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前回テストだったので、投稿はお休みでした。ごめんんさい
「気づかれている様子はないですか?」
「気付かれている様子は無いです」
グリードは部下の答えに満足そうに頷くと船を進めるように指示を出す。今グリード達は海底を船で進んでいた。この船は聖剣の欠片によって作られた船なのだ。船の周りには風の膜によって、海水から守られている。相手からは自分たちの姿は確認できないだろう。
「慎重に行くように、船底がつくぎりぎりつくぐらいまで接近しなさい」
グリードは出来るだけ船を陸地に近づけて、陸までの距離を縮めるためだ。陸への距離を縮めたら縮めただけ奇襲の有効性を高めることが出来る。船をギリギリまで近づけたのだった。
「これぐらいで良いです、朝日と共に竜血騎士団は船を浮上させると同時に陸地へ奇襲を仕掛ける準備をしておいて下さい」
グリードは部下へ全船に通達するように伝えると、聖剣部隊のガドルに連絡を入れた。
「グリードです」
「何だ、どうした?」
「例の兵器を使えるように準備しておいてください」
「何だ、初っ端から使うのか?」
「陸地の様子を見る限り、魔族共が集団戦闘のための陣が組まれています。攻められる時に一気に攻めたいと思います」
「そうか……個人戦をしていた魔族も戦い方は無くなったようだな」
「まだ分かりません、虚仮威しかもしれません」
「まあ、俺として個人戦の方が好きなのだがな……兵器の方だな、準備をしておく」
「助かります。私の合図で攻撃出来るようにしてください。合図は爆発魔法で。あと上陸の際の砲撃の援護もお願いします」
「分かった。いつもで撃てるようにしておく」
グリードはガドルとの通信を切ると、朝日が昇るまで体を休めることにした。だがグリードは精神的に高ぶって、体を休めるどころでは無かった。
(落ち着きませんね……)
正直船内を歩き回りたかったが、そんな姿を見せれば部下が不安がるかもしれないと思うと、迂闊に落ち着きがない姿を見せる訳にはいかなかった。その時暗かった海に光が入り込んだ、朝日だ。
「浮上です!」
グリードの指示で待機してた兵士が忙しなく動き、船が大きな水音を立てながら、海面へと姿を現す。それと同時に前方にある船から大砲の音が連続に聞こえる。船が海上に出ると、上陸部隊は小舟で砂浜へ船を進める。魔族側は突然の砲撃に驚き、何が起こったのか分からず、混乱しているのが見ていて分かる。砲撃が止む頃には竜血騎士団の兵士が上陸しだした。連携行動を取れなくなって、一人になった魔族が殺されていく。一対一をまのがれた魔族だけが僅かに残っていた。
「作戦は成功だな」
グリードは笑みを浮かべて砂浜を見つめる。グリードの作戦通り、自分たちの存在に気づかず、作戦は上手く言ったと誰もが思った。
「グリード隊長援軍です!」
「なにぃ?!」
グリードは驚いて部下に指さされた場所をグリードは視線を走らせる。そこには魔族が一人飛び出してきたのが見えた。それに続いてほかの魔族の後から飛び出してきた。
「作戦がばれいたんですか……?」
グリードはそうつぶやくが、すぐに自分の呟きを否定した。
(ばれていたならこんなに被害は出ていないはず、それに魔族側の混乱も決して演技に見えない。別の部隊を待機させていただけだ……。それに体勢を整えるために軍をシールド内部に下げさせている。想定内のことではない)
「そのまま攻撃を続けてください、シールド内部に入り安全しきった時に大砲を撃たせます」
グリードは部下にそう告げると戦況に目を向ける。
(魔族二人で互角と言った所ですか………流石に三人を相手にするのは竜血丸を飲んでいると言っても難しいようですね)
このままシールド内部に入られ体勢を立て直させられたら、戦況を覆す可能性がある。グリードはそれを防ぐ準備をしていた。
「魔導砲を私の合図で発射するように連絡してください」
グリードは部下にガドルに連絡を入れるように指示を出す。グリードは砂浜を見つめる。魔族がシールド内部に入り、安心した所に打ち込めるように、合図を出すタイミングを計る。
