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「海岸から一キロほど離れたところで停泊しました!」

「そのまま監視を続けなさい、特に船員の動き、それと人数と役割を」

「了解しました」


教会の船十隻が海岸から一キロ離れた所に停泊しているのだった。やはりと言うべきか船には、戦闘員と見られる兵士の数が少なく、主戦力がいるとは思えなかった。


「どう思う?」

「そうですね、考えられるとしたら、兵糧を積んだ船が軽かったために、ここに着くのが早くなってしまったのでは、と?」

「本気で言っているの?」

「半分は」


ガルルの答えにサラサは呆れた声を出す。兵糧とは軍隊の中で生命線と言っても過言ではないもの。戦争では兵糧を潰すことで、戦争が集結することもある。それを大した護衛もつけず敵の目に晒すなど、獰猛な魔物前に生肉を体に貼り付けて、姿を見せるより愚かだろう。


「私は罠だと思うんだけど……」


大抵は部隊長のように兵糧を囮、または兵糧に見せかけたものを囮に罠を仕掛けていると考えるものなのだ。 


「それを逆手に取ったのではないかと?」

「……一晩待機して、明日動きがなかったら、明日の深夜奇襲を掛けることを提案してみる」


サラサの言葉に副官は『御意』と答え、ガルルは根回しに動いた。作戦には魔王の許可が必要だが、それでも他の部隊の協力が必要なのだ。こう言った根回しがあった方が上手く行く。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「これが聖剣実験に対する資料だ」


勇者が持ってきたのは教会の地下で発見され、国に押収された資料だった。その資料には聖剣がどのような利用方法が書かれていた。その資料をランプの光を頼りにララノアは資料を読み込む。勇者もララノアが読みきれていない資料を手に取り、読み込んでいく。


「ここまで詳しい資料を良く……」

「まあ、作っていた所から持ってきたからな」

「これで転移系の聖剣が見つかれば、聖剣部隊が消えた理由が分かるかもでござる」


壊れない聖剣は盾と剣そして鎧になった。その場合壊れにくい剣と盾、鎧へとランクが下がったが、それでも大砲の直撃を受けても壊れないレベルと言うことだ。他にも魔力を吸収する聖剣。魔力に応じた威力を出す聖剣、空気の壁をはり、攻撃を無効化する聖剣などなど。色々な聖剣があるが、転移系のものは見当たらなかった。それ以外にも姿を隠す聖剣などは無かった。


「……これは!」

「どうしたでござる?」

「これを見ろ」


勇者が差し出した資料には船の設計図が書かれていた。だがそれはただの船ではなく聖剣を混ぜて作られた船だった。


「……今すぐ噂の場所に行くでござる」

「ああ」


勇者とララノアは部屋の窓から飛び出し、海岸にある崖へと向かったのだった。窓から飛び出て、三十分ほど走ったところで、到着した。


「ここが噂の飛び降りしていた所か……」


一ヶ月ぐらい前にここから飛び降りる怪談の場所だった。


「取り敢えずここから飛び込んでみるでござる」

「そうだな」


ララノアと勇者は服を脱ぐと海の中へと飛び込んだ。まだ太陽も顔を出していない時間帯なので、海の中も真っ暗だった。勇者はすぐに魔法で辺りを照らす。岩礁から少し離れ沖の方へと行くと、行くと海底の砂浜が楕円に砂が抉れた場所が多数目に飛び込んできた。ララノアと勇者はそれを確認するとすぐに海面から顔を出すと、泳いで陸へと体を引っ張り上げる。


「はぁはぁ、いくら探しても見つからないはずだ」

「はぁはぁ、当たり前でござる。誰が海の中に船と一緒に隠れていると思うでござるか、早い所伝えなければいけないでござる」


その時二人の体を熱と光に晒されるのを感じた。朝日が登ってきたのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


その翌日魔王から許可を貰った結果、朝日が昇り前に、出来るだけ海上から見えない場所に部隊を移動させた。他の部隊の話し合いの結果、早朝に部隊を移動させて、夜に奇襲に備えると言うことになった。見えやすい海岸では、奇襲も余り意味をなさないからだ。


「ビイル隊長、部隊の配置が終わりました」

「部隊には装備を確認し、いつでも出られるようにしたのち、作戦まで休憩するように伝えてくれ」

「了解!」


部下に一通り指示を出すと、ビイルはテントに腰を下ろす。正直初めての部隊を使った戦争だ。以前の戦いなら自分のことだけ考えて、戦っていれば良かった。しかし、今は部下に指示を出しながら戦わなければいけない。ビイルとしても色々と気を遣い緊張していたが、娘のアリサのことも心配だった。親としては娘の近くに居たいのだが、そう言う訳にもいかなかった。


