対面と罰
「して商人よ。分かっているな」
「ーー!!」
突然、部屋の空気が変わった。ピシリと、空気が凍ったような感じ。それをしたのは目の前に座る王様。
おれは今気付いた。王様のさっきまでの雰囲気は、親としての王様だったということに。
そして今は、この国の上に立つ王の姿だった。
「契約以外での聖獣の拘束は法で禁止されている。気付かなかったとは言え、商売をする身ならば知っていて当然の知識。それなりの罰はあると思え」
「そ、そんな……」
急に目の前で行われた断罪。おれは自分のことなのに何だか客観的に捉えている。まぁおっさんに関してはただの誘拐魔だからどうなろうとどうでもいいけど。
「そしてその聖獣は別の聖域に還す。元いた場所は危険すぎる。それにまだ幼子ということは、ただはぐれただけで親がいるのかもしれない。そうとなれば何が起こるか分からない」
いやぁ、親はいないと思うよ?だって気付いたらあそこにいたし、前は人間だったし。
なんて伝わらないのは分かってるから反抗せず受け入れる。
あーあ、残念だなぁ。折角の楽な生活がこういう形で実現せず終えるとは。おっさんは意気消沈としてるし。騙されたー。
「ーー父上」
駄々をこねるつもりはないがふて寝を決め込もうとすると、耳にまだ幼げな声が届く。
まだ小さく幼い顔立ちの少年が、そこにはいた。
「ライル」
ライル、それはきっと少年の名前。名前を呼ばれ、王様のところまでやって来る。
「呼ばれてたから来ましたが、何をやっているんですか」
王様に問いかける姿を見て、なんとなくこの少年が息子なのだと分かった。そしてまだ顔は子供特有の可愛らしさはあるが、王様の面影は確かにどこかに感じる。どこかと聞かれるとはっきりは出てこないけど。
「お前の遊び相手候補の中に一匹だけ聖獣が混ざっていたんだ」
「……色々言いたいことはあるのですがとりあえず、聖獣の捕獲は法で禁じられているはずですが」
「あぁ、だからそれなりに罰は与える。しかし今回のようなことはあまりないケース、故に重くするつもりはない」
動物……いや聖獣だから離れていても会話が聞こえてくる。この王様は理解があるようで、おっさんも今は絶望的な顔をしているけど後で感謝することになるだろう。
「そうですか。で、その聖獣というのは」
「あれだ」
そう言って、おれを見る王様に少年ーー息子ライルーーがおれを見た。そして顔を歪ませた。
「……あれが?」
不信そうにおれを見る。間違っていないぞ、少年。いくら小さくて寝転んでいるからって偏見はよくない。まぁおれも別に自覚があるわけじゃないけど。さっき知ったばっかだし。
少年がじっとおれを見て確かめようとしているが、見ただけで分かるのだろうか。
「とにかく、お前の遊び相手は聖獣以外の四匹からになる」
「……父上、前も言ったように俺は遊び相手など必要としていません」
「しかしお前は近い年頃の子供とも仲良くしようとしない、年上をあてがっても話そうとすらしない。それならば話をしなくともいい動物しかいないじゃないか」
どうやらあまり社交的ではない息子のようだ。
「父上、いくら何をされても俺は誰かと仲良くなる気はありません」
「そうか、では次はお前が可愛いくてしょうがないと言っていた城下の食堂を営むアイリー(56)を連れてくるか」
「父上!」
息子の怒りを含んだ声が飛ぶ。
会話の聞こえていないおっさんたちは突然の息子の怒りに驚く。
「お前がたまに城を抜け出しているのは知っている」
「………」
父強し。そして見かけによらずお茶目な王様なようだ。それは息子も同じか、城を抜け出しているみたいだし。
「さてどうする、人間と仲良くするか、ここにいる動物たちから選ぶか、またはアイリー……」
「ここから選びます」
被せ気味に答えた息子ライルはこちらに視線を移す。そして口を開いた。
「ではそこの白いのを」




