#18 朱莉
朱莉が、最初に解創と関わってから、ちょうど一年が経とうとしている。
秋は過ぎ、季節は冬に差しかかろうとしている。一年というのは早いものだ。
いろんな事があったなと、朱莉は思い出す。
洋子の件、鈴切桐高の件、瀬戸川布由希の件、夏の薫の異変、降棚練磨の件……そして、角川祐輔との、別れ。
こんな事を経験できたのも、全ては、薫や祐輔と、知り合いになれたからだろう。
「角川さん、どうなったの?」
下校中、葉をすっかり散らしてしまった桜並木を通りながら、裁定委員会の情報員、木村美羽に、朱莉は、そう尋ねた。
「結局、人形は見つからなかったから、あれが見つかるまでは、処分は保留ね。朱莉……貴女の思惑通りにね。してやられたわ、まったくね」
笑いながら、ごめん、と言っておく。
「まぁ、いいわ。あぁ……そうだ。朱莉に、ちょっと、会わせたい人がいるの」
「会わせたい人?」
もしかして、祐輔だろうか? そう思った……けれど、その予想は、裏切られた。
「本人の希望でね、ま、更生の兆しもあるし、認められたわ」
美羽が指差す――校門のすぐ傍らに、人が一人、立っている。
その姿――その顔が見えたとき、朱莉は、言葉を失った。
その少女の髪は、パッと見ると黒いが、実はちょっと染めている。今は下ろされているが、一年前は、その髪はポニーテールにしていた。天然で茶髪、ショートカットの朱莉とは対照的な、その人物は……。
「洋子……!」
野崎洋子は、朱莉を見つけると「久しぶり」と手を振った。
「じゃあ、あとは二人で如何様にも。用が終わったら、駅に来るように、いいわね」
美羽の指示に、洋子は「はい」と後輩のような口調で応じた。
「久しぶり……洋子。なんていうか、変わったね。髪とか、雰囲気とか」
もっと活発な印象があったが、今は、お淑やかなお嬢様、といった感じだった。
「そういう朱莉は、何にも変わってないね」
「ひどいなぁ」
朱莉は、頬を膨らませる。
「良い意味でよ。アンタは、そんなにコロコロ変わる人格してないし」
立ち話もなんなので、二人は校門の近くにある、石垣みたいな所に座った。
「失望した? 私の事」
美羽が青空を仰ぐ。朱莉も真似する……風に乗って動く雲は早い。
「角川さんに、色々教えてもらった事とか?」
そこまで知っているのかと、洋子は嘆息した。
「ええ……私は、解創を使って、人を幸せにしようとした。角川さんと知り合って、降棚さんにも色々教えてもらってね」
本人の口から聞いて、朱莉は、今更に実感が湧いてきた。洋子が、解創の力を使っていた事を。
「私、別に洋子の事、嫌ったりとか、軽蔑したりとか、してないよ」
朱莉は、洋子が自分を責める前に、先手を打った。
「そう……」
ある程度、想像できていたことだったらしい。安心したように、洋子は落ち着いた声を漏らす。
「けど、言いたい事は、一つある」
怒られるのかと思ったらしい。洋子は、肩の力を抜いて、開き直った様子で、「何?」と朱莉を見つめる。
「洋子は、人の為に解創を使った。結局、それは皆の意思とズレてて、不幸な結果になったけど……」
「そうね」
美羽が、視線を落とす。彼女なりに、罪悪感を抱いているらしい。
でも、朱莉は怯まない。これまで自分が学んできた事から、親友の行動の考察を述べる。
「けど、この一年、角川さんの元にいて、分かった事があるの。解創は、歪で、凄い力だけど、その根源は、やっぱり人の願いなんだって……確かに、洋子は手段は間違っていたけど、願いは間違ってなかったと思う」
それが、この一年、祐輔の元にいて辿り着いた、洋子への評価だった。
一年前、解創について、何も知らなかった朱莉だった。けれど、今は違う。この一年、いろんな事があって、それを経験し、考えてきた。その上で辿り着いた答え。
だから、胸を張って言えた。信じていた親友に、自分の思いを、そのままに。
「解創じゃなくて、他の方法を探そう」
朱莉の言葉に、洋子は、表情を綻ばせた。憑き物が落ちたように、その顔は清清しかった。
そんな洋子の顔を見て、朱莉も、思わず笑った。
これにて、ハニーポット全章完結となります。
全章で1年ちょっと掛かりました。自分でも、これだけ長い作品を書くのは初めてです。
今まで全章見てくださった方や、途中からでも見て頂いた方、いろんな人がいらっしゃると思います。「なろう」らしからぬ、ひどくのんびりとしたペースにお付き合い頂き、誠に有難う御座いました。
もし宜しければ、この下に評価や感想を書く欄が出てくると思いますので、忌憚のない評価などを頂けると嬉しいです。
次回作は、今の所は考えておりませんが、書こうとは思っております。
また決まりましたら活動報告とか何かで宣伝しようと思います
では、またお会いできることを願って。