「ビイル部隊は早いな」

「ああ、ダラダか……」


ビイルの同僚であるダラダ・イモスが入ってきた。彼は持っていたランサーと盾を地面に置いた。いつでも戦闘出来るように、持ってきていた。


「慣れないことですから、中々落ち着かない」

「まあ、やっていることは訓練内容と変わらんだけどな」

「それでも初めての実戦だ。緊張する奴も出てくるだろう。斯く言う私もその一人なのだがな……」

「それならイリスの姿でも見せて貰うと良い。落ち着くぞ」


ダラダは可笑しそうに笑を浮かべ、イリスの名前を上げる。


「イリス?」

「ああ」


イリス・マルバス、自分とは一年遅れて部隊長に加わった女性の名前だ。基本的に水魔法が得意で、訓練で怪我をした兵士などをよく治療している姿を目にする。だがその分鬼のような訓練をすると言うことで、アメとムチを体現したような人間だ。


「うう~、胃が痛い~」


噂をすればなんとやら、丁度お腹を押さえながらイリスがテントの中に入ってきたのだった。その顔は青ざめ、死人の方が顔色が良いだろうと思うほどだった。


「お得意の魔法で直せないのか?」

「うう、これは精神的なものなので~」


ダラダの冗談にイリスは大真面目に答える。イリスがここまでプレッシャーに弱いとは思わなかった。だが……


「落ち着くだろう」

「まあな」


自分より慌てている人間を見ると、落ち着くように、自分より緊張している人間を見ると落ち着くものだ。


「騒がしい、部下たちが不安がる。もう少し落ち着いてもらえないか?」


入ってきたのは、ルミア・バティンだ。ルミアと言う名前だが、薙刀を主な武器にしている男性だ。周りの人間より一年先輩で、この部隊長の中でまとめ役をやっている。


「そんなに響いていたか?」

「耳のいいやつなら聞こえる程度な」


ルミアはそう言うと席につく。ルミアはいつも持っている武器は所持せず、腰に剣をさしているだけだ。


「それに騒がしいとここに潜んでいることがばれるぞ」


ルミアはそんな冗談を言っていると、テントの朝日が当たる。それと同時に大きな爆音があたりに響いた。それも一発ではない断続的に。ルミアの副官が慌てて入ってくる。


「失礼します、緊急です!」

「挨拶は良い、どうした?」

「敵多数が上陸し、戦闘になっています!」

「上陸だと?! 見張りは何をやっていたんだ!」


ルミアはそう怒鳴るとテントから駆け足で外に出る。ルミアの副官は咄嗟に横に飛び、ルミアから避ける。ビイルたちはルミアの後から出てくる。海が視界に入ると、信じられないものが目に飛び込んできた。


「嘘だろ」


ルミアの目に飛び込んできた光景は、海岸から500メートル離れている所から百隻以上の船が、ここを取り囲んでいる光景だった。既に砂浜に敵兵が入り込んでいて、戦闘が始まっていた。最初の大砲によって、砂浜にいる敵戦力に打撃を与え、その後船から敵歩兵が突入する奇襲だった。だが幸いなことに、砂浜にいた戦力の半分近くがここにいるので、大した損害は出てはいないだろう。だがそれでも魔族側は浮き足立って、すぐには反撃を整えることが出来なかった。


「くっそ、ダラダ、イリス、ビイル。お前たちは部下をまとめてから来い。俺は先に行って、加勢してくる」


ルミアはそう言うと、腰にあった剣を抜き、崖から飛び降りる。それと同時にルミアは魔法を使い、体が砂浜まで飛ぶように、自分の体に強風を当てる。砂浜に着地すると同時に、魔族にトドメを刺そうとしていた白い服をまとっていた男を蹴り飛ばす。その男の体は、鎧を着ているかのように重かった。だがそれ以上に蹴られた人間にダメージを与えられなかったことに驚いた。


「おい、大丈夫か?」

「ルミア部隊長?」


助けた魔族はすぐに立ち上がると、武器を構えた。武器の構え方、雰囲気から決して弱くないことが分かる。


(いくら奇襲を受けたからといって、ここまで一方的に負けるのか?)


そんな疑問に答えるように、先ほど蹴り飛ばした男の顔が目に入る。髪は漆黒の色に染まり、首から頬まで鱗のようなものに覆われていた。


「そうか、これがドラゴンの血と言うやつか……」

「ルミア部隊長……」


指示を求めるように自分の名前を呼ぶ部下に、半ば舌打ちを心の中でした。だがこのままでは魔族側に膨大な被害が出る。


「お前は残っている仲間を集めながら、部隊を集結させろ。すぐに他の部隊も援護にくる。けして一対一で戦うな」

「了解しました!」


それだけ言うとその魔族はその場から、駆け足で去った。ルミアに言われた通り、ほかの仲間を集めてくれるだろう。


「その間こいつを相手にしなければならないな」


先ほど蹴り飛ばした男を睨みつける。持っている武器は大剣、こちらの細い剣で受けるのは無謀だろう。ルミアは風魔法によって、全身に防御魔法を掛ける。軽い攻撃なら防ぐことが出来るだろうが、大剣に対しては対して意味をなさないだろう。