「ついにこいつの出番か!」
グリードの指示を聞いて、ガドルが笑みを浮かべながら魔導砲を見つめる。この魔導砲は魔喰いと呼ばれる聖剣を溶かし作られた大砲だ。普通の大砲より大きく、船の前方の床に埋め込まれている。船の前方は魔導砲のためだけの場所になっている。魔喰いと呼ばれていた聖剣は、所持した者の魔力を食べ、それを威力に変化させるのだ。だがこの聖剣の問題は聖剣に認められなければ、魔力を全て吸い出され命を落とし、聖剣に認められたとしても、たったひと振りで全ての魔力を吸い出されるのだった。だがその分威力は凄まじく、山を切り裂いたと言われる程の威力だった。その聖剣の欠片を大砲に埋め込んだのが魔導砲だった。
「実施試験を行えなかったのが気がかりだが、これは撃てるのだろ?」
「はい、実際に魔力を込めて撃ち出す試験は出来ませんでしたが、普通に発射時は問題ありませんでした」
「魔力を込めて撃つのが楽しみだな」
グリードの船から火の玉が上空に打ち上げられる。魔導砲を撃つ合図だ。それと同時に通信からも撃つように指令が飛んでくる。命令を確認するための作業だ。
「魔導砲、発射!!」
「魔導砲、発射!!」
グリードの発言を副官が復唱し、魔導砲が発射された。貯めに貯めた魔力が砲弾を打ち出した。砲弾は光り輝きながら、シールドに向かって飛んでいった。ガドルは余りの光に目をつぶったが、瞼の向こう側からでも強烈の光を感じることが出来た。ガルドは失明をするかと思うほどだった。
「ちゃ、着弾の確認を」
ガドルは部下に無理な指示を出したとすぐに理解する。誰もが魔導砲に目を向けていた、半ば向けていなくてもこの強烈の光によって視力を奪われていることは確かだ。今度からは遮蔽物の向こう側から発射することを手順に入れることを決意した。
目が見えない正確な時間は分からないが、体感的には2分程度だっただろう。最初に目に飛び込んだのは、白い煙を上げている魔導砲だった。
「発射は成功したようだな」
ガドルは目をこすりながら、辺りを見回す。部下たちが目をこすりながら現状を確認している。
「シールドを破ったようだな」
ガルドの目にはシールドが二枚破壊されや魔族の島が目に入った。それを見た全員が勝ちを確信したのだった。
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「高魔力反応です!」
部下の言葉に魔王が外に飛び出し船を見る。シールド内部に撤退して、体勢を立て直すためにシールド内部に入るように指示を出し、次の指示を考えていたところに飛び込んできた言葉だった。魔王が船の方を見ると光り輝く大砲が目に入る。既に光の玉がこちらに飛んできた。最初に第三シールドに光の玉は接触したが、難なく第一シールドを破壊すると、第二シールドにぶち当たる。
「我が防ぐ」
魔王はこのままでは全てのシールドが破壊されること察し、空高く飛び上がり、体から赤いオーラが吹き出す。活性拳・血気だ。飛んでくる光の玉に手のひらを向ける。全身のオーラが手のひらに集中する。魔王は手首を持ち、手のひらを固定した。
「オラァァァァァ!」
そんな掛け声と共に手のひらから赤く巨大な玉が打ち出された。大きさは光の玉と同じくらいの大きさだ。魔王の体は撃った反動によって、空中で後ろに飛ばされる。魔王は反動によって回転する体を抑え、地面に着地すると同時に凄まじい音が耳に届く。その音は雷が連続で地面に落ちるような『バリバリ』と言う音だった。魔王が顔を上げると自分が放った玉と光の玉がぶつかり合い、火花を散らしている所だった。
「クソ! 打ち消せなかったか」
数秒間のぶつかり合いのあと光の玉と魔王の玉が左右に分かれる。光の玉は森の一部を消し飛ばし、魔王の玉は塔を消し飛ばした。
「街への被害は防いだが、シールド二枚をやすやすと……」
魔王は先ほどの攻撃に恐怖を覚えた。こんなものものが街に放たれたら甚大な被害が出る。先ほどの攻撃で防ぐことが出来るが、あの強大な一撃を防げるのはこの国でも片手で数えられるかどうかだ。魔王としては流石にあの攻撃を連続で撃てないことを願うしかなかった。
