紅のローブ
白いものは綺麗だと先生が言っていた。
だけど大人はみんな黒っぽい服装でしか私に会いに来ない。
きっと私は汚れている、だけどいい。
悪い気分じゃないから。
「ねぇ、知ってた。貴方にはお姉さまがいたのよ」
「貴方と違ってとっても綺麗で、本当に綺麗な子だった」
「だからね、貴方は汚れててもいいの」
「私には綺麗な娘がちゃんといたんだから」
違うよ、姉さんがいるって聞いて嬉しかった。
とっても綺麗なお姉さんがずっと欲しかったから。
「どうしたんだい。日の高い時間から」
私に初め手を教えてくれた大人がいる。
この人は一番優しい。
「買ってほしいものがあるの。良いでしょ」
たまに初めての大人が私に媚びてるって言う。
終わった後にずっと居座る人がよく言う。
結局どうでもいいことなんだ。
「君はあまり我儘を言わない子だからね。少し不安になってたところなんだ」
ハッキリしないので下から見つめて唇をゆっくりと小さく開ける。
目の前の大人はこうすると早く終わることを知っている。
「何が欲しいんだい。私が買ってあげるよ」
「嬉しい。んじゃね早速だけど、綺麗な服が欲しい」
大人がつれてきてくれた所はとても素敵だった
綺麗に磨かれたガラスも、人形が着ている服も、店の中の光さえも。
初めは白い服が欲しかった。
だけど、人形が身に着けている紅い服の方がもっと素敵だった。
ずっと目を引かれていたからだろうか、大人が声をかけてきた。
「その服が欲しいのかい」
「うん、赤と黒が欲しい」
紅い色はいつも見ているのに、どうしてこんなに素敵なんだろうか。
全然分からなかった。
「他に欲しいものはないかい」
私が言う前に大人が先に訪ねてきたのでとても都合が良かった。
「難しいかもしれないよ。お金がとってもかかるよ」
こう言えば大人がどう言うかは分かっている。
意味の無い音を聞いた後に一番欲しかったものを言う。
「私と同じくらいの人形を作って欲しい。髪は長くないと嫌」
大人は焦らす。
私は早く終わりたいのに。
月の終わりになってやっとお姉さまは私の元へきてくれた。
私はお姉さまに口づけをしてから髪を梳いて上げてお召かしをしてあげて着飾ってあげてベットに横にしてあげた。
お姉さまはとても肌が白くて紅をささなくていいくらい唇が素敵で寝姿がとても清らかだった。
つまり、とても綺麗で、本当に私のお姉さまが来てくれたんだと実感できた。
ずっとお姉さまと愛を確かめ合っている時に分かった。
私はお姉さまになりたかった。
こうやって誰かに抱きしめて欲しかった。
だから、お姉さまが大好きだとも確認できた。
そして、一番強く思った
この気持ちは夢なんだと。
荘厳な構えをした館の裏手からは1ヶ月に一度ほどの割合で黒い袋が出される。
その袋は朝方に来る二人の男性、ミシェルとハインケルの繰る車で海岸の方へと運ばれる事になっていた。
そのサイクルは殆ど変わることなく繰り返されていた。
裏門の方に足を向けるとがその日は珍しく袋が二つ置かれていた。
一つは今までのように人が入っていると実感できる重さで、もう一つは大きさは同じであったがとても軽かった。
二つあって、しかも重さが違うなんてことは今までになかったということに混乱よりも興味を覚えた。
躊躇なく袋を破り、手を差し入れて中の物に触れてみる。
触り慣れている冷たさよりは少しだけ暖かく、硬めの感触がした。
取り出してみると、黒っぽい髪に同じ様な瞳、光って見えるような白い頬。
まるで人間のようで、絶対に人間ではないと分かるけれど、とても綺麗な女の子だった。
不可解だったのは人形にしては暖かいということ、それと良く見てみると唇に紅がさしてあること。
紅は綺麗に塗られてるのではなく紅のついた何かを押し付けられたような態でさされていた。
服も紅に似たような赤色で上質なものだとまだ暗い中でも分かるほどの色で、手触りも心地の良いものだった。
目の前の彼女はとても綺麗でもし汚れてしまってはいけない気がして出したときよりも丁寧に彼女を袋に戻して、横の袋と一緒に車へと戻った。
「すまない、遅くなってしまった」
ハインケルは無口だ、だけど僅かに顔を動かしている事が分かる。
「この車に大きめの袋は積んでなかったかい」
彼があごで示す先には寝袋が転がっていた。
それ以外に何も反応を示さないので、寝袋以外に大きな袋はないということなのだろう。
もし、これを使ってしまったら寒い中を耐えなくてはいけなくなるけど、彼は許してくれる気がする。
「着いた」
彼が仕事中に発する唯一の声がこれだけで、何故なら私がいつも眠ってしまっているからなのだけど。
袋を取りに行くのも起きに行くのも私の仕事になる。
ハインケルは片足がない、だからといって彼以外と組む気はない。
なので、私の仕事量の方が多いのだけど配慮もされているのでほとんど気にはならない。
車を降りて二つの袋から女の子を取り出す。
眠ってしまう前にもう一つの袋を開け、少女の顔を見てなんとなく分かった気がする。
そのなんとなくでハインケルに一日以上のちょっとした野晒しを強いてしまうのは少し反省する。
幸い大きめだった寝袋に二人の少女を入れる。
どちらも細身で、姉のように見える髪の長い方が少し大きく妹は姉の身体に包み込まれるように入った。
姉のような少女の紅と妹のような少女が着させられたすすけた黒がとても不安定に思えた。
湖岸に放置されている小船に乗り込み舫いをとく。
腕が疲れないように中心に当たるところまで漕いで少し開いていただった寝袋をしっかり閉じる。
ゆっくりと水面に触れさせ沈むにまかせてただ見つめる。
寝袋のジッパーが開かない事に安心して船を湖岸へと戻す。
いそいで船を舫い、車へと戻る。
窓から見えるハインケルの瞼は閉じていて頭はやや前傾を保っていた。
悪いとは思ったが、声をかける。
「すまないね、また待たせてしまった」
彼は答えない。
「じゃあ、君の寝袋を買いに行こうか」