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「やられたな」
魔王は報告を聞いてため息をついた。今回の戦闘で無傷の舞台が四部隊しかないことだ。砲撃による攻撃での被害は斥候部隊、歩兵部隊である。戦闘行動が不可能になるほど部隊が潰されたわけではないが、それでも士気に関わるレベルだった。おまけに相手側には大した損害があったわけでは無かった。完全に相手の作戦勝ちだった。
「敵は海岸に陣地を築いていますね、撤退する事態になっても、すぐに海岸に逃げられるようにもしています」
敵は砂浜から船までに木の板を浮かせて、海の上に橋を作っているのだ。橋の上にはしっかり弓兵が見張りをしている。弓兵が持っている弓はかなりの大きさがあり、とても人が引けるような矢の大きさでない所を見ると、竜血騎士団が警戒をしているのだろう。
「一番いいのは上陸部隊を潰して、船に乗った所を一網打尽か……それとも船を潰して逃げ道を潰すか……」
「恐れながら魔王様、それはおやめになったほうがよろしいかと」
「なぜだ?」
魔王補佐官の言葉に不思議そうに眉毛を片方上げる。逃げ道を潰したほうが、部隊を全滅させられると魔王は思っていた。
「逃げ道を無くした兵は生き残るために死に物狂いで戦います。その場合自軍への被害は大きくなります。ですので逃げ道をあえて残して、逃げている所を追撃することで自軍への被害を減らすことが出来ます」
「なら、あえて逃げ道である船を残して、その船を撃沈すると言う方が良い作戦か?」
「それなら自軍への被害も抑えられるかと……」
「うむ……」
魔王としてはその作戦を実行したのだが、現状の戦力で敵軍を追い返し、尚且つ海上の船を追撃する部隊を残すのは非常に難しいのでは無いかと考えている。更に海中に逃げられると追撃は困難を極める。
「追撃は考えるのを一回やめて、現状をどうするか考えたほうが良くないか、魔王殿?」
マールの言葉で魔王たちは追撃のことを一回頭から追い出し、現状の打開策を考えることにした。
「残った歩兵隊と騎兵隊を両側に置く基本形態で行くか……決定打が無いのが残念だが…」
「そうですね……基本的にそれで戦えばこちらが勝つと思うよ」
「どうしてだ、マール?」
「相手の物資には限りがあるからね。現地で調達をするにも限度がある。それを考えると冒険をするようなことはせず、堅実な作戦を取ったほうが良いと思うよ」
マールの言う通り、相手は勇者の行動のお陰で本国からの補給は出来ないと思っていて良いだろう。それを考えると長期戦を狙って戦争をするのも良いだろう。
「そうだな、長期戦を狙った作戦を頼む」
「承知しました」
魔王はそれだけ言うと肩を解す。魔王補佐官とマールはそれぞれ部下に指示を出し、残った斥候部隊に偵察と歩兵に陣形を組むように指示を出した。
「正直肩が凝るな。と言うか俺を魔王に選んだのは人選ミスだったんじゃないのか、エリック?」
「前線で戦うことは考えればザイードが一番だと思ってましたからね。あの砲撃を防げるのがザイードだけと考えると、前線に出すのは難しいです」
「まあザイード殿の代わりにと言っては難ですが、私が取って置きの策を用意しておきます」
「楽しみしておくよ」
ザイードの宛にしてない返事に、マールは『心外ね』と言う顔をしながら部屋から出て行った。
翌日再び戦争が始まった。戦争の口火を切ったのは竜血騎士団の攻撃だった。海上の船からの砲撃がシールドを激しく叩く。流石にこの砲撃の中竜血騎士団が攻撃してくることは無かった。
「全軍に通達しろ、この攻撃はシールドを破壊するためのものだ。全員戦闘態勢を整えて、シールドから離れて待機するようにと」
「了解しました」
部下への指示を出すと、砲撃している船を魔王は見つめるが、激しい砲撃のために砂煙によって船の姿を見ることが難しくなっていた。
「怖いな…」
「何がだ、ザイード殿」
「あの特大の砲撃がだ。この砲撃の雨に紛れて撃ってくるのでは無いかと気が気でない」
一応斥候部隊には船を見張らせているとは言え、魔王は自分の目で見えないことに不安を覚えていた。
「まあ、煙が無くてもここからでは太陽を背にされているので見ることは難しいでしょう」
マールの言う通り敵の船は太陽を背にしているので、船影を確認するのが難しかった。
「シールドが破壊されてから勝負です」
マールの言う通り砲撃が届く距離にも限界がある。砲撃も今現在軍を置いている場所まで砲撃が届くことは無いし、接敵をするような状態になったら、敵側もおいそれと砲撃をする訳にはいかなくなる。
「シールドはどれくらいもつ?」
「このままで行けば十五分ほどで最初のシールドは壊れるかと」
「そうか………単純に戦っていた頃が懐かしい、ここまで悩むことも無かっただろうに」
「それは魔王の責務と言うものだよ、ザイード殿」
魔王のこぼした苦悩をマールはそう言って慰めたのだった。
「それに取って置きの策はある。敵の出鼻を挫く、取って置きの策が」
「ああ、言っていた策か。期待してるよ」
「期待してくれ」
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「あともう少しでシールドは消失しますね」
グリードは砲撃の嵐によって、消失しそうになっているシールドを見て笑みを浮かべる。シールドが消失すれば竜血騎士団が魔族を蹴散らせるだろう。前回の戦闘でそれを証明する結果を出せた。そのお陰で部下の士気も非常に高い。負ける要素を見つける方が難しいだろう。
「消失したと同時に竜血騎士団に突撃させなさい。隊列の乱れは多少多めに見ます」
グリードは部隊への指示を出すと自らも武器を装備して、出陣の準備をする。この調子なら早めに決着をつけられるかもしれないと、グリードは内心ほくそ笑んだ。
そしてついにシールドが破れたのだった。いつの間にか薄くなりそして消失した。飛んできた弾が。シールドに当たった時の衝突音が無くなった。
「突撃ィィィ!!」
そんな掛け声と共に竜血騎士団たちが突進する。槍を突き出し、敵軍まで全速力で走る。竜の血を取り込んだため、殆ど防具を付けず、更に身体能力が上がったため、その速さは騎兵にも匹敵した。対する魔族は歩兵が大盾を構え、竜血騎士団を待ち構えていた。進むことなく、竜血騎士団の攻撃を受け止めるようだった。
(これなら隊列が乱れさせない方が良かったですね)
隊列を乱さなければ、その分突進力が上がる。魔族側もこちらがに突進してくると思っていたのだが、見当はずれだった。竜血騎士団が魔族の軍と空いている距離の半分まで踏破した時、強烈な光が竜血騎士団たちを襲う。
「目が~」
「何だ?!」
強烈な光によって、走っていた竜血騎士団が足を止めたもの、勢いに任せて走っていたものがいた。そのせいで将棋倒しのようになり、身動きが取れなくなった。
「何が起こったんです?!}
状況確認が出来ない所に、大きな雄叫びと地響きが耳に届く。グリードは自分たちが敵の術中に嵌ったことを悟ったのだった。




