ライルと一緒 二日目・後
クンクンと鼻を鳴らし食堂の中を探索する。
あぁ良い匂い。お腹なんて空かないのに、食べたくなる。
ライルと料理長はまだ話が続きそうだったのでおれは自由行動だ。食堂から出るわけではないので大丈夫だろうと歩いていると、頭上から騒がしい声が。
「何だこの熊!」
「白い!」
「小さい!」
「かわいい!」
顔を上げると、剣を腰に下げた男三人と女の人が一人、おれを囲むかのように立っていた。
「なんでこんなところに熊がいるんだ」
「迷い込んだのか?」
「ここは城ん中だぞ、そんなことありえるか」
「かっわいいいいい」
四人とも手にはトレーを持っている。今来たばかりなのだろう。そうでなかったらライルと一緒にいたおれに声なんかかけるはずがない。男三人は「まぁいいか」と空いている席に着いた。じぃっとおれを見ていた女の子も慌てて席に着く。
まさかおれを放置してご飯を食べる気か。ゆるすまじ。椅子によじ登り、ぐいぐいと間に入り込む。
「おっなんだ、お前も腹減ってんのか」
そうそうだから食わせろ。
ごーはん!ごーはん!
「しょうがねぇなぁ、ほら果物やるよ」
わーい。カットされた果物はちょっとだけ酸っぱいけど美味しい。
しかしそれで満足する訳がない。もっとよこせー、とじぃっと見る。
「……ん? なんだ足りないってか?」
そこからは四人に色々分けてもらって食べた。手のひらに乗っけられたのをくまなく食べた。熊だけに。やっぱ人の食べるもんは美味い。
「なにしてるんだ」
ひやっ
とした声が背後から聞こえた。振り向かなくとも分かるけど、振り向かないといけない。
「「「「で、殿下!?」」」」
やっぱりな、と遅れて振り向くとそこには冷気を醸し出したライルが立っていた。
何をそんなに怒っているのかは分からないけど、とりあえず椅子から降りてライルの元まで行く。
「お前の食べ物を相談しにきたと言うのに……」
えー、そうだったんだ。そうとは知らずに好き勝手食べてたなぁ。ごめんよ。
とりあえず見上げてじぃっと見つめる。届け、おれの思い!
「……何を食べたんだ」
届いたかわからないけど、ライルの問いにおれは答えられないので後ろを振り返る。
真っ青な顔をした四人の剣士がぎょっとする。
「あっ…、本日の朝ごはんの品を一口づつ食べました!!」
恐る恐ると言った形で答えた四人の回答にライルは少し考える。
「様子見だな」
発したのはライルではなく、背後にいた料理長だった。
ライルもそれに同意する。
「あぁ、とりあえず詳しい者は呼んでおこう」
「そうですね、何かあった時のために」
料理長、口調が安定しないなぁ。
ライルがおれをちらっとみた。なんとなーくで察するおれ。帰るのかな。
「世話になった。騒がせて申し訳なかった」
「いえいえ、とんでもありません」
ライルとおれは食堂を後にした。
そういえばライルは何も食べてなくね?と思いながら部屋に戻ったら朝ごはんが届いていた。
その日からはライルの部屋でおれも朝ごはんを食べるようになった。