香辛料のあんかけご飯 4
後半かなりはっちゃけてます、けど多分この話はそういう感じのことを書きたいんだと思います。
阿鼻叫喚、激辛地獄が目の前に広がっている――――やったのは俺のカレーだ。
「た、助けてくれぇ!」
今警備の男がカレーに飲まれた……単純作業であるため対象は無差別、メイドだとか執事だとか買われてた女だとか。
肩から下ろしたティーナは最初の内、無抵抗なものは助けろとか言っていたが、人だってそこに食い物があれば……腹を空かしていればがっつくだろう。
自然の摂理だ諦めろと言っておいた、やらせているのは俺だからやめさせることは可能だが俺のもう一つの目的、マナイーターを救い出すこと。それを叶えるためには邪魔な人間は排除せねばならない。
正直一人一人にマナイーターかどうかという確認を取るのは手間だが出来ないことはない。
けど食死霊を使えばより簡単に判別できる。何故ならば食死霊の天敵はマナイーターなので奴らはマナイーターを避ける。
だから視界に入る者をすべて襲うように指示を出している。
人を飲み込むたびにその容量を増すことはないが旨みが熟成され増していくさまに俺とティーナは涎を堪える。
正直ここまでの人間を食わせた事はないのでどうなるか俺にも分からない……これは俺達の食欲が我慢できなくなるのが先か、この屋敷にいる人間が尽きるのが先か時間との戦いだ。
「一階は完全制圧したな、次は二階だけど悲鳴とか酷かったから何人か逃げ出しているかもしれないな」
「そうですね……ですが、目撃者は恐らくゼロでしょう」
そりゃそうだ、視界に入った分は間違いなく全部捕食させているし、今のところこの屋敷にマナイーターは存在しなかったしな。
ともかく地下への入口が玄関付近にあり二階への階段が屋敷の一番奥にあるという都合の良い構造だったため逃がしたとしても二階にしか逃げられなかったはずだ。
階段は途中に踊り場があり上のほうが死角になっているため様子が伺えないのでカレーを先行させて進む。
するとカレーに何か不純物が投げ込まれた感覚が伝わり――――そしてそれを投げた人物たちを捕食していく。
なお、投げられた不純物はカレーをすり抜け床に落ちている……これは、爆発物? 導火線に火を点け手で投げるタイプのもののようだがそんなものでカレーをどうこう出来るものではない。
さて、こうしている間にも何人かがカレーに溶けているようだ、正直貴族が食われるところは見てみたかったがあまり近づきすぎると食欲が抑えられそうにないのでこれ以上は進まずこの場でカレーが全てを制圧するのを待つことにした。
「せめて上に居るのがどこの誰か分かれば良かったのですが……」
ティーナはジョイルにどういう風に報告したらと悩んでいる。正直あの男爵の話が嘘だとしてもこんなところに送り出すような奴に対して未だに仕えようと思えるとはこいつも筋金入りのようだ。
「後で行方不明になっている貴族でも調べれば自ずと誰かは分かるだろうさ、そんな事より……お茶を淹れてくれないか? 料理の仕上げに掛かりたいから魔力を補充したい」
「地下でしたばかりじゃないですか……もしかしてあの食死霊というのは燃費が悪いのですか?」
「まあな、何せあれが動き回り続ける限り少しずつだが俺の魔力が消費され続けるからな、それにカレーを仕上げるにはやっぱりライスがないとな」
そういうとティーナは納得してくれてすぐにお茶を用意してくれた。
「新緑の煌きをこの手に包み熱き太陽の光を持って滅せ。――――命の源たる水よ、強き火を持って沸き注げ。命を育みし白き者よ、甘さとともに来たれ『甘乳紅茶』」
ティーナの手の内に白きカップとその中に濁った不透明な液体が注がれていた。
「はい、疲れているときは甘いものに限ります……どうぞ召し上がれ」
差し出されたカップを受け取ると、俺は一口だけ含み味を確かめる――――優しいほのかな甘味とまろやかなコクが口いっぱいに広がる、正直食後に出せよと思いながら魔力を存分に補給した俺にカレーが全員を仕留めた事が伝わってきたので仕上げに取り掛かることにした。
「黄金の稲穂を砕き、磨きその内が出る白き者よ、清き水で濯がれ硬き鋼を持って強き炎身に纏い炊かれ――――いでよ、辛味を帯びし旨みの蜜よ……皿に盛られし白き者共に降り注げ! 汝、万民を虜にせし覇者の食『香辛料のあんかけご飯』!」
広く少し深みを帯びた皿に白き粒が集まり、食死霊よりあるべき姿に戻ったカレーのルーが降り注ぐことによって俺たちの前に現れたのはふた皿の希望、初めて見るものをその香りにて虜にし、辛味と旨みによって仕留めていく食魔法の分類を超えし料理が――――今、顕現する!