「……まずいな」
今まで忘れていたが、体勢を立て直すために一時シールド内部に避難させたが、今の攻撃でシールドが壊れたと言うことは、戦闘準備が出来ない所を攻められるということだ。これ以上攻められれば戦線を維持することが難しくなる。そう思いながら魔王が空を見ていると、いきなり壊されたシールドが三枚復活したのだった。
「何が起こったんだ?」
魔王には見えていなかったが、シールドは街の中心から広がり、攻め込んできていた竜血騎士団をシールドの外へと弾き飛ばしていた。魔王は状況を整理するためにすぐに本部に戻った。
「状況の説明をしろ」
「先ほどの攻撃で、第二シールドまで突破されたものの、すぐに貯蓄魔力でシールドを生成させたよ。君が思っているような最悪な状況は回避したよ、ザイード殿」
「そうか……」
魔王は溜息と共に椅子に座り込む、このまま奇襲の勢いで攻め込まれたら、それを盛り返すのは非常に難しかっただろう。
「それにしても良くすぐにシールドを復活させる命令が出せたな」
誰もが突然の襲撃、シールドの破壊によって浮き足立っていたのだ。そのような状態で命令を出せるのは、素晴らしいの一言に尽きるだった。
「まあね、先ほどの攻撃の直前に勇者殿から連絡があってね、船の存在を教えてもらったよ。それに魔王補佐官殿が命令を出しのだけどね、まさに惚れ惚れする指示の出し方だったよ」
マールにそう言われると魔王補佐官はバツの悪そうな顔をして、魔王に頭を下げた。
「許可なく勝手な命令を出して申し訳ありませんでした」
「構わん、お前の命令が無ければこのまま攻め込まれてもおかしく無かった。よくやってくれた」
「有り難きお言葉です、魔王様」
魔王は魔王補佐官の肩に手を置いて、顔を上げさせる。
「まあ、ぶっちゃけ俺よりエリックの方が戦争は上手いだろう」
「ぶっちゃけすぎだ、ザイード。今回のシールドの事で士気はかなり下がって、兵士の動揺も凄まじいと思う。きっちりザイードが先ほどの攻撃を防いだのを兵士の間で噂を流し、先ほどの指示も君が出したことにしておくよ」
「おいおい、良いのかよ?」
「その代わり、この戦争が終わったら休暇を貰うよ」
「お前に休まれると戦後処理が大変なんだが……」
「それくらいは頑張れ、新人魔王様、大丈夫失敗しても人は死なないから。その代わり非難はされるだろうけどな」
「きついな~それは……。休めるように手配はしとく」
二人の雰囲気は周りに居た兵士に安心感を与えた。二人はそれを意識的にやっている訳ではないが、この雰囲気は人から人へと伝染していくのだった。
「それでマールシールドはまた張れるのか?」
「今度破られたら無理だろう、魔力の貯蓄は殆ど空だ」
この国を覆っているシールドは、ここに住んでいる魔族の余剰魔力を少しずつ溜め込んで作っているものだ。その魔力が無くなればシールド作ることは出来ない。
「そうか……相手もさっきと同じ攻撃を撃ってこない所を見ると、そう何度も撃てるものでは無いのだろう」
「あんなものを何度も撃たれて堪るものか……まったく」
魔王、魔王補佐官は光の玉が飛んでこないことに安心していたが、本当に飛んでこないか不安も感じていた。
「勇者からの情報によるとあの武器は魔導砲を呼ばれている武器で、聖剣を元にして作っていると言うことだった。能力は貯めた魔力を威力に変えると言うことだった。どれほどの魔力を貯めたか分からないが、すぐにあの威力を撃てるようになることは無いだろう」
マールの説明に魔王と魔王補佐官は安心してため息をついた。
「魔王様あの玉はどれくらいはじき飛ばせますか?」
「そうだな……一日二発が限界だ。それ以上はあの玉に撃ち負けるだろう」
「そうか、それなら何とかなりそうだ」
マールの言葉を後に、敵兵士が攻め込んでくることは無かった、そして魔王軍の兵士も体勢を整えるために攻め込むことはしなかった。だが敵側に海岸を占拠される事態になってしまった。




