Even if not see my eyes.
久しぶりに3人称視点で書いてみましたが、勝手が悪い!もうやめよう←
この話のジャンル、恋愛じゃおかしいですかね?
1/29 ちょこちょこっと修正。
「……いや、慧くん!お願い、私は!私は……。」
ベッドで寝ていた彼女――森本麻都香は悪夢を見ているのか、とても魘されている。心配になった広川慧は、いそいで彼女の傍に駆け寄った。
話は3時間前に遡る。
慧と麻都香はお互い大学3年生だ。2人とも同じコース、同じサークルととてもウマが合うようで、一時は周りに「お前らデキてるんじゃねーの。」と囃し立てられたが、両者とも頑固否定したため、根も葉もない噂となって消えていったが、実際のところはよく分かっていない。
今日だって、レポートを書くため一緒に図書館へ。2人とも地方の郷土料理についての本を食い入るように読んでいたが、麻都香の方が先にまとめあげてしまっていたので、しばらくは別行動だった。
慧はふと、時計を見た。針は4の数字を指している。「結構時間は流れていたんだな。」と思った。慧は麻都香に声をかけようと立ち上がろうとしたが、体の節々が悲鳴を上げていたので「ううん。」と声を漏らし、伸びをした。
一息ついたところで慧は麻都香の捜索に出た。麻都香はおそらく館内にいるとは思っていたが少し不安だった。なぜなら麻都香は、慧と別れてから1時間が過ぎても戻ってこなかったからだ。
――きっと本に夢中になっていて時間の流れを忘れているだけだろう。
慧はそう思わずにはいられなかった。恋人の関係ではないが、慧にとって麻都香は大切な人なのだから。
医療関係が中心の本が置かれたコーナーに入る。麻都香は医者を目指している。という話を思い出した慧は直感でここを選んだ。
案の定、麻都香はそこにいた。しかし、慧は違和感を覚えた。麻都香に生気が感じられなかったのである。
「麻都香、帰ろう?」
慧はそう提案したが麻都香はブツブツと何か呟いたまま、反応しない。
「麻都香……どうした?」
慧は咄嗟に彼女の肩を揺らす。先程から様子がおかしい彼女に何かを訴えるかのように小刻みに、でも肩を掴む手は優しい。まるで、割れ物を扱うかのように。
「慧くん……。」
ようやく彼女が口を開いた。彼女の口から紡がれる細い糸のような声。慧は一言一句聞き逃すまいと心に誓い、耳を傾けた。
「あのね、先週の水曜日と木曜日に養護施設に研修に行ったのだけど。そこでね、視覚障害の方と交流させてもらったの。」
彼女の顔は今にも泣き出しそうだった。相当そこで辛い経験をしたのか。慧はだんだん麻都香のことが心配になってきた。彼女の話はまだ続く。
「私はそこで“視覚障害者”になったの。まあ、単純に目隠ししただけなんだけどね。でもそれだけでもあたりは黒1色。光が一切差し込まないの。そこで初めて“光”というものがどれだけ大切かがわかったの。それを踏まえた上で歩いてみたんだけどね。そもそも“歩行”という行為は私たち健全者のとっては造作のないことでしょう?でもその時の私にとっての歩行は命懸けだった。先程まで歩けた道が急に歩けなくなって、今自分はどこにいるのか、右も左もわからなくて混乱した。その時から、眠れなく……なって……。」
体力の限界だったのか彼女は意識を手放してしまった。突然のことに慌てた慧は図書館の職員を呼んで休憩室を解放してもらい、そこに麻都香をかつぎ込んだ。
そして、今に至る。
彼女はまだ目を覚まさない。睡眠不足が甚だしいダメージを与えたのだろうか。慧はあまりにも状態が良くない麻都香に少々怒りが込み上げてくる。
――全く、困っている人を助けたいと言っておきながら、自分が苦しんでいたら元も子もないじゃないか。
“変わってやれるものなら変わってやりたい。”彼女はただの友達である。そう思い続けていたが、その感情を抱いた瞬間に彼の中で何かが崩れ去る音がしたが、彼は気づくことはなかった。
「……I want to help people who are in trouble.So I would like to become a doctor.」
流暢な発音がポカポカ陽気の教室内に流れている。麻都香がクラスメイトの前で発表している。もともと英語が得意な彼女は英語担当の教師に気に入られ、クラス内での発表会でしょっちゅう指名されていた。
――確かこれは中学3年生の頃の英語の授業でのこと。将来の夢について短文スピーチをしたんだよな。……ということはここの世界は自分の夢の中なんだ。
慧は今の状況を理解した。そして、麻都香のことをほったらかしで自分1人が微睡んでいたことも。
「うん……。」
慧が夢の中から帰ってきた。「ふあ。」と欠伸を1つ。
――あ、麻都香は?麻都香は大丈夫なのか?!
