知らないこと
超かっこいいな、王様。男前!って感じがしててちょっと憧れる。おれ今熊だけど。
「今日呼んだのは他でもない。我が息子に相応しいものを連れてきたのだろうな」
「勿論であります、陛下」
「ならば紹介すると良い」
ははぁ、と深く頭を下げ端から順に自分の連れてきた動物を紹介し始める。
そういえば確かこのおっさんも『誰々に〜』みたいなことを言っていたな。それがこの王の息子のことなのだろうか。
息子に動物って、まだ幼いの息子なのだろうか。小さい子供は生き物が飼いたいと駄々をこねる時期がやってきては親を困らせたりする。
でもこの王は困った風ではない。ということは実は親バカで、息子をでろでろに甘やかしているのだろうか。
それはちょっとおれショックだぞ、王様。
「続いては私の連れてきたホワイトベアーを紹介させていただきます」
勝手に想像しているといつのまにかおれの番になっていた。
おっさんが手をこまねいていたかと思ったら今度はばっと広げ大きな身振り手振りで紹介し始めた。
「この動物は境の森にいました。ベアー自体珍しいというのにさらに珍しいことに毛色が白いのです。それもまだ幼い。殿下とともに成長することができます」
「ほう、それは良いな」
王様に同意され嬉しさから気持ち悪い顔が一層ひどくなる。ニマニマしてる。よかったですねー。あー、眠い。寝転びながら目をぐしぐし。
一人(匹)だけ態度がとても悪いけど特に注意されないのは子供だからかな。
「ふむ、これは悩むな」
王様は悩むそぶりをして一匹一匹じっくり観察して行くと、途中「ん?」と何かに気付いた。
そしてーー
「おい、一匹違うのが混ざっているぞ」
王様の言葉にざわつくおっさん達。何が違うのだろうかと王様を見あげると目が合った。ばっちりと。え、なんでおれ見てるの。
王様の視線の先に気付いたおっさん達もおれをじっと見る。おいやめろ見るな、視線が痛い。
「陛下、失礼ながら一体何が違うのでしょうか……」
おっさんは気まずげに問う。
「それはただの動物ではない。ーー聖獣だ」
………え?
「聖獣とは……本当なのですか陛下」
「間違いない。だが普通ならばもっと神聖な場所にいるはずだが」
「これは堺の森で見つけたのです。そのような場所に聖獣がいるのでしょうか」
「どこか、変わった場所にいなかったか?」
「変わった場所……いえ、そのような場所には……いや、木の根にできた穴の中にいましたな」
おっさんがそう答えると王様は『なるほどな』と言った。
「おそらくその木は”聖樹”と呼ばれるものだろう。聖樹からある程度の範囲は神聖な領域、普通の人間には到底足を踏み入れることはできないと言われている」
「しかし私は……」
「あぁ、足を踏み入れることができた。ということはその聖樹はかなりの高齢なのだろう。自分の立つ位置、もしくは自分しか聖域にできないほどに老いてしまっていたのだろう」
王様の話におっさんだけではなく他の動物の飼い主(?)たちも驚きが隠せないようで、皆唖然と話を聞いている。
……のはいいんだけど、本人そっちのけで話をするのやめてくれないかな。おれあの木がすごいものだって初めて知ったんだけど。普通にお別れしたんだけど。……バチ当たんないかな。