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食魔法使いの死霊術師  作者: 噛み付き熊さん
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プロローグ 赤炒飯の卵焼き包み

あらすじとかにも書いてますが、料理物として見るのはやめてください。

そしてこの物語は、ただ単純に魔法の詠唱書きたいがために作られたもので、それが基本卵料理だったりしてシュールだなぁと言う楽しみ方をして頂ければ幸いです。



 人は食べるために生きる。


 食べなければ生きられない――――そして食べるためだったら人は人を喰らうことを厭わない。

 そんなこの世界には神様から与えられた飢餓を救済するための魔法がある、それが飲食魔法。

 魔法によって魔力を紡ぎ食材と成す食材魔法とそれらを調理し料理と成す調理魔法の二種からなるこの魔法は選ばれた人種にのみ授けられた。


 それがマナイーターと呼ばれる種族、見た目は普通の人間だが彼らは魔力を糧とし排泄などの一部の生理現象が発生しない。

 故にマナイーターは人ならざる者とされ家畜同然の奴隷として扱われている。――――昔はそんなことはなかったんだがな、料理屋などをしてしっかりと共存出来ていたはずだったのにいつの頃からか冒険者と呼ばれる連中にこき使われ挙句この国の王様からは奴隷化宣言、宗教的な絡みもあったらしいがともかく現在マナイーターは絶望のどん底にいるわけだ。



「命を抱きし純白の殻、実りし金色の穂、生まるその前に――――芽吹くその前に――――割られ、刈り取られ、潰されかき回され、濯がれ炊かれ、炒められ、焼かれし者どもよ。その焼けた金色の衣を赤き実りの絡め炒めた白き者纏いし時、出でよ、未熟なる命の輝きよ、『赤炒飯の卵焼き包み(オ ム ラ イ ス)』!」


 指定した食材を指定した調理魔法で料理するこれぞ食魔法の極意の一つ、洋食魔法『赤炒飯の卵焼き包み』……素材となるのは生まれることもなく殻を割られた卵たち、そして芽を出すこともなく刈られていく植物の実りだ。


「オォォォォムゥゥゥゥゥ!」


 料理とは言い難い化物の完成だ、体長縦に二メートル横に三メートル、卵に包まれたその身をズルズルと引きずりながら獲物(・・)へと近づいていく。


「ひぃぃい来るな! 来るな化物ォォォ」


 吠える兵士(えもの)、とその後ろには兵士の護衛対象である伯爵様とやらが縮こまってガタガタと震えていた。


「おいおい、伯爵様よ……これがアンタの所望した料理だぜ? 食わないなんて勿体無いじゃないか……っくっくっく。食う前に食われるだろうけどな」


 俺がそう言うと伯爵様は震え上がり、兵士は果敢にも食死霊(ネクロフード)へと飛びかかっていくが、卵がペラリとめくれ上がり、そのままチキンライスのベッドへダイブ――――卵が元に戻ると同時に咀嚼音と共に料理に吸収された、これでまた一層旨みが上がった。


「護衛が一人とは随分チンケだが、まーいいだろう。……あるべき姿、役目を果たせ『赤炒飯の卵焼き包み(オムライス)』」


 呪文を唱えると食死霊(ネクロフード)は縮んでいき、ひと皿の料理へと完成した。


「どうぞ、召し上がれ、そして天に召し上がれ。」


 俺は皿に乗ったオムライスを伯爵様の前へと差し出すと、伯爵様は自前の趣味の逸品である黄金のスプーンを懐から取り出しオムライスを一口分掬う――――が、その一口が口へと運ばれる前に止まった。


「どうした? 食べないのか?」


 伯爵様は物欲しそうな目でスプーンをじっと見つめるが、どうしても体が動かない。だってそうだろう、目の前にあるのは間違いなく死をもたらすもの。死ぬとわかっていてそれを口にしようとは本能で動く動物なら絶対にしない。