慌てて立ち上がった時、彼の体にかかっていた何かがふわりと落ちた。確認するとそれは毛布だった。
――自分で毛布を用意した覚えはないぞ。……もしかして?
「毛布、かけてくれたんだね。」
「ええ、そうよ。」
慧は麻都香が寝ていたベッドの横に駆けつけた。やはり、麻都香は起きていた。慧も麻都香も自然と笑みがこぼれる。
「調子はどうだい、麻都香?目が覚めて本当に良かった……。」
慧は安堵した拍子なのか無意識のうちに彼女の手を握った。彼の不意のアクションに麻都香も悪い気はしないらしい。ちゃっかり手を握り返している。傍から見れば誰もが「リア充爆発しろ!」と叫びたくなるような、甘い、甘い、雰囲気だった。
「ふふ、ありがとう。もう大丈夫よ。」
麻都香はそう言いながら握っていた手を離し、立ち上がった。彼女はそのまま「ううーん。」と唸り、大きく伸びをした。
「なんだかよく眠れた!」
彼女があっけらかんと言うので、先程まで顔に陰りが見えた慧も思わず吹き出す。
「心配して損するほど回復していたみたいだね。」
気力が復活した麻都香は、しばらくの間、飛んだり跳ねたり騒ぎまくっていたが突然静かになり、真剣な顔付きに変わった。
「どうした、麻都香?急に険しい顔なんかして。」
「慧くんは私の目が見えなくなったとしても、私のことを好きでいてくれる?」
ずりずりっと彼女が慧の顔に迫る。あと数センチ近ければお互いの唇が触れ合う、それくらいの距離。麻都香の大胆行動に思わず彼の頬が赤く染まった。
「それはどういうこと……?えっと、つまり。ただの友達ではないということで?」
彼の言葉に麻都香の目は少し潤んできたように見える。自分の服の裾をぎゅっと掴んでいる手はぷるぷる震えていた。
「やっぱり慧くんは私のことをそんなふうにしか思っていなかったんだ。周りが私たちのことを囃し立てているのを見ていて正直嬉しかったんだよ。でも今の言葉で分かったよ。所詮私のこの想いは片思いに過ぎなかったってことが!」
「え、ちょ、待って!」
慧の制止も虚しく、そう吐き捨てると彼女はそのまま走り去ってしまった。
――麻都香はどこに行ってしまったのだろう?
次は全く見当もつかなかった慧。とりあえず館内のあらゆるところを探し回った。しかし、彼女の姿が見えない。
もう、こうなったら図書館の周辺も探してみよう。と思い、ふうっと息を吐いた。
外に出ると強い風が吹き付けていた。慧はぶるっと体を震わせた。体に氷の刃が突き刺さったような感覚がする。
――麻都香、こんなに寒いから体を冷やしていないかな?あんなに元気そうにしていたけど意識をなくしたばかりなのに。
慧は自分の考えにはっとさせられた。何を考えているんだ、いま口喧嘩した人のことを思いやるなんて……と。
「ははっ。」
ふと笑いが込み上げてきた。慧は自分の心に白旗を上げた。全部認めよう。彼女に伝えなきゃ。そう決めた瞬間だった。
図書館の裏に回ると彼女が地面にしゃがんでいた。
「麻都香、ごめんな。」
慧は誠心誠意の気持ちを込めて謝罪した。
「むう、何よ。……ぐすっ。私のほうこそ、言い過ぎちゃった。ごめんなさい。」
ぷうと餅のように頬を膨らませた麻都香も謝り、2人は無事に仲直りすることができた。
「あの、麻都香。君に伝えたいことがあるんだ。」
この展開は読めなかったのか、彼女はきょとんとしている。
慧の掌は汗でびっしょりだ。伝えなきゃ、伝えなきゃ。念仏のようにぶつぶつと、その言葉を口で転がす。
“変わってやれるものなら変わってやりたい。”
目が覚めて本当に良かった……。
慧くんは私の目が見えなくなったとしても、私のことを好きでいてくれる?
周りが私たちのことを囃し立てているのを見ていて正直嬉しかったんだよ。
麻都香、こんなに寒いから体を冷やしていないかな?
