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ハニーポット  作者: 指猿キササゲ
$6$ 超越者たち
113/113

#18 朱莉

 朱莉が、最初に解創と関わってから、ちょうど一年が経とうとしている。

 秋は過ぎ、季節は冬に差しかかろうとしている。一年というのは早いものだ。

 いろんな事があったなと、朱莉は思い出す。

 洋子の件、鈴切桐高の件、瀬戸川布由希の件、夏の薫の異変、降棚練磨の件……そして、角川祐輔との、別れ。

 こんな事を経験できたのも、全ては、薫や祐輔と、知り合いになれたからだろう。

「角川さん、どうなったの?」

 下校中、葉をすっかり散らしてしまった桜並木を通りながら、裁定委員会の情報員、木村美羽に、朱莉は、そう尋ねた。

「結局、人形は見つからなかったから、あれが見つかるまでは、処分は保留ね。朱莉……貴女の思惑通りにね。してやられたわ、まったくね」

 笑いながら、ごめん、と言っておく。

「まぁ、いいわ。あぁ……そうだ。朱莉に、ちょっと、会わせたい人がいるの」

「会わせたい人?」

 もしかして、祐輔だろうか? そう思った……けれど、その予想は、裏切られた。

「本人の希望でね、ま、更生の兆しもあるし、認められたわ」

 美羽が指差す――校門のすぐ傍らに、人が一人、立っている。

 その姿――その顔が見えたとき、朱莉は、言葉を失った。

 その少女の髪は、パッと見ると黒いが、実はちょっと染めている。今は下ろされているが、一年前は、その髪はポニーテールにしていた。天然で茶髪、ショートカットの朱莉とは対照的な、その人物は……。

「洋子……!」

 野崎洋子は、朱莉を見つけると「久しぶり」と手を振った。


「じゃあ、あとは二人で如何様にも。用が終わったら、駅に来るように、いいわね」

 美羽の指示に、洋子は「はい」と後輩のような口調で応じた。

「久しぶり……洋子。なんていうか、変わったね。髪とか、雰囲気とか」

 もっと活発な印象があったが、今は、お淑やかなお嬢様、といった感じだった。

「そういう朱莉は、何にも変わってないね」

「ひどいなぁ」

 朱莉は、頬を膨らませる。

「良い意味でよ。アンタは、そんなにコロコロ変わる人格してないし」

 立ち話もなんなので、二人は校門の近くにある、石垣みたいな所に座った。

「失望した? 私の事」

 美羽が青空を仰ぐ。朱莉も真似する……風に乗って動く雲は早い。

「角川さんに、色々教えてもらった事とか?」

 そこまで知っているのかと、洋子は嘆息した。

「ええ……私は、解創を使って、人を幸せにしようとした。角川さんと知り合って、降棚さんにも色々教えてもらってね」

 本人の口から聞いて、朱莉は、今更に実感が湧いてきた。洋子が、解創の力を使っていた事を。

「私、別に洋子の事、嫌ったりとか、軽蔑したりとか、してないよ」

 朱莉は、洋子が自分を責める前に、先手を打った。

「そう……」

 ある程度、想像できていたことだったらしい。安心したように、洋子は落ち着いた声を漏らす。

「けど、言いたい事は、一つある」

 怒られるのかと思ったらしい。洋子は、肩の力を抜いて、開き直った様子で、「何?」と朱莉を見つめる。

「洋子は、人の為に解創を使った。結局、それは皆の意思とズレてて、不幸な結果になったけど……」

「そうね」

 美羽が、視線を落とす。彼女なりに、罪悪感を抱いているらしい。

 でも、朱莉は怯まない。これまで自分が学んできた事から、親友の行動の考察を述べる。

「けど、この一年、角川さんの元にいて、分かった事があるの。解創は、(いびつ)で、凄い力だけど、その根源は、やっぱり人の願いなんだって……確かに、洋子は手段は間違っていたけど、願いは間違ってなかったと思う」

 それが、この一年、祐輔の元にいて辿り着いた、洋子への評価だった。

 一年前、解創について、何も知らなかった朱莉だった。けれど、今は違う。この一年、いろんな事があって、それを経験し、考えてきた。その上で辿り着いた答え。

 だから、胸を張って言えた。信じていた親友に、自分の思いを、そのままに。

「解創じゃなくて、他の方法を探そう」

 朱莉の言葉に、洋子は、表情を綻ばせた。憑き物が落ちたように、その顔は清清しかった。

 そんな洋子の顔を見て、朱莉も、思わず笑った。

これにて、ハニーポット全章完結となります。

全章で1年ちょっと掛かりました。自分でも、これだけ長い作品を書くのは初めてです。


今まで全章見てくださった方や、途中からでも見て頂いた方、いろんな人がいらっしゃると思います。「なろう」らしからぬ、ひどくのんびりとしたペースにお付き合い頂き、誠に有難う御座いました。

もし宜しければ、この下に評価や感想を書く欄が出てくると思いますので、忌憚のない評価などを頂けると嬉しいです。


次回作は、今の所は考えておりませんが、書こうとは思っております。

また決まりましたら活動報告とか何かで宣伝しようと思います


では、またお会いできることを願って。

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