香辛料のあんかけご飯 2
じっくりコトコトアイデア煮詰めていた!
すいません、仕事だったんです。
落下した穴は高さ的に地下まで続いて居たようで通常ならば地面に叩きつけられて大怪我しているところだが、それを防止するためか下には溜池があった。
そこそこ深いが溺れるというほどでもなく、落下の衝撃と上手く殺して尚且つすぐ近くには上がりやすいように傾斜が設けられた陸地とその奥には外からしかかけられない鉄格子があった。
「大丈夫か?」
俺は先に陸地にあがると、水面に浮かんだティーナへと手を伸ばす。
「……はい、すいません」
ティーナを引き下げると俺は服を脱いだ、マナイーターといえど風邪は引くからな。
「ちょ、ちょっと! 何をしているんですかっ」
「服を脱いでいる、濡れたままでは風邪を引くからな」
「そうではなくて! どうして下まで脱ぐのですか!」
ん? そりゃ濡れているからだと言ったはずだが……何かおかしいのだろうか?
俺の姿は今は全裸、つまり生まれたままの姿。マナイーターにとっては神聖な状態だ何も問題はない。
「そんなことよりお前も脱げよ、風邪引くぞ」
「そんなことって、女性に何をいうのですか!」
俺はつい、何言ってんだこいつと顔をしかめる……まるで人間のよう、いや人間に毒されているんだったな。
「お前は何か勘違いしているようだが、マナイーター同士であれば脱ぐことにおいてやましいことはないんだぞ? あの男爵にあんなこと言われて戸惑うのは分かるが……マナイーターの繁殖において人と同じような行為は必要ない。故に脱ぐことに関して人間の人目がなければ何も問題はないはずだろう?」
マナイーターとして常識的なことだと言っておいた、正直俺も師匠に言われるまで人間のそれと変わらない常識に縛られていたがマナイーターとは元来人とは違うもの――――だからといって家畜のように扱われるのは許せないがそれは置いておくとして、今はこいつの人間の常識をぶち壊しマナイーターとしてあるべき姿に戻さねばならない。
「で、ですが」
「いいから脱げ、でないと飯も食わせないぞ」
それでも抵抗するので俺はつい、調理魔法を発動させる。
『秘技・脱衣ピーラー』
俺は水気を含んだティーナの衣服の隙間に右の手刀を差し込むと一気に剥ぎ取りイメージで振り下ろした。
つるん、という感じで俺の腕にティーナの衣服の全てが絡みつきティーナ自身は一糸纏わぬ姿で排出される。
「ひゃぁ」
排出されたティーナは一生懸命自分の体を腕で覆い隠そうとするが――――何かに気づいたのかその動作を辞めてこちらに向き返った。
「もう、乱暴ですね……心の準備ができたら自分で脱ぎましたのに……」
「お前が早くしないからだ……全く。食事にするぞ、準備しろ」
俺は剥ぎ取った衣服と俺の衣服を凹凸のある壁に引っ掛けて干した。本当ならば食材を乾燥させる魔法で乾かせるのだが場合によっては無駄なので自然乾燥させることにした。
「あの……すみません私お茶しか出せませんが」
「? それでいいんだよ、別に食物を出せとは言っていない。お前は魔力共有を知らないのか?」
「し、知ってますよ、そのぐらい。ですが固形のほうがよろしいのではないかと……思っただけです」
はぁ……思わず溜息が漏れる。マナイーターの常識というものは人間に飼い慣らされることによってどんどん薄れていくらしい。
「お前茶道師なんだろう? 実家ではお茶しか出なかったんじゃないか?」
「そうですけど、なんでわかるんですか? うちが貧乏だったって」
貧乏ね、それが人間からしたマナイーターの評価か、見当違いも甚だしいな。
「いや、それはお前のうちがお茶しか出せない貧乏だったんじゃなく、家族がお茶系魔法しか使えなかったんだろう?」
「それは……覚えてません、でも私はジョイル様に拾われてから食というものを知りました、だから食事とは飲み物だけでは成り立たないのです」
「その考えは間違ってないが、マナイーターにしてみればどんな形であれ魔力を口から摂取できればいいのだから形状や味など些細なことだ」
そこまで言うとティーナは観念してお茶の準備を始めた。
「新緑の煌きをこの手に包み熱き太陽の光を持って滅せ。――――命の源たる水よ、強き火を持って沸き注げ。『紅茶』」
ポットとカップを作り出しそこへとゆっくりと注がれる紅みを帯びた液体……食死霊にして吸血させればさぞかしい美味しい紅茶になるんだろうな。
「次は俺だな。金色の穂を砕き出る純白の粉、甘き白い粉末、母なる牛から出る純白の液体そして黄金の輝きを内包する白き殻――――割られ、かき混ぜられ、かき混ぜられ、焼かれ裏返され……焼き上がれ!『小麦焼き菓子』」
狐色に焼き上がった菓子――――甘い香りが漂うそれは、食死霊にはなっていない……この状態でも人間が食えば死んでしまうけどな。
「美味しそうな匂いですね……正直堪えきれないのですが……大丈夫なのですか?」
「マナイーターなら食っても平気だ……さっさと食おうぜ」
パンケーキに紅茶を全裸で食べる――――と言っても流石に手掴みとかではないが、それでも裸ってのは行儀が悪いか。
食事を終え魔力を補給した俺は調理魔法の一つ乾物法で服を乾かしてその場で横になった。
「乾かせるなら最初からしてくれたって良かったじゃないですか!」
ティーナの抗議は最もだが、マナイーターには古来より初めての相手とは裸の付き合いをするという風習がある……というのも師匠から聞いた話なのだが。
「すまん、しかし魔力の補給をしなければ十全に魔法が使えないからな、コントロールをミスして乾燥どころか塵に変えかねないからな」
それは困るだろうと、なんとか宥めてこれからの行動について話し合った。
「とりあえず死なないように加減されてたようだし、俺たちの様子を確認に来るだろう、その時を狙って襲うぞ」
「襲うとは……?」
「俺が食死霊を召喚するからそれに任せておけばいい。何、俺は一応殺しはプロだ、安心しろ」
殺しのプロと密室で二人っきりで安心しろというのも変か。
ともかく今は下ごしらえでもしておこうか。
――――辛さを、香りを司るスパイス達よ、集え……地中より引き抜かれ皮を剥かれ切り刻まれし者、切り刻まれし猛き獣……具となりて煮滾れ!
召喚されるのは三大食魔法に分類される和・洋・中に該当しない外法の料理、ドロドロとしたスライム状の黄土色の化物だった。