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ハニーポット  作者: 指猿キササゲ
$1$ 本質乖離
10/113

#10 薫

    #10 薫


 時計の針は、午後十時を回っていた。

 蓮灘薫は学校から出た後、拾った御札と女の情報を土産に、マンションの一室、角川祐輔の部屋に訪れていた。

「女?」

 現れた人影の性別を告げると、角川祐輔は、そんな単純な反復した。

「ああ。女子高生。コスプレだったら分かんないけど」

 我が物顔でソファに座る薫を咎めもせずに、祐輔は手渡された御札に見入っていた。

「ふぅん。しかし実体が無いっていうのが、どうにも不鮮明な表現だね」

「そりゃそうでしょ。実体がないんだから。けどあれは三次元的……立体的だった。風景は透けてたけどね」

 薫の話を聞きながら、祐輔は御札を薫に返す。どうやら鑑定はこれで十分らしい。続いて祐輔は薫の言った立体的な実体の考察を始める。

「……ふむ。仕組みは簡単な気がするね。追求者なら、その程度の像を作るのはワケない」

「仕組みもなにも、追求者がやるなら、その技術は解創でしょ? 説明も何もいらないじゃない。やることなすこと不条理なんだから」

「いや、追求者ができることっていうのは、人が望めることだけだよ」

 望めることと言うと、不老不死とか妄想の類も含まれるのだろうか。薫は溜め息しかつけない。それならなんだって出来るのと同じだ。

「……アンタね」

「いや、真面目に言ってるんだよ」

 セリフとは裏腹に笑いを浮かべたまま、祐輔は話を続ける。

「いいかい? 人が起す行動は、必ず人が考えたり、望んだ行動だ。例えば身体の動き。歩くとか走るとか、そういう行動の前には、意識的にしろ無意識的にしろ、既に人の頭の中で想定されているはずだ。

 つまり逆に、望めない事、知らない事は能力があっても起こせないのさ。走るとか歩くとか、そういうことなら別として、ジャンケンを知らない人間が、ジャンケンをできるわけがなく、タイピングを知らない人間がキーボードを前にしたって、タイピングを出来るわけがない。人間は望んだこと……望める事しか起せない。その権化たるものが道具だ。道具というのは、その機能が最初から決まっている。なぜなら道具を作るということは、ある目的を達成するという望みの為……つまり使うことを前提としているからね。『作り主にも何か分らない道具』なんていうのは、この世に存在しない。解創も同じ。作った追求者は、必ずその解創がどういうものか知っている……いや、追求している」

「本当に?」

「何事にも例外はつき物さ。もしそんな物があったら、それは例外として勘弁してくれ」

 祐輔はわざとらしく肩をすくめる。薫はその態度が気に食わない。

「とにかく、その女の像というのは、おそらく追求者が作り出した映像だ。月明かりが女を照らしてた、と君は言ってたよね? あれは映写しているのを誤魔化す為だよ。ガスか何かをスクリーン代わりにして、どこからかプロジェクターみたいなもので映してたんだ。『二つ目の実体を作る』なんて解創よりも、スクリーン代わりのガスを、対流を操作する解創で操る方がよっぽど簡単だからね」

 すかさず薫が反論する。

「スクリーンって……それじゃ平面な映像になるでしょ」

「立体的に物を映すプロジェクターなんて、科学の力で既に実現してる。プロジェクション・マッピングってヤツさ。科学でできる事なんだから解創で出来たって何の不思議もない。仕組みが同じかどうかは知らないけどね。それより僕は気になることがある」

 いつになく真剣な顔をして、祐輔は薫を見つめる。

「なに?」

「その女は、どうして突然、君の前に現れたんだ?」

「――」

 薫に動揺が走る。

 突然現れた亡霊のような像。別に恐ろしく思わなかったはずなのに、今になって恐怖を覚えた。

 この御札は、どうやら祐輔の言っていた、まじないと同一のものらしい。しかし、まじないを叶えるというだけで、御札を作った本人が、願った人間の目の前に現れる、というのは考えにくい。そもそも薫は御札の存在自体、あの時に来てから知った。

 ということは、自分は、目をつけられていた? なぜ? いつから? 高校に入学してから、正体不明の人間に、ずっと――

「怖くなったのかい?」

 心中を言い当てられ、薫は思わず、どきりとした。祐輔に指摘されたからか――心の中の波紋は、綺麗さっぱり消え失せた。

「ふざけるな」

 恐怖と挑発染みた指摘を、鼻で笑う。

「次に会うときには、必ず正体を突き止めて、アンタに引き渡してやるわ」

 薫の自信満々な表情を見て、祐輔が表情を崩す。

「その意気だ……おっと、忘れるトコだった。君からのメール」

 薫は再び表情を引き締める。学校に入る前に、タブレットで送っておいたメールのことを、祐輔はもう調べたらしい。

「事故った先輩、分った?」

「ああ、調べたよ。幸か不幸か、死んではいない。色々情報を集めてみたが……詳しい状況、聞くかい?」

 薫が首肯すると、祐輔は続けた。

「高校三年生の男子生徒が帰宅途中、信号が青になるのを待っていたところ、その男子生徒は突然、車道に飛び出して軽トラに撥ねられたそうだ。幸い、頭への衝撃は軽微で、九死に一生を得たらしい。これだけなら彼の不注意なんだが……本人は『後ろから背中を押された』と話しているそうだ。無論……といって良いかは知らないが、事件当時、周りにいた人間……専業主婦、及び同じ学校に通う女子生徒は、『彼の周りに人は居なかった』と話しているそうだ」

 後ろから背中を押された……なにか事件を臭わせるニュアンスだ。

「それって……なにか外部からの力が働いた、とは考えられない? 具体的に言うと……幽霊みたいな」

「幽霊、ね」

 微かに笑う。

「そうだね、幽体離脱を望む人間は、存外多い。もう一つの自分っていうのは魅力があるからね。それだけを望んで、解創を手に入れたとしても不思議じゃない。追求者、解創者、両方有り得る」

 解創者と追求者。違う点は、願っている事以上の目的があるか否か、だ。解創者は願った事が、そのまま目的であるが、追求者は願った事で手に入れた解創を利用して、自由を手にしようと模索する。だが、差異――高低はあれど、どちらもその解創を深く理解している。

 願い、手に入れた解創者は言わずもがな、手段として用いる追求者も、それを使って自由を手にしようと願うのだから、その思いは解創者にも引けを取らない。

 解創を為している時点で、相手の思いは本物だ――なら、自分がすべき事は?

 決まっていた。どんな相手であろうと、頼まれたからには仕事を完遂する。それだけだ。

「また気になることがあったらメールする」

「分った」

 一言交えて、薫は祐輔の家から出て行った。


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