香辛料のあんかけご飯 5
日付変わっちゃった。
誰もいなくなった屋敷に俺とティーナとカレーライスが二人前。
「食べる前に一つだけ忠告しといてやる」
ティーナが今まさに食べようとしていたその時に俺は待ったをかける。
「何でしょうか? はしたないのは承知しているのですが、私……耐えられません」
まるで食死霊処刑前の貴族様のようだ、食欲なんてマナイーターには似合わないが――――俺も人のことは言えないか。確かに耐え切れない。
「後から言ったんじゃフェアじゃないからな、前もって言っておくがこの料理を口にした時からお前の茶は人が飲めば猛毒となり死を与える茶になるだろう」
「ど、どういうことですか!?」
流石に驚いたのかスプーンを落とすティーナ……落ちたのは皿の上だからセーフ。
「別に確定している訳じゃないけどな、俺の料理が人を殺すようになったのは人食いの作った料理を食ってからなんだよ、だからさもしかしたら……」
「人食い……ですか?」
「ああ、俺の仇名の『人喰い』ではない別の奴さ……そいつは文字通り人を食ってた、人を食材として調理する。そんで俺は騙されてそれを食った」
「お味は?」
ティーナは恐る恐る、ちょっぴり興味本位で聞いてきたようなので真実だけ伝えておく。
「不味かったよ……でも食ってしまったことは事実でそれにより俺の食魔法は変化した」
「それで私の魔法も変化すると?」
確証はないが――――でも有り得る可能性だろう、他のマナイーターに食わせたことはないがそういった予感めいたものはあった。
「あくまでかもしれないだけだ、決めるのはお前だ」
そう言ってから俺は食い始めた――――一口でわかるこれは危険だ、初めて口にする奴じゃとても正気を保てなくなるんじゃないかって言うほどの旨み、というか味がカレーじゃない。
カレーのような見てくれでカレーのような香りのする別の何かだ……旨みが強すぎてその他全ての味が分からない。
しかし味が分からなかろうがそれとは関係なく手と口は一向に止まる気配を見せない、これは俺の体、つまりマナイーターの本能が欲しているからだろう。
そんな俺を見てかティーナも覚悟を決めたのか恐る恐るカレーを口に運ぶ。すると――――。
「おいしぃぃぃひひぃひいひひひひひ……」
ティーナがこわれた。
突然奇声を走ったかと思えば上品さの欠片もない獣のような食いっぷりでカレーを飲み込んでいくティーナ――――その奇行はカレーがなくなり更にドン引いて居た俺のカレーまで強奪して完食することによって収まった。
完食したことによって真っ白に燃え尽きた様子のティーナ、その顔を下から覗き込むと幸せそうな笑顔で……死んで――――いや気絶しているだけか、呼吸はある。
ともかく任務はこれで完了という訳でいいだろう、生き残りはないが目的は果たした。俺は気絶したティーナを背負いジョイルへ報告するために屋敷を出てそのまま徒歩で帰ることにした。