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「ふざけるなよ、たかが鎧を脱いだくらいで!」

「調子に乗るな、ですか?」


ルミアがポドの怒りように笑みを浮かべて、薙刀に風をまとわせる。それと同時にルミアの体に風がまとわりつく。


「ウインド・ベール」


ルミアが使っているこの魔法は、体の周りに小さな突風を巻き起こし、飛び道具や軽い攻撃などを弾くことが出来る。笑みを浮かべているが、ルミアは意識外からの矢などの攻撃を気にしながら、目の前にいる二人の相手が出来ると思えるほど自惚れてはいなかった。


三風月さんふうげつ!」


薙刀の刃の周りに渦巻いていた風が形をなしていった。薙刀の刃以外に風のブレード十本がひらひらと見えていた。


「風の刃って……あなたも芸が無いですねぇ!」


そんな言葉と同時にイクが飛び出した。ルミアは笑みを更に深める。その笑みは相手を小馬鹿にしたような笑みで、大抵の人間は怒りを覚える代物だった。


「ソニックブーム!」

「そんな分かりきった魔法!」


ルミアは薙刀を振るいながらバックステップする。ルミアの先ほどの笑みは冷静なイクでも、少なからず怒りを覚えていたのだった。叫んだ言葉には怒りの感情が込められていた。だがそんな叫びとは裏腹にルミアのソニックブームを最小限の動きで避けると、あと一歩前に進めば刃が届く距離まで接近したのだった。ルミアはそんなイクの動きに驚いた表情を浮かべる。イクはそんな表情を見て笑みを浮かべると、ルミアに刃を突き刺すためにその前に進んだ。


『ザシュッ!』


そんな音と共に砂浜を真っ赤に染め、砂浜に膝を付ける人影が映るのだった。






「イク兄!」


ポドの焦った声が響く。砂浜に血を撒き散らしたのはイクの血だった。イクの胸は横一線に切り裂かれ、そこから血が噴き出していた。


(どうしてだ、あそこの魔族が魔法を使った様子は……魔法もウインドブラストだけだったはず。魔族の薙刀だって、振り終わりでイク兄を斬りつけたり出来ないはず……原因なんてどうだって良い、今は!)


「イク兄! これを!」


ポドはポケットから回復ポーションを引っ張り出し、イクの胸に掛ける。イクの胸の傷は煙を立てながら塞がっていく。ルミアはそのポーションを興味深そうに見ていた。


「そう言えば人間はポーションなんて言う回復薬物を持っていたな」


魔族の社会では、ポーションなどの回復薬物は開発されていなかった。回復魔法を持っている魔族に回復して貰うのが普通だ。基本的にすぐに回復しなければいけないような怪我をする魔族がいなかったのも原因の一端である。


「何だった、今のは?」


イクは口の中を満たしていた血を吐き出すと、ポドに何があったのか尋ねた。だがポドも、何をされたのか分からなかった。イクとポドは立ち上がると、今度はポドが前に出る。


「イク兄、今度は僕が行くよ。イク兄はあの魔族の技を見破るのに力を入れて」

「ああ、分かったが、無理をするなよ。時間を稼ぐだけで俺達は勝てる」


ルミアはその発言に疑問を覚えたが、それについて深く考えている訳にはいかなかった。



「ツインボルト!」


イクが両手に帯電している雷撃の片方を放った。電撃がルミアに向かって飛んでいく。ルミアはしゃがんで避けると、その隙を狙って接近戦を挑もうとポドが走ってくる。ルミアもその隙を埋めるように右手を向けて魔法を放った。


「ウイングタガー!」

「グランドウォール!}


飛んでくる風のタガーをグランドウォールで防ぐと同時に、地面から飛び出た壁を足場に上段からの攻撃をポドが仕掛けてきた。


「それはさっき見たよ」


ルミアは冷静に上段の攻撃を迎え撃とうと薙刀を構えたとき、ポドが作ったグランドウォールを貫いて雷撃がルミアに向かって飛んできた。


「なぁっ?! シャドーミスト!」


ルミアは驚きの声と共に魔法を唱えたが、避けることが間に合わず雷撃を受け、膝から崩れ落ちてしまう。


(いつだ、魔法を唱えた声は……いや、さっきのツインボルトか! )


イクはツインボルトと言う魔法を使っていたが、飛んできたのは一つだけだった。また片方の雷撃が残っていたのだった。それをグランドウォールで隠し、ポドが攻撃を仕掛けたのに合わせて放ったのだった。ポドのグランドウォールと、イクの雷撃との連携技だ。


