85 クリス・ミーン 4
私たちが訓練所を後にして、冒険者ギルドに戻ると治療院の娘が出迎えてくれる。
「すいません、クラフト様が」
頭を下げてくる治療院の娘。
「私が頼んだことだから気にしなくても大丈夫よ」
「そうですか、ハアー」
治療院の娘は安心したようにため息をついた。
「ほら、さっき俺が言ったとおりでしょう。アクアは心配し過ぎなんだよ」
「誰のせいでこんなに心配することになったか原因を考えてください!!行く先々で問題を起こしてるんですよクラフト様は!!」
アクアと呼ばれた娘は我慢できなくなったみたいに、クラフトに向かって叫んだ。色々と苦労が多いのだろう。
「私はこれで失礼します。サリー馬車の準備を」
「分かりました」
私は足早にそこから去った。
私が去ったあとギルドから大きな歓声が響く。ギルドの冒険者に戦いを挑んで一回も負けたことが無かった私が負けた。ギルドの冒険者の目標が何となく『打倒、クリス・ミーン』みたいになっているのだ。最近下火になってきたが、ついにそれが達成されたのだ。
ギルドの冒険者は大喜びするだろう。そんな中に私がいたら喜びにくいただろう、だから私はさっさとギルドを去ったのだった。
屋敷に着くとサリーが御者台から降りて、馬車のドアを開けてくれる。
「クリスが負けるなんて意外ですね」
サリーが私を名前で呼ぶ時は私を友人として話すときの合図。私は剣の鞘を撫でながらこれからのことを考える。
「そうね、私も負けるとは思わなかった。しかも手加減されていたと思うわ」
「て、手加減されていたんですか?」
サリーは驚いたように声を上げる。分かるわ、その気持ち。父様とどちらが強いのかしらね、彼は。
「多分ね」
「あの方は一体何者なのでしょう……」
ギルドがある方向を見ながらサリーが呟く。
「クリスはあの方々が誰か分かりますか?」
サリーが馬車を片付けるのと一緒に歩きながら私が考えていたことを口に出す。
「最初は強者か疑ったわ」
「そうですね、一定の強者が持つ圧力と言いましょうか?風格がありませんでした」
「あら、気づくなんて流石だわ。サリー」
「だてにお嬢様に連れ回されてませんからね。それに測定できるようにはなりましたから」
胸を張ってサリーは威張る。サリーは私が色々と連れ回して強者と合わせていたらスキルを獲得したのだ。測定、これが彼女が獲得したスキル。表面から人間や魔物を強さを測定できるスキルだ。
「それで結果は?」
馬を馬小屋に連れてきながら返事をする。
「そうですね……そこまで強くは思いませんでした。測定した時違和感は感じましたが」
「違和感?」
サリーは馬を馬小屋に戻して私に顔を見せる。
「この前に測定した時と似ていますね」
「隠蔽スキルのこと?」
「はい」
私とサリーは肩を並べながら屋敷の方に向かって歩いていく。
「ですが隠蔽ではありませんでした」
「そう」
私たちは少しの間沈黙して、その違和感について考えたが特に答えが思いつかなかったので話を戻した。
「装備を見る限り派手ではないけど、高級品を使っていました。それと治療院の娘がいたのを見て最初は貴族の方かと思いました」
「私は貴族の愛人の子供かと考えたわ。まあ貴族と関係があると考えたのはサリーと同じよ」
私たちは屋敷に入るとそのまま私の部屋にサリーを連れて行くと話の続きをした。
サリーはお茶を入れる準備をし始める。
「それで最初は装備に頼ったボンボンかと思ったわ」
「そして事実は違ったと」
「ええ、私が負けたのだもの。彼は間違いなく強者だわ」
サリーは私のカップにお茶を注ぐとお菓子をお皿に並べ始める。
私はお菓子を口に含む。彼が何者かを謎を噛み砕くように口の含んだお菓子も噛み砕くが何も分からなかった。
「まあ、良いわ。サリー」
私は考えることをやめてサリーに用事を申し付けようとサリーの名前を呼んだ。
「はい、お嬢様」
サリーはすぐに私が友人として語りかけが終わるのを感じたのだろう。呼び方がお嬢様に戻る、サリーのこの察しの良さと切り替えの早さは良いわ。
「彼らをこの屋敷に招くように手配してくれる、あとお父様への説明もお願いしても良いかしら?」
「仰せのままにお嬢様」
サリーはそう言って足早に部屋を出て行く。
しかし呼ぶ必要など無く彼らはこの屋敷を訪ねて来たらしく。私もお父様に呼ばれて会いに行った。
「お父様来ましー」
ドアを開けると同時に私の耳に入ってきた言葉はとんでもない物でした。
「ーください、お嬢さんを」
……一体この数時間の間にどのような変化があって、どんなことがあったのだろう。
番外編で書くものを活動報告に書いておきます。追加などのご要望があったら書いてください




