ライルと一緒 五日目・前
いつもはゆっくり起きても怒られないのに、今日は何故かいつもより早く起こされおまけにちょっと怒っていたライル。何やら客人がくるようで、おれもその場にいなきゃないとか。聞いてないぞーと思ってたらどうやら昨日の夜にちゃんと言っていたようで、その時半分夢の世界に旅立っていた俺は全く覚えてなかった。
そんなわけで熊には熊の身支度を終え、客間に向かった。こんな朝早くに客人なんて非常識だぞ!と憤慨しようかと思ったが、客人は超多忙な人みたいでこの時間しか空いていなかったらしい。なんかごめんなさい。
しかし客間に入ってみればそこにいたのは予想とは遥かに違った人物だった。
てっきり年のそれなりにいってる客人かと思えばいたのは見た目まだ20代で襟足の長いブロンドヘアの軟派そうな男だった。
けど常に色んなところに飛び回っては研究をしている超多忙な学者さんだったみたいで聖獣についてはこの人の右に出るものはいないらしい。
それ以上に驚いたのが、その人が肩に止まっている存在。黒々とした体のでかい鳥が、男の肩に優雅に留まっていた。あんなでかい鳥はおれの頭の図鑑には載っていなかった。つまり初めて見る生き物ということで、おれのように珍しい存在なのだろうと思った。自分で自分を珍しいっていうのなんか恥ずかしいからもう二度と言わないようにしよう。
「お初にお目にかかります殿下、聖獣研究学者のミラノ・アンドリューと申します。こっちは私の右腕で聖獣のセブルです」
「ライル・グラフィスだ。今日は他でもない聖獣について聞きたくて貴殿をお呼びしたのだ」
「そのようで、そちらのまだ幼い聖獣についてですね」
「あぁ」
あ、話が長くなる予感。おれ長い話苦手なんだよなー。ていうかやっぱり黒い鳥聖獣だった!でもライルもそんな驚いていない。聖獣って珍しいって思ってたけどそうでもないの?なんかおれ自意識過剰みたいじゃない?
ライルたちはおれの最初いた場所とその時の状況をミラノに説明していた。そういえば完全に今の今まで忘れていたけどおれを誘拐したおっさんどうなったんだろ。実際興味ないしどうでもいいし、どうでもいいこと思い出してしまって気分が最悪だ。よしふて寝しよう。
ちょうど睡魔がやってきたおれは瞼が降りては持ち上がってを繰り返す。あ、今なんかおれのこと見てなんか言ってるな。まぁいいっかー。
*
*
「ーーそういうわけでしたか」
「あぁ、何故そこにいたのかも分かっていない。親がいるのかどうかも」
「それはおそらく……おや?」
ミラノの視線がおれの足元へと向かっていたので見てみれば、子熊がすやすやと眠っていた。
「お話に飽きてしまいましたかね」
俺は溜息を吐きたくなる衝動を抑えて聞きたかったことをミラノに聞いてみた。
「……文献では、聖獣は眠らないと書いてあった。だがこいつは毎晩朝まで”眠っている”んだ。そういうのもいるのか?」
するとミラノの瞳がみるみるうちに輝いていく。
「この状態は”眠っている”んですか!?」
「貴殿のその声でも起きないくらいに熟睡だ。一度寝ればしばらくは起きない」
そう言えば一層輝きを増した瞳。しかし肩に留まっていた鳥がミラノ髪を引っ張ると咳払いをし「失礼しました」と先ほどまでの落ち着いた雰囲気のミラノに戻る。
「それは聞いたことがありませんね、今まで出会った聖獣の中でもそのようなものはいませんでした」
「そうか……それと、好んで食事をするものはいるのか?」
「それならば聞いたことがあります。とは言ってもごく少数で、人間との暮らしが長かったり人間に育てられていたらそうなるケースはあるようです。ですが殿下も文献でお読みになられたように基本的に聖獣は俗物に対する興味は無いに等しく、人間のものに興味を示すのは稀な存在です」
「こいつはその稀な存在ということか」
「”眠る”のですから希少種といてもいいかもしれませんね、実に研究者冥利に尽きます」