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「押し返せぇー!!」
ダラダの声と共に盾を跳ね上げ、相手の攻撃を弾くと同時に槍を突き出す。槍が竜血騎士団の命を奪うことは無いが、ダメージを与えているのは確かだった。
「硬いな」
最初の突撃後密集隊形に移行し、盾と槍による攻撃をしていた。だが最初の突撃から思った以上に敵兵を殺せてないことが、ダラダにとって不安要素になっていた。ダラダの予想では最初の突撃を足掛かりに、敵軍の隊形を崩し、そのまま押し通せると考えていた。しかし、敵兵の防御力の硬さと、すぐに味方の救助を放棄し、自分たちに向かって攻撃しだしたことが予想外だった。
「一気に決着をつけたかったな!」
敵の喉元に槍を突き刺し、一人を絶命させると後ろにいた竜血騎士が一人前に出て、大剣を振り下ろしてきた。ダラダは盾を構えて、その攻撃を受け止める。金属音と共に受け止めた盾を持っていた腕の骨が軋む。他の者と一緒に盾を構えていなかったら、自分の体が吹っ飛ばされていただろう。
「ダラダ隊長、一旦下がりますか?」
部下がダラダの後ろからつぶやいてきた。部隊の兵士の士気を上げるために、ダラダは先陣を切ったが、そろそろ後方から部隊の指揮をしなければならなかった。
「そうだな、一旦下がる」
ダラダの思った通りであれば、そのままここにいても問題が無かったが、新たに指示を出さなければいけなくなると考え、部下と場所を交代してダラダは後方へと下がった。
「戦況はどんな感じだ?」
「そうですね、徐々にですがこちらが押しています。それと気になることが……」
「何だ?」
「先ほどの敵から信号弾のような物が打ち上げられました」
後方へと下がったダラダは、部下のこの報告で目つきが険しくした。敵がこの状況を打開しようと、何らかの策を弄したのではないかと、考えたのだった。今の戦況はちょっとしたことでひっくり返る可能性がある。
「敵の動きに何か変化があったか?」
「いえ、特に」
部下の発言で一先ず安心したが、すぐに感情を切り替え、戦場を見渡す。
「確かに特に変化はっ?!」
ダラダの言葉が途中で止まり、戦場となっている砂浜から、海の方に視線を動かし言葉が止まった。正確には船からここの砂浜まで凄まじい勢いで海が凍り始めていたのだった。
「何なんだ……あれは?」
ダラダは呆然と海面が凍っていくのを見つめていると、船から次々と兵士が降りてくる。それを見てダラダは苦虫を潰したような表情をする。
「援軍か……くそ、橋からくるから一度に来れる人数に限界があると思っていたのだが……失敗だったな」
援軍が合流したら戦況は引っくり返されてしまうことを、ダラダは分かっていた。
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「やっと俺たちの出番のようだな!」
ガドルはグリードが打ち上げた信号弾を見ると立ち上がった。ガドルは戦いたくてウズウズしていたのだ。
「必要最低限の人間を船に残して、援軍に行くぞ」
ガドルの命令により、船を警備する最低限の人間を残して、援軍に向かうことになった。
「ガドル隊長、海面凍らせますよ」
「ああ、やってくれ。コーリマス」
スキンヘッドの男が立ち上がった。この男はコーリマス、聖剣をそのまま使える数少ない人間の一人だ。彼が使う聖剣は氷結の聖剣で、その聖剣で斬られたものは、血液が凍り死に至ると言われている。コーリマスは鞘から剣を抜く。それと同時に周りの空気がひんやりと冷えた。半袖であれば肌寒く感じただろう。刀身は青白く輝き、微かに光っているように見える。コーリマスが船から飛び降り、海面に剣を突き刺す。すると剣を中心に海面が氷結していく。その範囲は砂浜から船までの広範囲を一気に白銀の世界へと変えた。
「もう大丈夫ですよ」
「ああ、全員行くぞ」
ガドルはいの一番に凍った海面へと飛び出していった。『ドンッ!』と言う音とともに氷結した海面に足をつけた。
「行くぞぉぉぉぉ!」
ガドルの掛け声と共に次々と船から飛び降り、砂浜へとかけていった。
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「ガァッ!?」
「何だ、こいつ?!」
「魔法だ、魔法を使うぞ!!」
魔族に囲まれている男性が二人、そのふたりの容姿は鏡合わせをしたかのようにそっくりだ。その周りには地に伏して鎧の中から血を流している魔族。その姿を見る限り大した傷は無いようだった。
「フレイムランス!」
「ウォーターランス!!」
「グランドニードル!」
「ライトニング!」
魔族が各々得意な魔法で、二人を攻撃するが、二人は可笑しそうに笑みを浮かべる。
「イク兄、イク兄。すごい魔法だよ」
「そうだな、でも魔法は属性を合わせないと」
「こんなふうにだよね、イク兄」
「「グランドウォール!」」
地面から壁が二人の周りに出現し、二人の体を守る。魔法は全て二人の体まで届くことは無かった。
「お手本を見せてあげなきゃね、イク兄!」
「そうだな」
「「ウインドブラスト!!」」
竜巻が二人を中心に広がり魔族共を吹き飛ばした。鎧を着ていたため、ウインドブラストで傷つくことは無かったが、目が回っていた魔族が複数人出た。