 だが、人間は欲望に忠実だ。そしてその欲望の中でもこらえることができないのが食欲というものだ、抗えない――――故に俺たちマナイーターから搾取し続ける。

 体は死を恐れて硬直しているはずなのに少しずつだが、スプーンは伯爵様の口元へと運ばれていく。――――何度見ても醜い光景だ、そこまでして欲望を満たしたいのか。


 やがてその匙が奴の口の中に収まる頃、俺はオムライスを片手にやつの屋敷を出た。正直長居していていい身分でもないしな……それに、ほら。


「うあぁぁぁ!! うまいぃぃぃぃぃぐぺほぽべらぶふぅぅぅぅ!!」


 食った奴は死ぬ――――そのあまりの旨さに体が耐え切れず、体中から血を流し胃にあるものをすべてぶちまけて。

 長居していたら俺もそれに巻き込まれて汚れるし、今の叫び声で人もやがて集まってくるだろう。

 早々とここから立ち去ろうとした俺は、不意に足を止める。誰かが居る。


 動きづらくなるので極力目撃されないようにしてきたが、いよいよ姿を見られてしまっては生かしてはおけない。

 俺は人の気配がする方へと近づくとそこに居たと思わしき人物は俺に背を向け走り出した。――――逃がさないさ……例え相手が女であろうとな。

 シルエットや体の動きから察するに相手は女、それも体運びを見る限り一般人の類ではない。戦える人種だ。


 女は街中に入ると人気のない路地へと入っていった……罠か、それとも。――――俺は手に持ったままのオムライスを待機状態にし、いつでも食死霊(ネクロフード)に返還できるようにして路地へと入った。

 路地は明かりもなく、また夜であるためか一切が見えない完全な闇とかしていたが生憎と俺は食死霊使いだ。


「弱火」


 調理魔法で自分の目の前に小さな火を灯すと、それを頼りに奥へと進む。

 路地は思っていた以上に長く、もしかしたらどこかに抜けてしまうのではと思ってしまうほどだ。……そうなると逃がしてしまったことになり、朝には俺の人相書きが国中にばらまかれるだろう。

 ――――そんな俺の懸念とは裏腹に路地は行き止まりで、その先には二人……先ほどの女と、それを従えている風の貴族と思わしき男がいた。


「やあ、待ってたよ、ここは暗くてね。あまり長居したくないんだけど、罠だと思われて追ってこない可能性とか心配してたけどちゃんと来てくれたみたいだね」


 こいつ。――――俺が誰だか分かった上で、わざわざこんなところで待っていたようだ……貴族であれば、マナイーターを虐げている可能性もあるが、俺はそこまで見境がないわけじゃない。


「貴族様が俺に『人喰のマナイーター』に何のようだ?」


 俺がそう呼ばれているのは知っていた。俺自身人前には出ないようにしていたが情報というものはどこからともなく漏れるものらしく、貴族を殺してまわってるマナイーターがいるという噂は既に国中に広まっており。

 いつしか人喰なんて呼ばれるようになっているが、実際言い得て妙だった。なにせ俺は料理に人を食わせ、その料理を人に食わせ殺す、人を喰う化物だからな付いて当然の仇名だ。


「へぇ、話を聞いてくれるのか。実際貴族だったらすぐさま殺しに来ると思ってたんだけど」


 本当に意外だったようで体の緊張がほぐれた様子の貴族――――横に控えている女は未だ緊張状態だけど。


「ま、アンタがそこの女を虐げているなら、話は別だがな……彼女、マナイーターだろう?」


 女のマナイーター別に珍しいものでもない、だが女のマナイーターにはだいたい共通することがある、それは胸がない事。

 マナイーターは母乳が出ない、母乳を子どもに与えるのは全て食材魔法によるものとなるからだ、故にマナイーターに胸は不要で乳首こそ有りはするが、男女ともにあまり代わり映えはしない。


「そうだよ、よくわかったね。やっぱり同種だと何か感じるものがあるのかい? そう、彼女は確かにマナイーターだ。それも僕専属の宮廷茶道師のね」


 宮廷茶道師、確か王や貴族なんかにお茶を出す専門職だったか? マナイーターの女性のみが許される給仕職で曰く毒などが入らず安全に飲めるという理由で重宝され、奴隷のように扱われるマナイーターが唯一自身の尊厳を守れる立場だと言える。――――いや唯一でもないか、茶道師は女性限定で男は宮廷料理人とかだったか?


