53 桶
次の朝、俺は朝食を食べながら精霊魔法について説明した。
「まさか、そんな理由で……」
「人間も精霊魔法を使えるようになるのですか?」
リリアナは俺の説明が納得できないようであった。まあ、この世界は魔法があるので、余り医療が発達しないだろうからな。肺なんて専門家ぐらいしか知らないだろうし。
「そうだな。肺がどのようなものか理解していて、魔力操作ができるな使えるかもな」
俺がそう言ってお茶を一杯飲んだ。使える奴はほとんどいないと言ってもいいくらいだ。
俺は説明が終わると席を立った。
「出かける。付いて来い」
俺は二人と共に部屋を出ると鍵を閉めた。
「どこに行くんですか?」
エリカが聞いてきたが、俺もどこで売っているかは知らないので疑問系で答えてしまった。
「家具屋?」
「なんで疑問形なんですか」
リリアナからツッコミが入る。俺はそれを無視して入口付近にいる従業員を呼ぶ。
「すまないが聞きたいことがある」
「なんでしょうか、お客様?」
「お風呂で使われている桶はどこで作っている?」
俺に質問の意図を図りかねているようだったが、そこはプロだ。すぐに返事が返ってきた。
「あの桶はここを出て五軒目の家具屋で作っております」
「そうか、ありがとう」
俺はそう言って宿から出た。
「行ってらっしゃいませ」
後ろから従業員の声が聞こえる。ちゃんと従業員の教育は行き届いているようだった。すごいな。
「そう言えばあんたの名前って、何?」
リリアナが唐突にそんなことを言ってきて、俺は驚いた。
「急にどうした?」
「いつまでもあんたで呼ぶのはあれだからよ」
分かるような分からないような事を言ってくるが、追求するのが面倒だな。いいや、別に
「俺の名前か……」
俺が黙っていると戸惑いながらエリナが聞いてきた。
「名前はその…無いんですか?」
「ん?そんな事はない。色々な名で呼ばれたな。オズワルド、坊主、白、ホワイト、猫、子猫、にゃんにゃん、仮面の使者」
そして、久我 黒彦
俺は口には出さなかったが、心の中で呟いた。
ステータスを見ると先頭に書いてある名前だ。俺は久しぶりに自分のステータスを見た。
久我 黒彦 (オズワルド)
レベル71
HP345500
MP457030
STR(攻撃力):3600
DEF(防御力):9050
INT(賢さ):23500
AGL(素早さ):497000
DEX(器用さ):2650
猫の咆哮
猫の癒し
寿命延長
異世界言語
異世界言語(人)
異世界文字(人)
鑑定
暗視4
気配遮断4
気配察知4
速さ成長値上昇3
本能3
隠蔽5
アイテムボックス5
危険察知5
毒耐性5
精霊魔法1
フレッシュ
魔力操作4
人化
レベルが一上がってる、それと精霊魔法か。後は適当にスキルレベルが上がっているな。
俺はステータスを見るのをやめた。
「なんで猫関連の名前が多いんですか?」
エリカが不思議そうに俺に聞いてきた。
「俺が猫だからだよ」
俺の言葉に二人共頭に?マークが出てくるような顔だった。
「マスターと呼べ」
「ここか」
俺は店の入口を叩くと少年が出てくる。
「いらっしゃませ。何をお求めですか?」
「天門の宿で使っている手桶の木と同じ木で作って欲しいものがある」
俺がそう言うと顔色を悪くする。
「すいません。貴族の方の頼みであってもそれでお風呂を作るのは」
「誰が風呂を作ってくれと頼んだ」
少年と話していると奥から腕が丸太とは言わないまでも、それなりにごついおっさんが出てきた。
「なんだその坊主とエルフは貴族の使いか?帰れ帰れ、貴様ら」
少年は慌てて俺に頭を下げ謝ってくる。
「すいません。親方は貴族に対する口の聞き方は知らなくて」
俺は首を横に振って否定した。
「心配するな。俺は貴族でも貴族の使いでも無い」
俺の言葉に親方も少年も驚いたような顔をした。
「その服装は?」
俺の服を指さしながら少年が聞いてきた。あ~執事服だったな。
「ん?これか。趣味みたいなものさ。あんまり気にするな」
俺はそれで話を切り上げて、さっさと頼みごとを言った。
「少し大きめの桶を作って欲しい。これくらいの」
俺は深さ14センチ、直径45センチぐらいを俺は手で示した。
「それくらいだったら、廃棄する予定の木材で作れるな」
「そうか、金と時間を言ってくれ」
「そうだな、それくらいだったら7日で出来る」
「分かった。金は?」
「そうだな。……銀貨2枚だ」
「それだけでいいのか?」
「元々捨てる木材だ。金は技術料だけだ」
「そうか、なら七日後」
俺は銀貨を2枚投げ、店を出ていった。
「帰るぞ」
宿に帰ると部屋に向かった。
「これからどうするんです。マスター?」
「ん?昼寝。この宿から出なきゃ何してても良いよ」
俺はそう言って布団に横になったが
「暑い」
俺は窓のふちに座ると人化を解いて、丸くなった。人の姿ではここでは寝れないからな。風が良く通って涼しい。
そんな俺の姿を見て動きが止まる二人。
今日も平和だ。
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