79 散々な一日
視点はリリアナです。
時刻は夕方、あたしは学校から帰ってきて夕食の支度をしていると窓から何かが入ってくる気配がする。多分マスターだ。
「ただいま」
マスターがやけに疲れきった声で返事をしたのであたしはどうしたのかと視線を向ける。
「お帰りなさい?!」
マスターはびしょ濡れで疲れきっていました。しかも背後には沢山妖精。
「どうしたんですかマスター?」
あたしはマスターの体をタオルを持ってきて拭きながら訪ねた。マスターはあたしが拭きやすいように首を動かしてくれる。
「この妖精に追い掛け回さられてひどい目にあったんだ。こいつどうやったら消える?」
マスターは地獄の底から声を出すように訪ねてくる。かなり酷いいたずらに有ったみたいです。
「そもそもなんでこいつら魔法が効かない?物理も無駄だった。精霊魔法も食べられるし、俺が本気で走って振り切れない」
マスターはそう言って体をブルブルと振るった。体が濡れたことにより寒さから恐怖からかはあたしには分からなかった。
「消すのは簡単ですよ」
あたしはそう言って精霊魔法を唱える要領で口から息をはいた。
「ご飯だ!!」
「ご飯♪ご飯♪」
妖精は魔力を食べると眠そうに欠伸をして消える。基本的に魔力を食べさせて満腹にすれば妖精は睡眠に入るのだ。
「消えた……」
マスターは呆然と妖精が消えた所を眺めている。信じられない、そんな目をしている。
「たぶんマスターの魔力に引き寄せられたんだと思うよこの子達。ほら、マスター魔力が膨大にあるから」
あたしの言葉を聞いてマスターの体から一気に魔力が溢れ、そしてその魔力に群がる妖精。時を経るごとに妖精の数はだんだと減って行き、そしてゼロになった。しかしマスターは妖精がいなくなってもその場を動こうとしなかった。
「…マスター?」
「リリアナ妖精について説明してくれ」
「はい、妖精とは精霊が意思を持ったものです。精霊には意識はありませんが精霊が内包している魔力が一定量増えると意識をもって妖精になります。妖精から一定量の魔力がなくなると精霊に戻ってしまいます。ですので妖精は魔力を求めています」
「あいつらにはなんで物理が効かない?」
「妖精は魔力の塊なので肉体を持ちません。攻撃しても魔力の粒子になってまた集まって妖精になります」
「そうか……奴らはなんで俺のスピードに付いてこれた?」
「そうですね。魔力はそこらへんにあるのでそれを伝って移動してると言えば言いでしょうか。水が水の中を移動するみたいな感じです」
「何となく分かった。あいつらは大気中の魔力を伝って移動してるから俺に追いつけたんだな?」
「そうですね」
「あいつらを捕まえる方法はあるのか?」
「無いですね、でも人間は妖精を捕まえる道具を作ったそうですよ。なので人間の街には妖精がいません。大半がここに逃げましたね」
あたしが拭き終わったことを確認するとマスターは精霊魔法で周りの大気を温め体を乾かし始めた。
「取り敢えず妖精の対処は魔力を食わせるのに限るかな」
「まあそうですね基本的に魔力を食べさせて寝かせちゃえば簡単かと思いますよ」
「そうか……」
マスターはそう呟くとあたしの膝の上に乗ってお腹のあたりに頭を擦りつけて来た。温まったマスターの体は心地よく毛並みも元に戻っていて触り心地も良い。
「マスター?」
「疲れた~。もう少しこのままで」
マスターはそう言って子供が母に甘えるようにあたしに体を預けてきた。妖精のせいでかなり疲れているようだった。
晩ご飯の時間になってようやくマスターはあたしから離れた。何となくマスターの体温があたしから離れたのが寂しくなる。
ちなみに今日の夕食はマスターの要望でアサビを使った料理だ。辛いものは少し苦手だけど、まあ食べれなくはない。あたしはスプーンとホークそしてナイフを並べながらそんな事を考えていた。
食事の時間になってマスターはいつも通り人の姿になって席に着いた。お皿が並べられ全員が席に着く。私はお母さんの顔をちらりと見る。お母さんはすでに顔色も良くなって昔のお母さんを取り戻している。このまま順調に回復すれば外に出て運動もできるようになると言っていた。ただ筋肉を取り戻すのが大変だってお母さんがリハビリをしてる時に教えてもらった。すでに日常生活に支障がない程度に筋肉は取り戻したと言っていた。
「「「「森の恵みに感謝して」」」
あたしたちはそして夕食を食べ始めた。マスターは少し当てが外れたような顔をしていたが、魚を口にした。
バンッ!!
その途端大きな音がしたかと思うと窓の辺りの壁に穴が空いていてマスターが消えていた。
「なんだ?!」
「何があったの?」
「マスターがいない…」
全員でマスターを探したが見つからなくて多分壁に穴を開けて外に飛び出したのがマスターと言う結論に至り、全員が食事に戻った。
取り敢えずお父さんが壁は直したがマスターはすぐには戻ってこなかった。
戻ってきたのは夕食を半分程食べた時だ。マスターは頭がびしょ濡れで髪から水が滴っていた。
「お、おかえりマスター」
あたしが声をかけると掠れた声で返事をする。一体どうしたのだろう?
俺は自分が想像していた食事とは違って少しがっかりしたが食べてみることにした。お皿には焼き魚とワサビだと思われるおろしたものがお皿の端に乗っている。俺はそれを焼き魚に乗せると口に含んだ。その途端な辛さを俺が襲った。これは魚から伝わってくる。そして辛いというより痛いだな、俺は我慢ができず席を勢いよく立って川に向かって全速力で走る。その時に猫のくせで窓から出ようとして壁を壊してしまったことに後で気づいた。
俺は川に頭から突っ込んで水を口に含む。辛くて痛くて仕方ない。
ようやく辛さが引いて川から頭を出した。
「ハアハアハア辛すぎるだろう。辛いというよりは痛いだな」
俺は水が滴る長い髪を絞りながらぼやいた。わさびの辛さじゃないぜあれは。
俺はリリアナたちの家に戻ったが魚に口を付ける気にはなれなくて俺はご飯だけを食べた。
これを食べても美味しく感じない程度で住んでいるリリアナたちが信じられなくて俺はリリアナたちに聞いた。
「お前ら辛くないのかよ」
「辛いですけど食べられないほど辛い訳じゃないですよ」
「はい」
俺は二人の返事を聞いて自分の味覚が可笑しいのかと思い始めた。ちなみに俺がワサビだと思って食べた緑のものは昨日の晩ご飯で魚に巻いてあった草だそうだ。
じゃあアサビって一体……
「そういえばアサビを見せてくれよ」
「見せるのは明日の朝でいいですか?」
「構わないよ」
一体何があんなにも魚を辛いものにしたのだろう。俺はそれが気になって仕方なかった。
と言うか今日は散々な一日だった。
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