「ふん!」


そんな掛け声と共に竜騎士が砂浜を飛ぶ。単純な上段からの攻撃。だがその単純な攻撃にはとてつもない破壊力が乗っている。ルミアは背後に飛ぶと、大剣が振り下ろされた場所にあった砂浜の砂が吹っ飛んでいた。


(やはり砂浜に足を取られる……)


避けたのはいいが、ルミアの足に砂が重くのしかかる。しっかりと足の裏で蹴るように動かなければ、砂浜に足を取られて転倒は免れないだろう。その点を考えれば、速さを得意としているルミアの方が不利に感じるかもしれない。


(舐めてもらっては困るな)


ルミアの足の下にあった砂が吹き飛ぶと同時に、ルミアの体は爆発的な推進力を得る。ジェットと呼ばれる魔法で風を推進力として使う。そしてそのまま大剣を再び構えようとしていた竜騎士の懐に飛び込み、胴体を切り裂こうとするが、竜騎士は剣を捨て、両腕をクロスし剣を防ぐ。左腕は表面の硬いウロコに当たるが、腕力で押し通し、骨で一度勢いを殺されるが、体重を乗せて左腕を切り落とした。だが右腕にまでは刃の勢いは衰え、左腕の間で止まってしまう。


(硬いな……)


ルミアは持っている剣が引っ張られ、思わず体が前につんのめる。得物から手を話そうとした時、顎を蹴り飛ばされたことに気が付く。体が大きく後方に飛び、砂浜に落ちた衝撃で顔に砂が降りかかってくる。口の中が砂と折れた歯と血で満たされる。口の中がじゃりじゃりと不快で、血と一緒に折れた歯を吐き出しながら起き上がる。敵が目の前にいなくて周囲を見回す。


(いない……っ!?)


自分の頭上から影が迫ってくることに気がつき、影を確認することもせず、ジェットで無理やり体を移動させる。無茶苦茶な体勢から使ったため、体がボールのように転がるが、体を起こす。先程までいた場所に、あの竜騎士がルミアから奪った剣を突き刺している。剣は砂浜に刀身の全てが埋まっている。


「烈風斬!」


ルミアの手刀と共に風の刃が飛び出す、烈風斬は砂浜を斬りながら、竜騎士を切り裂こうと迫るが、竜騎士も同様の魔法を使いルミアの魔法を打ち消す。


「なぁ?!」


ルミアが驚いたような声を上げる。魔法を打ち消されたのは、まだ受け入れられた。だがルミアは自分が放った魔法を打ち消しただけでなく、そのまま魔法が迫ってきたのだった。ルミアは無理やり体をひねり自分を切り裂こうとする魔法から体を反らした。だがこれだけのやり取りで単純な魔力は竜騎士が上なのは分かった。決してルミアは魔法が得意と言うわけでは無かった。だがそれでも魔族の端くれ、人間相手に魔力で負けるとは思っていなかった。


「くっ」


武器も無い、魔法でも勝てない。となると後は逃げるしか無いのだが……目の前の竜騎士が見す見す自分を逃がしてくれるとは思えなかった。


「爆炎風!」

「ウォーターランス!」

「アイスニードル!」


ビイルの爆炎風がルミアに襲いかかろうとする竜騎士の足を止め、ダラダのウォーターランスがビイルの魔法とぶつかり水蒸気が発生する。そこにイリスの氷のトゲがいくつも乱射される。イリスは自分の魔法に手応えを感じた。ビイルはルミアの体を担ぐとそのまま走り出す。


「お、おい。ほかの連中は……」

「大丈夫です、一旦第一シールドまで下がって大勢と立て直すと言うことです。今、私たち以外はシールド内部です」


魔族と対等以上に渡り合っている戦況を魔王は見て、すぐにシールド内部に入り体勢を整える指示を出したのだった。乱戦になると魔族側に不利になると瞬時に判断したのだ。シールド内部には敵は入って来れない。シールドは破られることもあるが、戦況を立て直すだけの時間を稼ぐのは容易だろう。ララノアとビイル、ダラダはシールドまで走る。後ろからイリスが走ってくるのが分かる。だがイリスは無理やりララノア達の頭を伏せさせる。ララノア達は訳が分からなくて、文句を言おうとするがー


「伏せてて」


イリスはそう言うとララノア達は頭を再び伏せる。する上空を何か大きな塊が飛んでいくのが分かる。そして第一シールドにぶつかる。ララノアが微かに視線を上げると、虹色の球体がシールドとぶつかり合い火花を散らし、第一シールドを破壊した。そしてそのまま第二、第三とシールドを呆気なく破壊して行く。


「嘘でしょう……」


頭を押さえていたイリスが信じられないように呟く。それはここにいる全員の心情を代弁しているのだった。今まで魔族を守っていた鉄壁のシールドが今、全て破られたのだった。







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