ライルと一緒 三日目
くあ、
退屈すぎてあくびが出た。
城でのライルとの生活三日目。昨日は食べ物がどうたらかんたらで色々あったけど昼も夜も美味しい人間のご飯を食べることができて大変満足だった。
けど、記憶はなくても人間のご飯が久しぶりという感覚はあってつい食べ過ぎてしまい、夜にうなされてライルに迷惑をかけてしまった。城に仕える人たちにも迷惑をかけてしまった。聖獣について詳しい人がいなかったみたいですごくみんな困惑していたのを覚えている。ごめんね。
ということもあり、今日は絶対安静の様子見をくらった。食べ物も制限されてしまい食べたものは果物だけ。昨日は結局吐いたらすっきりしたからそんなに気にしないで欲しいけど、騒がせてしまった手前そんなことは言えない。そもそも言葉喋れないけど。
はぁ、暇だなぁ。
ライルは相変わらず本ばかり読んでる。この部屋からも全然出ないし、もしかして引きこもり……?
ていうか、学校とかないのだろうか。ライルくらいの年だったら普通学校に通っているはず。なんて俺の偏った脳内記憶を掘り起こす。それとも王様の息子だから〜なんて理由があるのだろうか。
……まぁ考えたところで聞けっこないし知ることもできないけど。
考えるのやーめた。
「グウゥ」
暇だよー、と届くかわからない気持ちを訴える。
すごく間抜けな鳴き声が出てしまった。
熊ってこんな間抜けな声だったっけと初めて声を出した時は驚いたものだ。もっと勇ましく周囲を恐怖させる鳴き声ではないのか。俺が子熊だからか?だとしたら数年後に期待しよう。
俺の声(?)にライルの目が本から俺に向けられた。本を閉じて俺のところまでやってくる。
「どうした」
そう言ってライルはおれの頭をそっと撫でる。それが気持ちよくて落ち着く。
初めてライルがおれを撫でたのは昨日の夜だった。
おれのうなされる原因が分からなくみんなが焦っていてすごく申し訳ない気持ちになりながらも、それよりも痛みの方が辛くて正直気にする余裕なんかなかった。そんなおれをライルはそっと撫でてくれた。今撫でられるのは邪魔だと思ったけど、撫でられているうちは痛みが和らいでる気がしてすごく楽だった。邪魔だとか思ってごめん。
それからおれが吐いて更に周りが慌てだしたけど、徐々にうなされなくなったおれにほっとするライルの顔はうっすらと瞼を開けた時にバッチリ見えた。
「悪い、ちゃんと調べるべきだったな」
ライルがおれを撫でながらそう言った。違う、今回のはおれが食べ過ぎたせいで食材に問題はないし料理人にも、ライルにだって非は無いんだ。
でもおれは喋れない。だから代わりにライルのまだ小さな手をぺろぺろ舐めた。
頭の上でライルがふと笑った。しまった見逃した。
ライルは大人びている。自分の立場を分かっているから態度もそういうものになるんだと思う。周りもライルを殿下として扱う。それが正しいんだと思う。
でも、ライルが時々つまらなそうに部屋の窓から外を見ていることをおれは知っている。どこか遠くを見ているその目は、幼い子供が抱くものではない。
ライルには気を許せる相手がいない。城の中に子供がいないわけではない。騎士や料理人の見習いにライルと同じくらいの歳の子供はいる。けれどその子がライルに近づくことも、ライルが近づくこともない。立場が違うのだから当たり前だ。おれからしたらそんなの気にしなければいいのにと思ってしまう。おれにはイマイチ王国内でのルールとか上下関係とか身分の差というものが理解できなかった。もしかしたらそんなもののない世界で人間をやっていたのかもしれない。記憶がないから分からないけど。
内緒で城下に行っているという話を王様が言っていたけど、きっとそこでは身分は隠さないといけないし心の底から許せる人はライルにはいない。
それが、おれはなんだか可哀想に見えた。大人のように振舞わなければならないライルに心を許せる人はできるのだろうか。甘えられる人は現れるのだろうか。
あの時おれの頭上でほっとするライルの表情はまだまだ幼い年齢にふさわしい表情をしていた。お前は今はそんなに気を張らなくてもいいんだぞと言ってやりたいけれど、もし言えたとしてもおれの言葉はきっとライルの心には届かない。
いつか、ライルが本当に心を許せて側に置けるような人が現れるまでは、おれが側にいてやろう。なんて大層上からなことを思ったりして。
とりあえず今は、食に関する誤解をどうやって解こうか考えなければ!
ブックマークたくさんありがとうございます。
更新が滞っていて申し訳ないです……。
実際の子熊の鳴き声は違うと思いますが、ファンタジーということで目を瞑ってください……。
17.01.15 修正加筆しました。