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「邪魔だ!」


ラガンは、意識が混濁していた。竜血丸を追加で服用した例は聞いたことは無かった。追加で服用すると、力が増したが思考能力が落ちるようだった。


(二度目の服用はこんなことになるのか、思考をクリアにしたい)


「名前は……ラガン。歳は……22。竜血騎士団に所属している。両親はいない」


ラガンと言う名の青年は、戦うのをやめて、背中に生えた翼により体を覆い、魔族の魔法から体を守る。その間に自分の名前、年齢などを呟き思考を保とうしたのだ。そのかいあって言葉の最後には意識がしっかりとしてくる。


(思考はクリアになったとは言い難いけ……だがー)


「戦えないことは無い!」


立ち上がりと共に背中の方翼を広げ、鋭利な爪を振り回す。その爪はどんな刃より鋭く凶悪だった。強靭な脚力によって、距離を詰め、爪で切り裂き、魔法の攻撃は翼によって防ぐ。ラガンは魔族を殺せば殺すほど自分に竜の血が体に馴染んでいくのが分かった。


「おら!」


周りを囲んで来ようとする魔族に、翼を広げ回転すると翼の鋭利な部分で、切り裂かき、血飛沫が辺りに飛ぶ。


「これで終わりだ!」

「終わらせない」


トドメを刺そうと伸ばした方翼が弾かれる。ガランにはその動きをしっかりと捉え、はじかれた勢いを乗せた爪を繰り出す。だがそれをあっさり見抜かれ、距離を詰められ顎に相手の膝が直撃する。


「ガハッ!」


ラガンの口の中は鉄の味で満たされる。普通なら顎が砕けそのまま戦闘不能に追い込まれても不思議では無かっただろう。その威力は体が浮き上がり、砂浜の砂を体にかぶる。


「良かった、マリアが起き上がれて」


怪我を負った魔族を起き上がらせながら、クミンはマリンの変貌に驚いていた。両腕は竜の鱗に覆われ、太ももが太くなり、首には太い血管に沿うように鱗が生えている。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「これは……これなら…でも…」


マリアの手にあるのは、先ほどラガンが落とした竜血丸だった。これは竜の血、吸血鬼の血を受け継いでいるマリアが飲めば、傷が治るかもしれない。だけどどんな症状が出るか分からない。それどころか死んでしまうかもしれない。


(どうすれば……)


クミンがそんな風に迷っていると、マリアの口から血が溢れる。クミンはそれを見て迷っている暇が無い事を確認させられた。


「マリア、これを飲んで!」


マリアに聞こえたかどうだがクミンには分からなかったが、竜血丸をマリアの口の中に放り込んだ。マリアは口の中の自分の血と共に竜血丸を体内に取り込む。最初はなんの変化も無く、クミンはこのままマリアが死んでしまうのではないかと怯えたが、変化はすぐに訪れた。最初はお腹の傷は急速にふさがり、マリアの顔色も生気が戻ってくる。


「マリア?」


クミンの呼びかけに答えるようにマリアが目を開くと同時に、体に変化が訪れる。体が痙攣しながら両腕に鱗が生え、太ももが太くなり、首の血管を這うようにして、鱗が生え始める。


「あ、あああ!!」

「マリア!!」


マリアの悲鳴にクミンの呼びかけが重なる。クミンは痙攣するマリアの体を抑えこんだ。このままマリアが死んでしまうのではないかと言う恐怖と戦いながら。

 だがそんなことは心配のし過ぎだった。マリアの体が完全に変化すると、痙攣が収まり立ち上がると自分の姿の変貌を確認する。


「これは……」

「竜血丸を飲ませた」

「竜の血……」


マリアは自分の腕に生えた鱗に触れながら呟いた。マリアは自分の体の中に力が溢れていることに気が付く。目も耳もいつもより敏感で、腕力、脚力共に上昇している。


「大丈夫これなら」


マリアが地面を蹴ると、方翼を突き刺そうとしているガドルまで跳ぶ。ガドルの方翼がマリアの拳にとって弾かれる。そしてそのまま方翼の攻撃を避けて膝を顎に入れた。ガドルが後方に吹き飛ぶ。


