白い死神 1
年明けちゃった。
そんで正月にニュースが結構あったから書いた。
とある貴族の屋敷、そこでは有力貴族達による茶会が行なわれていた。
「今回の茶葉は遠い異国より取り寄せたものだ、皆存分に楽しんでくれ」
この茶会の主催者であろう白髪の初老の男が挨拶をする。宴会などで言う乾杯の様なものであるが貴族の茶会ではカップ同士を合わせるなどはせず→↓↑/\←↓/\と空中で指揮者の様に指を振るい古代の文字で茶を意味する『茶』という形状の文字を刻むのだという。
皆が揃って一心不乱に指を宙に彷徨わせる、動きは個々に大小様々で速度もまるで違う。
しかしそれぞれが終わるまで待つのがマナーらしく、茶の香しい匂いに我慢できずに早々に終わった者もじっとそれが終わるのを待つ。
最後までゆっくりと丁寧に指を振るっているのは主催者である初老の男だった若いものは年寄りだから手足が思うように動かないのだろうと嘲笑を浮かべるが、男と長い交友のあるものはこれも茶をより美味しく楽しむ為の作法であると分かっているので誰も急かすようなことは言わない。
「それでは頂こう」
主催者でありこの会の長でもある初老の男はカップを持ち上げる、その中には若葉を思わせるような緑色の澄んだ茶が注がれていてまずは、その香ばしい匂いを鼻で思いっきり吸い込み口の中に溜めてそのまま吐き出す。
ここで男はおや? と首をかしげる。……恐らく自分で取り寄せた茶葉と少し香りが違うということに気づいたのであろう。
しかし、抗えぬ欲求によりその疑問はすぐに消え、口の中へと茶を一気に流し込んだ。
これには周囲の人間が驚く、それこそ初老の男の痴呆を疑うほどに。
男は神聖なる茶会に置いて最も尊き茶を下品にも一気飲みしたのだ、男の一番近くに座っていた恰幅のよい男が立ち上がり男を怒鳴りつけた。
「血迷ったか! 一体何をしたのかわかっているのか!?」
しかし初老の男はその声に反応せず静かにカップを机の上に戻すと、そのまま椅子ごと仰向けに倒れた。
そのただ事ではない様子に恰幅のよい男は慌てて初老の男に駆け寄り様子を探る……。
「……し、死んでる!? 死んでいるぞ!」
その声にようやく状況を飲み込めた周囲がざわめき出す。
「毒か?」
「いやしかし、何故彼はあんな下品な……」
「おい、誰か解毒魔法が使えるものは居らんのか!」
「無駄だ、もう死んでる」
「全員茶を飲むなよ! 毒が入っているぞ」
辺りが騒然としている最中、その場に聞こえるはずのない音が響き渡る。
ズズズズ……、ゴクゴク……。
部屋の中央、一番目立つ場所で俺が、茶を啜り飲み干す音だ。
「な、なんだ貴様! いつから居た、いや何故茶を飲んでいる! それには毒が入っていると言ったはずだ!」
「ん? そんなことを気にするのか? 俺はてっきりビールジョッキで茶を飲む無作法を指摘されると思ったんだがな」
俺は空っぽになったビールジョッキを後ろに控えていたメイド服に身を包んだティーナに差し出すと彼女は呪文を唱える。
「新緑の若葉、その色を黒き釜にて封じ、炒り、蒸し揉みて、太陽の輝きを用いて、香り高めし時熱き湯の祝福を! 『新緑の恵みし湯』」
何も入っていないティーポットの注ぎ口からティーナの魔力が変化して俺のジョッキへと緑茶が注ぎ込まれる。
突然の食魔法に貴族たちは唖然として、開いた口が塞がらないといった様子だ……それはそうだろう、ここは食魔法根絶運動をしている連中の会合を兼ねているからだ。
「まあまあ、そんな顔するなよ、せっかくだ茶菓子も出してやるよ……その水に浸されし白き宝石たち、汝らが水気払いし時、それらは蒸し上げられ、叩き潰されこねくり回されまた突かれ、やがて一つに合わさりしものよ降臨せよ! 『白き死神』」
現れたのはふっくらもちもち、つきたてのお餅達まん丸と二口大の大きさの彼らはボーっとしている連中の口元めがけて飛びあがり、次々と飲み込まれてはその喉に詰まっていく。
そしてこの場にいた多くの貴族が窒息死し、一部餅を飲み込めた者たちも、俺の食魔法の死の呪いで全身が餅になって死に絶えることになった。