「魔法ってのはね、属性を合わせる事によって強力になるんだよ。一つ勉強になったね」
「魔族は単細胞だからすぐに忘れるかもしれん」
二人はクスクスと笑みを浮かべながら、自分たちの周りに倒れている魔族を嘲笑する。
「ほう、ではこの単細胞にも理解できるようにお教え頂けると助かりますな」
言葉と当時に鋭い刃が飛んでくる。二人は咄嗟に刃の範囲から飛び去る。その素早い刃から二人は、攻撃してきた魔族が、ほかの魔族より格が違うことが分かった。
「突然斬りかかってくるなんて無礼な人ですね、イク兄」
「そうだな………お前は誰だ?」
薙刀を構え直し、その魔族は兜のバイザーを上げ、目を見せる。
「わたくし、ルミア・バティンと申します」
「へえ~、ルミア・バティンだって、兄さん」
「強そうだな、俺たちはイクとポドと言う名だ」
「ほかの魔族と比べると確かに強いけど、最初の不意打ちで攻撃が当たらない時点でお察しのレベルだね。そう思わない兄さん?」
「誰の攻撃が当たっていないって?」
ルミアが笑みを浮かべるとイクとポドの二人の頬から血が噴き出した。
「間合いはしっかり見切ったつもりだったんだけど……」
ポドは不思議そうに自分の切れた頬に触る。血の量は大したこと無かったが、斬られたのは確かだった。
「ポド、あいつの薙刀見てみろ」
ポドはイクに言われ、薙刀を見てみると、風が纏っていた。
「かまいたち……か」
「そうみたいですね、兄さん。油断しました」
頬から流れ出る血を拭うと剣を構えた。三人は距離を保ったまま円を描くように移動する。最初に動いたのはルミアだった。だがルミアは距離を詰めたのではなく、距離を離したのだった。
「ソニックブーム!」
ルミアが薙刀を振ると、風の刃が二人に向かって飛んでいった。イク兄弟は手のひらを向けて、魔法を放った。
(二人の姿を見る限り竜血騎士団の団員では無いだろう。だとすると聖剣の使い手だろう。あの武器は特殊な能力が付与されている。それが分かるまでは距離を取った方が良いだろう)
ルミアの考えたとおり、目の前にいる人間は援軍に来た聖剣部隊の人間だった。
「「ウインドブレイク!!」」
風の刃は二人の風に魔法によって、あさっての方向に飛んでいく。イク兄弟はルミアとの距離を詰めようとしてくる。
「ウインドタガー!」
ルミアは牽制しようと呪文を唱えながら左腕を振る。左腕の軌跡から小さいかまいたちが二人に向かって飛んでいく。その魔法を見て、イク兄弟は笑みを浮かべる。
「こんな魔法で!」
「グランドウォール!」
イクの魔法によって、地面から壁が出現してルミアの魔法を防ぐ。ポドは飛び出した壁を足場にルミアを上段から斬りつける。ルミアは思わず左腕でガードしようとする。ルミアの耳に鎧に当たる音がしなかった。その代わり肉が切れ、左手が少し濡れた感じがする。
「クッ!」
更に距離を詰めようとするポドに、ルミアは右腕で薙刀を振るって牽制する。ポドは難なくその攻撃を避ける。
(止血をしなければ……)
ルミアは左腕を見るが、やはり鎧は切り裂かれている様子は無かった。鎧の隙間から血が垂れているのを見ると、斬られているのは確かだった。
「鎧を無視するのか……」
「その通りです鎧通しと言う聖剣を使っています」
自慢げにポドが剣を振って、ルミアに見せびらかす。
(くっそ、鎧がただの重りだな……)
「じゃあ、行くよ!」
「ツインボルト!」
ポドがルミアに接近戦を挑もうと近づき、後ろからイクが魔法で援護をする。普通なら魔法で味方を打ち抜いてしまうかもしれないで、普通は魔法を使わないのだが、この二人はお互いに動きが分かるからだろう。容赦なく魔法を使ってくる。
「くっ!」
ポドと並走して魔法がルミアに襲いかかってくる。ルミアが持っている魔法で雷を防ぐ魔法は無かった。このままでは、ルミアの体を電撃が貫くだろう。
(防げないのであれば……)
ルミアはポドに向かって走った。
「なぁ?!」
ポドは驚いた声を上げた。ルミアが自分に向かって、突っ込んでくるとは思わなかったのだ。イクが放った魔法はルミアに命中することなく、ルミアの背後の砂浜を打ち抜いただけだった。
(こいつの近くには魔法は飛んでこない。なら、近くにいれば、大丈夫だ)
だがポドも驚いた声を上げているだけでは無かった。ポドは近すぎるために剣で斬れないと判断すると、左手を掴んで後ろを取ろうとする。ルミアは左手を振って、ポドを振り払おうとするが、振り払うと手を振り上げたら、その勢いと合わせて頭上を飛ばれ、背後に回られた。そのまま腕を捻り上げられ、技を決められそうになった。
「パージ!!」
ルミアがそう叫ぶとルミアが着ている鎧がバラバラになり、ポドは掴んでいた右手の鎧を掴んで後ろによろけた所をルミアに蹴り飛ばされた。
(切られた左手が思った以上に重い、こんなふうに手を取られるとは思わなかった)
ルミアは流血している左手を抑え、持っていた布切れで縛り付け止血をする。そこにイクの電撃魔法が飛んで来る。
「そりゃ!」
そんな掛け声と共に、先ほどのパージでバラバラになった鎧を足で蹴り、電撃を防いだのだった。
「たかが鎧の上から斬ったからって、いい気になりすぎじゃないのか?」
そう言うとルミアは両手で薙刀を構えながら、笑みを浮かべたのだった。