「貰ったぁー!」


ポドがそのまま剣で突き刺そうと腕を伸ばした。ルミアは電撃によって体が痺れて、すぐに回避行動を取ることが出来なかった。ルミアは痛みに耐えるために歯を食いしばった。そしてルミアの体の中に刃が潜り込んでくる。


「ぐぅ!」

「いつぅ!?」


痛みに声を上げたのは二人だった。一人はポドに剣を突き刺され、歯を食いしばっていたルミア、もう一人はポドだった。ポドの体が斜めに切り裂かれ、砂浜に尻餅をついていた。


「な、何で? 斬られている……いつ……いつ斬ったんだだぁ!!」


斬られた胸を触って、ポドは斬られたのが現実であることを認識すると、怒りのままに声を荒げたが、ルミアの様子を見て笑みを浮かべる。


「まあいいや、今なら何も出来ないだろうかねぇー!」


ルミアと違って、ポドの傷はそこまで深くは無く戦闘をするのに支障ない傷だった。ルミアの薙刀に伸びていた手をポドは剣で突き刺す。ルミアが痛みで顔を歪めるが、痛みの声を漏らすことは無かった。


「これで終わりだー!」


ポドは歓喜の声と共に、ルミアの首を剣で切り落とそうと剣を振るった。血が噴き出し痛みで悲鳴を上げたのだった。



「何で?! 何で?! 僕の腕がぁー!」



斬られたのはルミアの首では無く。ポドの腕だった。肩からすっぱりと斬られ、腕が砂浜にどさりと地面に落ちる。


「幻術ですよ。まあ、ぎりぎりでしたけど」


ルミアは突き刺された手を庇いながら、ポドから距離を取った。


(本当にぎりぎりでした。あのままだと首と胴体が離れ離れでしたね)


ルミアは雷撃に当たった直後、使った魔法『シャドーミスト』は相手に自分の幻影を見せる魔法だ。雷撃に当たった直後シャドーミストで自分の幻影を作ったが、雷撃によってすぐに動けず、ポドに剣で突き刺されたのだった。ギリギリの所で首を斬られるのを避けたが本当にまずかった。



「ルミア隊長!」


今まで二人の戦闘のレベルが高くて、参加出来なかった部下がルミアの怪我の治療をするために近づいてきた。


「動かないで下さい。今回復魔法を掛けます。アクアヒーリング!」


青髪の男性がルミアの傷を治していく。突き刺された腕を治した所で、ルミアは治している途中の男性を突き飛ばし、自分も地面を転がる。


「この野郎、殺してやる!」


先程までルミアたちがいた砂浜に剣が刺さっている。切られた左腕を縛り、既に止血をしているが、左腕を失ったことで、バランスが悪そうだった。


「殺されるのは貴様だ! 仲間の仇!」


そう言ったのは、最初にこの二人と戦っていた魔族だった。


「舐めるなよ、魔族が! ロックショット!」


砂浜に刺さった剣から手を離し、その手で岩の塊を飛ばす魔法を放った。だが片腕が無いせいで体勢を崩し、放った魔法があさっての方向に飛んで行く。魔族が突き出す槍がそのままポドを突き刺そうと迫ってきた。


「ライトニングボルト!」


ポドの背後から電撃魔法が飛んでいく。魔族は持っていた武器と体を雷撃に貫かれ、地面に崩れ落ちる。


「イク兄!」

「ポド、お前は下がれ。ここは俺が相手をする」

「で、でも」

「今のお前じゃ足でまといだ。それにー」


イクはルミアの様子を見て笑を浮かべた。


「そろそろ効いてきた」


(な、何だ……斬られた所は治したはずなのに、斬られた腕が重い。……血を流しすぎたか?)


治した腕の具合を確かめるようにしているルミアを見て、ポドは切り落とされた腕を回収するとその場から離脱した。


「死なないでよ、イク兄」

「大丈夫だ」


「あなた方は、あの敵兵を追いなさい! 手負いとは言え侮らないで下さい」

「「「りょ、了解です」」」


ルミアは周りにいる魔族に命令を出して、逃げていくポドを追わせた。イクはその場から離脱したポドと追撃する魔族を見送ると、ルミアに向き合う。


「止めないのですか?」

「あれくらいの魔族なら手負いと言えど、俺の弟は遅れを取らない」


イクは弟が残していった刀を取り、自分の剣と合わせ構える。


「俺の仕事はお前をここで仕留めることだ。貴様は手練、ここで殺さなければいけない」

「そうですか……では相手をして頂きましょう」


ポドとイク二人はお互いの武器を構える。



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