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1:先代国王様の人気

最初の一ページはあまり本編に関係ないかも

『「た、助けてっ!」


金髪の少女は山賊のような格好をした男――バビロン男爵にの部下に両手を後ろてで拘束されながら、村人達に助けを求めた。

しかし、村人は皆一様に少女から目を逸らす。


彼らとて、少女を見捨てたい訳ではないのだ。

しかし、同じ村の仲間を助けようとすれば、今度は自分や家族にバビロン男爵の魔の手が伸びる。


いくら同じ村の仲間と言えど、やはり自分や家族と比べると見捨てる他ないのだ。


逆らった奴には容赦しない。

それがバビロン男爵なのだ。


だから、バビロン男爵領の領民は耐えるしかない。


「助けてとは酷いな。わしが直々に可愛がってやろうとしておるのに。村人ごときをわしの愛人にしてやろうと言っておるのじゃぞ?」


ペシペシと脂ぎった手で少女の頬を叩いた中年の醜男、バビロン男爵は丸く肥えた顔に厭らしい笑みを浮かべた。


その様子に耐えきれず、一人の勇敢な少年が声を荒げた。


「アナ!」


その少年は他の村人達の制止を振り切り、囚われの少女をいたぶっているバビロン男爵に掴みかかろうとする。

しかし、あと少しの所でバビロン男爵の部下の一人に蹴り飛ばされ、地に伏した。


「アス!!」


悲鳴に似た声をあげて少年の名を呼ぶ少女に応えるように、少年は痛む体を誤魔化して起き上がる。

だが、再びバビロン男爵の部下に殴られ、地に伏した。


「……っ、く、ア……ナ」

「アス!!そんなっ……アス!起きて!逃げてよ!」


悲しみに顔を歪ませる少女と村人達への見せしめのように、少年はバビロン男爵の部下達によってボロボロにされていく。


「アス!やめてっ!これ以上やるとアスがっ!やめて!やめてよ!誰かっ……、誰かアスを助けてっ!」


涙声で懇願した少女の言葉に、重々しい低音の声が優しく応えた。


「そこの少年と少女の勇気、しかと見させてもらった」


大きな声ではないのに、不思議なことに辺りに響き渡る。

少年に暴行を働いていた男達も手を止め、声の主を見た。


いつからいたのか分からない。黒いローブを着た長身の男が村人とバビロン男爵の間に立っていた。


「誰だ?!」

「ほう、バビロン男爵。貴方は私の事がわからないのか?」


動揺したバビロン男爵を嘲笑って、黒いローブの男はゆっくりとフードを取る。

神々しく輝く金髪と海のを思わせるような碧眼が露になった時、その場にいた全員が息をのんだ。


年は壮年に差し掛かった辺りだろう。しかし、纏う雰囲気も眼光の強さも、若々しかった。


バビロン男爵は圧倒的な存在感を放つ男の端正な顔立ちを視界に入れた瞬間、膝をついて魂が抜けたように呟いた。


「アルフレッド・ベルンハルト先代国王様……」

「いかにも」


黒いローブを着た男は、重々しく頷いた。――』



王都で大流行している『先代国王様の世直し旅』というタイトルの文庫本をそこまで読んで、俺は思わず声をあげた。


「誰だこいつ?!」







隣国リーゼンバイスに近い、ベルンハルト王国フォリオポート。

陸路と海路、空路の中継地点であるせいか、人や物の行き来が盛んな港町である。


スカイブルーの透き通った海と白に塗られた街の外壁のコントラストが鮮やかで、その景観を見に来る観光客も少なくない。


大都市、という程でもないが、ベルンハルト王国の重要な都市の1つだ。


そんなフォリオポートの街の一角に、3か月前とある料理店が出来た。

価格はリーズナブル。味も文句なしに美味しい。


何より、店員が美男美女揃い。


で、一気に有名になったらしい。


らしい、というのは俺が聞いた話だからだ。

俺の目の前に座る、黒髪黒眼の何処でもいそうな平凡顔の男から。


「本当俺もびっくりしましたよ。バビロン男爵のモデルになったバビロネルゼ男爵が悪人になってるんですから。見た目は悪人な良い人なのに」

「まず俺がおっさんになってることに突っ込めよ」


20代前半に見えるその青年――アンクは、無表情のまま俺の手にある文庫本の感想を言った。



アルフレッド・ベルンハルト。

先代――第45代ベルンハルト国王だが、その経歴はそこそこ珍しい。


悪政を敷いていた父親に対してクーデターを起こし、15歳で即位。在位期間は44年。