「あれの相手はマリアがします」


マリアの武器は既に肉体しか無かったが、負ける気はしなかった。マリアの動きは先ほどとは見違える程の素早い動きは、ガドルに襲いかかる。


「ガアアアアアアア!!」


ガドルの咆哮が当たりの鼓膜を貫く。マリアはその音に顔をしかめながらガドルの爪をかわし、拳を顔面に叩き込む。凄まじい音が辺りに響く。拳はガドルの手のひらに収められる。


「止められた!」

「おりゃ!」


掴まれた拳を引っ張られ、目の前に爪が突き出される。マリアはそれを魔眼によって、予測しそれを避ける。だが攻撃はそれで終わらず、その勢いに任せてマリアの体を地面に叩き連れられそうになる。マリアは地面に腕を伸ばし衝撃を吸収して、両足を回転させて手を離させる。砂浜を転がりながら体勢を整える。


(手強い……)


マリアには攻撃一つ当たっていないが、当たれば相当なダメージが入ることになるだろう。逆にこちらの攻撃が入ったからと言って、一撃で沈むほど相手は弱くは無かった。


(マリアには目がある)


マリアがこの戦いにおいて有利をとっている理由だった。肉弾戦においてマリアは絶対的有利を誇っていた。ガドルは大きく息を吸い込む。


「マリア、ブレス!」

「大丈夫」


クミンの言葉に余裕の返事をして、ブレスを回避する。ブレスはマリアがいた砂浜を消し飛ばした。マリアの体はガドルの頭上を大きく飛び越え、ガドルの背後を取る。ガドルは背後を方翼によって攻撃から守るように背後を覆い隠す。それと同時にガドルの背中に衝撃は走る。マリアの拳がガドルの体にめり込む。ガドルは歯を食いしばって、それに耐え、その衝撃を跳ね返すように方翼を広げた。クミンはそれに逆らうことなく、一緒に飛んだ。


「勝てそうですか?」

「すぐには難しい」


マリアはクミンの質問に答える。マリアの攻撃は確かに当たっている。だがそのダメージは大きくはない。ダメージを蓄積させれば倒せないことは無いだろう。逆にガノンの攻撃特にブレスが当たればマリアは相当なダメージが入るだろう。


「だから直ぐに終わらせる」


マリアは更に竜血丸を取り込んだ。マリアの体に直ぐに変化が訪れる。腕に現れた変化が足にも現れ、履いていた履物が吹き飛ぶ。両足が大きく膨れ上がり、爪が伸び砂浜に沈み込む。背中に翼が生える。その翼は方翼だけでマリアの体を包めるほど大きい翼だ。


「これなら……」


マリアは自分の体に訪れた変化を直ぐに受け入れ、力をラガンへと向ける。砂浜を蹴り、ラガンに向かって拳を振り抜く。ガドルは今度こそガードすることなく、マリアの拳を体へとめり込んだ。マリアの拳には、肉が千切れる音、骨が軋む音が伝わる。このままマリアが振り抜けばラガンが間違いなく戦闘不能に至るダメージを受けただろう。マリアもそれを理解して拳に力を込める。ラガンの口から血が飛び出し、砂浜の砂を巻き上げながら後方に吹き飛ぶ。ラガンの肋骨は半分折れ、内蔵は破裂していた。


(終わった、完全に死ぬ)


ラガンは口から血を吐き出しながら、そんなことが脳裏を過ぎった。ラガンは既に自分の体が戦えるどころか、生命維持さえ難しいことを理解していた。吐血により気管が塞がり行きさえままならない。


(おいおい、今にも死にそうなのに止めを差しに態々来るか)


ラガンの目に前にマリアが現れる。マリアの手はラガンに血によって真っ赤に染まっている。その手が振り上げ、ラガンへ振り下ろされる瞬間、何かがマリアを蹴り上げた。


「遅くなって申し訳ない。ここからは俺が相手をする」


聖剣部隊隊長ガドル・ザンクがマリアの目の前に現れたのだった。




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