「で、貴族様と宮廷茶道師が俺に一体何のようだ? 敵対する貴族でも暗殺してこいとか?」


 考えられるのはそのぐらいだが。


「ご名答。でもそういうのは殺し屋でも雇うさ、僕がしたいのは君が打倒すべき相手の情報を上げようってだけだよ」


「打倒すべき相手?」


「そう、君はアレだろう? 今のマナイーターの扱いに不満があってこんな事を繰り返しているんだろう? 僕はね一応マナイーターにも人と平等な権利をっていう平等派って派閥に属しているんだけど……」


 話が長いので要約すると、マナイーターを虐げているのは現国王派で、その派閥の貴族の情報をくれるということらしい。


「話はわかった、だが俺は誰かに仕える気なんてないんでね、悪いが断らせてもらう。俺は別に扱いがどうとかより目の前で苦しんでいるマナイーターを助けたいだけだ」


「それは知っているさ、でもそれじゃあただの自己満足なんだよ? 君が今していることでどれだけのマナイーターが救えて、逆にどれだけのマナイーターが被害を被っていると思う?」


「何?」


「君は助けているつもりかもしれないけど、救えているのは一人もいないのさ、逆に君がそうやって非合法に貴族を殺してまわるからマナイーター達の扱いはますます酷いモノになっているんだ」


 なんだと……それじゃあ、俺がやってきた事は一体?


「そして彼女とその兄で僕の親友だったマナイーターも君のせいで今投獄されているんだ……」


「投獄……? 何故そうなるんだ?」


「君が殺めた貴族の中に彼の主が居たんだけどね、君の罪を被ったってところかな、実際そういうケースは多いよ。主人殺しは重罪なんだけど、とりあえず僕ら平等派が投獄までに抑えているんだ。……本来ならば処刑なんだけどね、君っていう真犯人が未だに罪を重ね続けているから冤罪だって事はわかっているんだけど、現国王派ってのは頭が固いからね簡単に釈放って訳にはいかないんだ」


「それで俺に何をさせたい? 俺が真犯人として裁かれればいいのか?」


 ――――罪を自分だけで背負っていたつもりだったのがまさか、同族にそこまで迷惑をかけていたとは全く思ってもみなかった、俺が裁かれることによって何かしらの変えられるのならば喜んで身柄を差し出そう。


「いや、だから最初に言ったでしょう? ご名答って。僕が君にやって欲しいことは、現国王派の貴族を殺して回って欲しいんだ、実際君が今まで殺してきたおかげで少しずつだが現国王派は衰えつつある。だから君には引き続き貴族達を殺してもらいたい。もちろんできる限りの協力はするし、人員も貸す、立場だって与えよう」


「……なぜそこまでするんだ?」


「簡単な話さ、愛ゆえにだよ……好きな女性がマナイーターだった、それだけさ」


 俺は貴族の傍らに居る女を見る、若干頬を赤く染めているようだが、どうにも噛み合っていない気がする。


「さて手始めに君には宮廷料理人としての立場を与えよう、補佐には、宮廷茶道師である彼女。ティーナを付けよう」


 貴族が傍らにいた女――――ティーナの肩を押すと、彼女は心底驚いたように貴族の顔を睨んだ。


「お待ちくださいジョイル様! 何故私がこのような男と!?」


「それは君が宮廷茶道師として顔が知られているからだよ、彼の身元を保証するのに君ほどの存在はいないだろう? それとも僕が彼についてまわる必要があるのかな?」


「い、いえ……ジョイル様はそのような暇がない身、私でよければ喜んで彼についていきますわ」


 貴族――――ジョイルは満足そうに頷くとティーナの体を反転させて再び押し出した。


「あー……俺はクック、クック・ナイフスだ」


「えー……私はティーナ、ティーナ・カップです」



 これが俺とティーナの出会いであり、またマナイーターを巡る争いの発端となる出来事であった。


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