47 謎の苛立ち
町の中に入ったのはいいが、自分がギルドの場所を知らないことに今更ながら気づいた俺は、護衛の冒険者に頼んで案内してもらった。ちなみに奴隷のエルフ二人は俺から離れないように命令して、俺の後ろをついてこさせる。
「ねえ」
突然、護衛の魔法使いの女の子が話しかけてくる。ついでに色目と胸を押し付けるように腕に絡んでくる。赤色の髪に青い瞳でかわいい女の子だが、なんだか雰囲気がギャルぽっくて、苦手だ。
「なんだ?」
「あたしたちのパーティーに入らない?」
そいつが猫なで声で俺に言ってくるが、気持ち悪いし、俺はそんなことより暑くて仕方がない。さっさと離れて欲しかった。
「暑苦しいから離れてくれ。それと俺は、まず冒険者でもないからなパーティー組むも何もそれ以前の話だ」
「え?!あんなに強いのに、あなた冒険者じゃないの?!」
それまで無関心だった他の男三人も俺の方を一斉に驚いたように見る。
「なんで冒険者やってないのよ?!信じられないあんなに強いのに」
「うるさいな。それとくっつくな」
無理やり腕を剥がすと女と距離を置いて歩くようにして言う。なんだか苛立って仕方ない。
「それと、冒険者にもなる気はないからな」
俺はそう言い放って前を歩いていた男グループと歩いた。これなら引っ付かれることはないだろう。男だから大丈夫だよな。
冒険者ギルドの中に入ると荒くれ者がいるいる、沢山いる。さっさとお金を貰って立ち去ろう。
「おい、これってどこに渡せばいいんだ?」
護衛の剣士に聞くと
「あそこだ」
そう言って目線で示してくれた。なんだが表情が暗くて怖いと思っていたが、なんとも無かったな。
俺は言われたカウンターに歩いていき紙を見せる。
「これを頼みたい」
流石にこの容姿とエルフを連れてることで目立つな。さっさとここから出たいぜ。
「これが代金です。金貨一枚と銀貨三枚です」
俺は渡されたお金を受け取ると逃げるように、いや実際には逃げようとして出口に向かうが
「おい、待ちな」
逃げることは出来なかった。目の前にバトルアックスを背負ったスキンヘッドの男が立ちはだかる。酒臭く、見るからに酔っ払っている。俺の今の身長が175だからこいつは185ぐらいあるかな。
「何だ?」
俺のぶっきらぼうな返事が頭に来たのか青筋を浮かべて、笑った。
「なんだ、ランクCタンキ様にそんな口きいて、ただで済むと思ってるのか?アア!!」
睨んでくるタンキに、俺は謎の苛立ちを募らせる。
俺は教会の一見以来どうも些細なことにイライラする。なんでだ?
頭のどこかでそんな風に考えながら、苛立ちのせいで余計なことを口走ってしまうのだった。
「名前通りだな」
「ああ?」
「名前通り、短気だ」
俺の言葉で冒険者ギルドが笑いに包まれた。
俺の一言で酒などですでに赤かった顔が、更に顔を真っ赤になり、背負ったバトルアックス構え。
「テメェ、馬鹿にしてんのか!!」
振り下ろされた。自慢するだけあって鋭い攻撃だが、俺には当たらない。バトルアックスは床に傷をつけただけで終わった。
「これ以上、やるなら土とキスすることになるがいいのか?」
俺の言葉をタンキは笑って馬鹿にした。
「それなら土じゃなくて、床だろう。それに俺を」
「いいや、土さ」
俺はタンキの言葉の途中で頭を掴むと床に叩きつけ、床板を壊し、更に頭が床下の部分に入る。床下部分は土だ。
「な、土だろう」
笑みを浮かべて言った。
「なんだこの騒ぎは?」
カウンター奥から誰かが出てきた。そして俺とタンキを見て
「知っての通り、冒険者同士のここでの戦いは禁止されてるからな。それと壊したものと修理代と罰金が課せられる。そこの銀髪」
長髪の女だった。紫の長い髪に緑の眼をしていて、なんだか気だるそうだった。
「なんだ?」
「金払え」
俺はそんな言葉を鼻で笑って言い放つ。
「俺は冒険者じゃないぜ、一般人だ一般人。金払わせるならこいつに言え」
俺は頭を床に突っ込んでいる男を指さした。
「あんた、ギルドに登録してないのか?」
「していない。まさか俺に払えって言うわけないよな。俺がしたことは自分の体を守る正当防衛だぜ。なんせ俺は一般人だからな」
誰もが『冒険者より強い一般人がどこにいる』と思っただろうが、冒険者では無い俺に弁償をしろと言うのは、ルール上無理があることが分かっている様だ。
「そんなことは言わないが、ギルドに登録する気はあるか?それだけの強さがあればすぐにでも上のランクになれるよ」
「悪いね、興味がないから」
俺はそう言ってここを後にした。
……恐ろしい女だ。一瞬で俺がどの程度の実力者か見抜いた。
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