何を考えているんだ、いま口喧嘩した人のことを思いやるなんて……
様々な思いが頭の中を駆け巡った。慧は拳をぎゅっと強く握った。それから強い意志が感じられた。
「俺、麻都香のことが大好きなんだ!口下手でうまくは言えないけど、麻都香のことを幸せにしたい!……こんな場所で言うなんてムードがないよな。」
慧は告白、というより叫んだ。もう、結果なんて求めない。自分の気持ちを伝えよう。彼は腹をくくっている。
「う、うう……。ぐすっ。その言葉、本当?」
「ああ、もちろん。」
慧は力強く頷いた。それを見た麻都香の顔に花が咲いた。
「嬉しい。場所なんて関係ないよ、お互いの気持ちが一致したんだから。」
彼女は手で顔を覆い、ぼろぼろ涙を零している。その涙は、とても明るくて眩しい。
「ありがとう、慧くん。私本当に嬉しい。こんな私だけど、よろしくね!」
周りに散々囃し立てられていた2人が本当にリア充になった瞬間だった。
「あともう1つ。さっきの質問の答えだけど。」
――慧くんは私の目が見えなくなったとしても、私のことを好きでいてくれる?
彼はまだ投げかけられた疑問を忘れてはいなかった。
「俺はどんな麻都香でもずっと好きだ。2人で支え合いながら生きていこう、いつまでも。」
「本当にありがとう、慧くん!私もよ!」
彼の回答を聞いた麻都香は彼に飛びついた。不意打ちだったため慧は彼女を受け止めたあと、支えきれずに尻餅を付いた。
――でも彼女を守れたからそれでもいいかな。
花のような笑顔を浮かべる麻都香に、慧はそう思った。
7時を回り、図書館は閉館した。慧は彼女に1人で夜道を歩かせるわけにはいかないので彼女の自宅まで送っている。
「そういえば、なんであんな質問なんてしたの?」
「あんな質問って?」
彼女は首を傾げている。本当は分かっているはずなのに、わざととぼけているのだ。
「ごめんなさい、本当は何が聞きたいのか分かっているの。あれでしょう、“慧くんは私の目が見えなくなったとしても、私のことを好きでいてくれる?”だよね。」
「うん。」
慧は首を縦に振る。彼女はまた口を開く。
「実は眠っていた時に悪夢を見たの。私が視覚障害者になった夢で、見えないから次第に記憶までなくなっていくの。慧くんの顔を思い出せなくなって、好きなのに……!でも愛想を尽かされて慧くんに嫌われていくの。……もう見たくないの、あんな夢。」
彼はそれを聞いてあることを思い出した。
――……いや、慧くん!お願い、私は!私は……。
つい数時間前に聞いた彼女の寝言。慧はこのことを彼女に伝えた。
「多分それかな……って寝言言っていたの、私――?!恥ずかしいよ。」
彼女は慧の言葉赤面していた、彼はそんな彼女に赤くしていた。
慧くんは私のことをそんなふうにしか思っていなかったんだ。
え、ちょ、待って!
麻都香、ごめんな。 私のほうこそ、言い過ぎちゃった。ごめんなさい。
2人はきょう1日でたくさんのことを経験した。辛いことも嬉しいことも。
2人はこれから一緒になっていく。同じ人生を歩んでいるとまた、衝突することがあるだろう。でもその度に謝ればいい。
慧くんの顔を思い出せなくなって、好きなのに……!
……いや、慧くん!お願い、私は!私は……。
2人でいればもう寂しい思いをしなくても良い。1人で抱え込む必要なんてないのだ。
それが1つになるということだから。
俺、麻都香のことが大好きなんだ!
場所なんて関係ないよ、お互いの気持ちが一致したんだから。
2人で支え合いながら生きていこう、いつまでも。
ありがとう、慧くん!
でも彼女を守れたからそれでもいいかな。
そして2人で育んだ愛のカケラ。それはどんな困難でも乗り越えられるはずだ。
一生に一度の大きな分岐点。それをどうか幸せなものに。
数日後。2人は「お前らデキてるんじゃねーの。」と囃し立てる周りの人――もとい同じサークルのメンバーに堂々と交際宣言をしたそうだ。 《 Fin 》
麻都香ちゃんの体験は実体験であります。歩行体験の他にサポートの体験をさせてもらいました。視覚障害者の方にとってサポーターは世界を作り上げる方にあたるそうなのです。改めて言葉で伝えることはいかに大変かが分かりました。
これからもちくわ。をよろしくお願いします。
読んでいただきありがとうございました。