違いなく折れる。

悪ければ本当にもげるだろう。


「コウヤ、線路のある橋のトコって堤防あんのか?」

「あー、あそこに橋があるからな。堤防、あるぞ」

「人間がノボレルカ?」

「たぶん行けるんじゃないか?」

「そーか。なら、あとはダレがやったか、ダナ」

「何、今ので方法はわかったってのか?」

「あぁ、簡単な話ダゼ。学園に帰ったラ教エテやるヨ」

 心霊現象って言うかまぁ、そっち系の話がわかる人なら普通にわかる程度の現象ってことなんだろうか?

アキラもそれでわかっていたからこそ来なかった?

ならキリはなんで来たんだろう?


「キリ、何かわかったか?」

「調書で上がっている以上のことは何も」

「そっか」

 無駄足だったんだろうか?そうなってしまうとなんだかアキラの思った通りになっているみたいで嫌だな。

まぁ、奈落を見ることができたのは大きな収穫ではあるかもしれないのだが。

 強い決意を抱くことができただけでも良しとしておこうか。



 そうして振り返ったとき、見物人の一人と目が合う。

 あれ?この人どこかで?

 瞬間、その目は驚愕に見開かれて、逃げ出した。


「オイ、待て!?」

 何故逃げ出す?

なんだ?

ぼくはどこで今の人を見た?

 最近のはずだ。

追いかけて走り出しながら思考をめぐらせる。


「ちょっと待て、コウヤ!ソイツは!」

 ランの制止の声を振り切りながらその背中を懸命に追いかけた。

サラリーマン風の男、特徴はない。

 こっちは学生で向こうは社会人っぽい感じなわけだ。

普段から運動しているこっちの方が体力にも有利。

 少しずつ差を縮めていく。

 突然で反応が遅れたため追いかけ始めるのが遅かったがそれでももうずいぶん追いついてきていた。

あと三〇mもないだろう。


 思い浮かんだのは一人の少女。

「ひ、ひぃ!?」

 顔をこちらに一度だけ向けた男は情けない声を上げた。

その声もなんだか聞き覚えがある。



 四日前と三日前、確かにぼくはこいつを見ていた。

 口を利くことのできない少女に痴漢していた、あの男だったのだ。

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