その間に数々の政策を打ち出し、国民の失業率の低下に教育水準を高めたり、経済を活性化させたり、隣国の侵略を先陣切って跳ね返したり、魔物退治したり。


穏やかな人柄だが、簡単に人を切り捨てる冷酷さも持ち合わせている。


容姿も端麗で、王妃一人しか妻を持たなかった愛妻家。まさに理想で完璧な国王様。


……と、世間では持て囃され、未だに人気は絶大らしい。


正直、むず痒い。マジで。誇張されてるけど真実だから、否定もできない。


とか言えるのは、俺がアルフレッド・ベルンハルト先代国王自身に他ならないからである。


実年齢は60歳。外見年齢は10代半ばから後半。

即位した辺りから、全然老化していないピッチピチの美少年です。自分で美少年って言うのもなんだけど。


別に若返りの魔法を使っているとか、エルフ等の長命種族とかじゃない。

大量の魔力を持った人にしか現れない人体魔力影響という現象なのだ。


肉体と精神がある程度成長すると、肉体、精神共に老化が緩やかになる。それに応じて、寿命も一般の人と比べて伸びるというものだ。


ちなみにアンクも同じで、40年以上も20代前半を保っている。

俺もずっと10代半ばから後半を保っているから、小説のようなジジイの姿になった事がない。


「つーか、この小説のジジイ誰モデルにしてんだよ。俺じゃねぇよこれ。俺だったら、さっさと登場して無言でサクッと殺るわ」

「まあ、王国民は先代国王陛下がこんな若い姿してるとは思っていないでしょうから。登場が遅い事関しては同意ですけど」


人体魔力影響については広く知られている。

だが、俺やアンクみたいなのは極端な例だ。


普通はほんの少しだけ老化が遅く、寿命が長いといったものだから、まさか60越えた俺が10代の姿をしているとは夢にも思わないだろう。


それを利用して、王都から離れた港町で嫁と長年仕えてくれている部下4人と料理店を開き、自由気ままな隠居生活を送っている。


アンクなんか、戸籍すらない元王家直属暗部の人間だったが、今は冒険者ギルドでSSランク冒険者として名を馳せている。


人生って分からないもんだな……。


文庫本をアンクに返し、皿洗いを再開すると、カウンター席に座っていたアンクは、琥珀色の酒を一口のみ、淡々と切り出した。


「で、何かあったんですか?」

「……なんでそう思う?」


深夜、料理店が閉まった後の店内で俺とアンクの二人だけ。

アンクがグラスを揺らした拍子に、氷がカランと大きく鳴った。


「報告があったんですよ。ここ1週間、王子が便秘で苦しんでるような顔をしていると」

「……報告した奴は誰?」


長い付き合いだ。何となく、誰が報告したか見当はつくけど。

手に持った皿がピシリと鳴ったのは、気のせいだ。


余談だけど、アンクは俺が立太子する前から仕えている為か、俺のことをずっと王子と呼んでいる。


「で、超強力スッキリ下剤を買ってきたんですが、必要なかったみたいですね。安心しました。どちらかというと、毒見が済んでいない料理をつまみ食いして、毒に当たった時のような顔をしてます」

「そっちの方が深刻じゃねえか?!」


ドロッとした濃い緑色の液体が入った小さな瓶を、無表情で懐から取り出したアンクに顔が引きつった。


「やだなあ。ちょっとしたお茶目じゃないですか。ほら、超強力スッキリ下剤をあげますから」

「ああ、ありがと……って、いらねぇよ!」


グイグイ小瓶を押し付けられて思わず受け取ってしまったが、俺別に便秘じゃねぇんだけど!


「で、何があったんですか?」


不意討ちで、纏う雰囲気をガラリと変え、淡々と聞いてきたアンクに俺は無意識に背筋を伸ばした。

手に持っていた食器を洗い上げ、タオルで手を拭き、懐から1通の白い封筒を出して、カウンター席に置いた。


「これは?」


相変わらず読めない表情のアンクは、封筒を開けて中の書類に目を通す。

ここで初めて、アンクの瞳に驚きの色が宿った。


「……これは。本当に予想外の事ばかりしますね。あなた方夫婦は」

「今回は俺だけ、だけどな」


俺は苦笑しながら、書類の内容を声に出した。


「ベルンハルト王国立学園に就業生として通わされる事になった」


――切っ掛けは、1週間前に遡る。

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