86 クリス・ミーン5
私が部屋に入って目に飛び込んだ光景は腰を直角に曲げて父に頭を下げているクラフトだ。
「クラフト様?!」
「良いんだアクア、人に物を頼む時は頭を下げるものだよ」
確かにそうだけど当の本人になんの了解も無いの?!私にかなり関係ある話だよね、それ。
お父様は私の内心を知ってから知らずか分からないが、私に話を振ってくれる。
「そう言われてもな娘自身のことだ。娘も呼んだ。クリス入ってきなさい」
私はドアを開けた直後の衝撃発言で自分が部屋の中に入っていないことに気づいて、急いで部屋の中に入りドアを閉めた。
「改めて自己紹介を。クリス・ミーンです。どうぞ以後お見知りおきを」
私はそう言って挨拶をするとお父様の隣に座る。
「それじゃ俺も改めて自己紹介をしよう。勇者のクラフトだ。よろしく」
クラフトは頭を下げるのをやめて自己紹介をした。それに続くようにアクアのと言う少女も自己紹介をする。
「ち、治療巫女のアクア・トレントです。よろしくお願いします」
アクア・トレントはペコリと頭を下げる。
「………」
私は二人の自己紹介に何も言えずに思考が停止してしまった。
ユウシャ? ゆうしゃ? 遊社? 友社? 遊舎?
そしてそれが正しく認識出来た瞬間
「勇者!?」
思わず叫んでしまった。
「ご、ごめんなさい」
私は自分の顔が恥ずかしくて赤くなることが分かった。
いや、だって生きている間に会えるとは思いもしなかった。確かに勇者に関しての噂は聞いていたけど……。そもそもこんな辺境な領地にしかも家を訪ねてくるとか思わなかっいし。それもさっき手合わせした相手だなんて?!。ならあの強さも頷けるわ。勇者なんだし、うん。
ちょっと待って、じゃあ、私勇者に求婚されたの?!それを断るのは……お父様も悩むでしょうね。特にタイプという訳じゃないし。どうしよ、どうしよ!どうしようーー!!
私の脳内では色々と思考を巡らせて、頭がパンクしそうになりそうになっていた。
「それで返事聞きたいのですが……」
勇者にそう言われて思考が戻ってくる。私はそれまでの話が全然頭の中に入っていない状態だったので何を質問されたのか分からなかった。
しかし全員が私の顔を見て、期待と不安に満ちた目で私の返事を待っている。どうしよ?質問の内容はしっかりと聞いたほうが良いけど……。
ええい、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥です。聞いてしまいましょう!!。
「えっと……ごめんなさい、話の内容が頭の中に入ってこなくて聞いていませんでした」
私の発言を聞いた全員がその場でこけてしまった。
「クリス、お前と言う奴は……」
お父様は頭を抱えてうなって唸ってしまう。
「ごめんんさい、お父様」
治療巫女のアクアが呆れたように私を見て、咳払いをして
「簡単言うとクリスさんを貸してほしい。あなたは勇者のパーティーにスカウトしているのです」
あれ?結婚相手に選ばれた訳じゃないんだ。良かった、良かった。
じゃあなんで欲しいに聞こえたの?
貸してほしいー貸して=ほしい
あ~あ、私途中から聞いたからか。びっくりして損した。
「私をですか?」
「はい、今回の旅は魔王を倒すための仲間集めが目的です」
「私なんかより強い方は大勢います。お父様もその一人ですよ。それにお城の兵士達もいますし……」
私の発言にもっともだと言う風に頷き、治療巫女のアクアは話を続けた。
「確かにその通りです。しかし彼らが居なくなってしまうと領地や政が回らなくなってしまったりします。彼らは戦争が専門の役職です。それに兵士が居なくなったと知ったら何処かの国が攻めてきたりするかもしれません」
「魔王を倒そうとしているのに?!」
私が驚いて聞き返した。だって世界を救おうとしているのに内輪もめなんて……。
「悲しいことにこれが現実です。それに魔王以外にも魔物もいますから多くの冒険者も連れて行くことはできないんです。だから少数精鋭で戦うのです」
「それで今は仲間を集めている最中だと」
「はい」
これがチャンスかも。
「これからの旅はどこに行くつもりですか?」
私が尋ねると勇者が答えてくれた。
「手始めにここに来ただけですから、まだまだ色々回るつもりです。ザスーラ国から獣人そしてエルフの国まで回るつもりでいます」
それを聞いて私は内心ガッツポーズを取っていた。
やった!!これでお父様に勝たなくても旅に行けるし、路銀の事とか考えなきゃいけなかったけど勇者御一行なら路銀は気にしないくて済む。
私は二つ返事で勇者にパーティーに入ることに返事をした。
これでオズワルドを探しに行くことができる!!
と喜んだのも束の間、お父様から待ったが掛かる。
「私を倒してからじゃないと旅には行かせない約束だ」
次回クリス編はラストです!!




